復活⑨
「さて、あなた方はいますぐ国営墓地に向かいなさい」
アインベルク家の家令ロム=ロータスが約二百人もの男達に命令を下していた。男達はみな恐怖の表情を浮かべているがロムの言葉に異論を唱える者はいない。この約二百人の男達は当然、行動制限をかけられた駒達だ。
「オルカンド、リオキル、あなた達は私達とこのアインベルク邸を守りなさい」
「「はっ」」
ロムの言葉に背後に控える二体の魔人が恭しく答える。キャサリンはナシュリム達ナーガに視線を移すと静かに言う。
「ナシュリム達も同様にこの屋敷を守ってください。レミア様の新たな指示が無い以上、あなた達は古い命令を遵守するべきです。すなわちこの屋敷の警護があなた方の任務である以上それを遂行してください」
「はっ!!」
キャサリンの言葉にナシュリムは即座に返答すると他のナーガ達も一斉に平伏する。ナーガ達の戦力を考えれば国営墓地に行かせるのが良いのかもしれないが、足手纏いになる可能性も否定できない。またナーガ達にロム達は命令する権限を厳密には有していなかった事もナーガ達を国営墓地に送り出すことを躊躇わせたのだ。
「心配しなくてもここもすぐに戦場になるでしょう。私達の仕事はアレン様達をお迎えすること、そのためにはこの屋敷を守り切らねばなりません」
「「「はっ!!」」」
ロムの言葉に魔人、ナーガ達は即座に返答する。国営墓地から放たれる禍々しい気配をこの場にいる者達は察している。
ドゴォォォォォォ!!
その時、国営墓地の方角から凄まじい爆音が発せられる。すぐにロム達は爆音のした方向に眼を向けるとロムとキャサリンは眼を細める。
ドゴォォォォォォォ!! ドゴォォォォォォォ!!
さらに二回の爆音が響き、ロムとキャサリンの表情は険しさを増した。
「キャサリン……」
「はい」
ロムはキャサリンの名を呼ぶとキャサリンは全て分かっているとばかりに頷く。キャサリンの返答を見てロムは頷くと全員に向けて新たな指示を出す。
「先程までの指示は撤回です。このまま全員で国営墓地に向かいます」
ロムの言葉に全員が驚きの表情を浮かべる。ロムは滅多な事では指示を変えたりしないのだ。そのロムが指示を変えるという事はその滅多な出来事が起こったと言う事に他ならないのだ。このような場合にはロムとキャサリンは最も最善と思う手段をとるのだ。
「それでは行きますよ」
ロムが静かに言うと国営墓地に向かって走り始め、それに全員が続いた。
「あなた……壁が……」
キャサリンの言葉にロムは頷くと走る速度を速める。キャサリンの言葉通り国営墓地をぐるりと取り囲む壁が二箇所消しとんでいるのが目に入る。
「もう一箇所まで手が回らんな……」
ロムは先程聞こえた爆発音の数と消しとんだ箇所の数が一致しないため、消しとばされた箇所はもう一箇所ある事を察する。この近くに無い事を考えるとどこか別の場所である事は間違いない。そしてその消しとばされた箇所からアンデッドが王都に出て行こうとしている事からここでアンデッド達を食い止める必要がある。目の前の二箇所は防ぐことが出来るのだがもう一箇所までは手が回らないのは確実であった。
「そちらの方は別の方々に任せましょう。私達はこの二つを塞ぐことに集中するとしましょう。どうやら結界も消えているみたいですし」
キャサリンの言葉にロムは静かに頷く。
「ひ、デスナイトだ」
「おい、あれって死の狂戦士だ」
「リッチまでいるぞ」
駒達の中から悲鳴にも似た声が上がる。消しとばされた箇所から現れたアンデッド達の禍々しさに一気に死を恐れる本能が刺激されたのだ。
「キャサリン、先に私が突っ込みますのであなたは駒の統制を頼む」
「わかりました」
ロムはそういうと一気に速度を上げる。アンデッド達はロム達一行を発見するとそのまま一斉に襲いかかってきた。アンデッド達は生者を襲うというテンプレの行動から湧き出てきたアンデッド達はロム達一行に向かってきたのだ。
(これは幸運ですね。生きている者がいる限りここのアンデッドはこれ以上広がることはないということ)
ロムはニヤリと嗤う。アンデッドはそのロムの嗤いを意味するところをまったく理解すること無く突っ込んでくる。
ロムに襲いかかったデスナイトは大剣を振り上げるが振り下ろす前にロムはデスナイトの懐に潜り込むと強化した貫手でデスナイトの胸を貫く。ロムの貫手は同時にデスナイトの核を貫いており塵となって消滅する。
ロムは一体のデスナイトを消滅させると次のアンデッドに襲いかかる。ロムのすさまじ威力の蹴りが放たれるとまともに受けた死の狂戦士はそのまま吹き飛ばされた。
そのままロムは二箇所の壁に空いた場所から出てくるアンデッドを殴り飛ばし、アンデッド達を押しとどめる。そこにキャサリンが魔術を連発する。放たれた魔術は魔矢という初級的なものであるがその精度、威力は凄まじいものである。次々と放たれた魔矢はアンデッド達の核を次々と撃ち抜いていく。
「あなた達は一つの穴を塞ぎなさい」
キャサリンの言葉に駒達は恐怖の表情を浮かべながら突っ込んでいく。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
「うぉぉぉぉぉ!!」
「かかれぇぇぇぇぇぇえ!!」
駒達がアンデッド達に突っ込んでいく。突っ込んでいくアンデッド達の中にはデスナイト、死の聖騎士、死の狂戦士、リッチ、死の隠者などがいる。
突っ込んでくる駒達にリッチと死の隠者が一斉に火球を放った。
「ぎゃああああああああ!!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!」
火球の直撃を受けた駒の男があっという間に炎に包まれ地面に転がるがすぐに動かなくなる。
魔人のオルカンド、リオキルが前面に立つとアンデッド達に突っ込むことにより駒達は
何とかアンデッド達に突っ込んで行く事が出来た。
「がぁぁぁぁぁ!!」
「ひぃぃぃぃ!!」
「へぎゃ……!!」
だが突っ込んでいくことが出来たからと言って駒達が勢いづいたわけでは無い。デスナイト、死の聖騎士、死の狂戦士達は一斉に反撃に転じあっという間に数人の駒が肉片と鳴り命を散らした。だが、オルカンド、リオキルの魔人、ナシュリム達ナーガの魔術の支援、駒達の中でも九凪、鬼尖、アグレオ達ミスリルクラス、ガルディス、元リンゼル達という一定の強者(アレン達から見ればそうでもない)の奮戦により戦線は崩壊しなかった。
(ふむ……何とかここは食い止めれることができましたが、時間が経てばそうはいかなくなりますね)
ロムはデスナイトを消滅させながら何とか状況を好転させる手を考え始めていた。




