決戦⑨
「さて、やるとするか」
アレンはフェルネルと戦う仲間達に伝えると仲間達の表情からは決意の程が見て取れる。すでにアルフィス達、イリム達も戦闘を開始している。激しい戦いが展開されるのは確実であるが、それを助けるだけの余裕はアレン達にもなかった。
(リュークとジェスベルさん達が来てくれて本当に助かったな。贅沢を言えば黒剣も来てくれると助かったが……)
アレンは心の中で考える。黒剣はアレン達には遠く及ばないのだが要所要所で素晴らしい働きをしてくれるのでアレンは信頼していたのだ。しかし、国営墓地から溢れるアンデッドを食い止めるために残っている以上、こちらとしては何も言えない。
「アレン、一応作戦はあるの?」
破壊の権化のようなフィアーネがアレンに作戦の有無を尋ねる。その眼には明らかに力業でいくことを期待するものがあった。アレンはフィアーネのその様子を見て苦笑しながら返答する。
「もちろん、そんなものはない。力業で一気にフェルネルを潰す。フィアーネ、今回ばかりは手加減なんかしなくて良いぞ。この中なら墓地の施設を壊す心配は無いからな」
アレンの返答にフィアーネはニンマリと笑う。
「よ~し、本気出しちゃうわよ♪」
フィアーネは明るく言うが勿論ハッタリである。気を一瞬でも抜けば即座に命を失うこの戦いにおいて手を抜く余裕などあるわけがない。先程総力戦とアレンが言った事からもアレン達に余裕があるわけではないのだ。
フィアーネは掌に瘴気の塊を生み出すとそれを前面に放る。放られた瘴気の塊は人型となった。フィアーネの動く彫刻である神の戦士だ。作成された神の戦士の数は八体、生み出された神の戦士はフェルネルに向かうのでは無く襲いかかる仮面とアンデッドに襲いかかった。
ファリアの結界によってフェルネル達は閉じ込められた形となったが仮面やアンデッドも同時に閉じ込められておりアレン達に襲いかかってきていたのだ。フィアーネは露払いとして神の戦士を作成したのだ。
「いくわよ、みんな♪」
フィアーネがニッコリと笑って先陣を切る。フィアーネにアレン、レミア、フィリシアが続き、アディラが手にしていた弓を投げ捨て瘴気で弓を作成する。
パシュン!!
フェルネルに向け弓を射ると放たれた矢は一直線にフェルネルの顔面に飛んでいく。放たれた矢とアレン達が寝ると斬り結ぶのはほぼ同時間であった。肉薄するアレン達に注意向かった事でフェルネルはアディラの矢を左腕で受ける。アディラの矢はフェルネルの左腕に突き刺さっている。
『くそがぁ!!』
フェルネルは横薙ぎの一閃を放つ。その剣閃をフィアーネは跳躍し躱した。すぐ後ろにいたアレンがその大剣の一撃を受け止めた。
「く……」
アレンは吹き飛ばされそうになるのを必死に堪える。フェルネルの剣閃は速く。何よりも重かった。本来であれば受け止める事は出来るはずはないのだが、アレンは魔力による身体強化に加え巧妙に威力を逸らしていたため受け止める事が可能だったのだ。アレンがフェルネルの大剣を受け止めるとレミアとフィリシアが二手に分かれる。
一方で跳躍してフェルネルの大剣を躱したフィアーネはそのままの速度で跳び蹴りを放つ。
ゴゥ!!
かなりの距離があるはずなのにフィアーネの跳び蹴りの風切り音はアディラの耳に届いたぐらいである。
ドガァァァァ!!
フィアーネの跳び蹴りをフェルネルは左腕で受ける。凄まじい威力であったにも関わらずフェルネルの表情に苦痛は含まれない。そこにレミアとフィリシアがそれぞれすさまじい斬撃をフェルネルに放つ。フィリシアの斬撃はフェルネルの右脇腹を斬り裂き、レミアはすれ違い様に左脇、左肩、左腕の三箇所を斬り裂いている。
『ち……』
フェルネルが剣を振り回し駆け抜けるフィリシアへ向け斬撃を放とうとするがそれはアレンから意識を逸らす事を意味している。アレンは自分から意識が逸れた事を察した瞬間にフェルネルの懐に飛び込むと魔剣ヴェルシスをフェルネルの腹部に刺し込む。
「ふん!!」
アレンは深く刺し込んだ魔剣ヴェルシスを力任せに横薙ぎにするとフェルネルの腹が斬り裂かれた。
「やった!!」
「さすが先生!!」
「すげぇな」
「すごいわね」
アレン達の攻撃を見ていた者達は感歎の言葉を発する。フェルネルと斬り結んだアレン達の動き、攻撃の凄まじさに戦いつつ眼を奪われたのだ。
見た目にはアレン達が圧倒的に押しているのにも関わらずアレン達の表情は険しい。
(この程度のわけないな……しかし、あそこまで深手を与えたにも関わらず動きには一切の支障は無いか……)
アレンはフェルネルの動きに僅かの鈍りも感じられないことを訝しがる。斬られた傷口から大量の血が落ちているというのにフェルネルはまったくダメージを受けている様子がないのだ。
(こいつは少しばかり思い違いをしていたかな……)
アレンは今までの仕入れた情報が誤っている可能性を考え始める。あそこまで深手を負わせたにも関わらず一切ダメージを見せない。かといって斬りつけた感覚、流れる血は本物である事は間違いない。
『この程度で勝ったと思うなよ』
フェルネルは嗤うと大剣を構えるとアレンに斬りかかってくる。アレンは今度はそれを受け止めるようなことはせずにスルリと躱した。アレンは躱すと同時にフェルネルの左手首を斬りつける。
ブシュ……
傷口から鮮血が舞うが先程同様にフェルネルの動きは些かも衰えない。
(ひょっとして……先程までの激高は演技か?)
アレンがそう考えている間にもフィアーネ、レミア、フィリシア、アディラも攻撃をしかけていく。全員の攻撃が次々と決まるがフェルネルの動きが衰える様子は一切無い。
「アレン私がやってみるわね」
フィアーネがアレンに言う。フィアーネ達もアレン同様にフェルネルがあれほど血を流し傷を負っているにも関わらずまったく動きが衰えないことに対して訝しく思っていたのだ。
「ああ、頼む」
アレンの返答を受けてフィアーネはすぐさま魔術の展開に入る。魔法陣を構成し即座に放つ。フェルネルの周囲に九本の柱が顕現するとフェルネルは驚愕の表情を浮かべる。フェルネルを封じたのは魂の牢獄だ。フェルネルの力ならば解除することも可能だろうがそれでも僅かばかりの時間がかかる。
「くらえ!!」
フィアーネは両手をフェルネルにかざすと結界内に魔力の塊を放った。高速で放たれた魔力の塊はそのまま結界内に入った瞬間に炸裂する。その瞬間結界内のすべてが凍結した。
凍った水蒸気がキラキラと輝き幻想的な景観を生み出した中心に立ったまま凍り付いたフェルネルがいた。




