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魔族②


 戦いが始まった。


 相手は、爵位を持つ上位魔族、執事の中級魔族、アンデットのリッチ3体、下級悪魔6体、本来であれば一軍が事にあたる必要のある案件だ。だが、アレンとフィアーネはまったく恐れない。


 口火を切ったのはフィアーネだ。


 まずは数を減らすことが先決と下級悪魔6対に襲いかかる。下級悪魔は爪に魔力を込めるとたんに爪が40㎝ほど伸び短刀のようになる。だが、その程度の武装などフィアーネにとって警戒に値しない。


 フィアーネが魔力で強化した拳を、下級悪魔に叩き込んだ。下級悪魔の頭がまるでスイカのように破裂し、一つの命が終わった。おそらく今死んだ悪魔は自分が死んだ事すら気付いていないだろう。

 頭が吹っ飛んだにも関わらず立って姿に他の者はそう思わずにはいられない。数秒後に自分の死に気付いたかのように倒れ込んだ。


 一体目を斃したフィアーネは、再び拳を下級悪魔に叩き込む、今度は頭ではなく、腹であった。フィアーネの拳の衝撃は、下級悪魔の腹を貫通し背骨を打ち砕いた。腹を打ち抜かれた悪魔はすさまじい苦痛を感じたが、声を上げることが出来なかった。これまた数秒後に息絶える。


 フィアーネはその容姿に似つかわしくない戦闘力を遺憾なく発揮し、残りの下級悪魔を葬る。フィアーネに注意が向いた隙を狙っていたアレンはリッチに狙いを定め一瞬で間をつめると一振りでリッチの核を切り裂き消滅させる。


「ぼさっとしてんなよ」


 アレンとすればため息しか出ないようなお粗末さだ。すでに戦闘が始まっているのに、フィアーネだけに注意を払い、アレンへの警戒を怠るとは・・・。


 残り二体のリッチは間合いを取るために離れようとする。当然アレンとすればそんな隙を与えるほど間抜けで無いので追撃を行うとした。


 が、それを阻んだのは執事の片割れである。追撃を行おうとしたアレンに鉄鎖を放ったのだ。アレンはその鉄鎖を躱すと追撃を中止し、間合いをとった。


「ほう、人間にしてはやるではないか」


 嘲るようにネシュアがアレンに言葉を発する。そして、フィアーネに目をやるといやらしい笑顔をむける。

 ネシュアの容姿は決して醜悪なものでは無かったが、その笑顔は卑しさが際立っており、不快な印象を与える以外なかった。


「そっちの女は吸血鬼・・・しかもトゥルーヴァンパイアか・・・容姿もいいしなその男の目の前で犯してやろう。貴様の大事な男にお前が俺に喘がされる様を見せつけて男を殺してやる」


 ゲス過ぎる発言にフィアーネはげんなりとする。いくらなんでも、言い方というものがあるだろう・・・。

 その卑しいネシュアの言葉を聞いて、アレンがフィアーネに声をかける。


「おい、フィアーネ・・・一応いっとくが、これはネシュア君の大変ありがたい挑発だぞ。そんな面倒くさそうな顔をせずに不愉快な顔をするとか怒りの表情を浮かべるとかして一人悦に入るようにしてもいいんじゃないか?」

「いえね・・・。このネシュアって『腹立たしい』というよりも『嫌』なのよ。私ってゴキブリが苦手なのよ」

「へ~フィアーネにそんな弱点があったんだ」

「そうなの、別にゴキブリって命の心配をするような相手じゃ無いでしょ?」

「まぁ普通はね」

「でも、私は見るのも嫌なのよ。このネシュアって魔族もそんな感じなの」

「ゴキブリ並みに不愉快な存在というわけか・・・」

「そうなのよ、腹立たしいというよりも生理的嫌悪感というのが先立っちゃって」

「まぁゴキブリ並みにしつこそうだな」

「そうそう」


 アレンとフィアーネの言葉は当然、ネシュア達にも届いている。聞かせて怒らせるというのが目的の挑発なのだが、アレンもフィアーネもこんな挑発に効果があろうがなかろうがそれほど問題で無い。単純にネシュアを虚仮に出来ればよかったのだ。この挑発に反応したのはやはり執事達である。


「おのれ!!人間如きが!!」

「ネシュア様をこれ以上愚弄することは許さんぞ!!」


(やっぱり、こっちが釣れたか。本当に単純な奴らだ)


「ザウリス!!ヘルケン!!この二人を殺せ!!」


(あ・・・こっちも釣れてたわ)


 ネシュアもどうやらゴキブリと同じというフレーズには我慢がならなかったらしい。


 ザウリスとヘルケンと呼ばれた執事は、アレンとフィアーネに向かう。ゆったりとした歩幅から一瞬で間合いを詰める。

 アレンとフィアーネは慌てることなく対処する。


 アレン達には、この段階でどっちがザウリスでどっちがヘルケンか分からなかったが、先程鉄鎖を放った執事がフィアーネに、アレンにはもう一方の執事が向かう。どうやらアレンに向かった方の執事が近接戦闘が得意なタイプらしい。


 間合いを詰め、攻撃を放とうとした瞬間に、執事の頬にフィアーネの拳がめり込む。フィアーネの拳をまともに受けた執事は吹っ飛ぶ。5メートルほどの距離を飛び、執事は片膝をついて着地する。


「ザウリス!!」


 鉄鎖を放つ執事が叫ぶ。どうやらこっちがヘルケンらしい。


「フィアーネ、ザウリスを殺すなよ。そいつは使える」

「分かったわ」


 フィアーネが了承し、アレンとフィアーネがザウリスに攻撃を仕掛ける。立ち上がったザウリスは憤怒の表情を浮かべ、アレンとフィアーネを迎え撃つ。当然、ヘルケンも応援に駆けつけようとするが、位置と初動で後手に回っていることを理解した。


 執事達が押される状況をネシュアは苦々しく睨みつける。


 ネシュアとリッチ2体の目がアレン達と執事の戦いに注がれる。そのために、フィアーネが斃した下級悪魔の変化にネシュアもリッチも気付かなかったのだ。




 突如、下級悪魔達の死体が動き出し立ち上がりネシュアに襲いかかる。ネシュアに向かってくるわずかの間に下級悪魔に瘴気が纏わり付き、体躯が2メートル半ばに膨れあがる。下級悪魔6体はデスナイトに変貌したのだ。


 デスナイトに変貌した6体の元下級悪魔は、ネシュアに殺到する。瘴気を形にした剣を遠慮無くネシュアに振り下ろす。不意をつかれたために、一瞬対処が遅れてしまった。リッチが主を守るために、間に割り込んだ。

 忠義あふれる行動であったが、その代償は大きかった。


 リッチの一体はデスナイトの剣を受けて頭部から真っ二つにされる。通常であれば再生するのだが、倒れ込んだところに、6体のデスナイトが力の限りリッチを踏み砕く。その中で核を踏み抜かれリッチは消滅する。


 だが、そのリッチの代償のおかげでネシュアは6体のデスナイトに対処する事が出来たのだ。

 右手をデスナイト6対にかざすと瘴気を吸収する。デスナイトを形成していた瘴気はネシュアに全て吸収され、下級悪魔達は元の死体に逆戻りする。


「ふん、こざかしい真似を、デスナイトなど瘴気の塊、ならその瘴気を吸収してしまえば消滅する」


 ネシュアはアレンの攻撃を子供だましと言い捨てたのだ。


「所詮はサルの浅知恵よ。・・・ぐっ」


 ネシュアの顔が歪む、先程までの歪んだ笑顔でなく、苦痛によって顔がゆがめられていたのだ。


 ネシュアの腹から剣が突き出ている。何者かが自分を背後から刺し貫いたのだ。そのことに気付いたとき、いままで発したことの無い怒りがこみ上げてくる。


 ネシュアは腕を振り回し、背後から自分を突いた相手に一撃を加えようとするが、憎い相手は剣を引き抜く。振り向いたときは相手は間を取っていた。


 ネシュアの目に映った自分を背後から刺し貫いたのは女だった。



 ネシュアは知らないがアレンとフィアーネは知っている。


 フィリシア=メルネスだった


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