決戦③
文様を浮かび上がらせたズフィリースはニヤリと嗤う。
「そんなに怯えるなよ。すぐに済む」
ズフィリースはそう言うと動く。その瞬間にイリムが叫ぶ。
「フォルグ!!後ろだ!!」
イリムの言葉にフォルグは後ろを振り返った瞬間にフォルグの左肩から斬撃が入る。
「ぐ……」
左肩から斬られたフォルグが血を噴き出し膝をついた。ズフィリースはとどめの斬撃を放とうとした瞬間にイリムが斬り込む。
キィィィィン!!
イリムの斬撃をズフィリースは軽く受け止めた。明らかに先程よりも戦闘力が大幅に強化されていることにイリムは気付く。
「でぇやぁぁぁぁぁ!!」
斬撃を受け止められたイリムを助けるためにディーゼがズフィリースに斬りかかる。手にした双剣から放たれる斬撃は芸術と称しても差し支えのない程素晴らしいものだ。だが、その斬撃はことごとく空を斬る。イリムの剣を受け止めたズフィリースであったがディーゼが斬りかかってきた事を見ると迷わずイリムから距離をとりディーゼの斬撃を躱したのだ。
「ふん……」
ズフィリースの剣が振るわれる。ズフィリースの剣がディーゼの右肩から垂直に斬り裂く。
「が……」
肩口を斬り裂かれたディーゼの口から苦痛の声が漏れるが倒れないように持ちこたえるとそのままズフィリースに斬撃を放った。首筋に放たれたディーゼの斬撃をズフィリースは自らの長剣で受けるとそのまま剣を横に薙いだ。
ズバ!!
ズフィリースの長剣がディーゼの脇腹を斬り裂く。脇腹を斬り裂かれたディーゼはその場に崩れ落ちる。
「「ディーゼ!!」」
イリムとエルカネスが崩れ落ちるディーゼの名を呼ぶと同時にズフィリースに斬りかかった。その際にイリムは魔剣ダイナストの魔術の効果を爆発的に高めるという能力を展開していた。
この時、イリムが展開した魔術は当然の事ながら身体強化である。魔剣ダイナストの能力によって一気に高まった身体能力により一瞬でズフィリースの間合いに踏み込むとイリムは斬撃を放つ。ディーゼにとどめを刺そうとしたズフィリースはイリムの斬撃に虚を衝かれる。
キィィィィィィンン!!
鍔迫り合いに持ち込んだイリムはそのままズフィリースを弾き飛ばした。
「な……」
弾き飛ばされたズフィリースは驚愕の表情を浮かべる。イリムの斬撃が先程よりもはるかに鋭く激しいものである事は理解していたが、まさか自分が弾き飛ばされるとは思っていなかったのだ。
イリムはその一瞬の驚愕を逃すこと無く続けて斬撃を放つ。放たれた斬撃はズフィリースの首を狙ったものだ。その鋭い斬撃をズフィリースはバク転して逃れる。間合いをとったズフィリースであったがすぐさまイリムが間合いを詰めると踏み込んだ動きそのまま土をズフィリースの顔面に掛ける。
ズフィリースはバク転で逃れた時に立ち上がる前であったため頭部の位置が低く土をかけられた時には目つぶしの形になったのだ。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
イリムのかけた土埃がズフィリースの視界を一瞬覆う。そこにイリムが斬撃を放ったのだ。
イリムの斬撃をズフィリースは剣で受け流すと斬撃を返す。ズフィリースの体勢から放たれた斬撃はイリムの足であるがイリムは跳躍して躱すと空中で魔矢を展開するとそのまま放つ。
ドドドドドッドドドドドドッド!!
一気に放たれたイリムの魔矢がズフィリースに直撃する。ズフィリースに直撃した魔矢は土煙を巻き上げ視界を奪う。だが着地したイリムに砂塵の向こうからズフィリースの斬撃がイリムの腹部を斬り裂いた。
ギャギィィィィィ!!
だがズフィリースの斬撃はイリムの身につけている魔剣士の身につける鎧により大事には至らない。
「く……」
大事には至らなかったとは言えズフィリースの斬撃はイリムの鎧を切り裂きその下のイリムの腹部を傷つけていた。イリムが魔剣士の鎧を身につけていなければ今の斬撃で勝負は決していただろう。
「よくもやってくれたな」
砂塵が晴れ、ズフィリースが姿を現す。ズフィリースの体、顔面にはイリムの魔矢の直撃による傷があった。
その時、イリムの体に異変が起こる。魔剣ダイナストの能力によって爆発的に高められた身体強化の魔術の効果が切れたのだ。その反動が一気にイリムの体を襲ったのだ。呼吸は一気に荒くなり、膝をついて倒れ込みたいという体の欲求に必死に抗う。
「はぁはぁはぁ」
イリムの呼吸が突然乱れた事によりズフィリースはイリムが何かしらの術の効果が切れた事を察するとニヤリと嗤う。
「まずい……ジヴォード、レズゴル、リクボル、ウキリ。イリムを助けなさい」
「「「「はっ!!」」」」
イリムの現状を悟ったアルティリーゼは配下の悪魔達に命ずる。アルティリーゼ自身はディーゼとフォルグに治癒魔術を施している最中であり離れるわけにはいかなかったのだ。
「く……」
エルカネスも大剣を握りしめると四体の悪魔達と共にズフィリースに斬りかかる。
「邪魔をするな!!」
ズフィリースは咆哮すると四体の悪魔とエルカネスに斬りかかる。消耗したイリムは後回しにして戦闘可能な四体の悪魔とエルカネスを先に始末する事にしたのだ。
ジヴォードの鉞の一撃をズフィリースは受け止め一気に力を放ち弾き飛ばすと左手を掲げてジヴォードの腹部に強烈な衝撃波を放つとジヴォードの体に螺旋状の衝撃波の後が発するとそのまま吹き飛んだ。十数メートルの距離を吹き飛ばされたジヴォードは地面を転がり血を吐き出す。致命傷では無いが明らかに戦闘は不能となったのだ。
「くそがぁぁぁ!!」
ジヴォードが吹き飛ばされたがエルカネス、レズゴル、リクボル、ウキリの戦意は未だに健在である。
レズゴルは肩口からさらに四本の腕を生やしその中の一本の手に握られている万力鎖をズフィリースに向け投擲する。ズフィリースは投擲された万力鎖を無造作に掴むと力任せに引っ張りレズゴルを自分の間合いに引きずり込むとそのまま斬撃を繰り出しレズゴルの腹部を斬り裂いた。
「ぐ……」
腹部を斬り裂かれたレズゴルはそのまま倒れ込んだ。リクボル、ウキリが左右に分かれズフィリースに襲いかかる。ウキリの右拳がズフィリースに放たれる。ウキリの右拳をズフィリースは左手で上手く逸らすとそのまま斬撃を繰り出す。その斬撃をウキリは左腕に魔力を集中して受けた。
ドガァァァァァ!!
ズフィリースの剣はウキリの左腕にめり込み肩口の半分までめり込んでいる。だが斬り落とされることはなかったのだ。ウキリは右手でズフィリースの剣を掴み上げる。
「とらえたぞ……」
ウキリの言葉にズフィリースはつまらなさそうな表情を浮かべる。
「くだらん」
ズフィリースは左手をウキリに向けると衝撃波を放つ。先程ジヴォードを吹き飛ばした衝撃波と同様の技である。だがその攻撃を読んでいたウキリはそのまま右手で衝撃波を放つ瞬間のズフィリースの左手を弾くと放たれた衝撃波はあらぬ方向に飛んでいった。地面が抉れその威力は凄まじいものである事は窺えるがウキリは衝撃波をやり過ごしたのだ。
ウキリはそのまま右拳をズフィリースに放つがそれよりも早くウキリに止められていた剣を引き抜く。両手でやっと抑えていたのに片手、しかも攻撃のために意識を向けた事で剣を止める力は半減していたのだ。
シュン!!
ズフィリースの斬撃が左肩からウキリの体を斬り裂いた。鮮血が舞いウキリがそのまま崩れ落ちる。
崩れ落ちたウキリにリクボルは動揺する事無く手にした杖に魔力を込めてズフィリースに振り落とした。
ガキィィィィン!!
「な……」
ズフィリースはリクボルに背を向けたまま剣を頭上に掲げて受け止めたのだ。ズフィリースは剣を巻き込むような形でリクボルの杖を逸らすと同時に左回し蹴りをリクボルの脇腹に蹴り込む。
ドゴォォォォ!!
ズフィリースの回し蹴りにより吹き飛ばされたリクボルは膝をついた。眼は死んでいないとはいえ深刻なダメージであることはあきらかであった。
キィィィィン!!
リクボルにとどめを刺そうと一歩踏み出した時に背後からエルカネスが襲った。凄まじい大剣の一撃であったがズフィリースは難なく受け止めたのだ。ズフィリースはエルカネスの大剣を弾くとそのまま衝撃波を放つ。まったくのノーモーションの一撃でありエルカネスは体勢を崩していたこともありまともにその一撃を受ける。だがエルカネスの身に纏っていた鎧がエルカネスの命を救った。凄まじいダメージを受けたのだが魔剣士の鎧が命を救ったのだ。
「ふん……小賢しい」
ズフィリースはエルカネスに凄まじい殺気を放ちつつリクボルとの間合いを詰めるとそのまま上段から剣を振り下ろした。リクボルは杖に魔力を込め受け止めようとしたがズフィリースの剣はそのままリクボルの杖を両断するとそのままリクボルの体を斬り裂いた。
鮮血を撒き散らしながらリクボルは崩れ落ちる。
「アルティリーゼ様……私は大丈夫です。イリムを……」
治癒魔術を施されていたディーゼが立ち上がる。傷口は塞がった完全回復というわけではない。
「左様……アルティリーゼ様はイリム様を……」
フォルグも立ち上がるとアルティリーゼに言う。ディーゼ同様に完全回復にはほど遠い状況であった。
「俺は大丈夫だ」
ディーゼとフォルグの言葉を聞いてイリムが言う。先程よりも呼吸が整ってはいるが消耗していることには変わりが無い。
「イリム」
アルティリーゼがイリムに抱きつく。この追い詰められた状況でアルティリーゼがイリムに抱きついた事は見ようによっては最後の抱擁を思わせる。イリムはアルティリーゼを引き離すとアルティリーゼはよろめき崩れ落ちる。顔を伏して肩をふるわせ嗚咽の声がエルカネス、ディーゼ、フォルグの耳に入る。
「待って……イリム行かないで……」
弱々しいアルティリーゼの言葉に耳を貸すことなく、一瞥もくれずにイリムはズフィリースに向かって歩き出すとズフィリースに向かって言い放つと嗤う。
「それじゃあ、最後の攻防といこうじゃないか」
イリムの言葉にズフィリースはニヤリと嗤った。その嗤いは自らの勝利を疑わないものだった。そしてそれはイリムも同様だったのだ。




