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前日

 明日か・・・


 アレンのぼやきは独り言というレベルだったので、誰の耳にもとどくことはなかった。



 いよいよ明日は、王族主催の晩餐会だった。明日は晩餐会にどうしても出なくてはならない。


 地獄だ・・・と正直アレンは思う。



 大体、晩餐会なんてものは行きたい奴が勝手に行けば良いのだ。なにも行きたくない者を呼び出す理由がどこにあるというのだろうか。

 何か知らんが、突っかかってくるアホを優しくあしらい、嫌みを言ってくる品性下劣なクズをにこやかに相手しなければならない。一体何の苦行だ?と思う。


 別にアレンは社交界に友人と呼べる者は、二人しかいない。そのうちの一人は出席しないと聞いている。まぁあいつは学校が忙しいだろうししょうがないと思う。もう一人も、あの場ではほとんど話すことは出来ないだろう。

 一体、何しに晩餐会に行くのかまったく意義を見いだせていなかった。



「なぁロム・・・」

「無理でございます。諦めてください」

「まだ何も言ってないんだけど・・・」

「今回は絶対に出席はしなくてはなりません」


 すがるつもりで、ロムに欠席の意向を伝えようとしたのだが、欠席の意向を伝える前に否定されてしまった。

 どんな細い藁にもすがろうとしたのだが、ロムはその細すぎる藁すら取り上げてしまった。


「ついでに言えば、今夜の見回りはレミア様、フィリシア様に行っていただき、アレン様は今夜は早くお休みになってください」

「え?・・・いやそんな事は出来ないよ。二人に悪いし~」

「大丈夫です、お二方には先ほど了解を取ってあります」

「え?」

「どうせ、今夜の見回りでわざとケガでもして欠席しようと考えても不思議ではありませんからな。今夜はおとなしくなさってください」

「ワザトケガナンテスルワケナイヨ」

「その棒読みを止め私の目を見て言えるようになっていただければこれに勝る喜びはございません」


(随分とハードルの低い喜びだな・・・)


 完全に外堀を埋められた形のアレンは、明日の晩餐会を欠席するという選択肢は完全になくなったことに気付いていた。




----------------------


「くふふ~♪」


 ローエンシア王国の王女であるアディラ=フィン=ローエンは、自室でもう、これ以上ないぐらいに浮かれている。


 可憐な容貌と王族らしい完璧な礼儀作法、穏やかな性格と文句のつけようのない『ザ・お姫様』という感じの美少女であるが、この浮かれようはちょっと・・・というぐらいの浮かれようだった。


「いよいよ・・・明日!!」


 がばっ!!と立ち上がると、そのままベッドに飛び込んだ。ぼふんという音とギシギシというベッドの音がアディラがどれほどの勢いでベッドに飛び込んだかが分かるという者である。


 アレンが次の晩餐会に出席するという事を知ってから、約一ヶ月間、アディラは必死に自分を磨いていた。


 ダンス・・・

 礼儀作法・・・

 手芸・・・

 メイク・・・

 着こなしのセンス・・・

 学問・・・

 武術・・・

 魔術・・・


 それこそ、ありとあらゆるものに手を出した。最後の武術、魔術は完全に淑女のそれとは方向性が違っていたが、兄のアルフィスからアレンの好みの女性の中に『凜とした強さを持った女性』という項目があったので、急遽始めたのだ。

 アディラはアレンに対する恋心を兄に隠してきたつもりだった。王族としてそれは認められないという考えがあったからだ。ところが、父から許しが出たどころか、『国のためにもなる』とむしろ、アレンを籠絡すべしという方向になっていたため、もはや、兄への秘匿をやめたのだ。

 その事を聞いたアルフィスは、『やっとその気になったか』と嬉しそうに言って、アディラに自分の持っている情報を惜しげもなく伝えた。


 アディラには天賦の才があったのだろうか。それとも少ないチャンスをものにするために真剣に学んだ結果なのか、すさまじいスピードでアディラはすべての項目を成長させる。 もはや一月前のアディラと現在のアディラのスペックはまったく別物になっている。人間、心がけ次第でここまで変わることが出来るのだという希少な例として記録されるべき出来事だった。


「ふっふふ~♪くふふ~♪」


 ベッドの上を転がり続けながらニマニマと笑い、王女らしくない笑い声を上げる王女の姿は見ていてなんか残念な気持ちになる。



「早く明日にならないかな♪お兄ちゃんの隣に座るんだ~」


 アディラの脳内では、アレンの手にエスコートされるシチュエーションが展開される。そして、そのまま会場をはなれ、月の下で優しく口づけを・・・と、ここまで考えた当たりでアディラはさらに真っ赤になる。



「ぐへへ~お兄ちゃん、こっちで~ぐへへ」


 ついに怪しい変態親父のような笑い声をあげはじめる始末である。





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「何?ジャスベイン家?」


 ジュラス王の声が執務室に響く。


「はい」


 問われた文官が緊張の面持ちで短く返答する。


「ふむ、随分と急な話だな」

「はい、通常であれば考えられない事です。いくらジャスベイン家の頼みとはいえ、無礼であるといえます。断ったところで、問題はないかと」

「確かに非礼と言っても差し支えない。だが、そこまで目くじらを立てる程のことはあるまい」

「では?」

「ふむ、了承したと伝えよ」


 文官は一礼すると、執務室を出る。


(それにしても、なぜジャスベイン家が?)


 ジャスベイン家といえば吸血鬼の王国である友好国エジンベート王国の重鎮の家、現当主のヨーゼスも権力を振りかざすのを嫌う気質である。力を持って道理を引っ込ませるのは最も嫌悪する男だ。


(何かしら、私に話があるのか?)



 ジュラス王はいずれにせよ明日になれば分かると、執務を再開する。



結構、引っ張りましたので、尻すぼみにならないように頑張りたいと思っています

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