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次代

 いよいよ最終回です。

 魔神フェルネル達との戦いとその結果はジュラス王によりすぐさま公表された。魔神を斃したアレン達一行の中に王太子アルフィス、王女アディラがいることはアレンのみならず王家の評価も大いに強化する事になったのだ。

 今回王都を襲った異常事態を王都中の人間が知っていたためにその元凶を解決したアレン一行の功績を素直に褒め称えたのだ。今回の王都でのアンデッドの大発生はその危機の度合いに対してその損害は少ないと言える。だがそれは数字上の事であり、実際にその恐怖を体験した王都の市民にとってはその解決は王族、アレン達一行が動いてくれた故である事に感謝したのだった。

 実際にアンデッドと交戦した軍の兵士や騎士団は大きな損害を出したのだが、逆にそれがアレン達一行の功績の大きさを知らしめることになったのだ。アレン達がフェルネルを斃した事で王都を取り囲んでいたアンデッドの大群、王都に溢れていたアンデッドも日の光を浴びた霜のごとく消えていく様を目の当たりにすれば自分達の命が助かったのはアレン達のおかげであることは当然であり、兵士達が命の恩人ととらえるのも当然であった。

 今回の件で戦った兵士達には報奨金が“王家”の財産から報奨金、戦死者の遺族達にも一時金が出された。もちろんお金で遺族の悲しみが完全に言えることはないのは当然だが、国の財産からではなく王家からの財産というのがさらに王家への信頼がマジ他のは間違いない。ローエン家は兵を大事にするという信頼に兵士達はより一層忠誠を尽くすことになるのであった。

 またラゴル教団の聖女ファリアが魔神をとらえるための結界を展開した事も同時に発表され、ラゴル教団の名声も一気に高まることになったのであった。加えてラゴル教団の神殿関係者も直接アンデッドと戦闘を行う様を王都の市民達は見ており、それも名声の裏付けとなったのであった。

 王都の復興は滞りなく進み王都が落ち着きを取り戻したところでアレン達の論功行賞が行われた。

 結果、アレンは公爵位を授けられることになり、アインベルク家はアインベルク公爵家となったのだ。アレンの代になって男爵から一気に公爵まで爵位が上がる事になったのだがその事に対して反対意見はどこからも出なかった。この段階でアレンの公爵位の叙勲に異を唱えることは王家の不興のみならず軍、民からの壮絶な非難を受ける事になる以上、そんな危険な事は出来ないのだ。ちなみにアレンの公爵位の叙勲に一番の難色を示したのはアレン自身であったのだが、“お前の爵位を上げないと王家の威信に関わる。それに他の者達も論功行賞を受け取ることは出来ない”とジュラスから言われてしまえばアレンとすればある事は出来なかったのだ。

 もちろん、魔神達との戦いに参加した者達も爵位を与えられることになった。フィアーネ、レミア、フィリシア、カタリナ、ジュセル、ジェド、シア、ジェスベル達、暁の女神達には子爵、男爵の爵位が贈られた。アレン同様に爵位の叙勲を全員が断ろうとしたのだが“あると意外と便利だぞ”というジュラス王の言葉に従い全員が叙勲を受ける事になったのだった。

 ちなみに黒剣こくけんのアルガント達はアレン達の推薦により“騎子爵”の爵位を与えられることになった。アルガント自身が男爵の地位に自分の功績では相応しくないと辞退したために押し問答の結果、“騎子爵”という形で落ち着いたのだ。

 加えて冒険者組のジェド、シア、暁の女神は冒険者ランクが最高位の“ガヴォルム”に昇格し、アルガント達も“ミスリル”に今回の件で昇格することになった。冒険者である彼らにとって爵位よりも冒険者ランクが上がる方がよほど嬉しかったようで全員が素直に喜ぶことになった。

 そして、魔神討伐から半年が過ぎた頃に王都はお祝いムード一色になったのであった。そのお祝いムードの発信源はアインベルク家からであった。

 アインベルク“公爵”家当主のアレンティス=アインベルクと四人の婚約者達の結婚式が催されることになったのであった。



 *  *  *


「これでいいのか? 俺はあんまりこういう白を基調とした服は似合わないから嫌なんだが……」


 アレンが鏡に映った自分の姿を見て呻くように言う。アレンの背後に立ちニコニコと微笑むロムとキャサリンは口を揃えて言う。


「もちろん、良くお似合いでございます」

「はい、アレン様のそのようなお姿を見ることが出来て私は感無量でございます」


 ロムとキャサリンの言葉にアレンもさすがに服を変えるという事は言い出すことは出来ない。

 

「それにそれはユーノス様がリオメール様との婚儀において身につけておかれましたものですので似合われるのも当然かと」


 ロムは微笑みを絶やすことなく言う。アレンの身につけている白を基調とした礼服は父ユーノスが身につけていたものを仕立て直したものだったのだ。


「それでは王都、いえ国をあげてのお祝いになりますので遅刻は許されません。そろそろ……」

「そうだな。これ以上、みんなを待たせるのも悪いしな。それに俺自身、みんなの着飾った姿を見たいからな」

「間違いなく、皆が見惚れるお姿になられておられるでしょう」

「ああ、間違いなくな」


 ロムの言葉にアレンは即座に返答する。アレンとしても婚約者の四人の美しさを照れ隠しであっても否定する事はしなかった。何だかんだ言ってもアレンも婚約者の四人にべた惚れだったのだ。

 元々、アレンと婚約者の結婚はアディラが学園を卒業してからという取り決めであったのだが、論功行賞の場でアディラを始めフィアーネ、レミア、フィリシアの望んだ褒美がアレンとの結婚を早めることであったのだ。ジュラス王はそれを快諾し、王都が落ち着きを取り戻した段階で結婚式を挙げることが決まったのだ。


「それじゃあ行くか」

「はい」


 アレンがそう言うとロムは短く答え、キャサリンは静かに一礼する。本来ではアインベルク家の使用人であるロムとキャサリンはアレンと婚約者達の結婚式に参加する事は出来ないのだが、アレンにとってロムとキャサリンは家族同様であるし、婚約者の四人もロムとキャサリンを使用人と言うよりもアレンの家族と思っていたので出席を熱望したのだ。当初は使用人の分を弁え屋敷でアレン達を待とうとしたのだが、何度も出席を求めた事で出席することになったのだ。


「それではアレン様、我々は先に式場におりますので」

「わかった」


 ロムはそう言うとキャサリンと共に式場へと入っていく。ローエンシア王国では新郎が最後に登場し花嫁の元へ歩いて行くことになっているのだ。


(う~む……思いっきり緊張するな……ここまで緊張するとは思わなかったな)


 アレンは扉の前ですました顔で立っているが内心は緊張で心臓が激しく音を立てていたのである。


(それにしても俺は幸せだな。あの四人と家族になれるなんて……)


 アレンは心の中で四人の婚約者達の顔を思い浮かべると自然と頬が緩んでしまう。元々美しい容姿の持ち主である彼女たちは本日どれほど光り輝いたものなのかをアレンは早く目にしたい気持ちで一杯だったのだ。


「アインベルク公……お時間でございます」


 アレンに声をかけたのは礼服に身を包んだ二十代前半の男性である。


「は、はい」


 アレンはやや緊張しつつそう答えると男性は少しだけ微笑み、アレンを扉の前まで誘い、もう一人の男性と扉の両隣を持つとアレンに視線を向ける。アレンはその視線を受けて静かに頷く。アレンの了承が出た事で扉を開ける係の二人は頷き合うと扉を開ける。


 ギィィィィ……


 扉は重々しく開き式場の様子がアレンの視界に入る。アレンの目の前には赤い絨毯がひかれアレンと婚約者、いや妻達を祝福する通路がしかれている。その通路の両隣には式の列席者達がすでに席に着いている。そしてその先には純白のドレスを身に纏った四人がベールを被った状況でアレンを待っている。アレンから見て右側からアディラ、フィアーネ、レミア、フィリシアである。

 アレンが通路を歩み始めると楽団が荘厳なしかし、暖かい音色で祝福の音楽を奏で始める。

 アレンが歩みを進めると列席者の中に共に戦ったアレンの戦友達の姿が目に入る。カタリナ、ジュセルはもちろん、ジェド達、リューク、ジェスベル達、暁の女神、黒剣こくけんも参加してくれていた。その表情にはアレン達への祝福がふんだんに現れておりアレンとしてもその表情を見ただけで嬉しくなってしまう。ちなみに弟子の近衛騎士達も警護としてではなく出席者として参加している。


 アレンは出席者達から祝福を受けながら四人の元へ歩き、そして四人の横に並び立った。すると楽団は音楽を止め式場は水を打ったように静かになった。そこに祭祀である聖女ファリアが声を発する。

 今回のアレン達の婚姻の祝福としてファリアが選ばれたのだ。本来聖女の仕事ではないのだがファリアは快諾し、アレン達の結婚の祝福をすることになったのである。


「アレンティス=アインベルク、汝はこのアディラ=フィン=ローエン、フィアーネ=エイス=ジャスベイン、レミア=ワールタイン、フィリシア=メルネスを生涯にわたり愛することを誓いますか?」


 ファリアはアレンに問いかける。問われたアレンはアディラ、フィアーネ、レミア、フィリシアに視線を移し微笑むと力強く宣言する。


「誓います!!」


 アレンが誓いを立てた相手は四人の妻達に向けてだ。それを感じたのだろう四人から嬉しさを必死に隠そうとする気配を感じる。本来であればその事を咎める事は無いのだろうがこの四人の場合は興奮のあまり奇行に走ってしまう可能性があるため必死に抑えていたのだ。レミアとフィリシアの普段の行動からは中々結びつかないのだが、アディラとフィアーネの影響なのか結構アレンが絡むと奇行に走るようになっていたのだ。


「アディラ=フィン=ローエン、あなたはアレンティス=アインベルクを生涯愛することを誓いますか?」

「誓います!!」


 次にファリアはアディラに宣誓を求めるとアディラは即座に返答する。その声には喜びがふんだんに盛り込まれていることは明らかであった。


「フィアーネ=エイス=ジャスベイン、あなたはアレンティス=アインベルクを生涯愛し続けることを誓いますか?」

「もちろん誓います♪」


 フィアーネの声も非常に弾んでおりその返答には一切の躊躇もない。


「レミア=ワールタイン、あなたはアレンティス=アインベルクを生涯愛し続けることを誓いますか?」

「誓います!!」


 レミアの声も嬉しさ、幸せを感じさせるような声である。


「フィリシア=メルネス、あなたはアレンティス=アインベルクを生涯愛し続けることを誓いますか?」

「……誓います!!」


 フィリシアは震えた声で宣言する。その震えが悩み故ではなく感極まってであることを聞いた者達はみな理解していた。


「それでは双方の意思は確認しました。それではこの宣誓書にサインを」


 ファリアの言葉にアレンから順番に自分の名を記入していく。アレン、アディラ、フィアーネ、レミア、フィリシアの順番でサインしていきフィリシアが書き終えた所でファリアは微笑むと魔法陣を展開させる。アレン達と四人の花嫁の頭上に展開された魔法陣から光の粒子が降り注ぐ。それは幻想的な光景であった。まるで神がこの五人のために祝福してくれているようであった。


「宣誓によりこの五人を夫婦となりました。新たな夫婦の誕生に祝福を!!」


 ファリアがそう宣言した瞬間、楽団が音楽を奏で始める。そして出席者達から惜しみない拍手が送られた。

 アレンとアディラ、フィアーネ、レミア、フィリシアの五人はここに夫婦となったのであった。



 *  *  *


 アレンと四人が夫婦となって十年が過ぎた。


「お父様~早く早く!!」

「お母様達も早く!!」

「もう、僕たちの初めての見回りなのにのんびりしすぎだよ!!」

「お父様~!!お母様達~!!」


 アインベルク邸に子ども達の声が響く。年齢は全員が六~八歳と言った所だろう。髪はそれぞれ金髪、銀髪、黒髪、赤毛である。髪の色はバラバラであるが目の色は黒であり、そして全員の容姿がとてつもなく整っているのは共通していた。もちろん、アレンと四人の妻達との間に生まれた子ども達である。

 アディラとの間に生まれた子は金髪の女の子であり名を『ルディラ』と名付けられた。手にはアディラが与えた弓と矢筒を持ち、腰に剣を差している。

 フィアーネとの間に生まれた子は銀髪の男の子であり『フィティス』と名付けられている。手には何も持っていない。

 レミアとの間に生まれた黒髪の男の子の名は『アルミア』、腰に双剣を差している。

 フィリシアとの間に生まれた赤髪の女の子の名は『アレシア』、背中にやや不釣り合いな剣を背負っていた。


「お坊ちゃま、お嬢様方、アレンティス様達は準備をしておられてますのでもう少しお待ちください」

「え~ジェスベルからも急がしてよ!!」

「そうだよ!!」


 ジェスベルが苦笑しながら言うとフィティスとアルミアが口々に言う。ジェスベルはアインベルク家に執事として仕える事になり、同じくアインベルク家に侍女として仕える事になったドロシーと結婚していたのだ。ロムとキャサリンは第一線を退いたがジェスベルとドロシーを新たに執事、侍女として鍛える毎日を送っていたのだ。

 フィティスとアルミアの抗議にジェスベルは困った様な表情を浮かべる。そこにそれを窘める声がかかった。


「みんなジェスベルを困らせるな」

「そうよ、我が儘言わないの」

「ほらジェスベルに御免なさいわ?」


 アレン達が完全武装で二階から降りてくるとフィティスとアルミアを窘める。十年経ったアレン達の容貌はすでに少年、少女のものではなく大人の男性と女性のものである。


「お父様、お母様達が遅いのが悪いんだよ!!」


 フィティスの正論にアレン達は少々バツの悪そうな表情を浮かべる。アレン達がいつもより国営墓地の見回りに時間をかけたのは子ども達が今夜初めて見回りに参加するからである。

 魔神フェルネルを討ったとは言えその瘴気はいまだに健在であり十年前より頻度は減ったとは言え危険な場所である事には違いないのだ。そのため入念に準備をしていたのである。

 もちろん、子ども達もアレン達の薫陶を受けて一切戦闘に関しては手加減、油断をすることはないのだが、やはり子ども達が参加する事に対して慎重になっていたのだ。


「ははは、ゴメンゴメン」


 アレンが苦笑しながら謝ると子ども達はむ~と頬を膨らませる。


(父上もこんな気持ちだったのかな?)


 アレンは心の中でかつて初めて国営墓地の見回りに行くときの事を思い出した。


(あの時……父上は妙に準備に時間をかけてたな)


 アレンは自分のとった行動が父ユーノスのものとあまりにも同じであり嬉しさがこみ上げてきた。アレンが子ども達を愛しているように父ユーノスもアレンを愛していてくれていたことを再確認したのだ。


「お父様?」

「お父様どうしたのかしら?」


 アレン考え込む姿にルディラとアレシアが首を傾げる。その様子を見てアレンは微笑むと子ども達に向けて言う。


「俺はお前達が大好きなんだと再確認出来たのさ」


 アレンの言葉に四人の子ども達は首を傾げる。アレンがどうしてそのような事をいきなり言い始めたか疑問だったのだ。


「いつかお前達もこの気持ちがわかるさ」


 アレンはそう言うと愛しい妻達を見るとアレン同様に微笑んでいた。


「それじゃあ、いくぞ!!ルディラ、フィティス、アルミア、アレシア!!」

「「「「はい!!」」」」


 アレンが子ども達に声をかけると子ども達は一斉に返答する。


 次代の墓守達がその第一歩を踏み出したのだ。

 

  【墓守は意外とやることが多い 完】

 これにて完結です。


 これまでおつきあいいただき本当にありがとうございました。気付けば約600話という長編になってしまいました。自分の書きたいことを書きましたので本当に楽しかったです。

 

 近日中に十年後の他の登場人物の様子をダイジェスト版ですが公開したいと思います。

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