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生贄②

 アインベルク邸の庭先に約20人の男達が転がっている。


 アレン達は事務的に20人の男達の戦闘力を奪っていったのだ。男達が突出していたのは品性下劣というところだけであり、戦闘技術の拙さは目を覆うばかりのお粗末さである。


「ねぇ、アレン・・・なんというか本当にこいつら使うつもり?」


 レミアはアレンを信頼していたが、いくらアレンの判断でもこの男達が役に立つかはどうしても思えなかったのだ。その声を受けてアレンは気まずそうに返答する。


「実はあんまり自信が無い・・・」

「驚きの弱さだったからね」


 アレンとレミアの会話は男達の中でも意識のある者達には聞こえていたが、反論するにはアレン達の戦闘力は高すぎた。アレン達に暴言を吐いたりしたものは容赦なく手足を砕かれている様を見れば反論するなんて愚かなことである事は何よりも火を見るより明らかといったところだ。


 男達の戦闘力を奪ってしばらくすると、フィリシアが二人の男を引きずってアレン達の元にやってきた。


「フィリシアお疲れ」

「はい、アレンさん遅くなりました」

「その二人はどうだった?」

「暗殺者としての訓練はしていませんね。ただ単に見張りをしていただけのようです」

「なんだ・・・そうなのか」


 フィリシアが遅くなった理由は、見張りの男達が襲撃に失敗しどのような行動をとるかを見定めるためであったが、ただ青い顔をして逃げだそうとしたので、それを捕まえたのである。


「フィアーネ、このクズ共に治癒魔術をかけてやってくれ」

「え~こんな奴らに?嫌よ」

「まぁ気持ちは分かる。だが、このまま目が覚めるまで待つのはさすがに時間の無駄だからな」

「う~ん、確かにこれ以上、こいつらに時間を割かれるのは嫌ね」

「ああ、さっさと片付けよう」

「そうね、アレン、レミア、フィリシア、触りたくないだろうけど、こいつらを一つの所に集めて」


 フィアーネの指示をアレン達はすかさず実行に移す。男達は非常に手厚く扱われる。ただし、人間扱いでなく荷物扱いだったが・・・。


 一つのところに集められた男達にフィアーネが治癒魔術をかける。男達の砕かれた手足がフィアーネの治癒魔術によりあり得ない速度で回復する。


 男達は目を覚まし、アレン達の前にふてくされながら座っている。そこにアレンが声をかける。


「お前らに聞きたいことがある・・・が、その前にあらかじめ言っておくが、態度には十分気を付けろよ?お前らのとるに足らん無意味なプライドを守るために俺達を不快にさせたらただじゃおかんからな」


 アレンの言葉も、先程の戦闘による容赦のなさ(あくまで男達の主観であり、アレン達にしてみれば手心を加えすぎている)を考えると背筋が凍るような内容であろうが、男達は同時にアレン達を舐めていた。

 すなわち、後で治癒できるからこその先程の容赦のなさである事、このガキ共は人を殺す事は決して出来ないと舐めて掛かっているのだ。

 それが誤りであると言うことはすぐに男達は思い知る。


「お前らはこれから俺達の駒となってもらい魔族と戦ってもらう」


 男達は耳を疑った。


 このガキは今「魔族」と戦わせるといわなかったか?


 あの魔族と戦わせるだと?

 

 ふざけるなと叫ぼうとしたが、アレンの目には一切の冗談の要素が含まれていない。その目を見たときに男達は言葉を発することが出来なくなる。そして、理解した。自分達が生贄として戦いに捧げられる存在である事をだ。

 それでも男の一人がおずおずとアレンに言葉を発する。


「俺達じゃあ魔族に勝つ事なんて不可能だ」


 その言葉にアレンは残酷な笑みを浮かべて返答する。


「心配しなくていいよ。俺達がお前らに望んでいるのは、魔族に勝つことじゃない」

「え?じゃあ・・・」

「俺達の駒として魔族との戦いで少しでも有利な条件を生み出す事さ。その結果お前らが死のうが生きようがどうだっていい」

「な・・・」

「いや~お前らのようにいくら使い潰しても何ら罪悪感をもたないですむ捨て駒を手に入れる事が出来て本当に幸運だ」


 アレンの声には男達に対する尊厳も何も含まれていない。いや、人間扱いをしていない道具を見る目だった。


「お前ら、今まで多くの人間を苦しめてきただろう?助けてくれ、止めてくれそう言う声を無視して、嫌らしく笑い悪事を働いてきただろう?」

「う・・・」

「お前らの悪事の被害者が、お前らが駒として使い捨てられるという状況を知ったら、確実に『ざまあ見ろ』ということだろう」

「・・・」

「お前らが苦しめてきた人の中にお前らに慈悲をくれるような人がいるか?」

「・・・」

「そう、それがお前らが今まで歩んできた人生の本当の姿だよ。誰もお前らに同情なんてしない。誰もお前らの幸せを願わない。誰もがお前らが最悪の最後を迎えて欲しいと思っている」

「・・・」

「そんなお前らに改心なんて必要ない。お前らはクズとして生き、クズとして死ぬんだ」


 アレンの言葉は男達の心を抉りに抉る。改心も反省も必要ない。クズとして生きてきたのだから、そのままクズとして死ねというのは、あまりにも非常すぎた。

 

「お前のような貴族に何が分かる!!」


 男の一人が叫んだ。まるでやむにやまれぬ事情があるかのような発言だ。だが、アレンの目はどこまでも男達に冷淡だった。


「そうかそうか、お前が殺した人にそう言って許してくれれば、お前に謝ってやろう」

「な・・・」

「ふん、どこまでも卑怯な奴だな。お前にどんな事情があろうがそんなものに何の価値も無い」

「なんだと!!」

「お前が殺した人にとっちゃお前は憎いだけの男だよ。『俺は可哀想な人間だ。だからお前を殺しても構わないだろ』といいたいわけだろ?」

「・・・」

「お前は自分の楽しみのために人を殺しておいて、自分は可哀想と悦に入る単なる変態に過ぎない。なぁお前は自分が変態だと声高に叫んで恥ずかしくないのか?まともな神経をもっていたら絶対に出来ない行動だ」

「・・・」


 アレンの言葉に心が折れたのだろうか、男は力なく項垂れる。結局の所、男の言い分は『俺って可哀想だろ?優しくしろよ』という甘えた考えにすぎない。アレンはこういう論法を使う奴が何よりも嫌いだった。


「話を続けるぞ。お前らには今から呪いをかける」


 呪いという物騒な言葉に男達の顔が恐怖に歪む。アレンはその表情を無視して淡々と告げる。


「その呪いは行動制限だ」

「?」

「制限する行動は、自傷行為と逃亡行為、最後に我々への敵対行為だ」

「な・・・」

「この呪いをかけるだけでお前らは魔族との戦いに確実にかり出すことができる」

「ま・・・待ってくれ。俺達は頼まれただけなんだ!!」

「あっそ・・・お前らが誰に頼まれたなんて興味がないんだよ」

「そ・・・そんな・・・」

「例えお前らが誰かに頼まれようとも、俺がお前らを駒にするという事実は変わらん」


 アレンは残酷な事実をつげ、男達に呪いの術式を展開する。男達の頭上に魔法陣が展開される。その魔法陣は月の光のように、美しく儚げな光を放っていたが、男達にとっては美しさを感じるだけの余裕はない。


「やめ・・・」


 男の一人が叫ぼうとしたところに、頭上に浮かんでいた魔法陣が自分たちに降りてくる。

魔法陣は男達を素通りして地面に吸い込まれていく。


 アレンはその様子を見て、冷たく笑う。


「さて、これでお前らに行動制限がかかった。お前達は俺達が許可しない限り敷地内から出ることはできない」

「な・・・」

「(ざけんな!!クソが!!)え?」


 男の一人が驚愕と恐怖に声を震わせる。アレンを罵ろうとした時に声が出なかったのだ。その他の声は普通に出せる。しかし罵ろうという声はどうしても出すことは出来ない。他の男達も同じような状況なのだろう。困惑が広がっていく。


「ああ、行動制限が掛かっているといったろ?俺達への悪口は敵対行為に属するから一切出来ない。理解したか?お前らはもう俺の手駒になったんだと」

「な・・・」

「じゃあ、これで、話は終わりだ」


 一方的に話を打ち切り、アレン達は屋敷に入っていく。入れ替わりに初老の男が出てくる。両手にかなりの大きさの箱を持っている。


「それでは、みなさま方にはこのままお休みいただきます。しかし、あなた方を当屋敷に入れるつもりは一切ございませんので、庭で寝てください。そのための寝具でございます」


 箱の中には粗末な布きれが入っている。これで夜を明かせというのだ。ロムをそれだけ告げると男達に一瞥もくれず屋敷内に入っていく。


 男達は大声を出そうとしても小声になり、敷地を出ようとしてもどうしても足が動かず、屋敷内に侵入しようとしても屋敷を傷つける行為がどうしても出来なかったのだ。



 アレン達が就寝し、邸内の明かりが消えてからも男達は抵抗を続けていたが、それが無駄である事を悟ると、ロムの持ってきた寝具という名の布きれを持って、思い思いの場所で寝ることにした。


 願わくば、目が覚めたとき夢であって欲しいという想いと共に目をつむった。




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