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集結②

 ちょっと長くなりましたがご容赦ください。

 ジェスベル一行にわずかに後れてジェド達が国営墓地に入る。生者であるジェスベル、ジェド達一行に一斉にアンデッド達が襲いかかってくるが一行はそれらを排除しながらアレン達の元に近付いていく。


「アレン!!」


 アレン達の姿を見たジェドがアレンに声をかける。ジェド達だけでなくジェスベル達も一緒にいることにアレン達は少なからず驚いているようだった。


「ジェド、それにジェスベルさん達までどうしてここに、アンデッドはどうした?」


 アレンの言葉にジェドが即座に答える。


「コーウェンさんとダムテルさんが引き継いでくれた。それからもう一つ朗報だ陛下が軍を自ら率いて出陣し王都に現れているアンデッドを駆逐し始めたという話だ」


 ジェドからもたらされた情報からアレン達はニヤリとした表情を浮かべる。


「聞いたかフェルネル。お前達は少しずつ追い詰められ始めている事を理解しろ」


 アレンの言葉にフェルネル達は笑いを堪えるような表情を浮かべ始めると堰を切ったかのように笑い始める。


『ははははははは!!』

「ふははははははははは!!」

「ひゃはははっはははははは!!」


 三体の神達は一斉に笑い声を放つ。その笑い声には嘲りの感情に満ちている。アレン達は当然ながらその事に気付いているがアレン達は不快気な様子を一切見せなかった。それどころか分かってるという表情だ。


「さて、満足したか?」


 アレンの静かな声がフェルネル達に放たれるとフェルネル達は笑いを止める。その表情に今度は一転して不快気な表情を浮かべる。アレンの態度が気に入らないことこの上無かったのだ。


「さて戦力は完全に揃った。これでお前達に勝てる」

『なんだと?』

「わからないか?俺達はお前一人なら今頃お前を討ち取っていた」

『何だと?貴様……狂ってるのか?人間如きが神である我々に勝てる?バカも休み休み言え』

「そこのイベルという間抜けな神と小間使いが参戦してきたから予定が狂ったんだ。ところがその狂った予定はみんなが来てくれた事で逆転した」


 アレンの言葉にフェルネル達は沈黙する。だがその沈黙は危機を感じたわけでは無いのは明らかである。すぐに怒りの表情を浮かべる。


「その思い上がりを砕いてくれる!!」


 イベルがアレンに向かって吠える。怒りの余り眼が血走り、殺気がアレン達に叩きつけられる。その殺気の凄まじさにアレン達以外の者は身をすくませる。さすがにアレン達ほどの胆力があるものはそうそういないようだ。


「そうか、アルフィスはイベルをやってくれ。エルヴィンさん、ジュセル、カタリナ、ジェド達はアルフィスと一緒に頼む」

「わかった。イベルは俺達で始末するさ」


 アレンの要請をアルフィスは快諾する。名前を呼ばれた者達も不満は一切無いようで頷く。


「イリム達はその小間使いをやってくれ。分かってると思うが油断できる相手じゃ無いぞ」「ということはお前が魔神を始末するつもりと言う事か?」

「ああ、やっぱり魔神は俺が始末したい」

「まぁ良いだろう。俺達はお前への協力を約束したからな。ただし、さっきも言ったように魔神の死体の一部は報酬としてもらうぞ」

「ああ、どこでも好きな所をもってけ」


 イリムの言葉にアレンは快諾する。


「ジェスベルさん達とリュークは俺達と一緒にフェルネルを討ってもらうぞ」

「わかった。微力ながら協力させてもらう」

「了解です。アインベルク侯」


 リュークとジェスベルがアレンの要請に応えると快諾する。


「さて……こちらの作戦は決まった。というよりもお前らにも教えた。あとは戦うだけだ」


 アレンの言葉にフェルネル達は嗜虐的な表情をそれぞれ浮かべる。


『良いだろう。貴様らを八つ裂きにしてくれる』


 フェルネルが一歩を踏み出した時に国営墓地の上空に八本の巨大な柱が浮かび上がった。その八本の柱は強烈な光を放つとそのまま落下し地面に突き刺さった。八本の柱はそれぞれ結びつくと光の壁を作り出すとアレン達をその中に閉じ込めた。


『なんだ……これは?』


 フェルネルが衝撃波を壁と柱に向けて一発ずつ放つがフェルネルの衝撃波を光の柱と壁は弾く。自分の衝撃波で破壊できないことにフェルネルは片眉を上げる。その顔は不快気だ。


「どうやら俺達がここで戦い。勝った方がここから出れるというわけだな」


 アレンの言葉にイベルが詰問調で言う。


「この術はお前達の者では無いと言う事か?」

「ああ、俺達じゃない。この術を仕掛けた人物に心当たりがある。まぁ俺達の仲間がやったのは間違いないな」


 アレンはそう言うとこの術を仕掛けたであろう人物を思い浮かべた。



 *  *  *


「ファリア……大丈夫か」


 ラゴル教団の聖女ファリア=マクバインの護衛騎士であるシドがファリアに声をかける。ここはラゴル教団の大聖堂に設けられた儀式を行うための部屋である。

 ファリアは床に描かれた魔法陣の中央に跪き、ラゴル教団の至宝である聖杖エフェルミアがファリアの手にはある。

 ファリアの顔色はこの儀式を始めてから一気に悪くなっている。フェリアの行っている儀式は“八柱封神はっちゅうふうしん”という。竜脈と呼ばれる大地のエネルギーを使い八つの柱を形成し、対象者を閉じ込めるという秘術だ。

 ファリアはキャサリンに師事を受け魔力操作能力を磨くと同時に魔神が甦った時のために“八柱封神”の術式の組み立てを行っていたのだ。

 だが準備をしていたといってもファリアの負担は想像以上のものである。ラゴル教団の総本部にある宝珠に蓄えられた魔力は前回の禁忌の騎士(タブーナイト)との戦いでかなり消費してしまったのだが、魔神の復活に備えるために宝珠に急遽魔力の補充を行っていたのだ。神官達は魔力の補充を必死に行ってくれたおかげで宝珠は何とか回復したのだが、当然それでは足りないとファリアは王都のラゴル教団の幹部達にも協力を要請し、何とか宝珠をもう一つ予備で備える事が出来たのだ。


「大丈夫よ。これぐらいなら何時間でも八柱封神を展開し続ける事ができる」


 ファリアは気丈にも微笑みながら言うがそれが無理をしている事は誰の目にも明らかであった。


「それよりも、市民の皆さんがここに助けを求めてやって来るでしょうから、みんなは市民の皆さんを守ってあげて」

「ファリア……」


 ファリアの言葉に護衛騎士達は視線を交わすと頷き合う。そしてファリアの指示通り市民を誘導し、守るために儀式の部屋を後にしようとする。


「シド、お前はここに残りファリア様を最後まで守れ」


 護衛隊長のエンリケがシドに向かって言うと他のメンバー達も微笑みながら頷いた。


「でも……」


 シドの言葉をエンリケは首を横に振る。


「これからファリア様は苦しい戦いに入るのだからお前が側で支えてやるのが一番良いだろう」


 エンリケの言葉は優しいがその奥底に反論を許さぬ厳しいものがある。シドはそれを感じると素直に頷く事にした。


「わかりました。ファリア様は俺が守って見せます!!」


 シドの宣言に護衛騎士達は顔を綻ばせながらシドに意味ありげな視線を向ける。


「ほう、それはファリア様を嫁にするという宣言という事だな?」

「え?」

「そうかそうか。ついにかファリア様もこの件が終わったらすぐに結婚という事でよろしいですね?」

「え?」


 エンリケの言葉にシドもファリアも呆けた表情を浮かべることしか出来ない。


「この戦いの主役はあくまでアインベルク侯達、我々は裏方なのですから、せめてそれぐらいのご褒美はもらいたいですな」

「そうそう。せめて終わった後に二人の結婚式で楽しく騒ぐというご褒美が無ければやってられないですよ」

「あ~あ、ファリアに先を越されちゃったか~」


 護衛騎士達は茶化すように言う。これは護衛騎士達の気遣いである事をファリアとシドは感じた。すなわちこれからファリアは八柱封神を展開し続けなければならないのだ。当然心折れることもあるかもしれない。だがその先に希望があれば心を折られずに済むかも知れない。その希望がシドとの結婚である。護衛騎士達はその希望をファリアに与えようとしているのだ。

 もちろんこれはファリアとシドが相思相愛である事を知っているから言っているのである。


「ファリア……」

「は、はい」


 シドはファリアに語りかける。この時のシドもファリアも人生で一番緊張した瞬間を迎えていた。


「俺はお前をずっと好きだった!!この戦いが終わったら俺と結婚してくれ!!」


 シドはついに自身の心をきちんと伝える。シドの告白とプロポーズを同時に受けたファリアは顔を真っ赤にしながら小さく頷くと「はい」と消え入りそうな声で言う。嬉しさがファリアの容量をオーバーしたのだろう。


 それを見て護衛騎士達はニンマリと笑う。


 厳しい状況であるのだがこの一時だけは幸せな雰囲気が聖女一行を包むのであった。




 *  *  *


「陛下、このあたりのアンデッドは駆逐し終わりました」


 ジュラス王の下に一人の士官が報告に来ると跪きそう報告する。ジュラス王率いる近衛騎士団を中心とする三〇〇〇は市民を守りながらアンデッド達を駆逐していたのだ。

 ジュラス自ら剣を振るいアンデッド達を蹴散らす姿は騎士、兵士のみならず市民達の士気をも天井知らずで上げた。

 ジュラス王の実力から考えればスケルトン、デスナイト、死の聖騎士(デスパラディン)達が束になっても叩きつぶすのは容易である。そこでジュラスは士気を上げるためにあえて自ら剣を振るったのだ。


「よし!!それでは国営墓地に向かう」


 ジュラスの言葉に報告に来た士官はゴクリと喉をならす。国営墓地がどういう場所なのかを知っているのだろう。


「はっ!!」


 しかしその士官は緊張感を持って答えるがそこに恐怖の感情は含まれていない。ジュラスの活躍が軍に与えた影響は限りなく大きい。


「なんだ?」

「おい、あれ……」


 ジュラスの周囲の兵士達が空に浮かぶ巨大な柱が浮かんでいるのを指差す。空中に浮かんだ柱は落下すると地上に突き刺さった。その音がジュラス達の耳に入る。


(今のは……神聖魔術だ。あれほどの巨大なものを作成することが出来る者がいるとはな……そして、あの形状だと結界というわけか)


 ジュラスは空に浮かんだ柱が魔神によって作成されたもので無い事を察するとニヤリと嗤う。状況が好転し始めているのを感じたのだ。


「国営墓地をぐるりと取り囲め!! あそこで王太子アルフィス、アインベルク侯達があそこで我々のために戦っている。アンデッド達を閉じ込めよ!!」


 ジュラスは大声で檄を飛ばす。その檄は国王としての威厳に満ち、聞く者達の心を揺さぶった。


(これで良し……アルフィス、アレン達がいかに戦ったか王都中の者が知ることになるだろう)


 ジュラスは魔神を討つほどの力を王太子であるアルフィスとアディラの夫となり将来の義理の息子であるアレンが有しているとなれば王族の権威がさらに高まり国が安定すると考えての行動である。


(ユーノス……俺は結局、子ども達に押しつけてしまったな)


 そしてジュラスの心には同時に罪悪感も生まれてしまっていた。アレンを総責任者に任命したのはジュラス自身であるし、アレンもそれを望んでいたがそれでもいざその時が来てしまえば子ども達に押しつけたという意識が生まれてしまうのだ。


「陛下……?」


 士官の一人がジュラスにおずおずと尋ねる。一瞬であるがジュラスの顔が曇ったことを訝しがったのだ。


「いや、何でもない。行くぞ!!」

「「「はっ!!」」」


 ジュラスはそう言うと馬に跳び乗ると駆け出す。それに兵士達が続いた。



 第二巻の発売日が決定しました。2017年12月15日となりますので、お手にとってもらえれば幸いです。


挿絵(By みてみん)


なお購入特典としてSSがつく店舗もございますので12月に入ったら一二三書房様もサイトでご確認ください。

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