参戦①
「二ヶ月ぶりの王都だな」
ローエンシア王国の王都フェルネルを目前にジェドが隣のシアに言うとシアは微笑みながら返答する。
「そうね。仕事と言うよりも武者修行の旅だったわね」
「……つかれた」
「みんな、ものすごく強くなった」
シアに続いてレナン、アリアが言う。
「それに頼りになる仲間も増えたしな」
ジェドが後ろを振り向くと一台の荷車がジェド達の荷車についてきている。後ろの荷車には五人の人影が見える。冒険者チームの『黒剣』であった。
ジェド達と黒剣はこの二ヶ月間行動を共にしており数々の仕事を共に完遂してきたのだ。出会った頃の黒剣のリーダーでアルガント=コームはジェドへの対抗心を燃やしに燃やしていたのだが、その段階を過ぎた今となってはすっかりジェド達の良き友人になっていた。
元々ジェドとシアに対抗心を燃やしていたのはアルガントだけであったので、アルガントが対抗心を燃やすのをやめてしまえば同年代ということもあり仲良くなるのに時間はかからなかったのだ。
黒剣はジェド達と数々の仕事を共にしたために実力もどんどん上がっていった。それに伴い冒険者ランクも上がり現在の黒剣は『プラチナ』クラスである。
「うん……あの四人もすごく強くなった」
アリアの言葉にシアも頷く。
「そうね。個別の実力だけでなく連携の練度もどんどん上がってるわ」
「確かにアルガント、イライザが前衛、ベシーが遊撃、リベカが後衛……あの連携は正直中々敗れないな」
「お互いがお互いをフォローしてるから負けないのよね」
「うん、それにあの四人との旅も楽しい」
「そうだな。この二ヶ月大変だったけど楽しかったな」
ジェドがそういうと全員が頷く。実際の所この二ヶ月は武者修行と言う言葉が出るぐらいなので中々ハードな旅だったのだが、それすらもこの四人にとっては楽しいものであったのだ。ジェドとシアは最初に所属していた冒険者チームが解散しそれからずっと二人でやって来てたし、レナンとアリアに至ってはずっとお互い以外にいない世界にいたのだから大人数で移動し、苦楽を共にするという経験は非常に楽しいものだったのだ。
そんな会話をしていると王都フェルネルの門に到達する。そこには王都に入るための人々が列をなしている。検問があるために王都に入るにはそれなりに時間はかかるのだ。正直面倒なシステムだと思うが、王都の中に怪しい人物や禁制品を素通りさせることは出来ないので当然の措置ではあった。
ちなみに王都への入城の際に税を徴収されることはない。数代前のローエンシア国王が廃止したのだ。その結果商人が王都には集まりやすくなり王都の経済は活気付くことになった。そこからあがる税収は明らかに通行税よりも遥かに上回っていたのだ。
「ジェド」
背後から声をかけられ振り返るとイライザが立っている。
「どうした?」
「王都に入ったらまずどうするつもりだ? ギルドに行くのか?」
イライザの言葉にジェドは迷わず言う。
「ああ、まず宿で旅塵を落とそうと思う。それからアレン達の所に向かおうと思ってるんだ」
「アインベルク侯の所?」
「ああ、黒剣のみんなをアレン達に紹介したい」
「私達を!?」
ジェドの口から発せられた“アレン達に紹介”という言葉に驚く。
「ああ、アレン達は常に人材を求めている。以前、黒剣のみんなの話をしたらアレンはみんなを紹介してくれって以前から言われていたんだ」
ジェドとシアがレナンとアリアを助けた時に黒剣の助けてもらったと伝えたところ紹介してくれと言われていたのだ。アレン達はカタリナの採集の時に挨拶を交わしただけであり、知人の域にまで達していなかったのだ。
「あくまでみんなの了承を得たらだ。旅塵をおとしてから確かめるつもりだったんだ」
「そうだったの、私としてはアインベルク侯に紹介してもらえるのは嬉しいわね」
「それじゃあ、アルガント達に伝えておいてくれるか」
「わかったわ」
イライザはそう言うとアルガント達のところに戻っていく。
イライザが戻っていってしばらくして検問の順番になり、ジェド達は無事王都に入った。その後、宿をとると旅塵を落としアインベルク邸に向かったのであった。
アインベルク邸に到着したジェド達と黒剣をロムは喜び早速アレンに伝えるとアレン達が出迎えるとサロンに案内した。
ジェド達と黒剣の面々が着席するとアレン達も着席する。アレン側はアレン、フィアーネ、レミア、フィリシアとアディラの五人だ。
「まずは改めましてアレンティス=アインベルクです」
「アレンの婚約者のフィアーネ=エイス=ジャスベインよ。よろしくね♪」
「レミア=ワールタインです」
「フィリシア=メルネスです」
「アディラ=フィン=ローエンです。黒剣のみなさんよろしくお願いします」
アレン達側のあいさつに黒剣の面々は驚く。アレンの四人の婚約者の存在は当然知っていたがその中に王女であるアディラがいた事に流石に驚いたのだ。
「黒剣のリーダーのアルガントです」
「イライザです」
「ベシーといいます」
「リベカです」
黒剣もアレン達に続いて挨拶をする。今やアレンとその婚約者達は冒険者達の中で有名人中の有名人だ。ゴルヴェラ11体を討ち取った武名は鳴り響いているのだ。
「ジェド、ここに黒剣のみんなを連れてきたと言う事は……」
「ああ、この黒剣は俺達が信頼する冒険者チームなんだ」
「そうかジェド達がいうのなら腕前は確かという事だな」
「ああ、冒険者ランクはプラチナだけど俺はミスリルであってもおかしくないと思っている」
ジェドの言葉に予想外の高評価でアレンに紹介されることになったアルガント達は狼狽える。
「アルガントさん、俺とすればあなた達黒剣を雇い入れたい」
「俺達を?」
アレンの申し出にアルガントは驚きの表情を浮かべる。前回のエルゲナー森林地帯での採集はギルドからの紹介の結果であり、アレン自身が選んだものでは無い。だが今回はジェドの評価を聞いて自分達を雇うという。これは似ているようで少しばかり事情が異なる。よりアレンの意思が強く出ているとアルガントは感じたのだ。
「俺達に何をやらせるつもりです?こういっては何ですが俺達がアインベルク侯の助けになるような実力を有しているとは思えません。せいぜい捨て駒にして使うぐらいしか使い途はないでしょう」
アルガントは決して卑屈な性格をしているわけではない。だが二ヶ月の武者修行が彼の目を広くしたのだ。世の中には強者がおり強者であればある程、余裕ある態度、自然体であるのだ。
このサロンにいるアレン達、ここに案内してくれた初老の家令は自然体であり一切の圧迫感を受けるものではなかった。だが実力を高めたアルガント達はこのアインベルク邸にいるもの達の凄まじい実力を感じていたのだ。
「あなた達を捨て駒ですって? 冗談じゃ無いわ。私達はそんな愚か者じゃ無いわよ」
そこにレミアが口を挟む。レミアの言葉にアレン達は頷き、ジェド達も同様の表情を浮かべる。
「アルガント、確かにアレン達の実力を考えれば自分達との差に落ち込むのも十分に理解出来るが、アレン達は決して万能ではない。アレン達がこれまで勝ってきたのは実力という面もあるがそれ以上に準備を入念に行う事で勝利を手にしてきた」
ジェドの言葉にアルガントは沈黙する。
「もしアレン達が完全無欠ならばそもそも準備などおざなりになっている事だろうな。アレン達は強者だ。それは間違いない。だが万能ではない以上人の助けがいるしその事をアレン達自身が自覚している。黒剣を雇いたいというのはアレン達の準備のあらわれだ」
ジェドはさらに続ける。ジェド達から見れば最初アレン達は完全に雲の上のような存在でありまさに完全無欠の存在であった。だが付き合いを続けていく間にアレン達にも苦手なものがある事に気付いたのだ。
ちなみにアレンは婚約者が四人もいるくせに、恋愛が非常に苦手なのだ。そんなアレン達が上手くいったのはほとんど奇跡に近い。いや、周囲の外堀を埋める努力があったからに他ならないのだ。結局の所、絶大な実力を有するアレンであっても結構ミスを行っており、それを自覚しているのだ。
「そうよね。アレンってば結構抜けてるところあるもんね」
ジェドの言葉にフィアーネが賛同する。
「まぁそこもアレンさんの魅力という事で」
フィリシアも苦笑をしながらも否定しない。
「そうです。完全無欠なアレン様も格好良いけど、私はそういうアレン様の方が大好きです♪」
アディラもにこやかに言うが、アレンにしてみれば抜けている所を否定されていないので憮然とした表情を浮かべている。
「もうこの話は無しだ。まったくなんで俺が陥れなきゃならんのだ」
「ははは、すまんすまん」
アレンの言葉にジェドはきっかけを作った者として謝罪する。
「まったく……誠心誠意謝罪しろってんだ」
アレンはぼやきつつアルガントに視線を移すと口を開いた。
「まぁ、実際の所俺はみんなの助けがあにとそんな大した事は出来ない。俺一人の実力では限界はあるのは確実なんだ。そこで俺は現在人材を集めているんだ」
「一体、何があるんです?」
「あなた達は国営墓地にどうして毎晩アンデッドが発生するかその理由を知っていますか?」
アレンの言葉にアルガント達は沈黙した。世間一般に知られている理由ではない事は明らかであったからだ。
 




