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予兆①

「この辺よね?」


 『暁の女神』のリーダーであるリリアが周囲を見渡しながら言う。


「ああ、情報が正しければここに発生するはずだ」


 メンバーのエヴァンゼリンが即座に答える。


「とりあえずはここで野営ね。普通に考えればこの時間にアンデッドが発生する可能性は低いわ」


 もう一人のメンバーであるミアの言葉に全員が頷く。ミアはレンジャーであり戦闘面のみならず野営地の選択などの点で実質責任者のような立場にあった。そのミアの言葉に反対するようなものはチームの中には存在しない。


「それじゃあ、エヴァンゼリン、ユイメ、アナスタシアは周囲を警戒して、私とミアで野営を整えるから」

「「「「了解」」」」


 リリアの割り振りに全員が即座に賛意を示すと暁の女神は野営の準備に入った。


 暁の女神はローエンシア王国の王都フェルネルから馬車で一週間ほどかかる“エゴン村”の近くの森にいる。もちろん冒険者としての仕事であった。エゴン村の周囲にある森から瘴気が溢れ出し、村の周囲にアンデッドが発生するようになったのだ。エゴン村は王家の直轄地であるため代官にこの事が伝えられすぐさま一個小隊が派遣され発生したアンデッド達を蹴散らすことに成功した。

 しかし、事はそれでは終わらなかった。発生したアンデッド達は確かに駆逐したのだがその次の晩にまたアンデッドが発生した。それからアンデッドは駆逐されてもアンデッド達は発生する度に強くなっていき軍の一個小隊の中にも怪我人が出始めることになったのだ。

 発生原因を何とかしない限りいつまで経っても終わらないと考えた代官は頭を悩ませることになった。自分の権限で動かせる軍の人員は残り一小隊でしかない。それを動かしてしまった場合には他の区域で事が起こった時に対応できなくなってしまう。

 そこで王都に救援を求める事になったのだが、折しもエルヴィンの行動のおかげでいつ魔族が行動を起こすかわからない状況のために国軍を動かす事は出来ない、それにアンデッドの専門家であるアレン達はイリム達との戦いを二週間後に控えていると言う事でこれまた動かす事は出来ない。王太子であるアルフィスは暁の女神に依頼をしたのだ。

 アルフィスとすれば暁の女神をアディラの護衛に加わって欲しかったのだが、領民を見捨てることは出来ないため暁の女神に依頼したのだ。


 暁の女神はアルフィスからの依頼を受けるとすぐにエゴン村に向かった。転移魔術で動ければ良かったのだがエゴン村までは街道はそれなりに整備されてはいるが転移魔術の拠点は設けられていないのだ。

 暁の女神は馬車に揺られながら一週間かけてエゴン村に辿り着くと、村人や派遣された小隊から情報を仕入れると問題の発生原因と思われる森の中に暁の女神は入っていったのだ。


「それじゃあ、先に食事をすませるとしようよ」


 ミアは出来上がった食事を全員に振る舞う。ミアの作った食事は基本的にシンプルなものである。豚肉のハムに根菜、葉物の野菜を煮込んだスープである。ミアの作った料理を全員が焚き火を囲んで食べ始める。

 その際に喋るようなものは暁の女神にはいない。彼女たちは低ランク時代の食うか食わずの経験から食べれる時に食べておくようにしているのだ。これが都市の中であればそうでないのだが、ここはいつアンデッドが発生するか分からない状況だ。そんな中でのんびりと食事を楽しむつもりは暁の女神にはない。


「ごちそうさま」

「ごちそうさまでした」

「今日も美味しかったわ」

「ふぅ~」


 リリア達は食事を作ってくれたミアに対して御礼を言うとミアはニッコリと笑う。それからアナスタシアが【水瓶アクエリアス】で生み出した水で食器を洗うとすぐさまそれぞれのバックに入れると焚き火を囲み話し始める。


「小隊長さんの話からすると一回のアンデッドの発生における数は十から十五という話よね」


 アナスタシアの言葉に全員が頷く。


「アンデッドの種類はスケルトンが主、時にはゾンビ系、死霊レイス系が稀という話よね」

「そういう事よね。でも次もそうとは限らないわ。ひょっとしたらデスナイトが発生する可能性だってあるわ」


 ユイメの言ったデスナイトという単語に全員の顔に緊張の表情が浮かぶ。暁の女神の実力ならばデスナイトを斃す事は難しい事では無い。だが、油断するような事は決してしないのだ。


「それも想定しておいた方が良いかもしれないわね。情報では少しずつアンデッドの力が強くなってきたと言う話だし」


 アナスタシアはそう言うとエヴァンゼリンが返答する。


「そのつもりでいた方がいい。私達は備える事で今まで生き残ってきたのだからな」


 エヴァンゼリンの言葉に全員が頷く。自分達は連携と準備によってオリハルコンクラスまでのし上がってきたことを全員が理解しているのだ。


「そうね……ん?」

「どう……来たか」


 リリアが賛同した瞬間に何者かの気配を感じたのだろう。全員が気配を探すと暁の女神の全員が立ち上がる。

 リリアは剣と盾、エヴァンゼリンは大剣、ユイメは戦槌と盾、ミアは腰に差した短剣、アナスタシアは魔術の展開を始める。それぞれが武器を構えると陣形を整える。

 前衛にはリリア、エヴァンゼリン、中衛はミア、後衛はユイメとアナスタシアだ。暁の女神は戦いに奇策を用いることはほとんどしない。彼女たちは常に堅実に戦い結果を残してきたのだ。自分のやり方という耳障りの良い言葉を吐いてきた連中はとっくに魔物達によって無残な最後を遂げている。自分達のやり方を貫いた結果だから後悔は無いだろうが暁の女神にしてみればそんな最後はゴメンである。

 暁の女神が戦闘態勢を整えてしばらくしてからアンデッド達が姿を見せる。アンデッド達の知性は無いに等しいために気配を隠すという事はやらない。そのため冒険者であればまず不意をつかれることはない。だが暁の女神の面々の危険察知能力は高いために戦闘態勢を整えて接敵するまで一分ほどかかるという結果になってしまった。


「スケルトンが十体……手には剣、槍、斧と……飛び道具はなさそうね」


 リリアが現れたアンデッド達の手持ちの武器を確認すると他のメンバーは周囲を警戒する。


「周囲には敵はいないわ」

「そう、それなら私が行くからみんなはそのまま警戒しておいて」

「「「「了解」」」」


 メンバー達の返答があった瞬間にリリアが動く。一人でかかるというリリアの行動は油断からくるものではない。もし前衛二人がスケルトン達を駆除する間に後衛に攻撃を加えられた場合の事を考えてエヴァンゼリンを残したのだ。


 リリアは襲いかかるスケルトン達を手にした剣を振るいスケルトン達を蹴散らし始めた。リリアの剣は鋭さの極致と言うべき物でありスケルトン達とほとんど斬り結ぶことなく一刀のもとに斬り伏せていった。わずか二分程の戦闘でリリアはスケルトン達をすべて斬り伏せることに成功する。

 動かなくなったスケルトン達を暁の女神の面々はそのまま残し移動を開始する。目指した場所はスケルトン達がやって来た方向であった。アンデッドにはほとんど知性というものがないために向かってきた方向に発生原因があると考えるのは自然であった。


「さて……何がいるのかしら」


 ユイメが呟くと森の中にあって少し開けた場所に出た。そこには一人の異様な格好をした男が立っていた。男は身長二メートル弱、筋骨逞しく上半身は裸であり、下半身には革製のズボンにブーツを身につけ全長一メートルほどの分厚い片刃の剣が腰に差してある。ここまでであればさほど珍しい格好では無い。だが男が身につけているもので異様という印象をもたれるのは“仮面”であった。

 それは暁の女神の面々からすれば初見であったが、この場にアレン達がいれば暁の女神に情報を与えていたことだろう。国営墓地に現れた“仮面の男”だったのだ。



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