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魔族①

 いつもの時間だ。


 その時間とは当然、国営墓地の見回りの時間である。アレンの日課であり、墓守として最重要任務である。

 アレンがアインベルク家を継いで約9ヶ月が過ぎようとしている。最初は一人で見回りをしていたが、フィアーネという見た目最高、中身残念吸血鬼が加わり、レミアという活発系美少女、フィリシアという正統派美少女が墓守に加わったことで、現在の墓地見回りは三人で回り、時々、フィアーネが参加するという状況だ。


 一人で陰気な墓を見回るよりかは一緒に廻ってくれる者がいるのは、やはり嬉しい。


 しかも、今夜はすでに四人はアンデットと4回戦闘をしている。かなり出現のペースが早いのだが、三人のアレンを呼ぶ声はまったく緊張感が感じられない。


「アレン♪お腹空いたんじゃ無いの?」

「アレン♪よければサンドウィッチ作ってきたの」

「アレンさん♪私も作ってきたんです」


 とまぁアンデットが毎日のように発生する危険な場所なのだが、三人はまるでピクニックのような声でアレンに食べ物をすすめている。


 正直、頭が痛い・・・。


「お前ら・・・」


 アレンが三人に声をかけようとしたときに、突如国営墓地に五重に展開してある結界が崩壊した。といっても結界発生装置が無事なためにすぐさま新たな結界が展開される。展開されたが、国営墓地に何者かが侵入したのは間違いなかった。


 この気配はかなりの大物だ。アレンがかつて斃した何とかという中級魔族よりもはるかに強い気配だ。


 アレンが三人に目をやる。この気配を感じてピクニック気分をひきずるようなものは居なかった。フィアーネもレミアもフィリシアも真面目モードに入っていた。なんだかんだ言ってもTPOは弁えているのだ。


「さて、妙な奴が墓地に侵入してきたな」

「そうね、この気配は魔族ね」

「魔族・・・しかもこの気配からかなり上級の魔族ね」

「とりあえず、この魔族の目的を探りましょう」

「そうだな、レミア、フィリシアは気配を消してって今更指示しなくても、もうやってるか」


 レミアとフィリシアは侵入者が来たら間髪入れずに自分たちの気配を消していた。相手に情報を与えないためだ。一方でアレンとフィアーネは気配をまったく隠そうとしていない。レミアとフィリシアの気配を察知させないための措置だった。


 アレンとフィアーネが気配を隠そうとしなければ、当然開いてはアレンとフィアーネの存在に気付く、そうすればレミアとフィリシアの気配をさらに察知しにくくなるわけだ。


「ではフィアーネ、侵入者に会いに行こう。レミアとフィリシアは気配を絶って周囲を警戒しておいてくれ」

「分かったわ。さてどんな相手かしらね」

「分かった。でも見つかった場合は遠慮無く戦闘に参加するわ」

「アレンさん、十分に気を付けてくださいね」


 アレンとフィアーネは気配の主の元へ移動する。その際に一切、気配を絶つような事をしないのだから、よほどの間抜け出ない限りは、二人の接近を察していることだろう。


 侵入者はやはり魔族であった。そして、魔族の中でも上位の魔族のようだ。


 その魔族は、身長は2メートル弱、浅黒い肌に黒髪、魔族である以上、実年齢は分からないが見た目は30代前半と言ったところだ。

 1メートル半ほどの尻尾があり、この男が人間で無いのは一目瞭然だ。服装が貴族が着るような服装をしているために、こいつがボスだろう。


 魔族の周囲には、執事服に身を包んだ魔族が2人、リッチが3体、下級悪魔が6体控えている。普通に考えればすぐに騎士団に出動要請すべき案件だ。にも関わらず、アレンとフィアーネは臆することなく魔族に向かう。


 話し合いで済めば良し、退去を求めて応じてくれればなお良しといったところであるが、アレンははっきり言って期待していなかった。魔族は人間を見下しているため、求めに応じることなどほとんどない。

 もちろんすべての魔族がそうであるとは言えないが、アレンが出会った魔族は人間を見下し、アレンをなぶり殺そうとしてきたが、すべて返り討ちにしていた。


 アレンはゆっくりと歩き、十分に声が届く距離になると、出来るだけ誠実に魔族の一行に話しかける。


「申し訳ありませんが、ここは関係者以外立ち入り禁止なので、すぐに退去していただけますか?」


 アレンの誠意を込めた言葉は、甚だ不誠実な対応で返された。


「人間如きが、誰に口をきいているつもりだ!!」


 声を出したのは、執事服を着込んだ魔族だ。こちらが誠意を持って問いかけたのに、見下した口調と視線で返すとこをみると、どうやらいつものタイプの魔族らしい。ということは、こいつらとの戦闘はもはや避けられないと言うことだ。

 

 そのことをどうやらフィアーネも察したらしい。


 ここからは友好的いや礼儀すらこいつらに払う必要ないということを二人が思う。それでも、いくつかの情報を得る必要があるために、話をすることにする。


「あ?」


 アレンの一言は、魔族一行の警戒させるには十分だったようだ。ニヤニヤと嫌らしく笑っていた魔族一行は、アレンの放つすさまじい殺気に笑顔を凍り付かせる。


「小間使い風情が・・・俺がいつお前如きに話をしてんだよ?勘違いしてんなよ」

「な・・・なにぃ」

「俺が話しかけてんのは、そこにいる偉そうな格好をしている魔族だよ。自分が話しかけられたとでも思ってんのか?恥ずかしい勘違いするな、こちらが恥ずかしくなるし、なにより時間の無駄だ」

「き・・・貴さ・」

「で、どうなんだ?俺が怖くて何をしに来たか分からなくなったか?だったらさっさと家に帰ってじっくりと思い出せ」


 いきなりの侮辱である。普通に考えて、プライドの高い魔族、しかも貴族、とどめは見下している人間に侮辱されたのだから、その怒りはすさまじいものだろう。


 だが、怒り狂ったのは、周囲の魔族達で肝心の貴族の方は、誘いには乗らないというふうにニヤッと笑う。


「貴様!!ネシュア=ボールギント子爵閣下への侮辱は許さんぞ!!」


(はい、バカが引っかかった・・・。こいつの名前はネシュア=ボールギント、爵位は子爵と・・・)


「人間如きがネシュア様に口をきけると思っているのか!!身分を弁えよ!!」


 もう一人の執事の魔族がアレンに口撃を行うが、まったく予想の範囲内なので何らアレンの怒りを呼び込まなかった。むしろ『ああ、このパターンか』と逆に冷静になったぐらいである。

 主がだんまりを決め込んで、情報を与えないようにしているのかもしれないが、バカな手下のために台無しだった。


 そう考え、アレンはネシュアの顔を監察するが、その顔には表情が浮かんでおらず。手下の行動をどう思っているかが読めなかった。


「おいネシュア。さっさとこの国営墓地から出ていけ。この墓地の管理者である俺からのの退去命令だ。ちなみにその権限を与えたのは代々のローエンシア国王だ。お前、まさかとは思うが、ここはローエンシアの領土であり、領域だ。この領域内にいる以上、ローエンシアの法律を守る義務がお前らにも生じる。魔族だからとかそんな理由で守らないなどというのは論外だぞ」


 このアレンの言い分に反応したのはまたも執事の魔族であった。


「貴様!!人間如きがネシュア様を呼び捨てにするなど!!」

「なぜ我ら魔族が人間如きが作った法などを守らねばならんのだ!!つけあがるな!!」


 本当にこのバカ執事は面白いように踊ってくれる。アレンは嘲りの感情が強くなっていくのを止めることができなくなる一方、ネシュアのこの程度の能力の無い部下しかもてない境遇に同情したぐらいだ。

 執事の魔族の言葉一つ一つがアレンによって攻撃の材料を与えていることを理解していない。特に『人間の作った法を守らない』という宣言はアレンの提示した自分の死刑執行書にサインしたに等しかった。

 とはいえ、もう少し情報を得たいところなので、アレンはさらにネシュアを挑発する。そうすればまたバカが情報与えるかもしれないからだ。


「ネシュア、お前らがこの墓地に来たのは瘴気を集めるためだろう?何のために瘴気を集めているんだ?」


 そこで、初めてネシュアが口を開く。残忍さを伺わせる声色だ。


「さて、墓守如きに教えることはない」

「瘴気を集めるのは否定しないわけか。この間の魔族といい、瘴気なんざこの墓地でないと集められないわけでもないのにな」

「この間?」

「ああ、この間来た魔族も瘴気を集めていた。もう少しだったが取り逃がしたがな」


 無論、嘘である。瘴気を集めていた魔族はアレンによって撲殺されている。正義感によってというよりも八つ当たりによってだ。だが、それをここで開かす必要はない。


 すべて嘘をつく必要は無い。所々、真実と嘘を混ぜた方が相手に混乱をおこす可能性が高かったのだ。


「まさか・・・第一王子派が・・・」


 またも、バカな執事が貴重な情報を与えてくれる。このような派閥を思わせるキーワードを漏らしてくれるのは本当にありがたいことだ。本当にこのバカはこちらの都合の良いように踊ってくれるものだ。


 キーワードから推測するに、どうやらこいつら魔族の国は、お家騒動の真っ最中らしい、瘴気を集めるのは、相手陣営よりも先んじるためだ。具体的に瘴気をどう使うかは情報が少なすぎるが、何かしら使い道があるのだろう。

 あと、ついでに言えばこのネシュアは第一王子派に対抗する派閥らしい。


「そうそう、第二王子がどうとか言ってたな」

「ふん、小賢しい人間よ。少しでも我らの情報を集めようとしているのだろうが、そんなことをしても無駄だぞ」

「無駄かどうかは終わってみれば分かるだろ」

「確かにな、まぁ今、貴様が手に入れた情報も他の者に伝わらなければ何の問題も無い」

「いや、あるだろ」

「どう、問題があるのだ?」

「お前の口の軽すぎる部下が問題だろ」

「どういうことだ?」

「事が終わったときに、その部下を尋問する。きっとたくさんの情報を吐いてくれるだろうな」

「お前らはここで死ぬのに、どのように尋問するんだ?」

「いやだな・・・頭の良いフリしてるけどやっぱりただのバカだったな」

「何?」

「ここで死ぬのはお前らだよ」



 話は終わりとなり、これからはネシュア一行との殺し合いの時間幕開けとなった。



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