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準備①

「駒が足りない……」


 アインベルク邸のアレンの執務室でアレンがそう呟くとフィアーネ、レミア、フィリシア、カタリナは完全に同意という表情を浮かべる。イリム達との戦いでガルディスの率いていた盗賊達は全滅、九凪くなぎ鬼尖きせんもそれぞれメンバーを減らしている。

 アグレオ達をエルゲナー森林地帯から呼び戻したが駒の数を補完しきれたかというと微妙な所である。もちろん暁の女神、黒剣こくけんという一流どころが加入してくれた事により戦力としては遥かに強化されたのだが、数が少ないのだ。


「困りましたね。確かにアレンさんの言うとおり駒の数が圧倒的に足りませんね。魔神が配下の者を一斉に王都に放った場合は私達では対処しきれません」


 フィリシアの言葉にアレン達の表情は一斉に渋いものになる。暁の女神からもたらされた情報は魔神は国営墓地の外側に眷属を放つ事が可能であるというものである。この情報は実はアレン達にとってかなり衝撃であったのだ。

 アレン達にとって最悪の展開は魔神が復活した国営墓地の結界を破り王都が戦場となるというものであったのだが、暁の女神からもたらされた情報からいきなり王都が戦場となる可能性が高くなったのだ。そうなるとアレン達の少数精鋭の戦力(駒は除外)では対処しきれないのだ。

 アレン達は魔神を討ち取る事に集中すれば良いのは頭では理解しているのだが無辜の市民が蹂躙される様を見せられるのは限りなく嫌だったのだ。


「その場合に一番活躍するのは間違いなくアディラね。でもそうすると私達がアディラの支援を受けることが出来なくなるわ」


 レミアの意見には全員が頷かざるを得ない。アディラは王都中に発生した場合、魔神の配下を斃すのに最も効率が良い戦力だ。だがそちらにアディラを向かわせてし合えばアレン達はアディラの支援無しで魔神と戦う事になるのだ。アレン達とすればそれは避けたい所であった。


「う~ん、やっぱり駒の確保は必要だな。そいつらを使って市民の皆さんが逃げる時間を少しでも確保したい」

「そうね。でも最近暗殺者もこないし、闇ギルドがちょっかいをかけてくることもほとんど無いのよね」


 レミアの言葉にフィリシアも同意する。


「私にちょっかいを出してきた『フィゲン』とかいう闇ギルドのような頭の足りない連中は少なくなったのよね」

「う~ん、治安が良くなったとみるべきか、それとも私達に絡んでこなくなったのどっちかしら……」


 レミアの言葉にアレンが答える。


「残念だけど闇ギルドや盗賊の数が少なくなったというわけじゃ無いらしい。単に俺達に絡んでこなくなったというだけみたいだ」

「闇ギルドと近辺の盗賊を私達が狩りすぎたと言う事?」

「そういう事だ」


 アレン達の会話を聞いた者はおそらく驚く事だろう。何しろ闇ギルドや盗賊というのは一般市民にしてみれば恐怖の対象なのにアレン達からは恐怖の対象ではなく単に利用するための存在としかとらえてないのだ。


「じゃあ、私達が駒を確保するのは難しいと言う事ね。うちの領内にも最近は静かなもんだもん」

「そりゃそうだろ。お前の家にちょっかいを出すなんて無謀を通り越して自殺志願者でしかないだろ」

「そうよね……お兄様に捕まれば確実にダンジョン作りの労働力にさせられちゃうわ」

「やっぱりか……」


 フィアーネの言葉にアレンは小さく呟く。以前ジュスティスが捕まえた盗賊達を裁いた時に全員鉱山に送っていた。鉱山は掘り終えればジュスティスにとってダンジョンの題材となるのだ。

 ジュスティスも盗賊達にはまったく容赦をするような事をしないため、ジャスベイン家の鉱山に送られた盗賊達は半年持てば奇跡と言われるほどであった。ちなみに苛烈な扱いを受けるのは、犯罪者達のみであり、まっとうな鉱夫達の扱いはすこぶる良かった。


「まぁそれは置いといて……アレンどうする? 手持ちの駒は増えないという事で、傭兵や冒険者を雇う事にする?」


 フィアーネの言葉にアレンは首を横に振る。


「傭兵や冒険者を雇うのは当然だが彼らを無駄死にさせるわけにはいかない。だからこそ使い潰す事前提の駒が必要だ。俺が考えているのは軍務卿に盗賊、闇ギルドの情報をもらいこっちから出向いて駒にするという方法だ」


 アレンの言葉に三人は賛同するような表情を浮かべるがそれでも難しい表情を浮かべる。フィリシアがアレンに向かって言い辛そうに口を開く。


「アレンさんの考えは理解しましたけど、捕まえて裁判を行えばそれは膨大な時間がかかりますよ。魔神の復活に間に合うでしょうか?」


 フィリシアの意見にアレンは頷く。


「フィリシアの言うとおり普通の手続きでは間に合わない可能性がある。そこで陛下、宰相閣下、軍務卿にがんばってもらおうと思う」

「「「?」」」


 アレンの言葉に三人は首を傾げる。その様子を見てアレンはさらに続ける。


「魔神討伐が終わるまで俺に盗賊、闇ギルドの連中を裁き、駒にするという権限を与える特措法を制定してもらう」

「特措法?」

「ああ、特措法を制定してもらう事で法的根拠、大義が手に入る」


 アレンの言葉に渋い顔をしたのはレミアだ。アレンの意見は非常に危険なものに思われたからだ。


「私は反対よ。アレンは裁判を取り仕切った経験は無いでしょう。素人がそんなものに手を出せばろくな事にならないわ。もし冤罪で裁いてしまったらアレンは絶対に苦しむわ」


 レミアの言葉にアレンは頷く。


「普通はそうだろうな。だからこそ冤罪を無くすために慎重に審理に時間をかける。だが、冤罪を無くす方法があるんだよ」

「え?」


 アレンの言葉にレミアは驚く。


「こっちにはフィアーネとフィリシアがいるだろ?」

「……そう言う事か」


 アレンの言葉の意図を察したレミアは納得の表情を浮かべる。


「フィアーネとフィリシアに捕まえた者達に行動制限の術をかけてもらう。そうすれば俺達に嘘をつく事は出来ない」


 アレンの言葉に三人は納得したようだ。


「どうやら納得してくれたようだな。だがあくまでこれは特例にしておかないといけない。しかも前例にならないのが望ましい」


 アレンの言葉に三人はアレンの苦悩を察した。アレンは本来手続きをものすごく大事にする。そのため今回のアレンの特措法という考えは思い切りアレンの矜持に反するのだ。だがそれを曲げてでも魔神に備えるべきと言うアレンの考えはそれだけ魔神を警戒している事に他ならないのだ。


「そうね。私達も気を引き締めていかないとね」


 レミアの言葉にアレンは微笑む。





 このアレン達の会話から一週間で特措法が制定された。この特措法の制定によりアレンの対魔神の準備はさらに進む事になったのだ。



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