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夜会②

 アレンにとって散々な始まりであった。


 品性下劣な生き物に絡まれ、よし明日には国を出ようと決心し、清々しい気分でいたところ、エルマイン公に嘘を見抜かれた結果、カウントダウンが引き戻されるという笑えない状況になってしまった。


「はぁ・・・」


 アレンの口からついため息が洩れる。周囲の楽しそうな話し声が正直、アレンにとってとても遠い世界に感じる。

 あのボンクラ貴族どものせいで,事態が悪化した。いずれ必ず報いをくれてやる。


 アレンの感情は半ば八つ当たりのものである。そもそも、嘘をついて欺そうとしたのはアレンなのだからそこは反省すべきであった。


 そんな負の感情に支配されそうになっていた時に、ローエンシア国王ジュラスが出席者に向けて挨拶というか演説を始めている。


 ジュラスの隣には王妃ベアトリクスとアディラが控えている。アレンはその様子を見て、『まぁ~絵になる家族だな』と思ってしまう。もう一人の幼馴染みであるアルフィスの容姿も大変優れているので、国王一家が揃えばさらにすばらしい絵になることは確実だった。


 そんなことを考えていると、国王の演説は終わったのだろう。出席者は一斉に拍手をする。ほとんど話の内容を聞き逃してしまっていたので、アレンはあわてて周囲に追従する。



 本格的に夜会が始まった。



-----------------------


 とりあえずどうするか・・・。


 まぁ、国王一家へのご挨拶だなと考えたアレンは、国王一家へ挨拶をするため歩き出した。

 国王一家は多くの出席者に挨拶を受けており、かなりの順番待ちの状況になっている。まぁこれは仕方がないことなので、アレンは黙って待つことにする。



 周囲の貴族達はアレンに対して、露骨な蔑みの目を向ける者、冷徹に無視をする者など様々だ。

 アレンにしてみれば、そのうち二度と関わる事のない連中なので、ひたすらどうでも良かった。



 そんな露骨な蔑みを向ける連中の中で、一際、にらみつける視線にアレンは気付く。


 ちらりと目をやるとにらみつけていたのは、アレンと同年代の少年であった。亜麻色の髪に整った目鼻立ち、アレンよりも身長はわずかに高く、均整のとれた体格をしている。どこかで見た記憶もあるのだが、思い出せない。

 貴族にとって、顔を覚えるというのは必須なスキルなのだが、アレンはさっさと貴族をやめたいと思っているので、どうも真面目に覚える気がしなかったのだ。


 その亜麻色の髪の少年がアレンのもとに近づいてくる。嫌悪感を隠そうともしない少年にアレンは、不快な気分にさせられる。

 その少年はアレンの前に立ち、挑戦するような口調で告げる。


「アインベルク・・・卿はここで何をしている?」


 問われた意味が分からなかったアレンは、返答できない。いやしなかった。


(こいつは何を言ってるんだ?)


 ここにいるのは国王一家への挨拶のためであり、貴族の義務として別に不思議なことではない。


「もちろん、両陛下、王女殿下へのご挨拶のためです」

「貴様、身分をわきまえたらどうだ?」

「なにがです?」


 少年は敵意むき出しにアレンに絡む。アレンとしたら意味が分からないのだが、とりあえずこの少年の言うことに従う義理はないので、反論する。


「主催者に対してご挨拶申し上げるのは、招待された側としては至極、当然の事ではないですか?身分を弁えろとあなたはおっしゃいましたが、あなたは道理というものを弁えたらいかがです?どなたかは知りませんが初対面でいきなりそのような不躾な事をいうのは恥ずかしくはないのですか?あなたのご両親はまともな教育をされなかったというわけですね。身分云々ではなく必要最低限の常識を身につけてから人に話しかけるように努力してみてください。まぁあなたのような表面上の事しか見えない方に言っても半分も理解できていないことでしょうから、無駄な忠告というのは百も承知なんですが、もう少しまっとうな人間になられることを心から期待します」


 ほとんど息継ぎ無しに少年に言葉という名の攻撃を叩きつける。最初は目を白黒させていたが、自分が侮辱されたことに気付いたのだろう。怒りの表情がわき上がり、爆発しようとする。

 少年の爆発を察して、アレンが機先を制する。


「こんなところで、大声を出せば、恥をかくのは私ではなく、あなたの家ではないのですか?王族主催の夜会で刃傷沙汰・・・あなたの家にあなたはどれだけの傷をつけるのでしょうね?」

「くっ・・・」


 確かにこんなところで、大声を出し王族の不興を買えばどれほど家名に傷がつくか。そして、どれだけ自分に不利益かを少年は察した。

 爆発を封じられた少年をさらに不快にさせる言葉をアレンは発する。


「ところで、先程も言いましたがあなたはそもそも誰ですか?」

「なっ・・・」

「初対面でいきなり突っかかってこられたのです。せめて名前ぐらいは覚えてみようと考えているので、名前教えていただけますか?ああ、嫌なら別にいいですよ。義理で聞いただけですので」


 アレンの言い方は本当に無礼以外の何者でもなかった。だが、アレンにしてみればいきなり身分をかさに見下してきたのだから、少年に対して好意を持つことは不可能だった。それゆえに、完全に喧嘩を売ったような対応になっていた。まぁ、自業自得とはいえ、カウントが50になってしまった苛立ち少年にぶつけたとも言える。


「貴様!!このゲオルグ=ヨアヒム=ハッシュギルを侮るか!!」

「ああ、そうですか。じゃ」


 アレンはゲオルグと名乗った少年にまったく関心を払う事なく『じゃ』の一言で片付け席を離れようとした。当然、ゲオルグにしてみれば無礼の極致であり、何が何でもこの無礼者をひれ伏させないと納得出来なかった。

 ゲオルグはアレンの方を乱暴に掴もうとしたが、掴むことは出来なかった。アレンはするりとゲオルグの手をすり抜け、さっさと王族の近くに移動する。ゲオルグもさすがに王族の近くで騒ぎを起こすことは出来ないため、じっと堪えることにする。



--------------------


 ゲオルグの家のハッシュギル家の爵位は侯爵だった。ゲオルグは父親であるハザル=フィラ=ハッシュギルからアディラ王女とを籠絡しろと言われていたのだ。

 アディラ王女には婚約者はいない。そのアディラ王女と婚約する事が出来れば、王族とのつながりが生まれ、ハッシュギル家にとって誠に有意義だったのだ。

 だが、ゲオルグは父親の命令以上にアディラとの婚約を望んでいた。要するにアディラにゲオルグは恋していたのだ。アディラの15才での社交界デビューのお披露目でアディラを一目見たとき心を奪われてしまっていたのだ。

 それから猛アプローチを繰り返したが、完全に袖にされている。それでも諦めずゲオルグはアプローチし続けた。

 そんな時にアディラとアレンとの会話を聞いてしまったのだ。しかも、アディラはアレンをお茶に誘っていたのだ。しかもアディラの表情は完全に恋する乙女そのものであったのだ。

 ゲオルグは世界が壊れる音を聞いた気がした。


 その、アレンティス=アインベルクが今夜、夜会に出席し王族への挨拶をするというのだ。アディラに近づけるわけにはいかないとアレンに難癖をつけようとしたのだが、アレンはまったく恐れることなくゲオルグに罵詈雑言を叩きつけ、無礼極まりない態度でさっさと言ってしまった。


 ゲオルグはアレンに対する全てを許すことは出来なかった。ゲオルグ個人としても、家の名誉にかけてもだ。


「このままではすまさんぞ」


 ゲオルグの声に確かな陰がやどった。

アレンが方々に敵を作っています。伏線のつもりですが、回収できるかどうかわかりません。一応ネタ切れのときのためにタネをまいているだけです。

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