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夜会④

(ふっふふ~お父様もお母様もナイスアシスト!)


 アディラの喜びはひとしおだ。アレンの動揺がおさまらない間に、アレンの手を取って歩き出す。一旦動き出してしまえばそれを押しとどめるのは困難だ。アディラはそれを考え、アレンの混乱した隙を見つけ行動を始めたのだ。


「アレンお兄ちゃん・・・今日の私はどうですか?」


 ニコッと華が咲き誇る笑顔を見せる。

 アレンも今日のアディラの美しさは群を抜いていると思っていた。淡い青色のドレスは決して華美なものではなかったが、アディラの可憐さ、清楚さを十二分に引き立てているし、アクセサリーのネックレス、髪飾りも派手なものではない。だが、その控えめな装飾もアディラの魅力を引き出している。というよりもアレンの好みのドストライクだった。 

 アディラは、もともと派手な装いを好む方ではなかったが、アレンの好みのキーワードが『可憐』『清楚』であること看過し、そちら方面の女性となるように努力していたのだ。 

「勿論、綺麗だよアディラ」


 アレンは意識せずに素直に感想を述べていた。そして、感想を述べた後すぐに、ここが公的な場である事を思い出し、後悔した。

 公的な場では『王女殿下』と呼ぶべき所をつい『アディラ』と呼んでしまったのだ。



 周囲の出席者の中には、その事に気付き非難の目を向ける者もいた。アディラと一緒に居たために思いとどまったのだろう。


 一方、素直に褒められたアディラの方は、これはもう・・・王女という立場を完全に忘れ恋する乙女モードを全開していた。


「ぐへへ~お兄ちゃんが綺麗って・・・ぐへへ~」


 いや、恋する乙女モードではなく変態親父モードだった。


「アディラって・・・これはお世辞じゃないわ・・・ぐへへ」

「あ・・・あの・・・王女殿下?」


 公人モードに切り替えたアレンは、アディラの奇行を止まらせようと『王女殿下』という呼び方をしたが、今のアディラにはその公人モードのアレンの言葉でさえ奇行の養分でしかなかった。


「ああ、アレンお兄ちゃんが王女殿下って・・・いいわ~私を大事にしてくれている証拠よね・・・ぐへへ」


 アレンとしてみれば、この変態の笑い声の『ぐへへ』だけでも止めたいところであったが、その方法がまったく見つからず、困惑を深めている。


(どうしたもんかな・・・このままじゃアディラの評判が落ちる・・・なんとか正気に戻ってもらわなければ・・・)


 アディラとしては、アレン以外の男に言い寄られても迷惑なだけだったし、もっと言ってしまえばどうでも良かったのだ。

 アレンが貴族社会での評判なんぞ歯牙にもかけないと同様に、アディラもアレン以外の評判なんかどうでも良かったのだ。実の所、自分が好意を持っている人の評判だけは気にするが、それ以外は眼中にないところ等、似たもの同士だったのだ。


「王女殿下、一曲踊っていただけますか?」


 アレンは、一曲踊る間にアディラを正気に戻そうという思いからダンスに誘ったのだが、これは明らかに逆効果だった。


「喜んで♪」


 それはもう、世界中の幸せを独り占めにしたかのような幸せな笑顔だった。事実、アディラの中ではもう幸せ一杯でお花畑を、アレンと走る幻覚を見ているほどであった。


(ぐへへ~アレンお兄ちゃんからダンスに誘われるなんて♪そうだ、この際三曲踊っちゃおう!!そうすれば、アレンお兄ちゃんとの仲は公認のものになれる!!ぐへへ)


 ローエンシアの夜会の流儀では、一曲踊るのは友人と意味合いを持ち、二曲踊るというのは恋人、婚約者を意味し、三曲は夫婦を意味していた。

 未婚で三曲踊るというのはそれだけ愛し合っていますという事を周囲に知らせる行為だったのだ。


 アレンにエスコートされ、アディラは夢見心地のままダンスを一曲踊る。


 アレンのエスコートは十分及第点に値したが、アディラのダンスのが優れすぎていたため、アレンのダンスがひどく劣ったものに思われた。


(アディラってこんなにダンスが上手かったのか・・・きっとすごい努力したんだろうな)


 二ヶ月前の社交界デビューの時よりもはるかにアディラのダンスは上達していた。というよりも異常な程の成長だった。幼馴染みの努力と成長に内心驚き、アディラに告げる。


「王女殿下、すばらしいダンスですね。前回ご一緒したときとは別人のようです」

「えへへ~アレンお兄ちゃんと一緒に踊るときのために一生懸命レッスンしたんです♪」

「あ・・・はい」


 アレンは真っ直ぐなアディラの好意にすっかり照れてしまい気恥ずかしくなり、アディラから目をそらした。


(きゃ~アレンお兄ちゃんが照れてる♪これは脈ありよね!!山脈レベルで脈あるわよね!!これで脈が無いというのならこの世界は間違っているとしか思えないわ!!)




 一曲目を終え、二人が下がるととたんにアディラに、次のダンスの誘いが殺到する。その中には先程、アレンにからんだゲオルグ、レオンもいた。

 ところが、アディラは、にこりと微笑み、それらの誘いを断る。


「申し訳ございません。私疲れてしまって・・・少し休ませていたきます」


 普段のアディラからは考えられないほどはっきりとした断りであった。アディラが現在優先すべきは王族、貴族としてのアディラではなく、恋する乙女アディラとしての気持ちである。

 にべもなく断られた貴族達は、アレンに嫉妬のこもった視線を向ける。


「アインベルク卿、こちらに・・・」


 アディラはいかにも恋してますというという目をアレンに向け、アレンをともない歩き出す。


 アレンの視界の端に、袖にされた貴族の青年達の殺意に歪んだ顔を捉えた。それから背後に刺さるような視線を感じたのも気のせいでは無いだろう。



 アディラのアレンにべったりの様子は、夜会の出席者達の耳目を集めるには十分だった。出席者は、二人に対する噂話に華を咲かせている。


 女性の方は、それほど非好意的なものではなく、むしろアディラに他の優良物件をとられずに済んだという安堵感に満ちていた。

 アディラは容姿も優れており、性格も可愛らしい、しかも王族というほとんど反則レベルの優良物件だ。普通の男であればアディラに愛をささやかれれば、恋人のいるものであってもあっさりとなびいてしまうだろう。

 それが、たかだか男爵家、しかも墓守という権力とは無縁の仕事しかしていないようなアレンにべったりなのだ。それは安堵感にもつながるというものであった。


 ただ、男性としては当然看過できる問題では無かった。男爵、しかも墓守如きが、アディラ王女を独占しているのだ。当然納得出来るものでは無かった。



 そんな、夜会の話題の中心であったアディラとアレンであったが、新たな出席者により、話題の中心が移った。


「誰だ?あのご令嬢は?」

「美しい・・・」


 男性達は新たに登場した女性に対し、ほうと呆けて見惚れていた。口から漏れ出る言葉も女性の美しさを褒めるものばかりだ。しかも、つい洩れてしまったという言葉が女性の美しさを否が応にも引き立たせていた。


「誰・・・あの方・・・」

「美しい・・・」


 女性陣は、男性の視線を独り占めした女性をエスコートする男性に目を奪われる。その男性の何気ない仕草にも気品があふれ、エスコートする女性と相まって一枚の絵画のようである。



 アレンが話題の二人を見て固まる。なぜならその二人を知っていたからだ。



 トゥルーヴァンパイアの兄妹、妹の名はフィアーネ=エイス=ジャスベイン、兄の名前はジュスティス=ルアフ=ジャスベインだった。


 この夜会は長くなりそうですね。当初は四回で終わるはずだったんですが、考えていたうちの半分も内容が進んでいません。

 よろしくおつきあいください。

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