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魔族④

ちょっと長くなりました。

「さて、予め言っておくが、嘘をつくか、本当の事をいうかはお前らの自由だ」


 アレンの声は淡々としている。


「ただし、俺や他の三人が嘘と判断したらその場で尋問は『終わり』だ。この意味がわかるな?」


 嘘と判断されたら即座に殺すという脅しだった。この意味を正確にネシュア達は把握した。


「嘘をつくならせいぜい頭を使った嘘をつくんだな?」


 正直な話、アレンは魔族のお家騒動なんかにまったく興味はなかったし、こちらの被害はまったくない。アレン達にとってはいつもの見回りと難易度で言えばほとんど違いが無い。

 ネシュア達が最初に言った情報だけでも十分すぎる情報だったのだ。これ以上の情報が例え手に入れられなくても別に構わないと言ったところだ。


「ああ、それから口は三つあるという事を分かった上で発言しろよ?」


 アレンの言葉に、ネシュア達は身を震わせる。


 ちなみに、ネシュア達は一カ所に集められている。その方が尋問が楽だから集められたのだ。


「さて、それではネシュア・・・お前の所属を答えてもらおう」

「・・・」


 返答は沈黙だった。ネシュアはこの段階でもまだ、アレンの言葉を単なる脅しと考えていたのだ。しかし、アレンは当然只の脅しのつもりはなかった。


 シュン・・・


 アレンが剣を振ると、ネシュアの左腕が切り落とされた。あまりにも静かな一閃だったからかネシュアは自身の左腕が切り落とされたことにしばらく気付かなかったくらいである。自身の左腕の肘から先が無くなっていることに気付き、それを自覚するとすさまじい痛みがネシュアを襲った。


「はごぁぁぁぁぁ」


 ネシュアは叫び声をあげて蹲る。その様子を執事二人は呆然と見つめる。怒気を発するより先にフィアーネ、レミア、フィリシアの殺気がそれを封じ込める。


「お前はバカそうだから、今回は許してやる。次も許してくれると賭に出るのは構わんが、負ける可能性も考慮しておけよ?」


 アレンの声に一切の慈悲は感じられない。ネシュアはここに来て悟った。この男は何のためらいもなく自分の命を刈り取ると。


「では、もう一度聞くぞ。お前の所属は?」

「ベ・・・ルゼイン帝国だ」


(聞いたこと無い国だな)


「その国はどこにある?」

「ガーンスヴァ・・・ルク大陸にある。お前らは暗・・・黒大陸と呼んでいる」


 ローエンシア王国があるボルメア大陸の遥か東に暗黒大陸と呼ばれる大陸がある。常に黒い霧に覆われ、その霧を超えていくことは、現在の航海術、魔術では不可能と言われており、謎の大陸と言われている。

 一説にはそこには魔族が支配していると言われていたが、どうやら事実だったらしい。


「なるほど、ではそのベルゼイン帝国の子爵がなぜローエンシアの墓地で瘴気を集めているんだ?別に瘴気なんかお前らの国でもとれるだろ?」

「・・・理由は二つだ。一つは国内の・・・瘴気では足りないから他国、いや他大陸にとりにきた。もう一つは、この墓地・・・でとれる瘴気が上質であることだ」


 一応、話の筋は通っている。というよりもここまでは予想の範囲内だ。暗黒大陸で発生する瘴気では足りないぐらいに瘴気を必要としている。ここまでは良いが問題はそんなに大量の瘴気を集めてどうするのかという点だ。


(おそらくそろそろ、嘘を入れ始めるな。ではこれ以上こいつに聞くのは危険だな。判断する情報が少なすぎるからな)


 そこまで考えたアレンは、ザウリスに尋問の相手を変える。


「それでは、お前に質問を変える。何のためにそんなに大量の瘴気が必要だ?」


 ザウリスは突然自分にふられた事で困惑する。ネシュアが質問に答える以上、自分に聞かれることはないとふんでいたからだ。


「・・・くわしい理由は分からんが、瘴気を集めるように指示された。俺たちだけでなく国中の貴族とその配下が動いている」

「そうか・・・」


 ちらりとアレンは三人に目をやる。三人はここまで嘘を言っていないという判断のようだ。


「ネシュア、お前は貴族だ。代わりに答えろ」

「・・・陛下がお決めになられたのだ」

「瘴気を集めろと?」

「そうだ・・・うっ」


 アレンがすさまじい殺気をネシュアに放つ。ネシュアはその殺気を感じた瞬間に言葉を発することが出来なくなってしまった。たかが人間の放つ殺気が魔族であるしかも爵位を持つ自分をも恐れさせる殺気を放つなどあり得ない。


「どうも、お前は自分の立場が分かってないようだな?」

「何を・・・?」


 ガタガタと震えがくる。


「その陛下が何を考えて瘴気を集めるように言ったか、その理由をお前が知らんわけないだろう」

「ほ・・・本当に知らないのだ。陛下はただ、瘴気をより多く集めた者に帝位を譲ると、皇子達におっしゃられたのだ・・・私は第二皇子のアシュレイ殿下のために瘴気を集めているにすぎんのだ!がぁ!!」


 アレンの剣がネシュアの右太股に突き刺さる。


「下らん嘘をつくな。本当に舐めた事をしてくれるな」

「・・・ぐぅぅぅ・・・嘘ではない」

「別に今回が皇位継承は初めてでは無いだろ?皇位継承に瘴気を集める理由がまったくわからないという事は決して無いはずだ。皇位継承に大量の瘴気が何の関係があるかを聞いているんだよ」

「・・・知らない、本当に知らないんだ」


 皇位継承と大量の瘴気に関係があることは明白であり、その理由を爵位を持つ者が知らないというのは明らかに不自然だ。皇位継承、もしくは皇帝の地位に瘴気が必要というのは魔族にとって常識レベルの事のはずだ。

 そう俺が推測するのは当然のはずなのに、それを答えないと言うことは、本当に知らないか、何が何でも隠さないといけないのかのどちらかだ。


(となると、これ以上こいつに聞いても意味が無いと言うわけか・・・)


「それでは、お前の派閥は第二皇子派だな。他に何派があるかを答えろ」

「エルグド第一王子派、アシュレイ第二皇子派、トルト第三皇子派の三つだ」

「そうか」


 話から察するにベルゼイン帝国は最低三つに分かれているというわけだ。


 結局分かったことと言えば・・・

 ①暗黒大陸にベルゼイン帝国という魔族の国がある

 ②ベルゼイン帝国はお家騒動の真っ最中

 ③派閥は第一皇子派、第二皇子派、第三皇子派の三つ

 ④瘴気を多く集めた者が帝位を継ぐ

 ⑤それぞれの配下が瘴気を集めるために世界中に散っている


 と言ったところか?


「では、最後の質問だ。今のお前らの皇帝陛下はベルゼイン帝国の何代目だ?」

「・・・?」

「早く答えろよ」

「5代目だ・・・」

「そうか・・・」


 アレンの最後の質問は、他の三人もその意図を図りかねたようだ。アレンにしてみれば正直な話、ネシュアやその執事が言っていることが本当かどうかはわからないのだ。だからこそ、痛みを与え、恐怖で縛り出来るだけ正しい情報を話すように仕向けたのだ。


「ねぇアレン・・・ちょっといい?」

「どうしたフィアーネ?」

「今の皇帝が何代目かなんて何の意味があるの?」

「ああ、今こいつは今の皇帝が5代目って言ったよな」

「うん」

「となると、皇位継承に瘴気を集めることは今回初めてじゃない。こいつらの国では瘴気を最も集めることができた者が皇位を継ぐことができるんだろう」

「なるほど」

「こいつらにとって瘴気は俺たちとは違う利用方法があるんだろう」

「なるほど」


 アレンはここまで言って、ネシュアに告げる。


「質問がもう一つ増えたわけだ。お前ら魔族にとって瘴気とは一体何だ?」

「我々、魔族にとって瘴気とは・・・」

「早く答えろよ?この件に関しては口はお前じゃ無くてもいいんだぞ?」


 アレンの声色も内容も冷淡そのものだ。ネシュアは、ここまで来てアレンによって処分されてはかなわない。ネシュアは何としても本国に生きて帰りこの事を報告しなければならないのだ。


「我々、魔族にとって瘴気はエネルギーだ」

「お前ら魔族のエネルギーは魔力だろ?」

「もちろん、魔力も重要なエネルギーだが、瘴気もそうなのだ」

「そうか、ではもう一つ質問が増えたな、魔力と瘴気はお前らにとってどちらがエネルギーとして主流だ?」

「どちらも半々といったところだ」

「・・・そうか。俺の質問は以上だ。みんなはこいつらに何か質問することはないか?」


 アレンが三人に問いかける。三人は静かに首を横に振った。


「じゃあ、もうこいつらは用無しだな」


 アレンの言葉に三人は明らかに狼狽する。命が刈り取られると思ったのだろう。


「ま・・・」

「誤解するな、ここでお前らは解放する。但し、これ以降この国営墓地に正当な手続きをせず入ることは絶対に許さない。もし、これを破った場合は遠慮無く殲滅する」

「・・・わかった」

「それから、お前らのケガだが、自己再生はそろそろ終わったろ?自力で歩き、墓地を出てから転移し帰れ」

「・・・わかった」


 魔族は高い魔力によりある程度のケガはすぐに治ってしまう。魔族を殺すには自己再生するよりも早くダメージを与え生命力をゼロにすることである。逆に言えば人間なら致命傷と思われるようなケガをしても生命力が少しでも残っているのなら徐々に再生するのだ。

 ネシュア達もアレン達との戦闘で負ったケガは完治してはいないが、立って歩くぐらいなら可能なほど、回復していた。


「妙なことはするなよ?妙なことをしていると判断したらその場で切り捨てる」

「わかった・・・」


 もはやネシュアは分かったしか言わない。一見、心が折れたかのように見せているが、ネシュアの心が折れておらず屈服していない事をアレン達は知っていたが、ここでその事を告げるわけにはいかない。


 国営墓地の出口に向かい、一行は歩き出した。


 国営墓地を出ると、ネシュア達は転移の魔法陣を展開する。憎々しげにアレン一行を睨んだネシュア達であったが、アレン達にはわずかの感情の揺らぎも感じられない。それがネシュア達には余計腹立たしい。


「この借りは必ず返すぞ」


 転移が成立する瞬間に吐き捨てたネシュアの言葉に、アレンは見下すような笑みを浮かべる。それをネシュアが視界に捉えたかどうかは分からない。だが、捉えていなくてもアレンにとってそれは重要では無かった。


「行ったな」

「そうね」

「最後までちゃんと踊ってくれればいいのだけどね」

「う~ん・・・あんまり期待しない方がいいんじゃ無いですか」




 とりあえず、今回の魔族の襲撃は終わった。明日は王宮に行って報告しなければならない。

 これから帰ってアレンは報告書を作成しなければならない。ついでに作成にはフィアーネ、レミア、フィリシアも参加してもらう。ここまで来て自分一人だけ残業なんてたまったもんじゃなかったので、三人にそのことを要請すると意外な事にあっさりと了承してくれた。


「まぁ、お夜食もあるから、アレンの部屋で食べましょう」

「そうね、せっかく作ってきたから無駄にならずにすんで良かったわ」

「さあさあ、行きましょう♪アレンさん」

「ああ」


 アレン達はアインベルク邸に向けて歩き出す。これから面倒くさい報告文書を作成しなければならないが、この三人に協力してもらえればそんなにきつくないだろう。


 それに、三人の夜食にも興味があったからこれはこれで良かったのかもとアレンは思った。



7月11日に30000PVを超えました。読んでくれてありがとうございます。

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