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危難⑩

「それでは自己紹介をさせていただきます」


 ロムはアシュレイに向かって一礼する。すでにアシュレイの部下の半分がロムとキャサリンに倒されている。

 手足が折れ曲がっている者、首があらぬ方向に曲がっている者、胸が窪んでいる者、顔面を喉を心臓を貫かれている者と言う様々な状況であるがすでに絶命しているという共通点が倒れている者達にはあった。

 累々たる屍の中にあってロムとキャサリンは全く動じること無く淡々とアシュレイに向けて自己紹介を始める。


「私はアインベルク家の家令であるロム=ロータスと申します。こちらは私の妻のキャサリンでございます。短い時間とは思いますがお見知りおきを」


 ロムの言葉にアシュレイはヒクリと頬を振るわせる。ロムの言った“短い時間”という言葉の意味を悟らざるを得ない。


「お、俺に人間如きが勝てると思っているのか?」


 アシュレイは尊大な物言いを行うが声が震えておりアシュレイの恐怖が滲んでいる。


「おや?声が震えておりますがどうされたのです。ひょっとして人間如き、そして年寄りごときがあなた様は怖いので?」

「な……」

「違うと言うのならさっさとかかってくればよろしいのではないですか。それとも足がすくんで動けないのならば私から伺いますが?」


 ロムはそういうと一歩進み出る。すると生き残っていたアシュレイの側近達がロムに襲いかかった。


「ジジィが舐めるなぁ!!」


 咆哮した魔族がロムに襲いかかるが一歩を踏み出した瞬間に顔面を一条の光が貫いた。キャサリンが魔光まこうを放ったのだ。キャサリンはロムが会話をしている間に魔力操作を行っていたのだ。

 顔面を貫かれた魔族はそのまま崩れ落ちる。顔面を貫かれた魔族は即死しており、それはある意味幸せな事だったのかも知れない。


「キャサリン、残りの方々を任せて良いかな?私は足がすくんだ魔族の高貴な方のお相手をするために出向こうと思う」

「分かりました。手を貸しましょうか?」

「いや、あの程度の者にお前の手は必要ないだろう。私一人で十分だ」

「はい」


 ロムの言葉にキャサリンは微笑みながら答えると魔力の塊を両掌の上に作り上げるとそのまま宙に浮かせる。魔族達の視線はその魔力の塊に集中している。魔力の塊はそのままゆらゆらと昇っていく。


(一、二……三体ね。まぁ十分かしら)


 キャサリンは上がっていく魔力の塊に目を奪われた魔族を確認すると再び魔光を放つ。今度は三本の光が目を奪われていた魔族の顔面をそれぞれ撃ち抜く。仲間の命が奪われた事に一瞬の自失の後に気付いた魔族は怒りの表情をキャサリンに向ける。


「貴様ぁぁぁ!!」

「ぶっ殺してやる!!」


 魔族が咆哮した瞬間に今度は浮かんでいった魔力の塊から一本の光が放たれ魔族を射貫いた。肩口から入った光は魔族の体を貫き即死させる。


「な……」


 呆然とした魔族が頭上から降り注いだ光に意識を向けるのは当然の事であった。単なる囮と思っていた魔力の塊が実は攻撃手段であった事にショックを受けたのだ。そのためキャサリンが音も無く自分の間合いに飛び込んでいた事に気付いた時にはキャサリンの戦槌が魔族の顔面にめり込んでいた。

 キャサリンの戦槌に顔面をめり込ませた魔族は戦槌を支点にしてそのまま一回転すると地面に落ちた。地面に転がった魔族はうつ伏せに倒れておりそこにキャサリンは容赦なく延髄の位置に戦槌を振り下ろした。


「エ、エシュゴル……」


 アシュレイの口からたった今トドメを刺された魔族の名が告げられる。アシュレイの従者にして右腕であった男がたった今、何の抵抗も出来ずに殺されたのだ。


「余裕ですね……他の事に気が回るとは……感服いたします」


 エシュゴルに目を奪われたアシュレイをロムの右拳が襲う。凄まじい速度で放たれたロムの右拳をアシュレイは体を反らして躱す事に成功する。アシュレイは確かに躱す事に成功したが体を反らした事による生じた隙は大きい。ロムはそのまま放った右拳を振り下ろすとアシュレイの胸に叩きつける。


「がはぁぁぁぁ!!」


 倒れ込むアシュレイの口から苦痛の声が発せられる。そして地面に叩きつけられた瞬間にロムがアシュレイの喉を踏み抜こうと足を振り上げるのをアシュレイは確認する。ロムの足はそのままアシュレイの喉に放たれる。アシュレイは転がり何とかロムの一撃を躱すがそれはロムの攻撃を凌いだことを意味しない。ロムはすかさず間合いを詰めるとアシュレイの肋骨に向かって蹴りを放った。


 ドガァァァッァ!!


 ロムの蹴りをかろうじてアシュレイは腕で防御をするがロムの脚力による蹴りの威力は凄まじくアシュレイは吹き飛び地面を転がった。アシュレイはすかさず立ち上がりロムに備える。

 ロムはそのままアシュレイの間合いを詰めると右裏拳をアシュレイに放つ。アシュレイは頭を振ってロムの裏拳を躱すとカウンターでロムの肝臓に一撃を食らわそうと左拳を放とうとした。だがそれよりも早くロムの左肘がアシュレイの顔面に叩き込まれる。


(が……今の肘は……裏拳から肘は一つの技の流れか)


 凄まじい衝撃に意識を刈り取られそうになったアシュレイがロムの一連の動きが技である事を理解していた。一瞬の出来事であったがアシュレイは不思議とその事を考える余裕があった。顎が砕け血と歯を撒き散らしながらアシュレイはロムの姿を確認するために視線を戻すがそこにはすでにロムはいない。


(どこに行った?)


 アシュレイがそう考えた瞬間に背後から二本の足がアシュレイの頭部を挟み込むと首を固定された。もちろんこの二本の足を使ってアシュレイの頭部を挟み込んだのはロムである。


(な、なんだ?)


 アシュレイがそう考えた瞬間に二本の足に捻られると固定されていたアシュレイの首も瞬間的な捻られ“ギョギィィ”という異音を発した。ロムの二本の足に捻られアシュレイの体もそれに従い回転する。アシュレイは抵抗することも出来ずに為すがままである。ロムはアシュレイの眉間に肘を当てると地面に落下すると同時に押し込んだ。

 ビクンと一度アシュレイの体が痙攣するがそれからアシュレイが動くことはなかった。


 ベルゼイン帝国の第二皇子であるアシュレイの命が失われた事は確実であった。アシュレイを斃したロムは立ち上がると静かにアシュレイに向かって言葉を発する。


「賢者は歴史から学び愚者は経験から学ぶと申しますが、あなた様は学ぶことが出来ませんでしたのでそれ以下でございます」


 ロムの一切の情の無い言葉が国営墓地に響いた。



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