復活⑬
「兄さん!!」
ランゴルギアの勇者であるリュークが兄リオンの執務室に飛び込んできた時、兄のリオンは書類の仕事を行っていた。
「どうした?」
飛び込んできたリュークに対してリオンは尋ねる。
「俺は今からローエンシアに行ってくる」
「どういうことだ?」
「ローエンシアで何か異変が起こっているんだ」
「何だと?」
リュークの言葉にリオンは反応する。リオンはリュークがローエンシア王国の墓守であるアレンと友人関係にある事を勿論知っていた。
「アレンから渡されたこの魔珠の色が赤くなったときは救援のサインだと聞いていたんだ。そしてこの通りなんだ」
リュークはそういうと手にしていた魔珠が赤い光を発しているのをリオンに見せる。
「リューク、行け!! グズグズするな!!」
「はい!!」
リオンはすぐさまリュークに向かって叫ぶとリュークはすぐに部屋を出て行く。何事が起こったかを確認するよりも早くリオンはリュークに叫んでいたのだ。
アレンの実力の高さはリュークから聞き及んでいる。そのアレンが救援を求めるというのは余程の事態がローエンシア王国で起こっていることリオンはすぐさま察したのだ。国家の枠組みを超えた事態が起こっている可能性が高い以上、リュークを送り出すのに逡巡は無かった。
「リューク……頼むぞ」
リオンは執務室を出て行ったリュークに向かって小さく呟いた。
執務室を出たリュークはそのまま私室に飛び込むと自分の装備を身につける。聖剣グランギア、裏面に身体強化、防御術式を組み込んだ革鎧、魔石の入った袋、投擲用のナイフ、分銅鎖、盾を身につけると転移魔術を起動させる。渡された魔珠は結界をすり抜ける術式が組み込まれており直接アインベルク邸に転移することが出来るようになっている。
「さて、行くか」
リュークは一声発すると転移魔術でアインベルク邸へと飛んだ。
* * *
「アルティ!!」
ベルゼイン帝国の皇城のアルティリーゼの私室にイリムが飛び込んできた。イリムの後にエルカネス、ディーゼ、フォルグが続く。アレン達との戦いで負った傷もすっかり癒えている。
「どうしたの?」
アルティリーゼは私室に突然飛び込んできたイリム達を咎めるでも無く極自然に問いかける。
「これを見てくれ」
イリムがアルティリーゼに魔珠を見せ、赤い光を放っているのを確認すると目を細める。
「アレン達が救援を求めているというわけね。つまり……魔神が甦ったと言う事ね」
「ああ、俺達は今からアレンの所に助太刀に行くつもりだ。そこでアルティに許可をもらいたいと思って来たんだ」
イリムの言葉にアルティリーゼは少々不機嫌な表情を浮かべる。その表情を見てイリムは訝しがる。エルカネス達は“あっちゃぁ~”という表情を浮かべている。アルティリーゼがなぜ不機嫌になったのかを悟ったからだ。
「ねぇ、イリムあなたの言葉からは私は助太刀に参加しないという事になってしまうんだけど……?」
アルティリーゼの地を這うような低い声にイリムは自分の失敗を悟った。イリムとすれば三皇子が永遠に行方不明になった以上、ベルゼイン帝国の後継者アルティリーゼに決まったのだ。そのアルティリーゼを魔神とか言う危険極まる相手との戦いに参加させたくはなかったのだ。
「私も行くに決まってるじゃない。私達はアレン達との戦いに敗れ、協力を約束したはずよ。あなたは私に嘘つきの汚名を着せるつもりなの?」
アルティリーゼの言葉にイリムは気圧されそうになるが、何とか踏みとどまると反論する。
「ダメだ。魔神と呼ばれるほどの危険極まりない相手にアルティを連れて行くわけにはいかない」
「いやよ!!」
イリムの反論をアルティリーゼは一蹴する。アルティリーゼにしてみればその危険極まりない相手にイリム達を送り込み、自分一人だけ帰りを待つというのは拷問でしかない。
「アルティ!!」
「イリム、あなたは私を守り切る自信がないの? あなたは私をどんな時でも守ってくれると言ってくれたじゃない!!」
アルティリーゼの目に涙が浮かぶ。その涙を見てイリムは口をつぐんだ。アルティリーゼの涙には昔からイリムはめっぽう弱いのだ。
「イリム、私はあなたに守ってもらいたいの。そしてあなたを助けたいの!!」
アルティリーゼの言葉を受けてエルカネスがぼそりと呟く。
「俺達も行くんだがな」
「もう口を挟んじゃダメよ。良いところ何だから」
「お主らも黙っておかんか……」
仲間達の言葉にイリムとアルティリーゼは顔を赤くする。今更ながら自分達の先程までの会話は痴話喧嘩以外の何ものでもないことに気付いたのだ。
「えっと……その」
「ええと……」
イリムとアルティリーゼは恥ずかしそうに顔を伏せる。
「お前がアルティを守れば万事解決であろう」
そこに新たな人物が現れ声をイリム達に声をかける。その威厳に満ちた声の主を見た時イリム達は一斉に平伏する。声を発したのはイルゼム=コーツ=ヴェルゼイルだ。ベルゼイン帝国を一代で巨大な帝国に成長させた英傑である。
「アルティリーゼ、お主には魔神の死体を持って帰ることを命じる」
「はい」
アルティリーゼはイルゼムの言葉にニンマリと笑って答える。
「魔神の死体は瘴気を放ち続けるのじゃろう? と言う事はその死体を得ることが出来ればそれはベルゼイン帝国の国益にかなう行為ぞ。イリム、エルカネス、ディーゼ、フォルグ、お前達はアルティリーゼを助けよ。これは勅命である」
「「「「ははぁ!!」」」」
イルゼムの勅命を拒む事はイリム達の選択肢はない。その姿を見てアルティリーゼはニンマリと笑う。
(私でイリムの説得が叶わないならお父様に勅命を出させれば良いと思ったけど上手くいったわ)
アルティリーゼは心の中でそう思うとイリムを見る。イリムもアルティリーゼを見ていたようで両者の視線が交叉する。
「アルティ、聞いての通りだ。勅命が下った以上、お前も一緒に行く事になった。その……俺から離れるなよ」
イリムが僅かに頬を赤くしてアルティリーゼに言う。
「うん♪」
イリムの言葉にアルティリーゼは嬉しそうに微笑むのであった。




