決戦①
「ねぇアレン、この結界ってファリアかな?」
フィアーネがアレンに尋ねる。ファリアがキャサリンに弟子入りするようになってからフィアーネ達ともすっかり友人となっておりいつの間にか名前で呼ぶようになっていたのだ。
「だろうな。ファリア達には事情を話してあるからフェルネル達と戦うのにこちらが気兼ねなく戦える場を作る事を考えたんだろうな」
アレンの言葉にレミアが感心した表情を浮かべながらファリアを賞賛する。
「さすがはファリアね。これならフェルネルやイベルを追い詰めた所で逃げられないからね」
レミアの言葉にフェルネル達は反応する。
『我々を追い詰めるだと……黙って聞いていれば良い気になりおって』
フェルネルの声は地を這うような低いものであり、今までの嘲り、激高とは明らかに違う。どうやら本当の意味で堪忍袋の緒が切れてしまったようだ。
「おいアレン、さっさと始めるぞ」
イリムが待ちくたびれたかのように言う。イリムは決して戦闘狂では無いのだがズフィリースという強敵と戦えることに対して喜びを感じているようだ。そしてそれはアルティリーゼ達も同様のようであり、すでに互いが互いをフォロー出来るように戦闘態勢を整えている。
「ああ、フェルネルも良い感じでキレてくれたみたいだからな。始めるとするか」
アレンは余裕の表情で言い放つが実際は余裕など一切無い。いわば虚勢を張っているのだがそれをフェルネル達にさとられるわけにはいかない。もちろんアレンの婚約者、アルフィスはその事に気付いているがわざわざ正直に告げる必要もないので当然ながら黙っておく。
「お、あいつらも来たか」
アレンの言葉に全員が周囲に視線を移す。八柱の結界の外に無数の魔法陣が次々と浮かび上がっている。魔法陣から次々と現れたのはゴブリン、オーク、オーガなどの亜人種達であり皆左腕に赤い腕章を身につけている。
エルゲナー森林地帯にいるアインベルク家に仕える亜人集団である。魔法陣から現れた亜人達は一斉に結界の外を取り囲もうと動き出す。一糸乱れぬ行動であり並の軍よりも遥かに練度の高さがあった。
「お前達は国営墓地から出ようとするアンデッド達を斃せ!! それがお前達の任務だ!!」
アレンが亜人達に叫ぶと亜人達は一斉にアレンの言葉に了解の意を示す。
『承知いたしました!!』
数千の亜人種達の言葉は見事に合わさり空気を揺らした。いや、爆音となり地面を揺らしたほどである。亜人種達はアレンの命令を遂行するためにすぐに隊列を組むと亜れんっちから離れアンデッド達を斃すために駆けだしていった。地面を揺らしながらの移動である。
「ん~あいつら同数だったらランゴルギアの国軍に勝てそうだな」
リュークの苦笑混じりの言葉にアレンも苦笑しながら返答する。
「いくらなんでもそれはないだろう。リューク、お前ランゴルギアの軍部に怒られるぞ」
「俺とすればお前が過小評価しているような気もするけどな」
「う~ん……まぁその辺りのことは後でじっくり話そう」
「だな」
アレンとリュークは話をそこで打ち切りフェルネルを見やる。
バシュン!!
そこに矢鶴の音が響き渡る。アディラがフェルネルに突然矢を放ったのだ。
パシュン!! パシュン!!
続けて二射、今度はイベルとズフィリースに放つ。亜人種達がアンデッドを駆逐するために駆けていった方向へ視線を向けた事を察したアディラが先制するために矢を放ったのだ。しかもアディラが狙ったのは顔面では無く腹である、そこなら躱すにせよ掴むにせよ弾くにせよ何らかの動きを見せるはずだ。しかもフェルネルは先程、アディラの矢に貫かれている。本気のアディラの矢は魔神の防御力を貫く事をすり込まれているのだ。
『あのガキィィィ!!』
フェルネルは手にした大剣でアディラの矢を薙ぎ払った。その瞬間、アレン、フィアーネ、レミア、フィリシアが動く。戦闘力過剰な四人が一気に襲いかかりフェルネルはそちらに集中せざるを得ない。
アレン達がフェルネルに襲いかかると同時にアルフィス達、イリム達もそれぞれイベルとズフィリースに襲いかかった。
フェルネル同様にアディラの矢を受け止めるような事はせずにそれぞれの方法でアディラの矢を弾く。
イベルは空間に手を突っ込み二本の剣を抜き放つ。何の装飾も無い無骨なものであり、片刃の剣の柄のナックルガードまで刃がついている。イベルはその剣でアディラの矢を弾く。
そこにアルフィス、ジェド、ジュセルが襲いかかったのだ。たちまち激しい剣戟が展開される。イベルに斬りかかったアルフィス達も戦闘力過剰と呼んで差し支えない者達である。
ズフィリースもまたアディラが放った矢を手にしていた長剣を使って払いのけた。そこにイリムが斬り込んだ。
イリムの魔剣ダイナストの斬撃をズフィリースは受け止めるとそこから激しい技の応酬が始まる。そこにエルカネス、ディーゼ、フォルグもズフィリースに斬り込んできた。
人間、吸血鬼、魔族の混合チームと神達との最終決戦が始まったのだった。




