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危難⑦

「さ~て……まずは邪魔な連中から始末するか」


 ジュラスがニヤリと嗤いながら魔族達に視線を移すと魔族達の何人かがビクリと体を震わせた。魔族達はジュラスの嗤いを肉食獣が獲物を前に舌なめずりしているようにしか思えなかった。もちろん獲物とは自分達の事である。


「に、人間如きが俺達を始末するだと? 舐めるのもいい加減にしろ!!」


 魔族の一体がジュラスに吠えかかる。だが、声の端々からジュラスへの恐怖心がありありと窺える。

 

「ほう……」

「ヒ……」


 ジュラスが吠えかかってきた魔族に皮肉気な視線と声を向けると魔族の反骨心は朝日を浴びた霜のように消え去った。


「まてジュラス」


 そこにエルヴィンがジュラスに制止の声をかける。するとジュラスは楽しみを邪魔しようとするエルヴィンに抗議の目を向ける。国王からの非難の目を受けたエルヴィンであったがまったく意に介した様子もなく人の悪い笑顔をジュラスに向ける。


「この雑魚どもは俺に譲ってくれないか。実は面白いものが手に入ったからここで性能を試しておきたい。心配しなくてもトルトはお前に譲るから」

「試したいもの? おいおいそんな事をすれば俺の計画が乱れるじゃ無いか」

「計画?」

「ああ、ここでこいつらを蹂躙してトルトとか言う舐めたクソガキを震え上がらせてから殺してやろうという計画だ」

「心配するな。俺の性能調査でも十分に震え上がるから」


(なんて質の悪い大人達だ……)


 アレンはジュラスとエルヴィンの会話を聞き心からそう思う。ちらりと仲間達の表情を見るとアルフィス、アディラ、ジュセルも似たような事を思っているのだろう。何とも言えない表情が浮かんでいた。


「しかし肩慣らしもしておきたいのだが……」

「そうか、見た所グループが四つとあるみたいだからそのうちの一つで良いだろ」

「お前が三つか?」

「そう露骨に不満げな声を出すなよ。俺が性能を試したいのは二体だ。ある程度の数が必要なんだから我慢しろよ」

「ふむ……そうか、そういうことならそれで妥協しよう」


 ジュラスのこの言葉で大まかな方針は決まったようだった。ただ、冷静に考えてみると魔族達にとっては何もありがたいものでは無い。ジュラス達の会話は“どう”戦うでは無く、“誰が”始末するという事だったからだ。


「どこまでも舐めやがって!!」


 一体の魔族が剣を抜きながらジュラスに駆け出す。踏み込みの速度は並の騎士では反応も出来ずに命を刈り取られてしまうことだろう。だが、この魔族は相手が悪いことにまだ気付いていない。


(消えた……え?)


 魔族の視界からジュラスが消えたと思った瞬間に魔族の視界は何者かの手で覆われる。魔族の顔面を覆う手の指の間から首の無い体が数歩走りバランスを崩して倒れ込むのが見えた。倒れ込んだ体がなおも走ろうとピクピクと痙攣するのが見える。


(あ、あれは……俺の体?)


 魔族は今無様に倒れ込んだ首の無い死体が自分の体である事を察した。理屈では無く本能がそうだと叫んだのだ。

 魔族は視線を動かすとジュラスの横顔が視界に入る。ジュラスがその魔族を見ていないのは明らかであった。


(な、どこま……で……)


 抗議の声を上げようとした魔族であったが一切言葉を発する事は出来なかった。直後に魔族の視界は落下を始める。時間にして一秒にも満たない短い時間であったが魔族の感覚では非常にゆっくりと落下していった感覚であった。


「俺の腕前は今見たとおりだ。せいぜい足掻いてみるんだな」


 ジュラスの発した言葉が魔族の耳に入るがもはや魔族の意識は急速に遠ざかっていっていた。


(な、何を言っている? 勝負は……これ……か……)


 急速に薄れていく意識を魔族は感じたがもはや意識の喪失に抗う事は出来ない。魔族は自分の身に何が起こった事を理解する事無くその生涯を閉じたのだ。


 命を失った魔族の身に何が起こったかは仲間の魔族達は知っていた。だが、誰もその瞬間を見たわけでは無い。事が終わったときのジュラスの立ち位置と剣の動きから推測するしか無いのだ。

 魔族達の推測では斬りかかった魔族との間合いを潰すとすれ違い様に魔族の首を刎ね、顔面を掴んだというものである。この複雑な工程が行われるのをジュラスは何の淀みもなく行ったのだ。


「うわぁ……えげつない……」


 ジュラスの行動をそう評したの息子のアルフィスである。アルフィスは先程のジュラスの行動を魔族達とは違って見えていた。わざわざ切り離した首を掴む必要などなかったはずなのに魔族達に見せつけるため(・・・・・・・)に顔面の掴んだ。

 ちらりと魔族達の顔を見ると明らかに顔を引きつらせている。仲間をあそこまで惨たらしく殺されておりながら怒りよりも恐怖を浮かべているのを見てアルフィスはジュラスの勝利を……いや、一方的な虐殺を確信させる。


「そういうな。こいつらのような頭の悪い連中でもここまで見せつけられればさすがにわかるだろう。自分の身の程というやつをな……」


 ジュラスはアルフィスの言葉にニヤリと嗤いながら返答する。


「さて、どうやらこいつの仲間はあと三体か……あっちの五体のやつなら一人余分に肩慣らしが出来たのだが……まぁ後ろの連中がいるから納得するか」


 ジュラスの言葉に首を落とされた魔族の仲間達三体がビクリと体を震わせる。


 ジュラスは剣の鋒を三体の魔族に向けると小さく微笑む。魔族達は体を震わせながら武器をそれぞれ構えるがもはや完全に心が折れているのが丸わかりであり勝負はすでについているのは明らかである。


 ドバァァァッァ!!


 魔族の一体が突然血を撒き散らして崩れ落ちた。傍らにジュラスが立っている事で魔族を斬ったのはジュラスである事は明らかである。


「ひっ……」

「た、たす……」


 そのままジュラスはつまらなさそうに剣を振るうと残りの二体の魔族の首が落ちる。あまりの出来事に周囲の魔族達は動くことも出来ない。もし動けばその瞬間に首が飛ぶことを察していたのだ。


「さて、俺の出番はとりあえずここまでか……エルヴィン」


 ジュラスは物足りなさげに言うと魔族達の中に僅かながら安堵の空気が流れる。ジュラスの剣スジが速すぎて魔族達の目にはまったく写らなかったのだ。


「ああ、そうだな交代だ」


 エルヴィンはそう言うと魔法陣を展開する。その数は三つで何かを召喚するつもりであることはそれを見た全員が理解していた。


 魔法陣から現れたのは三つの人影である。


「あ、あれ……死んだんじゃなかったの?」

「一体は生き残ってたけど、あとの二体は死んだはずよ」


 レミアとフィリシアの会話にあった“死んだ”という言葉にアレン達は訝しがる。


 エルヴィンの周囲にレミアとフィリシアが斃したイベルの部下であるフォルベル、グラムス、ケイラが立っていた。



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