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訓練①

 王都外にあるローエンシア王国の軍事訓練場に多くの人影がある。二百人程の男達の前に立つのは八人の男女である。その八人は年齢は十代半ばから二十代前半という感じである。

 アレンとロム、キャサリンの弟子であるヴォルグ、ウォルター、ロバート、ヴィアンカの四人とジェド、シア、レナン、アリアの『オリハルコン』クラス冒険者の四人である。まぁレナンとアリアはまだ『ゴールド』クラスであるが些細な事であろう。

 約二百人達の男達の装備は一貫性がなくバラバラである。烏合の衆と称されても反論することは難しい集団だ。もちろんこの男達はアレン達に捕縛された盗賊達であり、駒となった連中であった。


 ヴォルグが代表して男達に言い放った。


「さて、これからすぐに訓練を始める。君達は残念だが烏合の衆であり、魔神との戦いでは役に立つどころか足を引っ張りかねない。そのため、この訓練で足を引っ張らないレベルまで引き上げなければならない」


 ヴォルグの言葉に男達は不快気な表情を浮かべる。アレン達に行動制限の術をかけられているため表立って反抗するような事は無いが、それでも不快気な表情を消すことは出来なかったのだ。


「それでは早速君達を訓練するのは俺達四人だ。まずは五人で一チームを作れ、その後五人の中でリーダーを選出すること」


 ヴォルグはそう言うと男達は顔を見合わせる。約二百人の男達は動き出すことも無く出方を伺っているようだった。それはヴォルグを侮ってのことではなかった。いきなりの命令が理解できなかったのだ。


「何をしている!! 五人一組をつくれというのがそんなに難しい事では無いだろう。さっさと動け」


 見かねたウォルターが声を発する。その声に男達はとりあえず五人一組を形成するとヴォルグ達に視線を移す。


「よし、それでは選出されたリーダー以外は座れ」


 ヴォルグの指示に従い座る。立っている人数は五十二人だ。これだけで四人はこの一団の人数が二百九人である事がわかった。一つだけ端数が出ており一チーム四人でしか組めなかったのだ。

 

「それではリーダーは十人で一チームを作れ、二つ余るだろうから二つは十一人で一チームになる。分かれろ!!」


 ヴォルグがさらに指示を出すと今度はわりとすぐに四つのチームに分かれた。


「それではそれぞれチームでリーダーと副リーダーを選出しろ。決まったらそいつら以外は座れ」


 すると八人の男達が立っている状況になった。


「よし、各リーダーはこれで決まったな。それでは各員はそれぞれの五人一組のリーダーの元に集合しろ、その後、二列縦隊で並べ!!」


 ヴォルグのさらなる指示に男達は動くが、その動きは非常に緩やかであった。もっと別の言い方をすればダラダラとしていた。その様子をヴォルグは何も言わずに黙って見ている。ウォルター、ロバート、ヴィアンカも同様だった。


 かなりの時間をかけて四つの二列縦隊が出来上がった。その様子に四人は渋い表情を浮かべる。

 

「う~ん、時間がかかりすぎてるわね。これじゃあダメよね」

「ああ、ダラダラとしているのは間違いないな」

「しょうがない。各リーダーはこっちに集合!!」


 ヴィアンカとウォルターの言葉を受けてヴォルグが各リーダーを呼びつける。四つのリーダーが戸惑いながら四人の前に進み出る。この状況に四人は戸惑っているようだ。この四人は各盗賊団の頭目達ではない。頭目達はリーダー選出の際に様子を見るために最も立場の弱い者に押しつけたのだった。


「君達はリーダーに選出された以上リーダーだ。これまでの力関係は何の意味ももたないので遠慮無く指示しなさい」


 ヴォルグの言葉に四人は顔を青くする。自分達の頭目にも命令を下せと言っているのだからその困難を知る四人とすれば当然の反応だった。


「よし……話は以上だ。戻りなさい」


 ヴォルグはそう言うと四人は戻っていく。そして二百人の男達に向け言い放った。


「君達の行動が遅すぎるからもう一度集合、整列を行う。我々の背後に今並んでいる二列縦隊に並び直しなさい。移動開始!!」


 ヴォルグがそう言うと先程呼ばれた四人のリーダー達は声を張り上げて動きを促す。


「急げ!!」

「こっちだ、各リーダーはそれぞれメンバー達を動かしてくれ!!」

「早く!!」

「こっちだ。急ぐんだ!!」


 四人のリーダー達は声を張り上げる。ヴォルグから直接命じられた以上、もし成し遂げられなければどのような目に遭わされるかを察したのだ。ところが直接言われなかった他の男達は相変わらずダラダラと移動している。四人はそれを黙って見ている。ジェド達は視線を交わしながら肩をすくめている。

 ヴォルグ達四人は非常に礼儀正しく、優しいのだがその優しさは決して無制限では無い。


「あ~あ、あの人達が優しく接しているうちに改めれば良いな」

「無理じゃないの?」

「……シアの言うとおり……頭が悪い」

「……愚かね」


 ジェド達の会話はこの後に何が起こるか当然理解している者達の声である。ダラダラとかつニヤニヤとしながら移動する連中を見てため息をつきそうな感じであった。


 たっぷりと時間をかけて再び整列した男達に向かってヴォルグは言葉をかける。


「それでは全員座れ」


 ヴォルグの言葉に全員が座ると近衛騎士達四人は約二百人の男達の中から数人を呼び出す。全員が呼び出された男達を見てゴクリと喉を鳴らす。四人の近衛騎士達に呼び出されたのは七つの盗賊団の頭目達だったからだ。

 呼び出された七人はふてぶてしく近衛騎士達四人の前に立っている。口頭注意と思っているのだろう。だが今度は口頭注意で無い事は次の瞬間に思い知らされた。


 七人の男達がほぼ同時に宙を舞ったのだ。近衛騎士達四人が拳、蹴り、肘などを放ち七人の頭目達を宙に舞わせたのだ。数メートルの距離を飛び地面に落下する自分達の頭目を見て二百人の男達から四人に対して恐怖の声が上がった。


「さて、リーダーの命令に従わなかった貴様ら全員ぶちのめしても良かったんだが時間の無駄になるからこいつらだけにしておいてやる。貴様らの頭が悪いことは想定してたから二度までは許してやる。もう一度やるというのならどうなるか少しは考えて見ろ」


 ヴォルグの言葉に男達は震え上がる。アレン達の恐ろしさが際立っていたために男達はこの四人を舐めていたのだが実力を知っていれば甘く見るような四人では無いのだ。


「さて、それではもう一度俺達の背後に二列縦隊で並べ」


 ヴォルグの再びの指示が出されると男達は先を争うように四人の背後に並んだ。


「クズ共が出来るなら最初からやれ」


 ヴォルグは男達を威圧する。威圧された男達はガタガタと震える。アレン達には及ばないが放たれる圧迫感は相当なものであり盗賊達如きではまったく抗しきれるものではなかったのだ。


「さて、ようやく準備が整ったな」


 ヴォルグが言うと三人は頷く。


 駒達の軍事行動訓練が始まったのだ。



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