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危難⑥

 娘を慰み者にしようとした事を看破した美貌のジャスベイン公爵夫婦と次期公爵は凄まじい殺気を放ちながら傭兵達を睨みつける。

 傭兵ギルド『剣牙けんが』は正確にいえば傭兵団ではない。言わばフリーの傭兵達の互助組織であり、集団的な集団行動はそれほど得意では無い。さすがに指揮する者は必要と言う事で第二皇子アシュレイが暫定的にリーダーを定めたに過ぎない。


「どうしたのかしら? もしかしてやっと事態が飲み込めたのかしら……あなた達が虎の尾を踏んだことを」


 フィオーナはその美の結晶ともいうべき白皙の顔に残虐な表情を浮かべると傭兵達の目の前から煙のように消える。


「な……」

「あの女どこに行った!?」


 フィオーナを見失った傭兵達は困惑し周囲に目を向ける。


「が……」


 一人の傭兵の胸から美しい女性の腕が突き出している。その背後にフィオーナが立っており傭兵の胸を背中から貫いたのだ。


「ロ、ロビン……」

「このあまぁぁぁぁぁ!!」

「くそったれがぁぁぁ!!」


 フィオーナが仲間を殺した事に気付くと周囲の傭兵達が一斉にフィオーナに斬りかかる。するとジェラルが突然フィオーナの横に現れた。ジェラルは斬りかかってきた傭兵の顔面を鷲づかみにするとそのまま片手で持ち上げた。


「私の妻に手を出そうとはどこまでも舐めた真似をしてくれるな」


 ジェラルは鷲づかみにした傭兵の顔面をそのまま握りつぶした。顔の前面を握りつぶされた傭兵はそのまま地面に落ちると無残な死体をさらした。


「くそがぁぁぁぁぁ!!」


 惨殺された仲間の死体を見た一人の傭兵がジェラルに斬りかかるがそれを防いだのはフィオーナに胸を貫かれた傭兵であった。胸を貫かれた傭兵の左肩に振り下ろされた剣が大きくめり込むがまったく痛痒を感じていないようにそのまま斬りつけた傭兵の首筋に噛みつく。


「止めろロビン何のつもりだ!!」


 噛みつかれた傭兵が思いがけない仲間の行動に恐怖の叫びを上げる。噛みつかれた傭兵の皮膚から血の気がどんどん失われているのが周囲の傭兵達にもわかった。血を吸われている事に気づいたとき、動揺が広がっていく。


 ドサ……


 血を吸い尽くされた魔族がそのまま崩れ落ちるとロビンと呼ばれていた魔族は次の魔族に飛び掛かった。


「くそがぁぁぁ!!」


 吸血鬼化した魔族を仲間の魔族が一刀のもとに首を刎ね飛ばした。刎ね飛ばされた首は地面に落ちるとそのまま動かなくなる。


「てめぇら、こんな真似をしてただで済むと思ってるのか!!」


 首を刎ね飛ばした魔族がフィオーナを睨み付けながら言うがフィオーナは意に介した様子もなく威嚇する魔族の懐に入り込むと魔族の喉を貫手で貫いた。先ほどまで威嚇していた魔族は自身の喉が貫かれた事を気づくとビクビクと痙攣を始める。


「あら? 本当に愚かな事ね。ただで済ますなんて私がいつ言ったのかしら……私は楽に死ねるなんて思うなと言ったのよ。うちの人も、息子も同じ気持ちよ」


 フィオーナは喉から手を抜くと魔族は痙攣しながら崩れ落ちた。


 そして、流れ出た血が空中に浮かび一つの球体となっていく。血を吸い取られた魔族は瞬く間に干からびた死体となった。


 ゴギィィィィ!!


 そこに骨の砕ける音が響き渡る。ジェラルの足元に首があり得ない方向に向いた魔族の死体が転がっている。


「ふむ……脆いな。魔族と言っても簡単に死ぬのだな。もう少し手加減せねば楽に死なせてしまうな」


 ジェラルがサラリと恐ろしい言葉を発する。魔族達が一歩後ろに後ずさった。ジェラルの足元に転がっている魔族は自分たちの中でも強者として知れ渡っていたものだったのに何の抵抗もできずに首をへし折られており、ジェラルの戦闘力の高さを思い知らされたのだ。


「父上も母上もあまり弱い者いじめしてはいけませんよ」


 ジュスティスが呑気な声でジェラルとフィオーナをたしなめる。だがジュスティスの足元には両手両足を砕かれた魔族が痛みに呻きながら転がっている。弱いものいじめはいけないというジュスティスの言葉は説得力が皆無だった。


「それもそうね……せっかくだから私が始末するわ」


 フィオーナはそういうと空中に浮かんでいた球体が形を変えると魔族の一体を覆い尽くした。突然のことに魔族は何の抵抗もできずに血に覆われそのまま空中に持ち上げられた。


「はなせぇぇぇぇぇ!!」


 空中で魔族は血の拘束を外そうと足掻くがまったく外れる気配がない。魔族達の視線が空中に浮かぶ仲間に集まる。これから何が始まるのか恐怖を持って見守ることしか魔族達にはできなかった。


「ぎゃあああああああああ!!」


 突如持ち上げられた魔族が絶叫を放った。すると一つの物体が落ちてきた。魔族達はその物体の正体に気づいて顔を青くする。それは持ち上げられた魔族の右腕であった。しかも鋭利な刃物で切った傷口ではなく引きちぎられた傷口である。魔族達は血で覆われた中で仲間がどのような目にあったのかを悟ると恐怖の表情を浮かべる。


「ぎゃああああああああ!!」


 またも絶叫が大きくなると今度は右足が落ちてくる。


「がぁぁっぁぁぁぁぁぁぁっぁぁ!!」


 そして、途端に苦しみだし魔族の顔がみるみる干からびていく。見ていた魔族達は血液を抜かれていることに気づいた。空中から血液を抜かれ干からびた死体が地面に落ちる。


「ひぃぃぃぃぃ!!」

「逃げろぉぉぉ!!」


 魔族達が一斉に逃げ出す。暴力の世界に生きてきた彼らであってもおもちゃにされて殺されるのは嫌なのだろう。


「あら……逃げられるなんて思ってるの?


 フィオーナはそういうと浮かんだ球体から一斉に数十の突起が伸び逃げ出す魔族達を刺し貫いた。しかも刺し貫いた場所は腕、足、肩などの致命傷には程遠いところだ。魔族達を貫いた突起はそのまま魔族達を空中に持ち上げると不規則に振り回し始める。高速で振り回された魔族達は互いにぶつかり骨が砕けるどころか肉片となっていった。


「ひぃぃぃぃ!!…がぁ」

「うわぁぁぁぁぁあ!!げふぅ」


 絶叫を放っていた魔族達は時間が経つごとにその数を減らし五分ほどで絶叫を放つ者は誰もいなくなった。いや、すでに生前の形を保っているものはすでに誰もいない。突起に貫かれた手足が数個残っているだけだ。

 傭兵ギルド『剣牙けんが』に所属していた傭兵たちはもとの死体がわからないほど肉片となって国営墓地にばら撒かれてしまったのだった。


「フィアーネ……お前の母上様っておっかないな」

「……うん、アレン言っておくけどあの方は将来のあなたの義理の母よ」

「怒らせないようにするな」

「善処してね」


 フィアーネの言葉にアレンは小さく頷いた。

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