夜会⑨
今回は、全体的にくどいですね・・・
これでは完全にアレンが悪役です。
夜会の会場で、アレンは一人佇んでいる。というよりも所在なさげに壁の方に移動して夜会が終わるのを待っている。
(しかし、出席者は何が楽しいのかね?)
アレンは不思議でならない。アレンにとって夜会などというのは、気の置けない連中というよりも品性下劣な人間と会わなければならないストレスのたまる行事だったのだ。
もちろん、貴族の全てが品性下劣というつもりはないが、自分に接触する貴族のほとんどがアレンに基準に照らし合わせれば品性下劣というしかないので、自然に貴族に対して評価が下がっていくのだ。
そんなストレスフルな夜会において、さらに輪をかけてストレスを与えようと絡んでくる者がいる。
先程、絡んできたどっかの公爵家のボンボン(嫌いな奴なので名を覚える意義を見いだせなかったために名前を失念している)とその取り巻き、そしてゲオルグなんとかというどっかの侯爵家のボンボンだ。
アレンは公爵家のボンボンの方に特に怒りを覚える。このアホのせいでカウントダウンが引き戻されるという被害を受けた以上、許すことはできない。
ちなみに、これは明らかに八つ当たりである。アレンはその事を十二分に理解していたが、そもそもこの品性下劣なアホが絡んでこなければ良かったのだ。という思いがにじみ出ていた。
公爵家の能なし息子とその取り巻き、ゲオルグは怒りと侮蔑を込めた大変卑しい顔を浮かべこちらに近づいてくる。自分が絶対安全と考えているのだろう、絶対に危害が自分の身に降りかからないと信じているのだろう。一方的にアレンを侮蔑し、屈辱を与えようとしているのだ。そんな顔をするときの人間はここまで醜くなれるのだという事を証明した顔だ。
いつもだったら、さらりと流すのだろうが、今のアレンのストレスでは到底、流してやるという心境ではなかった。
また、大貴族に喧嘩を売り、そのことでアインベルク家が取りつぶしになればそれはそれで一向に構わない。むしろカウントダウンを考慮しないで済む以上、好都合と言えた。
ゲオルグが口を開こうとした先手を打って、アレンが絡もうとした貴族達に声をかける。
「ここじゃ、みなさんの迷惑になりますから、会場の外で話をしませんか?」
「な・・・」
貴族達は呆気にとられる。まさかアレンが自分から外に出ようとは思わなかったのだ。この状況なら自分になんらかの危害が加えられる事を察し、人目の多いところにいようとするはずだ。なのにこの男は自分から外で話をしようとしている。何か罠があるのではと訝しんでもおかしくなかった。
そんな、アレンに絡もうとした貴族達の顔を見て、アレンはさらに挑発する。
「あれ?私に絡んでくるぐらいでしたから少しは骨があるのかなと思っていましたが、単なる臆病者、卑怯者でしたか。まぁ嫌がらせをするのにも徒党を組まなければ出来ないのですからその程度の人物だと推測していましたが、当たっていたわけですな」
アレンの挑発は、貴族達にしてみればあからさまであったが、それでもこの侮辱を看過することは出来ない。彼らの中には大なり小なり家名を背負うという意識があったし、たかだか男爵に侮られて黙っている訳にはいかなかった。
「貴様!!このレオン=ル・・・「そういうの面倒くさいんで、外に行きましょうと言ってるでしょう」」
レオンの激高をアレンは言葉を被せ封じる。レオンにとって自分の言葉を遮られるなどという無礼は初めてだったのだ。取り巻き達もあまりの無礼に声をなくす。
「で、行かないんですか?じゃあさっさと向こうに行け!!お前らの不愉快な顔を見ないですむように仮面でも被って生活するぐらいの気遣いを見せろ」
「貴様!!」
「ああ、ここが王族主催の夜会である事を忘れるなよ?いくらお前達の家の家格が高くても、騒ぎを起こせば家名に傷がつくぞ?いくらお前らがボンボンで甘やかされて育った能なしでも、せめてそれぐらいのソロバンをはじくことぐらいはしろ」
アレンのいうことはどう考えても詭弁であった。先程はどうあれ今回ではアレンが明らかに先制し、レオン達を侮辱しているのだ。ここで騒ぎを起こしても悪いのはアレンだ。だが、アインベルク家に何らかの罰が下されるのなら、それに乗じて爵位の返上を申し出ようとアレンは考えていたのだ。
アレンの考えはそうであったが、レオン達からしてみれば、アレンの行動は常識外だ。当主は自分の家を守るのが仕事なのだ。その当主が爵位の返上を求めているなどというのは想像の外であったのだ。
となれば、この男は何かしらの罠を仕掛け自分たちを陥れようとしていると考えるのは普通である。うっかり誘いに乗ることはできなかった。
たかだか男爵家、しかも権力とは無縁の墓守の家・・・だが、『死をもてあそぶ』というアインベルク家なのだ。当然、権謀詐術にすぐれていると考えたレオン達は忌々しげにアレンを睨む。
「だからさっさと外に出るのか出ないのか決めろ」
「く・・・」
レオンの顔色は青から赤に急激に変化する。だが、レオンは罠にはめられ家名に傷をつけるという危険を犯すわけにはいかない。
「アインベルク・・・覚えていろよ。必ず後悔させてやる」
レオンは取り巻きを率い、その場を離れる。そこにアレンの容赦ない一言がレオンの耳に入る。
「ああ、覚えとくさ、たかだか男爵にやり込められた偉そうな貴族の息子がいたことは忘れたくても忘れられん」
レオンは何も言わずに去って行く。
(おのれ!!おのれ!!おのれ!!アインベルクめ!!たかだか男爵の分際で!!何が何でもつぶしてやる!!)
レオンとその取り巻きが去ったが、ゲオルグは相変わらずアレンの前から去らない。そのゲオルグに対してアレンは不快な表情と声を向ける。
「で?お前は去らないのか?お友達はいないんだ。さっさと尻尾をまいて退出した方が身のためだぞ?一応お前の頭でも分かるように言っておくが、俺に家名を背景とした脅しは通じんぞ。家の脅しが通じない以上、お前に勝ち目はない」
アレンは敵意をまったく隠そうともしない。侯爵家の者に対してこのような口をきけば普通只では済まない。しかし、アレンは躊躇無くそれを行っている。
「わ・・・私はあいつらと「だからさっきから言ってるだろうが外に出るのか出ないのかはっきりしろよ」」
またもアレンはゲオルグの話を遮った。
「貴様、さっきから無「うるせえよ、徒党を組んで人を傷つけようという卑怯者の分際で偉そうにすんな。お前らのような卑怯者が礼儀を払ってもらえると思ってんのか?」」
ゲオルグが言葉を発するたびにそれを遮られ罵られる。ゲオルグの人生において経験したことの無い屈辱だった。
ちなみにゲオルグは別にレオンと手を組んだ事実は一切ない。たまたまアレンに文句を言おうとしたところにレオンとタイミングがあっただけである。しかし、アレンにとってそんなことは一切関係ない。
アレンにとってレオンもゲオルグも多数で無ければ、家の名前を出さねば何もできない卑怯者であり、自分の力で経つことも出来ない貧弱極まりない唾棄すべき存在だったのだ。
「アインベルク・・・外で話そう」
「ほう・・・」
アレンはこの状況で外に出るというゲオルグの選択に少し驚く。喚き散らすと思っていたのに少しは骨があるのかとアレンはゲオルグの評価を上げるべきか悩んだ。
こうして、侯爵家の令息と墓守の男爵は会場をはなれ、庭に歩き出した。




