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魔族Ⅱ①

 夜になり、アレン達は墓地の見回りに出かける。


 アレン達五人と23体の駒がアインベルク邸から墓地に移動する。アレン達にしてみれば五人のチームで残りの23体は完全にただの駒なのだが、事情を知らない者から見れば約30人ほどの武装した集団が墓地に向かうのは中々、不気味なものであった。


 アレン達は墓地に入ると通常の見回りを行う。



 人数が多いからであろうか、ここ最近はよく戦闘になる。アレンは男達を能力的にも人格的にもまったく信頼しておらず、単なる足手まといとみなしていた。

 なにしろ戦闘になれば確実にケガを負うのだから、足手まとい以外の評価を下すことはできなかった。かといって、ネシュア達が次に出てくる時は前回よりも戦力が強化されている事だろうから、男達にケガをされて治癒術をかけるような状況になるのは避けたかった。


 アレンは7日ほどで、再襲来すると思っていたが、思ったより期間が空いており、その分、この不愉快な駒を連れねばならんのでストレスがたまる一方であった。


 一方、男達はアレンの機嫌が日をおうごとに悪くなっている様を見て、戦々恐々としている。なにしろ、魔族と戦うために使い捨てにするとはっきりと宣言したアレンに対して当初は怒りがあったが、墓地の見回りに連れて行かれて、その異常な戦闘力を見せつけられると恐怖しか感じなくなったのだ。


 そして、なによりアレンやその仲間達が自分たちを見る目には一切の情が感じられず。使い捨てにするというのは、誇張でもなんでもないことを彼らはすでに本能レベルで察していた。


「はぁ~、本当にさっさとあの魔族来てくんないかな」

「そうね、この男達、さっさとお役御免にしたいわ」


 ここでいうお役御免は放免という意味でない事を男達は察している。お役御免とは死を意味することは明らかであった。


「あ・・・あの・・・アインベルク様」


 男の一人がアレンに声をかける。


「話しかけんな」


 アレンの冷たすぎる声に男は口を閉ざす。やはり一切の情を男達に持つつもりはないようだった。


 その時であった。


 火球が数発、アレン達に放たれる。明らかに攻撃魔法だ。


「はぁっ!!!」


 フィアーネが数発放たれた攻撃魔法に目にもとまらぬ速度で拳を打ち込み、その衝撃波で数発の火球を迎撃する。


 フィアーネの高速で放たれる拳圧によってすべてかき消された。


(相変わらず、なんという脳筋・・・)


 アレンがフィアーネの対処に呆れる。魔法を拳から繰り出される拳圧により打ち落とそうと考える事自体が常識はずれだ。しかもそれを実践できてしまうところが、フィアーネらしい。

 その様子を見ていた男達は呆然とその様子を見ていた。拳で迎撃する、そんなことは男達の常識の範疇外だったのだ。人間は自分の常識を遥かに超えた出来事をみると思考が止まってしまうことがあるが、男達の反応は一般人として当然のものであった。


 攻撃魔法がすべて迎撃されると闇の中から魔族が登場する。この間、アレン達に手ひどくやられた魔族の執事であるザウリスだった。


「ふん、やはり・・・なっ!!」


 ザウリスがいやらしい笑いを浮かべようとするが、すぐに凍り付く。アレン、レミアが剣を抜いてザウリスに襲いかかったからだ。ザウリスの周囲の下級魔族達はとっさに反応できない。

 アレン達の行動は好戦的すぎた。しかも魔族相手に人間が先手を打ってくるなど思っても見なかったのである。


 アレンにしてみれば攻撃魔法を放ってくる段階で、こいつらが敵である事は明白であったし、話す事など何もなかった(記録の術式を回収すればそれで用足りた)からだ。


 アレンの抜き放った剣がザウリスの両太股を切り裂く、数瞬後、レミアの双剣がザウリスの左腕を斬り飛ばし、次の瞬間にもう一方の剣が喉に突き刺さる。


(な・・・バ・・・カな)


 喉を貫かれたためか声が出ない。がザウリスは自分がやられた事をさとる。そして次の瞬間、視界がめまぐるしく変化する。

 そして、視界の変化がおさまった時に『自分の体』が倒れ込むのが視界に入った。


(な・・・なぜ、俺の体が倒れている!!いや、なぜ俺はそれを見ている!?)


 その答えはザウリスだけが分からなかった。しかし、回りの者達はみな分かっていた。レミアが喉を貫き、引き抜く動きを利用して、凄まじい速度でザウリスの首を斬り飛ばしたのだ。


 ザウリスの連れていた下級魔族達は、ザウリスが殺されたことに気付くと恐怖が襲ったがそれは長く続かない。アレン、レミアの剣が容赦なく下級魔族達を襲ったからだ。


 ほとんど痛みを感じる暇もなく、6体の下級魔族達は首を斬り飛ばされる。



 フィアーネとフィリシアは周囲に警戒を払っており、戦闘に参加しなかったために少々時間がかかったが、一方的な殺戮は終わった。



「お疲れ様、アレン、レミア」


 フィアーネが二人の労を労う。


「ああ、しかし、このバカは何がしたかったんんだ?」


 ふいをついて攻撃魔法を放つのはいいだろう。だが、なぜ出てきた?なぜ俺達が自分たちと会話をするとふんでいた?お粗末にもほどがあるだろう。


 この魔族のとった失敗は、戦力分散と自分たちがすでに墓地に潜んでいることをアレン達に教えたことだ。

これ以降、不意をつくのは不可能だろう。わざわざそれを自分たちで知らせる拙さに心底呆れかえった。


「フィアーネ、その魔族から記録を回収しておいてくれ」

「うん」

「レミア、フィリシアは周囲を警戒」

「分かったわ」

「はい」

「駒はフィアーネの回りに立ち、フィアーネがしていることを魔族から隠せ」


 視覚障害の魔術をかけても良かったのだが、この無能な駒どもを少しは役立たせようとしたのだ。

 にも関わらずこの愚図共は動かない。その様子にアレンの苛立ちがつのり、声を荒げた。


「早くしろ!愚図共が!!」


 アレンの声にビクっと体を震わせ慌てて男達はフィアーネの周囲に壁を作る。外からは見えないようにカイトシールドで目隠しをすることで、間違いなく外からは見えないはずである。


 フィアーネは、周囲に目隠しが出来たことを確認すると、記録をザウリスから抜き取る。

ザウリスの頭から瘴気のような靄が漏れ出し、フィアーネの掲げた掌に集まってくる。抜き出された記録は、拳大の球体に変化し、やがて黒曜石のようなつやのある球体に変わる。


 フィアーネはその球体を空間魔術を使ってジャスベイン家の宝物庫と繋げるとフィアーネは手を突っ込み宝物庫に投げ込んでいた。フィアーネは前もってジャスベイン家の者にその旨を伝えてあるので混乱はないはずだった。


「終わったわよ、アレン」

「よし、じゃあ次の記録を回収するとするか」



 記録の回収を終えたアレン達はもはやザウリスの死体にまったく興味を示すことなく。墓地に潜んでいるネシュア立ちを探しに向かうことにする。

 この人数、しかも23の駒は気配を絶つなんて出来ない連中だ。こちらから不意をつくことは出来ないだろう。


 だが、出来るだけ少なくとも相手に不意をつかれることだけは避けようと思う。



 魔族との再戦は始まったばかりだ。

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