決戦②
決戦が始まった。
魔族であるイリム達と神の一員であるズフィリースとの戦いは助走などまったく存在せず、すぐに戦いは激しいものへとなった。
イリムとズフィリースは凄まじい剣戟を展開する。上段から振り下ろし、横薙ぎに変化、袈裟斬りから逆袈裟斬りとイリムはズフィリースに凄まじい速度で斬撃を繰り出す。ズフィリースはイリムの斬撃の鋭さに感心したような表情を浮かべた。
(ほう……この魔族の腕前は中々のものだな)
ズフィリースは放たれる斬撃を躱しながらイリムに対して一応の評価を下す。そしてズフィリースの評価はイリムの戦闘力が決して自分を上回るもので無い事を示している。
イリムがたて続けに放った必殺の斬撃を躱したズフィリースはすぐさま反撃に転じる。ズフィリースの斬撃をイリムは体を捻って躱すと今度はイリムが斬撃を放った。ズフィリースはイリムの放った首への斬撃を長剣ではじくと後ろに跳び一端間合いを取ることにした。
イリムの腕前からエルカネス、ディーゼ、フォルグが斬り込んできた事に対して慎重になることを選択したのだ。
ズフィリースの中では人間よりも魔族の方が評価が高いと言う事もその理由の一つであった。
一端距離をとったズフィリースに今度はフォルグが斬り込む。フォルグは人間であるがその剣の腕前は凄まじいの一言であり踏み込みの速度、斬撃の威力は並の魔族の及ぶところでは無い。
フォルグの斬撃はズフィリースの右足に放たれるがズフィリースはその斬撃を右足を引くことで躱すとそのまま上段から剣を振り下ろした。今度はフォルグがその斬撃を半身になって躱し再び斬撃を放とうとしたのだがそれよりも早くズフィリースの横薙ぎの剣閃がフォルグの腹部に放たれた。
キィィッィィン!!
フォルグは手にしている魔剣ヴァディスでズフィリースの長剣を受け止める事に成功するが、その威力は凄まじくそのままフォルグは吹き飛ばされてしまった。
「く……」
フォルグは吹き飛ばされ態勢を何とか立て直そうとした時にはズフィリースは間合いを詰め次々と斬撃を繰り出していた。フォルグは自身の持てる技術を駆使してズフィリースの剣を躱すことに専念するが、ズフィリースの剣を捌ききることは出来ない。かろうじて致命傷にまでは達していないがフォルグの体にはあっという間に多くの刀痕が刻まれていく。
「どうしたぁぁぁぁ!!」
ズフィリースの声に嘲りが含まれ始める。このままではフォルグが斬り伏せられるとイリム、エルカネス、ディーゼが助太刀に入るよりも早く一本の矢が放たれた。放たれた矢をズフィリースは剣で弾いた。この一瞬の間がフォルグを救ったと言って良いだろう。フォルグが半歩下がった瞬間にイリムとエルカネスがズフィリースに斬りかかった。
(あの弓使いのガキ……要所要所でこちらの邪魔をしてくる。やっかいだな。まずはあちらからやるべきだな)
ズフィリースが矢を射たアディラに殺気を放つがアディラ自身はキッと逆にズフィリースを睨みつけてきた。ズフィリースの殺気に心乱す事無く逆に睨みつけてくる胆力は容姿可愛らしさと不釣り合いであるのは間違いないだろう。数々の戦闘経験がアディラの胆力を遥かに強くしたのは間違いなかった。
「余裕だな……」
イリムはズフィリースに一声かけると上段から一気に振り下ろす。ズフィリースは長剣でイリムの斬撃をスルリと受け流すと即座に反撃する。放たれた斬撃はイリムの頬をザックリと斬り裂くがイリムは怯むこと無く再び斬撃を放つ。またも躱されるがそこにエルカネスが大剣を振り回しながら斬り込んできた。
うなりを上げた大剣の斬撃をズフィリースはイリムの剣同様に受け流すとそのまま斬撃を繰り出そうとしたところで動きが止まった。
「ぐ……な、何?」
ズフィリースの口から苦痛と困惑の籠もった声が発せられる。ズフィリースが視線を向けるとズフィリースの右足を剣が貫いていたのだ。予想外の攻撃にズフィリースは一瞬困惑したのだ。
ズフィリースの足を貫いた剣は地中から現れているようにも見えるが実は影から出ていたのだ。フォルグの魔剣ヴェディスは敵を影から攻撃することが出来るという能力を持っておりその魔剣の能力を使ってフォルグが攻撃を加えたのだ。
ディーゼがフォルグに治癒魔術を施しながら死角を作りズフィリースを攻撃したのだ。フィリシアとの戦いにおいては死角を作ることが出来なかったためにフィリシアはフォルグの魔剣の能力をすぐさま看破することに成功したが、ディーゼが死角を作ったためにフォルグが攻撃を行った事にズフィリースはこの段階で気付く事は出来ない。それは次の攻撃が入りやすいことを意味する。
(よし、いける……)
フォルグは自分の影から剣を引き抜くと間髪入れずにもう一度影に剣を刺し込む。
「ぐぅ!!」
再び突き出された剣に再び右足を貫かれたズフィリースは苦痛の表情を浮かべる。そこにエルカネスとイリムが斬撃を放った。
イリムとエルカネスの斬撃をズフィリースは後ろに跳んで躱した。だが着地した瞬間に再び地面から剣が現れた剣で今度は左足を貫かれた。
(あいつか……)
ズフィリースは自分の足を貫いた剣がフォルグのものである事にこの段階で気付く。そして同時に自分が下手を打った事も察したのだ。ズフィリースはフォルグから間合いを取ったはずなのに、まったく関係なくフォルグはズフィリースに攻撃をしてきた以上、間合いは関係ないのだ。一足飛びで間合いを詰めようともフォルグとは一対一で無い以上イリム、エルカネス、ディーゼが確実に邪魔をするだろうし、背後に控えるアルティリーゼの存在も不気味であった。
「よしいけるわ」
アルティリーゼはそう言うと魔法陣を展開する。アルティリーゼの周辺に四つの魔法陣が浮かび上がった。浮かび上がった魔法陣が召喚陣であることをズフィリースは即座に看破する。
(一体、何を呼び出す気だ?)
ズフィリースは訝しく思いながらもイリム達から警戒を怠るような真似はしない。先程までのイリム達を甘く見ていた雰囲気はもはやどこにもない。ズフィリースにとってもはやイリム達一行は命をかけるべき相手である事を認めたのだ。
「悪魔達か……」
四つの魔法陣から現れたのは四体の悪魔達である。それぞれ一体一体がズフィリースには及ばないだろうがそれが四体も揃えばやはり油断は出来ない。
「大した連中だ……この私にこれを使わせるとはな」
ズフィリースの言葉にイリム達は警戒を強める。ズフィリースの言葉は戦いはこれからが本番であると宣言したに他ならないのだ。
ズフィリースの顔、腕に文様が浮かび上がる。文様の色は黒、様々な形でありズフィリースの禍々しさが否応なしに増した。




