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危難⑨

「な、なんなんだ……あの連中は……」


 エルグドの口から呆然とした言葉が発せられる。アシュレイもトルトもエルグドとまったく同じ気持ちである。元々彼らはアルティリーゼ一行とアレン達との戦いが終わったところで双方が弱ったところを斃す事で漁夫の利を得ようとしていただけであり戦いにきたというよりも“狩り”に来た気分であったのだ。

 実際に双方から激しい抵抗は受けたが消耗度合いは大きいために最終的に勝利を収める事が出来るはずだったのだ。しかし、救援に駆けつけた連中の強さが桁外れであり三皇子達の目論見は完全に崩れてしまったのだ。


「それでは最終局面といこうではないか」


 ジュラスが明確な殺意を三皇子達に叩きつけながら言葉を発する。その言葉を受けて三皇子もそれぞれの側近達もゴクリと喉を鳴らした。


「俺はトルトだけを始末できれば十分だ。他の連中は好きにして欲しい」


 ジュラスの言葉にロムが口を開く。


「私達といたしましては第一、第二皇子はたびたびアレン様にちょっかいを出してきたという御方だそうですので、見逃すつもりは一切ございません。どの道ここで見逃せば後にまた刺客を送ってくるでしょうからここで両者には消えてもらいましょう」

「そうですね。これ以上生かしておいてもアレン様のためにはなりません。ここで始末させていただきます」


 ロムとキャサリンの言葉にエルグドとアシュレイは目に見えて狼狽した。そこにジェラルが口を開く。


「どうだろうか、ロム殿、キャサリン殿……将来の義理の息子であるアレン君のためにも我々も混ぜてもらって良いだろうか?」


 ジェラルの丁寧な口調にロムもキャサリンも畏まる。ロムとキャサリンは権力におもねるような真似は決してしないが、“貴族”に敬意を払う事はきちんとする。ここでいう貴族とは権力欲に取り憑かれ自分の欲望のためだけに生き、他者を踏みにじるような連中ではなく、民を守り気高い心を持っている者の事である。


「勿論でございます。フィアーネ様も我らの仕える御方……そのご家族の方を蔑ろにするような事はいたしません」


 ロムの言葉にジェラル、フィオーナ、ジュスティスは嬉しそうに微笑む。


「それではさっさと終わらせることにしましょう。こいつらがいなくなればベルゼイン帝国がアレン君達にちょっかいを出す事はなくなるでしょう」


 ジュスティスの言葉にジュラス達も頷く。これまでアレン達を襲撃してきた魔族達はこの三皇子の手の者であった。それがいなくなればアレン達を襲撃する魔族は一気に減る事は間違いなかった。


「ジュスティスの言うとおりだな。さっさと始末しよう」


 ジェラルは三皇子を睨みつける。


「き、貴様ら!! 我々に指一本触れてみろ!! ベルゼイン帝国と戦争になるぞ!!」


 エルグドが恐怖を押し殺して叫ぶ。この状況でエルグドが生き残るにはもはやベルゼイン帝国の権威に縋るしかない。


「何を言っている? こっちはとっくに戦争のつもりだぞ」


 ジュラスの一言にエルグドは言葉を封じられる。その様子を見てジュラスは呆れた様な表情を作る。


「エルヴィンがお前達の皇城で警告したという内容は聞いている」

「な、何?」

「お前達が報復行為にでた時はそれはローエンシア王国とベルゼイン帝国が戦争になるという事だ。まさかお前達は人間が常にお前達との戦争を避けると思っているのか?お前達魔族がローエンシアの民に行った非道の数々を俺が知らないとでも思っているのか?」


 ジュラスの吐き捨てるような言葉にエルグドは顔を青くする。ジュラスの言葉はまったくエルグド達を見逃すつもりはないことを宣言したに他ならない。


「我が国は貴様らベルゼイン帝国と実質戦争状態にある。無辜の民を巻き込んだのは貴様らであり私では無い。貴様らに譲歩したところで増長するだけだ。ならば潰してしまった方がこちらの精神衛生上によほど有益というものだ」

「お、王ともあろうものが民を巻き込むというのか!!」


 エルグドはなおも食い下がる。説得できなければ殺されるだけであり掴むには細すぎる藁であるがそこに活路を見いだすしかなかったのだ。


「貴様如きに王のなんたるかを説教される筋合いはない。民を守るために戦うのは当然だ。盲従することが民を守る事ではない」


 ジュラスの言葉にエルグドは言葉を失う。自分ではジュラスを説得させる事は不可能であることを認めざるをえなかった。


「本当にくだらん時間をすごさせる連中だ。素直に命乞いをすればまだ助かる可能性があったというのにな。命乞いすら上から目線とはな」

「そういうな、自身がつまらない奴ほど下らんことに拘る。典型的な小者だから仕方が無い」


 ジュラスの言葉にエルヴィンがすかさず答えるとジュラスは皮肉気に嗤う。エルグド達にしてみればあり得ないレベルの侮辱である。


「さ、それじゃあ話も終わりと言う事でさっさと始めよう」


 ジュラスはそう言うとヒュっと剣を一振りする。


 その仕草が合図であったかのようにロムとジュスティスが動く。エルグと達三皇子達の一行は三皇子とその側近達全員合わせて約四十人程だ。


「うぉぉぉぉぉ!!」

「殺せぇぇぇぇ!!」


 先手を打って向かってくるロムとジュスティスに第二皇子アシュレイの部下の騎士達が突っ込んでいく。アシュレイが信任するだけあり部下達の実力は連れてきた傭兵達とは比べものにならないほど高い。

 ロムに斬りかかった騎士の一人が横薙ぎの一閃を放とうとするがロムはスッと間合いに入り込むと騎士の肘を押さえて斬撃を封じた瞬間に足払いをかけると騎士は足を払われ地面に転がる。


 転がされた騎士の額をキャサリンの【魔矢マジックアロー】が貫くと額を貫かれた騎士は少しの間痙攣していたがすぐに動かなくなる。


「くそがぁぁぁぁ!!」


 あっさりと同僚がやられた事に怒りをはっした騎士がいたが、仲間の仇を取ることは出来ない。いや、行動を起こすことすら出来なかったのだ。声を上げた瞬間にジュスティスの拳が胸部に叩き込まれ、胸甲を打ち砕きそのまま肋骨を砕いたのだ。突如発した苦痛に騎士は視線を加害者に向けた瞬間にジュスティスの左掌が騎士の顔面に添えられた瞬間に騎士の意識は消え去った。

 ジュスティスの左掌から放たれた魔力の塊が放たれ騎士の頭部を消しとばしたのだ。


「ひぃ!!」


 同僚の頭部が吹き飛ばされた瞬間を目の当たりにした騎士が叫び声を上げる。


 ギョギィィィィ!!


 その騎士は次の瞬間にはいつの間にか間合いに飛び込んでいたジェラルにより首をねじ折られほお一瞬のうちに絶命していた。首をねじ折られた騎士が地面に崩れ落ちる僅かの時間にジェラルはすでに次の騎士の顔面に拳をめり込ませている。


 始まった最終戦を見てアレン達は自分達の上の世代の恐ろしさを様々と見せつけられていた。


「うわぁ……」


 アレンの口から感歎というよりも引いた声が発せられた。



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