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復活②

「アレンどうするの?」


 レミアがエルヴィンが先程までいた場所を見ながらアレンに尋ねる。


 カンカンカン……カンカンカン……


 アレンが答えようとすると遠くから鐘を叩きならす音が聞こえてくる。夜の帷がおりた時刻にこのように鐘を叩き鳴らす事などアレンにとって経験の無いことである。明らかに何か異常状態があったのだ。アレン達のように雰囲気で察するのでは無く“目で見える形”の異常状態がだ。


「準備を整えて国営墓地に向かう」


 アレンの言葉に三人は頷く。アレンとすれば一刻も早く国営墓地に駆けつけたいのだろうが焦ることで全滅という事になれば目も当てられないのだ。


「みんな!!」


 そこにカタリナがやって来る。その表情には緊張の表情が浮かんでいる。


「後れてゴメンね。ちょっと準備に手間取っちゃって」

「気にしないでくれ。アディラ達がくるまで俺達は国営墓地には入らない事になった」


 アレンの言葉にカタリナは驚く。てっきり国営墓地にすぐに突入すると考えていたのだ。


「今はエルヴィンさんが国営墓地に入っているんだ。俺達は準備が出来次第入ってくるようにだってさ」

「でも……」


 カタリナが異議を唱えようとしたときにフィリシアがそれを制止する。カタリナが不思議そうな視線を向けるとフィリシアは顔を横に静かに振る。そしてレミアとフィアーネも同様だった。アレンの表情は飄々としているが右手を握りしめている。アレンのその行動に四人はアレンがいかに歯がゆい思いをしているのかを察したのだ。


(あ、いかん。つい……父上達ならこんなあからさまな態度はとらないな)


 四人の反応からアレンは焦りが周囲に伝わっている事を感じると密かに恥じる。責任者の不安は仲間に伝達しやすいそれは最もやってはならない事だ。


「ふっふふ~アレンがこんなに焦るなんてカワイイ所あるじゃない♪」

「そうね。こんなアレンを見るのは初めてね。私達で守ってやらないと♪」

「二人とも何言ってるんです?アレンさんはカワイイ所だらけですよ♪」


 フィアーネ、レミア、フィリシア達は突然明るい声で話し出す。アレンの焦りを感じた三人が和ませるための会話である事は間違いない。


(本当に俺の婚約者達は……良い女だな)


 アレンはそう思うと自然に三人に近付くとフィアーネを抱きしめる。突然抱きしめられたフィアーネはアレンに抱きしめられている事に気付くと真っ赤な表情を浮かべる。


「ふぇ!! ちょっとアレンいきなりどうしたの!?」


 アレンの抱擁にフィアーネはあたふたと慌てるが拒否すること無くアレンの行動を受け止めるとアレンの背に手を回す。しばらくしてアレンはフィアーネの体を離すと今度はレミアを抱きしめる。


「はいぃぃいぃ!!」


 次に抱きしめられたレミアも最初は体を硬くするがすぐに緊張を解くとアレンの抱擁を受け止める。その表情は幸せそのものというところだ。アレンはレミアから体を離すとフィリシアを見る。フィリシアは次のアレンの行動を察すると幸せそうに微笑む。


「えへへ」


 アレンに抱きしめられたフィリシアは幸せそうに微笑む。フィアーネ、レミアが抱きしめられるのを見て心の準備が出来たのだろう。


「あ~~~~フィリシアずるい!!」


 そこの転移魔術でアレン達の前に現れたアディラが叫ぶ。その様子を見てアレンは微笑むとフィリシアから体を離すと今度はアディラを抱きしめる。どういう流れでアレンから抱擁を受ける事になったのかはわからないがアディラとすれば本当に幸運であった。だが、アディラにとってそんなことは大した問題では無い。この幸運を味わうのみである。


「ぐへへ~アレン様ぐへへ~」


 いつものアディラの残念な笑い声である。魔神が甦ったと思われる状況においてもいつも通りのアディラにアレン達は顔を綻ばせる。


「え~と……あのなぁ……婚約者同士の絆を深めるのは余所でやってくれないか……我々は同じ空間にいるんだぞ」


 妙に呆れた声を出すのはアルフィスである。他のメンバー達も口には出さないが同様の表情を浮かべていた。


「あ、すまんすまん。俺の婚約者達が可愛すぎてつい抱きしめずにはいられなかった」


 アレンの軽口にアルフィスはため息をつく。アディラの護衛達は全員が生暖かい目でアレン達を見ている。


「まったく……とりあえず、ここはどんな状況だ?」


 アルフィスがアレンに尋ねるとアレンは切り替える。そこのは先程までの焦りはない。婚約者達のおかげでアレンは落ち着きを取り戻していたのだ。


「魔神フェルネルはどうやら甦ったようだ。現在エルヴィンさんが国営墓地に先行している。俺達は準備が整ってから国営墓地に突入する」

「なるほどな」

「あとジェド達、ヴォルグさん達、ジェスベルさん達、暁の女神、黒剣こくけんが揃えば大丈夫だ」


 アレンの言葉にアルフィス達は頷く。現在、この場にいるのはアレン、アルフィス、フィアーネ、レミア、フィリシア、アディラ、カタリナ、ジュセル、メリッサ、エレナ、エシュレム、ラウラの十二名である。戦力としては申し分ないのだが魔神フェルネルが相手という事で万全を期したいところではある。


「アレン、ジェスベル達は俺の編成したチームと合流しているはず。その後は独立部隊の形を取っているから直接戦力として現段階では考えない方が良い」

「わかった。ジェスベルさん達なら独力でもやれるし判断は的確だ。俺達のいないところで良い働きを見せてくれるだろうな」


 アルフィスの言葉にアレンはそう答えると、そのまま続けて言う。


「こっちはそう言う状況だ。で、この鐘の音は何があったんだ?」


 今度はアレンがアルフィスに尋ねる。先程から鳴り響いている鐘の音の理由を知りたくなったのだ。


「正直把握していない。が鐘の叩き方から敵襲を示しているのは間違いない」

「王都に敵襲か……」

「状況から考えてフェルネルの手の者だな」

「まずい状況だな。王都には強力な結界があるからそう簡単に破られるとはいかないだろうが……」

「内側はそうではないな」

「そういう事だ」


 アレンとアルフィスはそう言うと互いに頷く。王都の外壁には強力な結界が施されているし、王都の守備隊も相当な強者揃いのために簡単に外壁を破られることは考えずらい。だが、外壁の中である王都はそうではない。もし、魔神が王都に配下の者達を放った場合は非常にまずいことになる。


「軍がすでに市民の誘導は始めているはずだ。ただし人数が多いため市民の誘導は時間がかかる」

「それでも混乱が引き起こされるよりも遥かにマシだ」

「そうだな」


 王都では戦場になった場合や災害があった場合を想定して、避難場所、避難経路を住民に予め周知徹底しているのだ。


「アレン!! みんな!!」

「王太子殿下!! 先生!!」


 そこにアレン達に声をかけてきた者達がいる。そちらの方を見るとジェド達、ヴォルグ達が駆けつけてきた。そのすぐ後ろに暁の女神の五人、黒剣こくけんの五人の姿が見える。


「よし、戦力が揃ったという事で国営墓地に突入する。みんな行くぞ」


 アレンの言葉に全員の顔が引き締まった。


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