決戦⑥
カタリナ、ジュセル、シアの魔術の直撃を受けたイベルは吹き飛ばされた。
「ふう」
イベルを実質的に吹き飛ばしたシアは息を吐き出す。もちろん今の魔術でイベルを斃したなどとは微塵も思っていないのだが、それでも一息をつくことが出来た事に胸をなで下ろしたのだ。これを油断と責める者はいないだろう。
「さて、今の一手がどう転ぶかな?」
アルフィスはちらりとアレン達、イリム達の戦いを見て言う。フェルネル達はアレン達と現段階では小競り合いをしている状況であり、アレン達とフェルネルは小康状態を保っている。どうやら新しく参戦したリュークとジェスベル達にフェルネルの実力を大まかに見せるつもりらしい。
一方でイリム達はアルティリーゼが四体の悪魔達を召喚し戦力を増強したところだ。
(……ん?)
イベル達の戦いを見ていたアルフィスはズフィリースの体に文様を浮かび上がらせるのを見る。
(あれは……本気を出したと言う事か……あいつはイベルの眷属、もしくは部下ならばイベルも同じ事が出来ると考えた方が良いな)
アルフィスがそう結論づけた時、土煙の中から凄まじい殺気が放たれ始める。この状況でこの殺気を放つ相手がイベルであるのは当然すぎることであり今更慌てふためくような者はこの中にはいない。
「お、ようやくその気になったか」
エルヴィンは待ちかねたという表情を浮かべ言い放った。先程、フェルネルと戦い消耗した体は未だに回復したわけでは無い。エルヴィンがそう言ったのはもちろんハッタリである。
「そのようだな。みんな構えろ」
アルフィスの言葉に全員が頷く。もちろんアルフィスの言葉がなくても全員が警戒を解くような事は無いが様式美というやつである。
土煙がおさまるとイベルが立っている。その体にはズフィリースと同様の文様が浮かび上がっている。
「どうやら本番らしいな」
アルフィスがそう言うとイベルは剣の一本の鋒をアルフィスに向けた。その瞬間である。イベルの剣が一気に伸びアルフィスの顔面に迫る。警戒を解いていなかったアルフィスは体を鋒から外しながら剣で受ける。
キキキキキキキッ!!
聖剣アランベイルとイベルの剣がきしみ合い不快な音を発するが。イベルはそのまま刃の部分をアルフィスに向け横薙ぎにする。
「く……」
イベルの横薙ぎにアルフィスは吹き飛ばされることは無かったがそれでも凄まじい膂力に堪えるのに精一杯であった。アルフィスが堪えている所にジェドとジュセルがイベルに向かって走り出す。
ジュセルの手にはすでに九節棍が握られており連接部分を外して放った。ジュセルの九節棍には魔力を薙がして強化しており、いかに邪神であっても無傷というわけにはいかないだろう。
イベルは剣を無造作に振るうとジュセルの九節棍の連結部分の鎖を断ち切った。剣で防いでも先端部分が受けた場所を支点に急角度に曲がり敵を撃つというのが連接武器の特徴なのだが、イベルに断ち切られた九節棍は何の抵抗を示すことなく先端部分はそのまま飛んで行ってしまった。これは何の抵抗もなく鎖が断ち切られた事を意味しておりイベルの斬撃が明らかに常識外れかどうか示していた。
「ち……」
愛用の武器を断ち切られたジュセルの口から忌々しげな言葉が発せられる。ジュセルは手にしていた九節棍の半分を投げ捨てると魔力で両手にダガーを作り出すとそのままイベルに突っ込んだ。
イベルは間合いに入ったジュセルに向かって斬撃を繰り出す。イベルの斬撃をジュセルは辛うじて紙一重で躱すとそのまま手にしたダガーを振るう。ジュセルのダガーでの斬撃は足、首、腹と次々と放たれるがイベルは手にしている剣で受け流しそのまま反撃に転じる。
ジュセルとイベルが剣戟を展開した数秒後にジェドも参戦する。ジェドは上段から一気に魔剣ヴァルバドスを振り下ろす。
キィィィィン!!
ジェドの上段斬りをイベルは苦も無く受け止める。この時、イベルはアルフィスに向けて伸ばしていた剣を元の長さに戻し対応している。
「ふん……雑魚が」
イベルがジェドを嘲弄するがジェドは特段気分を害した様子はない。この程度の挑発行為をサラリと受け流せないようではとっくにジェドは土の中で眠っている事だろう。また、アレン達と接していれば自分が強者で無い事は十分に理解しているため気分を害する事はないのだ。
(雑魚と侮ってくれて助かるぜ)
むしろジェドはイベルが自分を雑魚と侮ってくれる事に感謝すらしている。いくら強者であっても油断するような相手ならばいくらでも付け入る隙があるというものだ。
ジェドはそう思うと手にしていた剣を握る手とは別の手に小さな魔力の塊をつくる。イベルは現在、ジェドとジュセルを同時に相手取っているためにジェドの魔力の塊に気付いた様子はない。
ジェド、ジュセル、イベルの三者は激しい攻防を繰り広げている。ジュセルとジェドは全身全霊をこめて戦っているがイベルは余裕綽々という感じでありイベルの実力は頭一つ所か五つ六つ抜けている感じである。
イベルの剣がジェドの剣を弾き飛ばした時にジェドは手に隠していた魔力の塊を指で弾く。隙を衝き、高速で放たれた魔力の塊であったがイベルの動体視力であればあくびが出るようなものだ。躱すのも面倒だという風にイベルは剣を振り上げる。
弾かれた魔力の塊がイベルの目の前に来た時、突然魔力の塊は弾けとんだのだ。その音は意外なほど大きくイベルは一瞬、いや半瞬であるが意識を弾けた魔力の塊に向けた。その瞬間、イベルの後頭部に凄まじい衝撃が襲う。
転移魔術でイベルの背後に転移していたエルヴィンが半瞬の隙をつき後頭部に強烈な蹴りを入れたのだ。
数歩の距離を飛んだイベルは振り返り後頭部を蹴りつけた相手を見やる。エルヴィンの姿を確認すると一気に憤怒の炎がその眼に燃え広がる。エルヴィンはそのよう巣を見てニヤリと嫌みたらしく嗤う。
イベルはエルヴィンに向かって一歩を進めようとしたときに土壁がイベルの周囲を取り囲む。
「巫山戯るな!! こんな稚拙な……」
イベルの言葉は最後まで発せられない。イベルを取り囲んだ土壁の周囲にさらに八角形の柱が八本イベルの周囲に浮かび上がったのだ。
「よし、それじゃあ少し熱い思いをしてもらおう」
エルヴィンはそう言うと視線でジュセルとジェドにさがるように促すと二人はすぐにエルヴィンの意図を察すると後ろに跳んだ。
「八極天炉!!」
エルヴィンの足元に魔法陣が展開されると八本の柱から凄まじい炎が発生すると中心にいるイベルに向かって炎が走る。走った炎は土壁に囲まれているイベルを一気に灼いた。
「ぐぅぅくぅ!!」
轟々とイベルを灼く炎を眺めていた時、炎の中から剣が伸びるとエルヴィンの腹を貫いた。
「ぐ……」
エルヴィンの口から苦痛の声が漏れた。




