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夜会⑤

(なぜ・・・フィアーネがここに・・・)


 面倒事のにおいをまき散らしながら、フィアーネが夜会の会場を歩いてくる。ジュスティスと連れだって歩く姿は、絵画の題材になりそうなほどである。


 夜会の出席者達は、性別問わず、年齢問わず、二人に見惚れている。


 アレンは見つかると厄介な事になると思い、その場を離れようと動き出す。その動きに気付いたアディラは訝しげな視線をアレンに向ける。


「アレンお兄様、どうされたのですか?」


 アディラの声には不安が混ざっている。おそらくフィアーネの美しさにアレンが目を奪われ、心が離れていくことの不安だったのだろう。


「いや、アディラ何でも無いんだ。とにかくちょっと向こうに行きたくなったんで移動しようとした。それだけなんだ」


 フィアーネの視線に入らないように焦っていたために、つい訳の分からない言い訳をしてしまった。

 だが、一方で新たな出席者から離れようというアレンの動きに気付いたことで、安堵の表情を浮かべていた。



 アディラは、フィアーネの美しさに見惚れていたと同時に恐れている。アレンがこの美しい少女に心奪われるのでは無いかという不安だ。


 アディラの目から見て、フィアーネは比較されるのも恥ずかしいぐらいに美しかった。絹糸の様な銀髪を夜会巻きにまとめ、白磁の肌に、秀麗としか表現できない目鼻立ち、体型も女性らしさを意識させる胸、腰、お尻のなだらかな曲線は見惚れる以外無かった。

 また女性の深紫のドレスは、白磁の少女の肌に絶妙な対比を生み出し、少女の清楚さを際立たせている。


 アディラの清楚は可憐、可愛らしいという向日葵のようなものであるのに対し、フィアーネの清楚さは月下美人のような透き通る美しさであった。



「アレンお兄様・・・もしかして、あの方とお知り合いなのですか?」

「・・・え~と、はい」


 言いづらそうなアレンの返答に、先程までのアディラの幸せは急降下する。誰がみても、アディラの不安そうな表情を見て取ることができた。当然、アレンもアディラの表情の変化に気付いている。


「アディラ、良く聞け。フィアーネに見つかると非情に面倒なことになるんだ。見つかる前にこの場を離れよう」


 アレンの必死な訴えであったが、アディラにはアレンの『フィアーネ』という言葉に、衝撃を受けていた。


(ま・・・まさか、あの人がフィアーネさん?ちょっと待ってよ・・・あんな美人って反則じゃないの・・・)


 一方で、アレンを取られるわけにはいかない。アディラは決して引くことの出来ない戦いに踏み込んだ。

 なんと、アディラはフィアーネのもとに歩き出したのだ。

 アレンは制止しようとするが、この場で、アディラの腕を掴むなどと言う行為は絶対にできない。そうしている間にもアディラはフィアーネの元にずんずんと歩いて行く。


(アディラは一体何故、フィアーネの元に向かおうとしてるんだ?)


 フィアーネの方も、自分に向かってくるアディラに気付いたようだ。にこやかに微笑みながらアディラのもとに向かう。


 二人の美少女の邂逅である。


 当然ながら、夜会の出席者は二人の邂逅を固唾をのんで見ている。揉めているわけではないし、顔もにこやかに微笑んでおり、普通なら美少女同士の語らいにうっとりとするのが普通だろう。

 だが、この二人の間に流れる空気は、剣豪同士の果たし合いのような空気であり、ぴりぴりとした緊張感が時間を増すごとに強まっているような感覚であった。


「初めまして、ローエンシア王国王女アディラ=フィン=ローエンでございます」


 アディラの挨拶は完璧だった。もしこの場に彼女の礼儀作法の家庭教師がいたら、アディラの完璧な礼儀作法に涙を流してもおかしくないだろう。


 一方フィアーネは驚いた表情をする。まさか王族からいきなり挨拶をされるとは思っていなかったのだ。増してはアディラは女性だ。もし兄のジュスティスに一目惚れし、兄に挨拶をまずしたのであれば驚かなかったが、アディラがまず挨拶をしたのは自分である。


 とはいえ、王族に挨拶をされたのに、返さないような非礼はできない。


「ご丁寧にありがとうございます。フィアーネ=エイス=ジャスベインと申します」


 返答するフィアーネも完璧な挨拶を返す。普段のフィアーネは、令嬢としての振る舞いはしないため、つい忘れがちになるが、公爵家の令嬢である以上、当然礼儀作法は仕込まれているのだ。


(くっ!!なんて優雅な挨拶、それに何なのこの美しさ。間近で見るともう反則じゃないのよ!!)


 アディラはくじけそうになる心を無理矢理奮い立たせる。少しでも気後れしてしまえば、もうアディラに勝ち目はないと本能的に察している。


 その一方で、フィアーネもアディラの可憐さに心中穏やかでは無い。


(な・・・なんて、可憐なお姫様なの・・・。性格も良さそうだし・・・これは反則レベルの可愛さだわ)



「フィアーネ様、お聞きしたいことがございます」


 意を決したようにアディラがフィアーネにきいた。


「なんでしょうか?王女殿下」


 対するフィアーネもただ事ではないという雰囲気から声に緊張が含まれる。


「アレンティス=アインベルク様との関係です」

「え?」


 フィアーネは令嬢らしくない呆けた返答をしてしまった。まさか王女からアレンとの関係を問いただされるとは思わなかったのである。

 アレンにしてみれば令嬢らしくない態度のフィアーネこそ当たり前だったのだが周囲の人間には、完璧な令嬢と思われていたフィアーネの返答となにより王女らしくない問いかけに、どう反応すべきかわからないという微妙な空気が流れた。


「アレンですか?もちろん恋人であり、将来の旦那様ですわ」

「な・・・なんですって!!」


 フィアーネはすぐに自分を取り戻すと、自信に満ちた声で高らかに宣言する。フィアーネの返答を受けたアディラはこれまた王女らしくない驚きの声を上げる。


「ア・・・アレンお兄ちゃんの恋人ですって!!そんな・・・」

「王女殿下こそアレンとどのような関係なんですの?」

「わ・・・私は、アレンお兄ちゃんの幼馴染みよ!!」


 美少女同士の争いに発展し始めた時に、フィアーネの隣にいたジュスティスが声を発したときに、二人の争いは一時休戦となった。


「お~アレン君、お久しぶり、元気だった?」


 どこまでも軽いジュスティスの声に、凍った空気が再び動き出す。


「あ・・・どうも、ジュスティスさん。ところでなぜここに?」


 ジュスティスが返答をする前にアディラとフィアーネがアレンに質問する。

「アレンお兄ちゃん、このフィアーネ様と本当に恋人なんですか!?」

「アレン、王女殿下と幼馴染みだったの?」


 アディラは問い質す感じで、フィアーネは『そうだったの?』という軽い感じだ。それがアディラにはフィアーネの余裕に感じてしまう。


「アディラ、少し落ち着け」

「これが落ち着いていられますか!!アレンお兄ちゃんが・・・」

「いいから聞けって、フィアーネと俺は恋人同士でも将来を誓ってもいないぞ」

「え?そうなんですか?良かった・・・」

「またまた~アレン照れないで良いのに♪」

「フィアーネ、お前いい加減そのポジティブシンキングを押さえろよ」


 アレンは、かなり動転していたのだろう周囲の目があるのに関わらず、アディラのことを呼び捨てにしてしまった。

 周囲の目、特にアレンを見る男性陣の目には険しさが増していた。


「良かった~フィアーネ様の勘違いというわけですね」


 周囲の目の険しさが増し、空気の重さにかかわらず、アディラの口調は明るい。アディラのこの言葉に反応したのは、フィアーネだ。


「王女殿下、アレンは照れてるだけですわ。このように皆様の目がある中で、アレンが照れ隠しに心ない言葉をはくことはよくありますわ」

「あら?フィアーネ様?アレンお兄ちゃんは今、自分の口で否定しましたよ?」

「だから照れ隠しですわ」

「いや、照れ隠しじゃ無くて事実を言っただけだろ」

「私との仲を隠そうとするなんて・・・私を思っての行動ね。でも私はただ守られるだけの令嬢ではないわ」

「・・・頼むから俺の話を聞いてくれ」

「ほら!フィアーネ様、アレンお兄ちゃんが困ってるじゃないですか!!」

「アレンったら♪そんなつれない態度で私の気を引かなくても良いのに♪」


 駄目だ・・・とアレンは天を仰ぐ。相変わらずフィアーネは人の話を聞かない。アディラは興奮して『アディラお兄ちゃん』を連発してるし、周囲の目はだんだん集まってきてるし、というよりも出席者のほぼ全員が見てるし・・・。


「何の騒ぎだ?」


 夜会中の目が集まるアディラ、フィアーネの口論に対し、声をかけた強者がいた。


 皆が声の主を見ると、驚くと同時に納得する。



 声の主はローエンシア王国の現国王ジュラスだった。

 

 



 キャラ崩壊が止まりません。どうしよう・・・

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