集結①
「あそこか……」
国営墓地に入ったリュークは襲いかかるアンデッド達を蹴散らしながらアレン達と魔神の戦いの現場に向かって走っているとアレン達と魔神、そしてアンデッド同士が相争う現場を見つけた。
アレン達と大剣を持った巨大な魔物、二人の男が対峙し、周囲のアンデッド達もアレン達に襲いかかっている。
「ヴィアンカ……良かった無事か」
リュークは駆けながら気になる女性であるヴィアンカの姿を見つけ、ほっと胸をなで下ろした。
アディラに襲いかかるアンデッド達を排除するためにアディラの護衛チームは必死に戦っている。ヴィアンカもアディラに襲いかかるアンデッド達を排除するために必死に戦っていたのだ。
リュークはそのまま聖剣グランギアに魔力を込めると背を向けていたデスナイトを斬りつける。リュークの実力であれば背中からデスナイトを斬りつけると余裕で核を斬り裂きデスナイトは消滅する。
「リューク!!」
デスナイトを斬り捨てたリュークの姿を見てヴィアンカが嬉しそうな声を上げる。そのヴィアンカの声にヴォルグ達はニヤニヤとした表情を浮かべる。強力なアンデッドとの戦いの最中であっても妹分をからかう余裕はあるところは流石と言うべきだろうか。
ヴィアンカの言葉にアレン達も顔を綻ばせる。その表情を見てリュークも微笑み返す。
「アレン、手こずっているようだな。俺で良ければ手を貸すぞ」
リュークの言葉にアレンもニヤリと嗤うと返答する。
「ああ、正直助かるよ。もう少ししたらさらに増援が来る。その時に一気に攻勢に出るからそれまでそのアンデッドを斃してウォーミングアップをしておいてくれ」
「了解」
アレンの軽口にリュークはすぐに答えるとそのままアンデッド達を斬り伏せ始めた。その光景を見てフェルネルがアレンに忌々しげに言う。
『増援?攻勢? ふざけるな。貴様らに勝ち目など無い』
フェルネルの言葉にアレンはニヤリと嗤い返答する。
「嘘だと思うならどっしりと構えていろよ。小さい奴だな」
アレンの言葉にアルフィスがさらに被せてきた。治癒魔術による足の負傷が完全に癒えたのだ。
「まぁ、戦闘力自体は俺達個人よりも高いが器量が小さいのは事実だな」
『なんだと?』
「正直な話、リュークがここに来たというのは潮目が変わった事を意味している事に気付いてないなお前らは」
アルフィスの言葉にフェルネル達は訝しがる。
「あら、わからないんですか?」
そこに治療を終えたフィリシアが言う。フィリシアの言葉にフェルネル達はフィリシアに視線を向けると呆れた様に肩をすくめながらフィリシアは口を開く。
「リュークが救援に駆けつけてくれた。これで打ち止めだとどうして思えるんですかね?普通にこれからぞくぞくと増援が駆けつけてくると考えるのが普通でしょう。アレンさんはあなた達が甦った時のために色々と準備をしてきたんです」
フィリシアの言葉を受けてフェルネル達は自分達の認識の甘さに気付かされる。確かにリュークだけがここに救援に来るというのは甘いと言われても仕方の無い思考であった。
「お……来たな」
アレンがそう言うと転移の魔法陣が発生する。発生した箇所はアディラ達の十メートル程後ろの地点である。転移の魔法陣から現れたのはイリム達である。転移魔術から魔族が現れた事に対してフェルネル達は意外そうな表情を浮かべる。
「イリム、よく来てくれた」
「ああ、約束だからな。しかし……三体いるみたいなんだが、どれが魔神だ?」
イリムはアレンに尋ねる。
「この大剣を持ったデカブツが魔神フェルネルだ。あとの二体はイベルという邪神とその小間使いだ」
「なるほどね」
イリムはジロリとイベルとズフィリースに視線を移す。イリムは余裕のある態度を崩さないがフェルネル、イベル、ズフィリースが並大抵の実力者で無い事は当然ながら理解している。それでも余裕ある態度を崩さないのは弱気な態度を見せればつけ込まれるという考えからである。
「アレンそれから一つ頼みがあるんだが」
イリムはアレンに言う。
「魔神の死体だがベルゼイン帝国に持って帰って良いか? 陛下の命令でな死体を持ち帰れとの事なんだ」
イリムの言葉にアレンは頷く。
「ああ、もちろん構わない。だが全部持って帰れば今度はベルゼイン帝国が問題になるだろうから頭部か心臓かどちらかにしておいてくれないか?」
「それで良い。さて始めるか」
イリムがそういった所でアレンは首を横に振る。
「いや、攻勢はもう少したってからだ。もう少ししたら戦力が揃うからな」
アレンはそう言うと視線を移すのであった。
* * *
「ジェスベル、待たせたな」
「すまんすまん。ちょっと後れたようだな」
国営墓地の壁に空けられた箇所からアンデッド達と戦っていたジェスベルの元に声がかけられた。ジェスベル達にとって最も頼りになる男達の声である。
「遅いですよ。コーウェンさん、ダムテルさん」
ジェスベルは苦笑しながら言う。コーウェンとダムテルの登場にジェスベル達は明らかに安堵の表情を浮かべている。
「すまんすまん。避難していた所にアンデッド達が現れてな。始末していたらすっかり遅くなった」
コーウェンの言葉にジェスベル達は頷く。ジェスベル達も本気で二人を責めようと思ってなどいない。この二人が理由も無く異変の起こった国営墓地に駆けつけないはずは無いのだ。
「それでここに来たという事は何か状況の変化があったと言うことですか?」
ジェドが尋ねるとコーウェンは頷く。
「ああ、王城から陛下が出陣され自ら指揮している。王都に現れたアンデッド達を市民を守りつつ駆除しているところだ」
コーウェンの言葉にジェドは驚きの表情を浮かべる。いかに王都の危機とは言え国王自ら出陣するとは思っていなかったのだ。
「何を驚いている。陛下はそう言う方だぞ。しかも国王陛下自ら出陣ともなれば軍の士気の上がりようは天井知らずだ」
「だが士気は天井知らずに上がっているがアンデッド達もまた強力でな。軍もかなりの被害が出ているのは間違いない。そして、アレン坊やが魔神に敗れればこの王都は終わりだ」
コーウェンとダムテルの言葉に全員が顔を強張らせる。
「と言う事で、ジェスベル達とジェド達は国営墓地に入ってアレン坊や達の助太刀をしてきてくれ。ここは俺とダムテル、そして他の連中で食い止めてみせる」
コーウェンの言葉にジェスベル達とジェド達は頷く。
「黒剣の四人は俺達に付き合ってもらいたいな。流石にお前達まで抜けられては支えきれないかも知れない」
「わかりました」
ダムテルの言葉にアルガントは頷く。
「それでは行ってきます」
「ああ、頼むぞ」
「隊長達死ぬんじゃねぇぞ」
「帰ってくれよ」
ジェスベルが言うとメンバー達は口々に激励の言葉を贈る。その激励の言葉にジェスベル達は顔を綻ばせて国営墓地に入っていく。
「ジェド、シア、レナン、アリア……絶対に死なないでくれ」
「そうよ。あなた達は私とアルガントの結婚式に是非とも参加してもらいたいんだからね」
「イライザ、あんたどさくさに紛れて何言ってるのよ。アルガントは私と結婚するんだからね」
「もう、二人ともそんな事言っている場合じゃ無いでしょう。アルガントは私と結婚することになってるんだから意味ないわよ」
アルガントは真面目に言ったのだが、イライザ、ベシー、リベカが茶化すように言う。もちろん巫山戯ているわけでは無く少しでもリラックスさせようという心遣いからだ。
「あはは、これはアルガントが貴族にならない限りは解決しないな」
ジェドが茶化したように言うとアルガント達も苦笑する。
「じゃあ、行ってくる」
ジェドがそう言うとジェド達もジェスベル達の後を追って国営墓地に再び足を踏み入れたのだった。




