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消滅

今回も残酷です・・・


本当にどうしてこうなったのか・・・


苦手な方は読み飛ばしてください

(ぐぎゃああああああ!!)

(痛い痛い痛い痛い!!!!)

(誰かぁぁぁぁぁ!!)

(ぎっぃぃっぃっぃぃぃっぃ!!)

(ふぎぃいぃぃ!!)


 男達は平然と歩いている。足取りに何もおかしいところはない。だが、顔を見れば、酷い有様の者もいる。腕もおかしな方向に曲がっている者もいる。片耳がむしり取られたかのような痛々しい姿をしている者もいた。

 ただ、見る者が見れば男達のを覆う黒い靄を見ることができる。



 もちろん、この男達は、アインベルク家の者を皆殺しにしようとして失敗した者達だ。


 初老の家令に為す術なくやられ、その後その妻を名乗る者に戦槌によって骨を砕かれ、魔術により体の自由を奪われメッセンジャーに仕立てられたのだ。


 自分たちの所属する闇ギルドのギルドマスターを殺すというメッセンジャーに仕立てられたのだ。男達は自分たちの所属するギルドマスターの恐ろしさを骨の髄まで分かっている。


 あるヘマをした同僚は両手両足を砕かれた後、体に火をかけられ暴れ回ることも出来ずに殺された。


 ギルドマスターの女に色目を使ったという同僚は両目をえぐられ、両手を切断され、最後には性器を切断されて殺された。


 女のために抜けようとした暗殺者は、その女もろとも焼き殺された。


 これらの例は、まさに氷山の一角というべきもので、その残虐さは誇張ではなくまったくの事実であることを彼らは知っている。

 自分たちはこれからそのギルドマスターを襲わされるのだ。どんな最後を迎える事になるのか、発狂できればどれほど楽か分からない。


 アインベルク邸から闇ギルドまで走れば1時間ほどだが、徒歩で歩かされている。つまりそれだけ苦痛の時間が長引くのだ。


「おい、どうした?仕事は終わったのか?」


 6人に影から男が語りかける。闇ギルドの同僚だ。


「ああ、手強かったがな、全員始末した」


 男の一人が答える。他の男達、いや言葉を発した男も驚いた。自分の意思でしゃべっていないのは明らかだったからだ。この自分たちを操っている術は声までしゃべらせることが出来るというのか。


「そうか、お疲れさん、ボスへの報告の途中か」

「ああ」


 別の男の口から自分の意思に基づかない言葉が紡ぎ出される。


「そうだ、お前の事も報告しておいてやるよ」

「報告?何言ってんだ?」

「だから、お前が死んだ事を伝えておいてやるって言ってんだよ」

「な・・・がっ・・・」


 声をかけた男は喉を切り裂かれ、ひゅーひゅーと音を発しながら倒れ込む。喉を切られた男の目は「なぜ?」という疑問で満ちていたが、やがて光を失い力が抜けていく。


 男達はさっきまで同僚であった男に見向きもせず再び歩き出した。


(ハディン・・・うぉぉぉぉ)

(ハディン・・・)

(なんてこった・・・)


 男達は、このとき、本当に自分たちの置かれている状況を完全に理解した。今まではまだ闇ギルドの同僚に攻撃していなかったためにまだ何とかなるという思いがどこかに、いや確かにあった。

 だが、今完全に理解した、いや実感した。もう後に引き返せないことに気付いたのだ。


 自分たちがもう地獄に居ることを嫌が応にも理解させられたのだ。



 永遠の苦痛とも思える闇ギルドへの道が終わり、ついに6人は闇ギルドの本部に到着した。



 男達は自然に散会する。当然彼らの意思ではない。


(なんでバラバラになるんだ)

(一纏めの方がいいのに)


 戦力分散なんてものは最も愚かしいことが彼らは十分に分かっている。当然、ロムやキャサリンもその事は百も承知だ。だが、ロムやキャサリンはあえてそうやったのだ。



 闇ギルドの本部は見かけは普通の商家だ。実際に闇ギルドのギルドマスターは、表向きは商人である。闇ギルドとはいえ、郊外にいかにもというように闇ギルドを作れば疑ってくださいといっているようなものなのだ。

 少なくとも表向きは、善良な市民を装う必要があったのだ。


 男達はそれぞれ剣を抜き放つ。たった六人では闇ギルドを包囲することは出来ない。だが、それにも関わらず六人は闇ギルドに突入する。



 扉を蹴破る者、窓を蹴破ってはいる者、勝手口から蹴破って入る者、場所は違えどそれぞれ蹴破るという方法で闇ギルドに押し入る。


 闇ギルドにいるギルドメンバーは侵入者を迎え撃つ。どこの誰かは知らないが、ここが闇ギルドであることを知らずにバカな奴らだと思い、なぶり殺すつもりだった。


 ギルドメンバーが侵入者の一人と対峙した時、侵入者が自分の同僚である事に気付き、一瞬動きが止まる。侵入者はその隙を見逃すことなく短剣でギルドメンバーの喉を切り裂く。

 先ほどの男同様、『何故?』という疑問を浮かべ倒れ込む。喉から吹き出る血が勢いを徐々になくし、それに伴い目の光りも消えていく。


 館のあちこちで、悲鳴と怒号が響く。


「エリック!!てめぇ・・・ぐぁ!!」

「ぎゃあ!!!」

「ケティス!!止めてくれ!!ぎゃあ!!!」

「ちきしょう!!ボイドがやられた!!」

「なんで死なねぇ!!ぎゃあ!!」


 次々とギルドメンバーが殺されていく。これは別に侵入者の実力が圧倒的であるわけではない。操られている6人は確かに手練れではあった。だが、圧倒的にギルドメンバーを殺せるほど実力差はないはずだった。

 事実、操られた者の中には、喉を切り裂かれて既に絶命している者もいた。だが、瘴気に操られた体はお構いなしにギルドメンバーとの戦闘を続けていたのだ。



 館のギルドメンバー達は操られた6人にほとんど殺された。残りはギルドマスターのルディン=ゴートとその護衛のクルカ、ラクリである。

 ルディンは筋骨隆々の偉丈夫であり、ギルドメンバーにとって恐怖を具現化したような存在だ。当然、戦闘力も高く並の騎士ではまず相手にならない。クルカもラクリもギルドマスターの護衛を任せられるに相応しい実力者である。


 そのルディンの部屋に、六人の元部下達が入ってきたのだ。クルカとラクリの動きは確実だった。クルカの剣は操られた侵入者の喉を切り裂き、ラクリの投擲されたナイフは、別の侵入者の右目と喉に立て続けに突き刺さった。


 これで、二人殺ったとクルカとラクリは思ったが、今回の侵入者は致命傷を与えたにもかかわらずクルカに襲いかかった。

 クルカは驚愕したが、慌てることなく、襲いかかる侵入者に再び斬撃を見舞う。左肩から胸まで剣が入り、おびただしい量の血が噴き出した。だが、侵入者はひるむことなくクルカの剣を掴んだ。剣を抜くよりも速く他の五人の侵入者がまとめてクルカに短剣を突き刺す。


「がぁ!!」


 短くクルカは叫び、侵入者の顔を確認しながら倒れ込む。その顔は驚きに満ちていた。


「エリック!!ケティス!!てめぇら!!こんなことしてどうなるか分かってんのか!」


 ルディンが元部下達にすさまじい殺気を放ちながら怒号を発する。そして、あまりにも異常な状況に気付く。


 たった今、クルカに肩から胸にかけて切り裂かれた男が当たり前のように立っていたからだ。それだけではなくラクリのナイフに右目と喉を貫かれた男も当たり前のように立っている。


「アンデット・・・」


 ラクリは嫌悪感を込めた声でつぶやく。


「いえ・・・アンデットではございません」


 侵入者の男の口から男の声で、だが異なる口調で言葉が発せられる。


「この方達は、何人かはまだ生きているみたいです。まぁ時間の問題でしょうが」

「てめぇ、ケティスじゃねえな!!何もんだ!?」


 ルディンは声を荒げてケティスに、いや、ケティスの口を使う何者かに向けて話す。


「これは申し遅れましたな。あなた方のターゲットだった者でございます」

「な・・・ターゲット・・・まさかアインベルクの・・・」

「その通りでございます。今夜、この六人が当屋敷に侵入いたしまして返り討ちにしたのですが・・・」

「・・・」

「主の出迎えのために口を割らせる時間がありませんでしたので、この方達に雇い主へのメッセンジャーになっていただいた次第でございます」

「メッセンジャーだと?」

「はい、あなたの意思なのか、他に頼んだ者がいるのかは分かりませんが、消えてもらおうと思いまして」

「ふざけるな!!てめぇ闇ギルドに手を出してタダで済むと思ってんのか!?」

「闇ギルドですか・・・ということは別に依頼者が居るのでしょうけど、まぁ当方にとっては大した問題ではございません」

「な・・・」

「あなた様はかなりご自身の力に自信があるようですね」

「ふん、このバカ共六人をぶち壊して、俺自らてめぇら皆殺しにしてやる」

「いえいえ、それは不可能でございます。あなた様方と私がお会いすることはまずないでしょう」


 さも決定事項のように静かな口調で告げる。


「さぞかし、自信がおありでしょうが、果たしてデスナイト6体を倒せるほどの実力があなた方にありますかな?」

「デスナイト・・・?」

「左様・・・あなた方にとっては恐ろしいアンデットでございます」

「ふざけるな!!そのデスナイトとやらはどこにいるんだ?ああ?」

「目の前に6体いるではありませんか」


 ルディンはまさかという疑念が生じる。操られている部下も6体、言葉が伝えるデスナイトの数も6体、その事に思い至ったとき、疑念が確信に変わる。


「まさか・・・」

「その通りでございます。ああ、まだ生きているメッセンジャーの方々、もう少しあなた方のお体をお借りいたします。と言っても返すことは出来ませんが・・・お許しください」


 変化は突然だった。言葉が終わると黒い靄が6人の侵入者のそれぞれの体から拭きだしそれが男達を覆っていく。


(ひっぃっぃぃぃっぃぃっぃぃ!!)

(助けて!!いやだ!!いやだ!!ぎゃあああああ!!)


 操られている6人のうちまだ生きていたのは2人だけであった。他の四人はギルドメンバーとの戦いの中で命をいつのまにか終えていたのだ。まだ命のあった二人に比べて、この四人は見方を変えれば幸せだったのかもしれない。

 自分が消えていく、浸食される感覚を味あうことなく逝けたのだから・・・


 黒い靄はそれぞれの体を覆い、やがて凶悪な騎士を形作っていく。身長は2メートルほどに伸び、体の厚さも一気にふくれあがった。


 デスナイトが六体ルディン達の前に対峙する。


 ラクリはガタガタと震え、護衛対象のルディンを見捨てて窓から逃走を図った。しかし、デスナイトの動きはラクリより遥かに速かった。ラクリは二歩目を踏み出すことは出来ずにデスナイトに後ろから斬りつけられる。

 ラクリの上半身は贓物をまき散らし2メートルほど飛び落下する。それから一、二歩すすんで下半身が倒れ込む。

 血と贓物、その中身の臭いが部屋に充満する。


 その様子を現実感のない様子でルディンは見ていた。ルディンもガタガタと震えだし、もはや抵抗の意思は消え去っていた。

 命乞いのため跪こうとしたが、デスナイトの六本の剣がルディンを容赦なく貫く。


「がぁ・・・」


 酷く怯えた瞳から光が消え去り、ルディンは絶命する。



 ルディンが絶命すると、六体のデスナイトの形が崩れ、体を構成していた瘴気が塵となって消え去ると媒介となった操られた男達の死体が残った。



 闇ギルドの1つがここに消滅した。



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「アレン聞いた?」

「何のこと?」

「昨夜にどっかの商家が襲われて皆殺しになったらしいの」

「そりゃ酷い・・・で犯人は?」

「ところがね、その商家ってのは表向きで、実際は闇ギルドだったって話よ」

「じゃあ、仲間割れか、闇ギルド同士の抗争ってわけか」

「その可能性は大きいわね」

「まぁ、闇ギルドに所属すれば遅かれ速かれろくな最後になるというわけだな」

「そういうことね」


 アレンとレミアがアインベルク邸のアレンの執務室で、話しているとキャサリンが紅茶の容易のため入室してきた。


「キャサリン」

「はい、アレン様」

「今、レミアに聞いたけど、闇ギルドが1つ消滅したらしい」

「はい、そのようですね。買い出しの時に街で聞きました」

「闇ギルドに入らなけりゃ良かったのにな」


 キャサリンは、静かに微笑みアレンに告げる。


「おっしゃられる通り、闇ギルドに入らなければ、手を出してはいけない方に手を出さずに済みましたのに・・・ね」

 最後のキャサリンの言葉は蛇足かもしれませんね・・・


 個人的にはこういう終わり方好きなんですが、みなさんはどうでしょう?

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