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王子Ⅱ②

「アディラ?」


 アレンはアルフィスの言葉に鸚鵡返しで答える。


「ああ、アレンはアディラの事をどう思っている?」


 アルフィスはアレンに単刀直入に聞いた。アレン相手にここで腹芸をしてもまったく意味が無い。そこで、王族としては珍しく単刀直入に切り出したのだ。

 アルフィスがそう切り出したことについて、アレンは素直に応える事にした。親友が腹芸を一切使わず、真剣に聞いているのにも関わらず、自分が腹芸を使うなどという行為はアレンにとって親友への裏切りであり絶対にするわけにはいかないのだ。


「俺はアディラに対しては好意を持っている。そしてアディラが俺に好意を持っていることも知っている」

「そうか・・・という事は両思いと言うことか」

「かもしれないが、俺とアディラが恋人になるとかは現時点では可能性が低いと思う」

「なんでだ?」

「アディラは王族だ。王族である以上、政略結婚を覚悟しなければならない。それが王族としての義務と言える。アディラは性格上、義務を放り出して自分の我を通す事はしないだろう」

「アレン・・・残念だがその考えは間違いだ」

「?」

「アディラは、ことお前に関する事なら王族の義務なんてあっさりと捨てるぞ」

「あのアディラが?」

「ああ、お前の事に関してはあいつは絶対に我を通すぞ」

「そうは思えんが・・・」


 アルフィスは妹のアディラについて正確に把握している。アディラはアレンに関する事だけは昔から絶対に引かないのだ。

 他の事に対してはあくまで王族としての立場を優先するアディラであるが、アレンに関する事だけは我を通すのをアルフィスは何度も見ていたために断言できる。


「まぁ、アディラが我を通すという事は今にわかるさ」

「そうか?」

「ああ、そしてさらに聞きたいことがあるんだが」

「何だ?」

「あのさ、フィアーネ嬢、レミア嬢、フィリシア嬢の事についてだ」

「ちょっと待て!!なんで、お前がフィアーネだけならまだしもレミアとフィリシアの名前を知っている?」


 フィアーネはジャスベイン公爵家の令嬢だ。アルフィスが知っていても不思議では無い。だが、レミア、フィリシアはそうではない。一国の王子が把握しているのは不自然だ。

 その疑問は次の言葉であっさりと解ける


「アディラに聞いた」

「アディラはその三人について、どんな風に言ってる?」

「まぁ一言で言えば同志だと」

「同志?一体何の同志なんだ?あいつら自分たちは同志だと言ってるが、何の同志かは教えてくれんのだ」

「それは俺にも教えてくれなかった。どうやら親父殿、お袋様はご存じのようだが、決して教えてくれないんだ。そこで、お前なら知ってるんじゃないかと思ってアディラへの気持ちを聞き出すついでに聞こうと思ったんだが・・・」

「俺も知らなかった・・・と」


 コクッとアルフィスは頷く。


「お前ってなんで肝心な情報は持ってないんだよ~。ホント使えねえな」

「あんだと?お前こそ王族独自の情報網を駆使して俺に教えろよ!!」


 アルフィスの後ろに控えている騎士達はここで話した内容を他にもらすような事は決してしない。アルフィスが口の堅さで選んだ騎士達だからだ。

 しかし、二人が幼馴染みで親友である事は知っていたが、それでも市井の少年のような態度でお互いに接するとは思ってもみなかった。そのため、騎士達の同様は大きかった。


「アレン、お前、本当に心当たりはないか?」

「あるっちゃ~あるが・・・」

「なんだよ、あるなら言えよ。ツ~カ~ってのがあんだろ」

「なんか、腹立つ言い方だな」

「いいから、言えよ」

「実は夜会の時に、俺はアディラと三回ダンスを踊った」

「ほう」


 ローエンシアでは未婚のカップルが夜会で三回踊るという事は「夫婦に準ずる仲」という事を表している。


「そして、そのあとフィアーネとも三回踊った」

「おい・・・お前、それって・・・」


 ローエンシアの夜会で二人の女性と三回踊ると言うことは浮気を疑われるに十分な出来事なのだ。


「分かってる。だがその事を知らないアディラじゃないはずなのに、アディラがフィアーネと三回踊る事を強く勧めてきた。そこから考えると・・・」

「・・・おい、お前、ハーレム作る方向に・・・」

「そして、四人の『同志』って言葉・・・」

「ああ、四人はお前にハーレムを作らせて、そのハーレムに入るつもりということか?」

「俺もそう考えたんだが・・・アディラは王族だし、フィアーネは公爵家令嬢だぞ。そんな身分の者が俺のハーレム要員になることを求めるか?」


 確かに、アレンの身分が王族でアディラ、フィアーネの身分が男爵家なら、その行動もあり得る。

 だが、実際はその逆だ。自分よりも下の身分の者のハーレムに入ることを考慮に入れるだろうか。

 とそこまで考えてアルフィスは思い至った。


 あ・・・アディラなら十分あり得るわ・・・。


 フィアーネ嬢の事は正直、知らないから何とも言えないが、ことアディラに関して言えばアレンと添い遂げるためには、普通にやりそうな事であった。


「おい、アレン・・・多分というよりもほぼ確定だ・・・少なくともアディラはお前のハーレム要員になりたいと思っているはずだ」

「・・・正気か?」

「ああ、それ以外考えられない・・・」


 またその事について父親と母親が了承している可能性も非常に高いというよりもそれ以外、考えられない。


「ついでに言えば、親父殿、お袋様も了承していると思うぞ」


 アルフィスの指摘は、正直アレンも考えていたが、それでも『まさか』という考えを捨て去ることが出来ていなかったのだ。


「ちょっと待て、いくらなんでも両陛下が自分の娘をハーレム要員とすることを了承するとは思えんぞ」

「いや、親父殿なら了承する事も十分にありえる」

「なんで?」

「お前を取り込むためだ」

「は?」

「考えても見ろ、お前は常に爵位の返上を求めている。それは国に縛られたくないという気持ちの裏返しだ。もちろん、お前がローエンシア王国に仇なすなんてことはないことは親父殿も理解しているが、ローエンシア王国を出て行く事を心配していてもおかしくない」

「・・・」

「親父殿はアインベルク家をどうしても手放したくないと思っている。お前とアディラが結婚してくれればローエンシアに留まらせることが出来ると考えているわけだ」

「・・・」

「しかも、アディラ自身がその事を望んでいるとくれば、国王としても親としても認めることは不思議じゃ無いだろ?」

「でも、ハーレム要員にすることを望むか?」

「お前がアディラだけをないがしろにて他の三人ばかり気にかけていたら怒り狂うだろうが、お前は自分に好意を持っている者に対してぞんざいな事は決してしない」

「・・・」

「となると、普通に了承するだろうな」


 確かに、アルフィスの指摘は的確だ。アレン自身もそう考えたが、『いくらなんでもそんな都合の良い事がおこるはずない』と妄想の域だと思い排除していたのだ。

 それを信頼するアルフィスから指摘されれば意識せざるを得なかったのだ。


「え?ということは、俺はアディラ、フィアーネ、レミア、フィリシアと結婚する流れなのか?」

「・・・ああ」

「しかも、両陛下が了承しているということは・・・」

「外堀はもうほとんど埋められていると考えた方がいいな」

「・・・」


 アレンが呆けた顔をする。アルフィスはその顔を見てニヤリと笑う。


「まぁ、なんというか。時間の問題みたいだな」


 アレンはアルフィスのニヤリとした笑顔にカチンときたので、ジロリと睨んだが、アルフィスにはまったく堪えていないようだ。


 それどころかさらにニヤニヤしてアレンをからかう。


「とりあえず、諦めろ。義弟よ。俺はお前の義兄になるからな」

「・・・」

「俺に敬語使えよ?」


 アルフィスの言葉にアレンはがっくりと項垂れた。


 自分が完全に外堀を埋められ、詰みになっていることを理解したからだ。


 腹をくくるしか無いのか・・・とアレンは考え始めていた。


 でも、同時にアレンはアルフィスだけには敬語は使わないと心に誓っていた。アレンとアルフィスが敬語についてせめぎ合うのはこの時点で始まったのだ。


 絶対、負けるわけにはいかない、アレンは決意を新たにするのであった。

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