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会議

 なんか、閑話とした方が良かったような内容です。

 アインベルク邸にあるアレンの執務室にアディラ、フィアーネ、レミア、フィリシアの四人が来客用の席につく。

 それぞれの前に紅茶の用意がアインベルク家のメイドであるキャサリンによってされる。キャサリンは四人に一礼し、アレンの執務室を出る。


 パタンというキャサリンが執務室を出て、扉が閉まるとそれが挨拶のように、四人の会議が始まった。

 第1の議題はアディラから提出される。


「とにかく私はレミア様、フィリシア様から『アディラ』と呼ばれたいのです」

「だからさすがにそれは駄目だと申し上げました」

「フィリシアの言うとおりです。王女殿下を呼び捨てなど出来るはずありません」

「二人とも、一応私も公爵家令嬢なんだけど?」

「フィアーネはいいのよ」

「レミアの言う通りね」

「どうしてよ?」

「「だってフィアーネだから」」


 あまりと言えばあまりの返答であったが、フィアーネはそれはそれで納得している自分もあったので、反論はしなかった。


「まぁ、それはひとまず置いとくけどアディラは呼んで欲しい。けどレミアとフィリシアは呼ぶわけにはいかないというわけね」

「そういうわけね」

「じゃあさ、二人とも『呼ぶわけにはいかない』ということは『呼びたくない』というわけではないのね」

「うん」

「それなら話は簡単じゃない?」

「?」

「私達しかいない時には『アディラ』、他に人が居る場合は『王女殿下』もしくは『アディラ様』と呼べば良いんじゃ無い?これが落としどころと思うけど」


 フィアーネの提案は妥当な落としどころといえる。フィアーネの指摘にあったようにレミアもフィリシアも『アディラ』と呼び捨てにする事に戸惑うのは、面倒な事になる可能性が非常に高いからだ。

 逆に言えば、面倒な事にならないのだったら、呼び捨てにしても構わないという事だ。


「アディラもそれでいいわよね?さすがにこの二人も不敬罪として罰せられるわけにはいかないもの」

「う~しょうがないか・・・でも、いつかは周りに人がいようがいまいが『アディラ』と呼んでもらいたいな」

「まぁそれは将来に取っときましょう。レミアもフィリシアもそれで良いわね?」

「分かったわ。アディラ」

「アディラって結構頑固なんですね」

「えへへ~何かいいな~こういうの~」


 ようやくアディラと呼んでもらえた事で、アディラは嬉しそうに笑う。とりあえずは議題の一つ目は解決したらしい。


 そして、次の議題というよりも元々の議題である。アレンにどのようにアプローチするかという問題にとりかかる。


「それじゃあ、アレンお兄ちゃんにどんな方法でアプローチするか考えましょう」

「そうね」

「まず、アレンお兄ちゃんがどんな子が好きかを確認しましょう」

「はい!!」

「それじゃあ、フィアーネさん、意見をどうぞ」

「もちろん、みんな分かっていると思うけど、アレンは女の子の胸に興味があるはず、みんなも胸にアレンの視線を感じたことあるでしょ?」

「確かに・・・」

「ある・・・」

「どうしよう・・・私、胸に視線を感じたことない・・・」


 アディラのつぶやきは、なんとなく他の三人に「まずい所にふれてしまった」という微妙な空気が流れた。

 アディラの胸は同年代の少女達に比べて決して劣るものではない。だが、スタイル抜群のフィアーネ、レミア、フィリシアに比べれば慎ましいという印象があるのは事実だった。


「で・・・でも!!アレンならキリっとした顔で『大きさではない。おっぱいには男のロマンがつまってる!!』とかいいそうじゃない?」

「そ・・・そうね!!アレンならそういう変態チックな事もいうわよね」

「そうですよ!!それにアディラは私達よりも年齢が低いのですから、これからですよ」


 三人はアディラへのフォローのつもりだったが、なぜかアレンの名誉が著しく傷つけられている。三人のフォローを聞けばアレンが涙目になることはもはや決定事項だ。


「持たざる者の気持ちなんてわからないのよね・・・」


 アディラが遠い目をしてそう独りごちる。世の中は無情だという雰囲気だ。これ以上はまずい・・・その雰囲気を察し、フィアーネは強引に話をそらす。


「ア・・・アディラ、とりあえず胸の話は置いといて、アレンの好みの話に戻しましょう」

「そ・・・そうね、ごめんね。じゃあアレンお兄ちゃんの好みを考えてみましょう」

「はい・・・」

「はい、フィリシアさんどうぞ」

「私はアレンさんはアディラみたいな可愛らしい娘が好みなんじゃないかしら?」

「そ・・・そうかな、えへへ~」

「確かにアレンは女の子女の子している娘が好きな面があるわね」

「それならフィリシアだって十分に可愛らしいから好みに入るわよね」

「え?そうですか・・・くふ」

「うう・・・それじゃあ、私がさつだから・・・アレンの好み外・・・」


 今度はレミアが落ち込み始める。それを見て三人がフォローに走る。


「だ・・・大丈夫よ、レミア!!あなたはさっぱりして格好いいわよ!!」

「そ、そうよレミア、あなたは凜々しくて素敵よ」

「フィアーネとフィリシアの言う通りよ。あなたはとても綺麗だし素敵よ」

「ありがとう・・・でもみんな可愛らしいとは言ってくれないのよね・・・」


 レミアの落ち込みは容易には回復しないようだ。だが、ここでレミアに可愛いと言っても逆効果なのは明らかだ。なんとかしてレミアがジメジメとした空気をまき散らし始める前にすべきことは、話題を変えることだった。


「それでは、とりあえず。他の意見に進みましょう」

「はい!!」

「それではフィアーネさん、どうぞ!!」

「アレンの好みだけど、可愛いというのもあるけど、意外と頼りがいのある娘も好きなんじゃない?」

「というと?」

「ほらアレンってさ『守ってやりたい』というような可愛らしい娘も好きだけど、背中を預けれるような相棒的な女の子も好きじゃない?」

「確かに・・・」

「一理あるわね・・・」

「相棒的な女の子・・・」


 頼りがいのある女の子と聞いてレミアが再び蘇る。確かに、アレンは相棒的な女の子を好む節がある。


「あの・・・ちょっといいですか?」

「どうしたんですか。フィリシアさん?意見は挙手にてお願いします」

「え?あ、はい」


 妙なところでアディラは真面目だった。アディラなりに司会役を立派にこなそうとしていたのだ。


「今更ですけど、アレンさんがどんな娘が好きなんて確かめる必要があるんですか?」


 フィリシアの意見は三人を困惑させる。アレンの好みを知らずしてどうアプローチしろというのだろうか?

 フィリシアの意見に困惑し、その真意を確かめるためにレミアが疑問を呈する。


「どういうこと?」

「普通に考えてフィアーネもアディラもレミアも、ものすごい美少女よ?そんな美少女に迫られてアレンさんが嬉しくないはずありませんよね?」

「・・・」

「それに、私達の目的はこの四人でアレンさんの心を掴む事なのだから、どんなアピールがアレンさんに効果があるかを考えるべきではないでしょうか?」

「そ・・・そうだわ」

「私達はとんでもない勘違いをしていたわ」

「フィリシア・・・あなたって実は天才だったのね!!」


 フィリシアの提案に三人が惜しみない賛辞を贈る。フィリシアも褒められてまんざらでもないらしい。


「では、これからは、アピールの方法を考えてみようと思います」

「「「賛成~」」」

「それではご意見のある方、挙手をお願いします」

「はい!!」

「ではレミアさん」

「やっぱりアレンに対しては『できる女』を演出する方向で行った方がいいと思う。アレンを支える事の出来る女であることが一番のアピールになるわ」


 『できる女』このフレーズは三人の少女に憧れを持って心に刻まれる。だが、アレンの考える『できる女』のハードルは限りなく高い事に気付かされたのはアディラの言葉によってである。


「確かに、その方向はアレンお兄ちゃんに非常に有効ね。でも問題があると思われます」

「その問題とは?」

「アレンお兄ちゃんは基本何でも出来るわ。それにロムさんとキャサリンさんがいるから私生活面でもまったく問題ないわ」

「「「確かに・・・」」」

「いい案と思ったんだけどね・・・」

「いえ、選択肢の一つとして入れておくものよ」

「そのとおりです」


「ではさらに意見を求めましょう。他に意見はありますか?」

「はい」

「ではフィリシアさん」

「やっぱりアレンさんを『癒やし慈しむ女』を演出する方向で行くべきではないでしょうか。アレンさんは過酷な墓地管理、貴族による嘲りにより傷ついている。そんなアレンさんを癒やすというのが、アピールとしては上策だと思います」


 フィリシアの案に理解をしめしつつ、異を唱えたのはフィアーネである。


「そうね~それもいい案だけど、一つ問題があるわ」

「その問題とは?」

「アレンってそんな柔な精神してないわよね。過酷な墓地管理っていったってあくまで一般人レベルなら過酷だろうけど、何の問題もないし、貴族の嘲りだってぜんぜん傷ついていないし、というよりも反撃に出たときには、むしろ相手の貴族の心が折れてるし、反撃したら蹴散らせるという余裕が全然、心に傷を負わせることしてないし・・・」

「「「確かに」」」

「まったく、貴族ももっと気合い入れてアレンに絡めばいいのに、そうしたら私達がアレンを癒やしてあっという間にアレンの恋人から妻になれるのに」

「貴族の方々も本当に役に立たない人達ばかりですね」

「立派な人もいるけど、アレンお兄ちゃんにからむようなどうしようもない人は、せめて私達の目的を支援するような絡み方をしてくれればいいのに」

「アディラってひょっとして腹黒?」

「ふふ、アレンお兄ちゃんのためならいくらでも腹黒くなりますよ」


 あっけらかんというよりも『当たり前ですよね?』という受け答えである。もちろん他の三人も同じ考えだ。というよりもアレンを手に入れるために腹黒くなければこの場に居るわけもなかった。


「はい!!」

「はい、フィアーネさん意見をどうぞ」

「レミアもフィリシアの意見もありだけど、やっぱりアレンは17歳の男子で私達は女子よ。あの年代の男を落とすのはまず『胃袋』よ!!」

「「「胃袋?!」」」

「そう、私達の手料理でアレンの胃袋を掴むのよ!!」

「ど・・・どういうことですか?」

「いい、アディラ・・・あなたは王女よね。当然調理場に入ったことはないでしょうし、料理をしたこともないでしょう」

「うん、やらせてもらったことない」

「そしてレミア、フィリシアも基本料理は出来るでしょうでも、凝った物は作ったこと無いでしょう?」

「「うん」」

「私も一応、公爵家令嬢だから料理なんてできないと思われている」

「フィアーネあなた料理できるの?」

「できるわよ。我が家は『芸は身を助ける』という家風だから、出来る事を増やす事に余念はないわ」

「すごい家ね・・・」

「まぁとりあえずそこは置いといて・・・いずれにせよ、私達がアレンに基本料理に縁遠いと思われている可能性が非常に高いのよ」

「「「確かに!!」」」

「そんな私達が手料理を振る舞ったらアレンは驚くわよね?」

「「「確かに!!」」」

「アディラが料理・・・常識的にはありえない事よ?でもだからこそアレンの心に鮮烈な印象を与えることが出来る!!」

「おお!!」

「そしてレミア、フィリシアはちょっと凝った料理をキャサリンさんに習うのよ!!」

「キャサリンさんに?」


 確かにキャサリンの料理レベルは非常に高い。何度もごちそうになったことで、十分に分かっている。


「確かにあなた達はある程度料理ができるでしょうけど、キャサリンさんに習うことでアレンに健気さを演出することができるのよ!!」

「「!!!」」

「そして、私も折を見てアレンに料理を差し入れしてみるわ。そう私達が料理をすることはアレンにとってまったくの予想外!!青天の霹靂!!そしてこのギャップがアレンに私達を単に仲間としてでなく恋愛対象として大いに意識させるのよ!!」

「て・・・天才だわ!!」

「フィアーネ・・・おそろしい娘・・・」

「フィアーネ・・・あなたが敵で無くて本当に良かったわ」

「そして、そうなれば先程のレミアの『できる女』もフィリシアの『癒やしてくれる女』にもつながる事ができる!!」

「フィアーネ・・・自分の意見だけでなく私とフィリアシアの意見もくむなんて・・・」

「すごすぎるわ・・・フィアーネ、あなたがそこまで策士だったなんて・・・」

「あなたは天才よ!いえ、もはやあなたは恋の女神様よ!!」


 三者の賛辞は止まるところを知らない。三人ともフィアーネを天才と褒め称えるがこの程度の事は、普通の女の子なら誰でも思いつくことである。にも関わらずここまで褒めると言うことはこの三人は恋愛にありえないぐらい不器用である事の証明と言える。


「ところで、アディラ、あなたは進行役になってるけど、あなたは何かないの?」

「私?私は『色仕掛け』ぐらいしか思いつかなかったなぁ~」

「「「!!」」」

「アレンお兄ちゃんに抱きついて口づけをねだるとか・・・」

「「「・・・」」」

「アレンお兄ちゃんに胸を押しつけるとか・・・」

「「「・・・」」」

「胸を強調した服を着てアレンお兄ちゃんの前で物を拾うためにかがんで見せるとか・・・」

「・・・アディラ」

「何?フィアーネ」

「あんたが一番、恐ろしいわ・・・」

「え?どうして?」


 フィアーネ、レミア、フィリシアの説得により『色仕掛け』の案は見送りとなった。とりあえずはフィアーネの『胃袋』作戦をやることになったのだ。


 こうして、四人の「第一回対アレン恋愛会議」は終わった。


 その後、アレンを交え、茶会が催されたが、これといって特筆すべき事があったわけではなかった。だが、四人の顔はたいそう幸せそうであった。



 ちょっと長かったと思いますが、読んでくれてありがとうございます。


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