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予兆④

 ローエンシア王国の王都フェルネルにあるアインベルク邸に暁の女神が訪れたのはイリム達との戦いが終わって五日後の事であった。

 イリム達との戦いの傷も癒えアレン達はすでに国営墓地の見回りに復帰していた。アインベルク邸に訪れた暁の女神から“重要な話”があると伝えられたためアレンは暁の女神を執務室に通す事になった。

 アレン、レミア、フィリシアと暁の女神の合計八人が執務室に設けられた即席に会議場で話を行う事になった。


「まずはアインベルク侯、お時間を取っていただきありがとうございます」


 リリアがアレンに場を設けてくれた事に対して礼を言い報告が始まった。


「いえ、皆さんから“重要な話”と聞かされれば時間を取るのも当然です」


 アレンの言葉にリリア達は頭を下げる。アレンの態度はまったく依然と変わらない。年長者への敬意をきちんともった丁寧な口調であった。


「ありがとうございます。今回私達は王都から馬車で約十日程の場所にあるエゴン村で仕事をしたんです。仕事内容はアンデッドの駆除です。アンデッドの駆除自体は何の問題も無く行えたのですがそこで妙な仮面を被った男と交戦することになったんです」

「仮面ですって?」


 リリアからもたらされた仮面という単語にアレンが反応し、レミアとフィリシアに視線を送ると二人が頷く。かつて国営墓地に現れた仮面を被った男とアレン達は二度戦っていおり、その仮面と暁の女神の言う仮面の男が繋がったのだ。


「アインベルク侯達はその仮面に心当たりでも?」


 アレン達の反応を見てリリアが尋ねる。他の暁の女神のメンバー達も情報の提供を求める表情を浮かべる。


「はい、実は皆さんが交戦した仮面を被った男と同陣営と思われる者と国営墓地で戦った事はあります」

「国営墓地……それで皆さんはその仮面とは?」

「もちろん斃しました。そこで一つ確認なのですがその仮面は一度殺しただけで済みましたか?」


 アレンの言葉に暁の女神のメンバー達は驚く。まさにその事を続けようとしたからだ。


「いえ、仮面の男は首を刎ねて殺したのですが蘇ってきました。二度斃したんですが二回とも蘇ってきました」


 リリアの言葉にアレン達も納得の表情を浮かべる。


「二度目の戦いの時には私は参加していないのですが、その仮面を斃したのはレミア、フィリシア、フィアーネの三人です。その中で一体の仮面は何度か甦ってきたという半紙です」

「一体?」

「はい三人の話では仮面は三体現れたという話でした。だったよな?」


 アレンの問いかけにレミアとフィリシアは答えると、そのままレミアが説明する。


「うん、三体のうち二体は一度斃したらそのままだったけど一体だけは死んですぐに蘇ってきたわ」

「あなた達はどうやってあの仮面の男を斃したの?」


 レミアの言葉にミアが尋ねる。殺しても蘇るような化け者をどのように斃したかが気になったのだ。


「殺す度に蘇ってきたので蘇らなくなるまで殺し続けました」

「え?」

「え?そんなんで良いの?」

「嘘でしょ……そんな事で良かったの?」

「蘇らなくなるまで殺し続けるって……」

「予想以上の力業ね……」


 レミアの返答に暁の女神の面々は呆れた様な声を上げる。レミアの答えは予想以上に力業だったのだ。


「以前、似たような能力を持った魔人が国営墓地に現れた事があったんですが、その能力と同じだったので試してみたら上手くいったんですよ」


 そこにフィリシアが補足説明を行う。


「魔人?」

「はい、魔人エーケンとか名乗ってました」

「魔人エーケンですって!?」


 フィリシアの言う魔人エーケンという名前に驚いたのはアナスタシアである。魔術師の間では魔人エーケンは凶悪な魔人として認知されている。魔術師達の多くが信仰する『メルナス』神の神殿であるメージアット神殿に封じられていた魔人であり、封印を破った債に『ラーミット魔術師団』の一個小隊を惨殺したからだ。当然ながら魔人の捜索は行われたが、すぐに討伐された事が知れ渡ったのだが、討伐したのがアレン達であることまでは知らなかったのだ。


「はい、偉そうな態度でしたけど四人でかかったらすぐに斃せましたよ」


 アレンの言葉にレミアとフィリシアも頷く。


「まぁ何度か蘇りましたけど何十回もくり返してればそのうち終わりますよ」


 フィリシアの言葉に暁の女神達は二の句が継げないという表情を浮かべていた。


「実はその後にエーケンは魔神に取り込まれてしまったんですよ」

「魔神ですか?」

「はい、魔神にとりこまれたエーケンの能力を仮面が受け継いだ事から魔神と仮面は何かしら関わりがあると我々は思っています」

「今、その魔神はどこに?」

「魔神は蘇ってませんが時間の問題です。それで俺達は対魔神のための準備をすすめているところです」


 アレンの言葉に納得の表情を暁の女神の面々は浮かべる。


「ひょっとして王女殿下もその魔神と戦う事になってますか?」


 ユイメの言葉にアレンは頷く。


「はい、アディラは俺達にとって頼りがいのある仲間です」

「それで王太子殿下から王女殿下の護衛の話が来たのね」

「はい、魔神との戦いに敗れてしまってはこのローエンシア王国に甚大な被害をもたらす可能性が非常に高いです」

「なるほど……そういう事ですか」


 リリアは納得の表情を浮かべる。他のメンバーも同様だ。


「アインベルク侯、実は話には続きがあるんです」

「続きですか?」

「はい、私達と交戦した仮面の男の背後に瘴気を纏った男が現れて仮面を滅ぼしました。その口ぶりから仮面の男の戦力を測っていたみたいなんです」


 リリアはあの時の気味の悪い男の事を話し出す。そしてあの時瘴気の男が言った言葉をアレン達に伝える。


「その男は“我はもう少しで蘇る”と言って私達の前から消えました」


 リリアの言葉にアレン達は難しい表情を浮かべた。ここまでの情報を合わせればその瘴気の男は“魔神”である可能性が非常に高い。


「なるほど……魔神の意識はすでに国営墓地を出て活動しているという可能性があるわけですね。それでみなさんは魔神と会ったと言う事になりますがどうでしたか?」


 アレンの言葉に全員が瘴気の男から放たれる圧迫感の恐怖を思い出していた。


「……怖かったです」


 リリアがポツリと言う。オリハルコンクラスの冒険者として数多くの危機を越えてきた彼女たちであっても瘴気の男から感じた恐怖は別格であった。


「そうですか。それでどうします?」

「え?」


 アレンの問いかけの意味が分からず暁の女神はポカンとした表情を浮かべる。


「みなさんがアディラの護衛につくという事は魔神と戦う事になるわけです。今なら引き返せますよ?」


 アレンの言葉に暁の女神の面々は考え込む。あの瘴気の男が魔神であるとすればとんでもない相手である事が間違いない。正直な感想を言えば戦うのは御免被りたいのだが、野に放たれた時に自分達や親しい者達が犠牲になるのは避けたい所であった。


「アインベルク侯、一つ聞きたいのだが」


 エヴァンゼリンがアレンに尋ねる。


「なんでしょうか?」


 アレンは何でもないという表情を浮かべてエヴァンゼリンに答える。その余裕の表情は暁の女神の面々には頼もしいものに見えた。


「あなたは、いえあなた達はその魔神についてまったく恐れていないようだ。単に魔神の実力を知らないからというわけでもなさそうだ。どうしてあなた達がそこまで落ち着いているのかを教えていただきたい」


 エヴァンゼリンの言葉にアレンは答える。


「簡単です。魔神という大層な名前で呼ばれていますが実際はそんな大した相手ではないと私は考えています」

「え?」


 アレンの返答に暁の女神の面々は驚く。


「奴は俺の先祖と王家の先祖によって敗れたんです。無敗であるならばまだしも一度負けたという前例がある以上斃せないことはありません。魔神は人間にかつて敗れたんです。そんな前例があってどうして恐れる必要があるんです?」


 アレンの言葉に暁の女神の面々はポカンとした表情を浮かべバラクして顔を綻ばせる。


「そうだな。アインベルク侯の言うとおりだ。魔神は人間に敗れた。逆に言えば人間は魔神に勝てるわけだ」

「非常にシンプルだけど妙に納得したわ」

「私も」

「私もよ」

「一度負けたんだからもう一度負ける事もある……」


 暁の女神の面々は妙にさっぱりとした表情で言う。アレンが言うような簡単な相手ではないのは理解している。だが暁の女神達はこの時アレン達がどのように魔神と戦い勝利するのかどうしても見たくなってしまったのだ。


「アインベルク侯、私達も対魔神の戦いに加えて欲しい」


 リリアの発言に他のメンバー達も頷く。その表情を見てアレンは顔を綻ばせる。


「あなた達のような頼りになる方々の参戦を断るような事はしません。こちらこそよろしくお願いします」


 アレンが頭を下げると、暁の女神も頭を下げる。


「それで皆さんの情報から魔神の復活は近いと言う事で皆さんには王都に留まって欲しいと思います」

「わかりました」


 アレンの言葉にリリアが返答する。こうして暁の女神は正式に対魔神の戦いのメンバーに加わることが決定したのであった。


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