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夜会⑦

「そんなわけないじゃない!!!!!!!」


 室内にアディラの叫び声が響く。いつものアディラでは考えられないような行動だ。実際にメリッサとエリナの二人のメイドの驚きに顔が引きつっている。


「アレンお兄ちゃんに比べれば王女の立場なんかどうでもいいわよ!!ずっとずっと!!アレンお兄ちゃんを想ってきたのよ!!アレンお兄ちゃんにふさわしい相手になるために今までダンスも勉強も礼儀作法だってやってきたのよ!!みんなお兄ちゃんに褒めてもらうためよ!!」


 アディラの今まで鬱積していたものが噴き出す。一度噴き出してしまえばもう止めることは不可能だ。


「もちろんお兄ちゃんはダンスや勉強、礼儀作法が出来ないからって人を見下したりしないわ!!でもお兄ちゃんが好きかもしれない、好きになってくれるかもしれないと思えばやる以外の選択肢はないわ!!」


 フィアーネも二人のメイドもアディラの怒濤のように紡ぎ出される言葉を黙って聞いている。いや、口を差し挟む隙間がないほどの怒濤の勢いなのだ。



「大体、フィアーネ様は私のアレンお兄ちゃんへの気持ちを見下しているけど、私がアレンお兄ちゃんを想う気持ちは誰にも負けないわ!!」


 アディラにとってアレンへの気持ちを軽く見られるのは絶対に許せないことであった。


「でも、このままでは王女殿下はアレンの隣に座ることは絶対に出来ません」


 フィアーネの言葉はアディラの怒濤の勢いを完全にせき止める。アディラはフィアーネに『私に勝てると思っているの?』と言われた気がしたからだ。これはアディラにとってあり得ないレベルの侮辱である。

 アディラがフィアーネに『じゃあ勝負よ!!』と宣戦布告しようとしたところ、フィアーネはさらに言葉を続ける。もちろん、フィアーネにアディラを陥れる意思は全くないし、勝負するつもりもなかったのだ。


「誤解なさらないでね。王女殿下。私は『このままでは』と言ったのですよ」

「・・・どういうことですか」


 フィアーネの言葉はアディラを労るような優しさに満ちている一方で、仲間に引きずり込もうというような含んだ声色だ。

 アディラはフィアーネの意図を図りかね困惑を深める。


「王女殿下は、今現在のアレンに想いを寄せている女性の存在をどれだけ把握し折られますか?」

「え?」


 フィアーネの言葉は、アディラにとって常に懸案事項であった。アレンの周囲に誰がいるかは、はっきり言って把握していない。

 アレンは滅多に王宮に出仕しないし、ほとんどアディラに会うこともせずに、要件を済ますとさっさと帰ってしまうのだ。

 数ヶ月前にサロンに誘うことが出来たのはほとんど偶然であり、だからこそ、アディラは少ないチャンスをものにしようとがんばったのだ。結果はただ単に私的な場では『アディラ』と呼ばせるだけのものであったが・・・。

 だからといって、自分がアレンの情報を探ることもできない。もしアレンにばれてしまい嫌われるかもしれないと思うとどうしても実行に移せなかったのだ。


「アレンお兄ちゃんの周りに・・・」

「はい、私、王女殿下の他にです」

「・・・」

「私達の他にレミア、フィリシアの二人がいます」

「・・・!!」

「ちなみに、レミアもフィリシアも10人中8人か9人が振り返る美少女です」

「・・・」

「加えて言えば、アレンの墓守の仕事をほぼ毎晩手伝っています」

「・・・」


 フィアーネからもたらされる情報はアディラにとって絶望をまとっている。アレンに想いを寄せている二人の美少女がいて、ほぼ毎晩、アレンの仕事を手伝っている・・・。



「容姿は最高級、アレンと同じ仕事に携わり、なによりもアレンに想いを寄せている。これほど条件の恵まれた相手に王女殿下は勝てますか?」

「・・・」


 勝てるわけない・・・。

 アディラの心には絶望が覆い被さっている。

 会うことがほとんど出来ないアディラにとって、二人との差は歴然としている。というよりも勝負にならない。

 そんなアディラにフィアーネが決定的な言葉を告げる。


「そう、勝てませんよね」


 コクリ・・・アディラは重々しく頷く。同時にアディラの目に涙がたまる。


(嫌だ・・・アレンお兄ちゃんを諦めるなんて・・・)


 そんなアディラの絶望を救ったのは、次のフィアーネの言葉である。


「そこで、『このままでは』と申し上げたわけです」

「どういうことですか?」


 フィアーネの言葉はアディラをますます混乱させる。この状況で、アディラがとれる行動は、玉砕覚悟でアレンに想いを伝えることしかない。だが、現段階でアレンはアディラに好意を持っているとは思うが、アディラの王女としての身分がアレンに対する足かせとなる事は察していた。

 もちろん、アレンは自分に対する風当たりの悪化を考えてではない。考えるのはアディラの立場の悪化である。その事は十分にアディラは理解していた。それゆえに今、外堀を埋めている最中だったのだ。


「私達の仲間になりませんか?」

「仲間・・・ですか?」


 フィアーネの申出はアディラにとって意外すぎた。


 どうしてアレンの話から仲間に誘われているのか?


 むしろ何の仲間なのか?


 アディラの混乱は深まる一方だ。


「もちろん、アレンの妻となるための仲間です」

「は?」


 本気で意味の分からない提案に、アディラは呆けた返答をするのに精一杯だった。


「王女殿下、このまま行けば、あなた様はアレンの妻にはなれません」

「く・・・」

「誤解なさらないで欲しいのは、王女殿下の魅力が私達に劣るわけではなくて、条件が厳しすぎるのです」

「・・・」

「そこで、この申出なのです」

「・・・」

「私、レミア、フィリシアはすでに手を結んでいます」

「え・・・?まさか・・・」

「はい、私達は3人でアレンの妻になるつもりなのです」

「な・・・」

「そこに王女殿下も加わりませんか?」


 フィアーネの提案は、至近に雷が落ちたかのようにアディラに衝撃を与える。その衝撃から立ち直るきっかけは、控えているメリッサの怒りの声である。


「いくらなんでも無礼な!!王女殿下に妾となれというのか!!!!」


 メリッサはフィアーネにつかみかかる寸前である。それをせいしたのはアディラである。


「メリッサ!!やめなさい!!」

「・・・はっ」


 アディラの凜とした声はメリッサを制するには十分であった。アディラはフィアーネに向けて言葉を紡ぎ出す。

 メリッサもエレナもアディラの言葉を予測する。


 だが、アディラから発せられた言葉はメリッサ、エレナの予想とは真逆だった。



「フィアーネ様、ぜひ私もその仲間に加えていただきたいです」



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