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危難⑤

 アレン達を救援に来た七人は完全に戦闘、いや殺戮モードにスイッチが入ったようである。漁夫の利を狙うのは間違いでは無い。だがそれを自分達の大事な者達に行おうというのなら話は別である。


「愚かさの報い……その身できちんと償ってもらいましょう」


 ロムの言葉は丁寧だがそれはロムの怒りを隠すものではない。言葉の端々に、視線の険しさに、そして何よりも放たれる凄まじい殺気がロムの怒りを周囲に知らしめていた。


「このジジィが!!」


 闇ギルドの魔族が両手に持ったダガーを構えロムに斬りかかる。魔族のダガーは変幻自在という表現そのままに不規則な動きをしながらロムに迫る。

 ロムは親指、人差し指、中指に魔力を込めて不規則な動きをする肘をとらえるとそのまま引きちぎった。同時に右足から放たれる高速の蹴りが魔族の左膝を打ち砕く。


「ぎゃああああああああ!!」


 魔族が絶叫を放ち地面にひれ伏す。ロムの手には引きちぎった魔族の両手が握られていた。


「煩いですよ」


 ゴギィィィィ!!


 ロムは冷たく言うと痛みに呻く魔族の喉を容赦なく踏み抜くと魔族はしばらくピクピクと痙攣していたが動きが止まる。


 グシャ……。


 そこにキャサリンがいつの間にか手にしていた戦槌を動かなくなった魔族の頭部に振り下ろし完全にトドメを刺した。


「あなた、横着したらダメですよ。演技の可能性がある以上きちんとトドメを刺しておかないと」


 キャサリンの容姿はいかにも上品な貴婦人という感じであるが、その行動と言葉は苛烈極まりないというものである。


「確かにそうだな。ふむ……面倒だが首をねじ切る事にするか」

「私はあなたのような芸当は出来ませんから頭を潰す事にしましょう」


 ロムとキャサリンの会話を聞いた闇ギルドのメンバー達は震え上がる。闇ギルドとして多くの非道な行動を行い、命を奪ってきた自分達であったが、お遊びでしか無かった事を思い知らされた。

 実の所、ロムとキャサリンの言葉と行動は半分は演技である。演技の目的は自分達が強者である事を装い(実際に強者であるが)、残虐に振る舞うことで魔族達の心に恐怖心を植え付ける事で戦いを有利に進めようとしたのだ。

 事実、魔族達はロムの実力と苛烈さ、キャサリンの残虐さに及び腰になっていた。ロムとキャサリンの思惑通りに事は進んでいたのだ。


「おや……少しばかり脅しすぎたみたいですね」


 ロムの心底呆れたような言葉に魔族達は歯ぎしりするが動き出すような事はしなかった。百戦錬磨のはずの闇ギルドはロムとキャサリンに完全に呑まれていたのだ。


「てめぇら、何やってやがる!! それでもむくろのモンか!!さっさとか……」


 メンバー達に戦わせようと声を張り上げた魔族の顔面を一筋の光が貫いた。その光が消えた時に顔面を貫かれた魔族の顔面には直径10㎝程の風穴が空き魔族はそのまま崩れ落ちる。


「うわぁぁぁぁボ、ボスが殺られたぁぁぁぁ!!」

「ひぃぃぃぃ!!」

「な、なんなんだこいつら!!」


 闇ギルドはその光景を呆然と眺めていたが、自分の見た光景に理解が追いつくと途端に恐慌状態になった。なにしろ自分達のボスである闇ギルド『むくろ』のギルドマスターであるエルコスが目の前で死んだのだ。

 今、エルコスの顔面を貫いたのはキャサリンの魔術である【魔光】であった。元々は光矢シャイニングアローという魔力を光の矢に変換して放つという術であったが、キャサリンは研鑽に研鑽を重ねた結果凄まじい貫通力を持たせたのだ。その威力はもはや光矢シャイニングアローとは呼べないことから【魔光】と名をつけたのだ。

 キャサリンの魔力操作は当代随一と呼んでも差し支えない。その魔力操作により魔光を放つのに一切気配を発しない事に加えて、あの時エルコスの意識はロムに向いていた。ここまで条件が揃えばキャサリンが失敗するはずはなかった。


「あらあら、どこまでもみっともない方達ね」


 キャサリンは戦槌を構えると動揺する魔族の顔面を殴りつけた。魔力で強化された戦槌は魔族の顔面にめり込み魔族はそのまま崩れ落ちる。ほぼ同時にロムも浮き足立つ魔族達に襲いかかった。

 ロムの手が魔族の喉を掴むとそのままむしり取る。喉をむしり取られた魔族が血を撒き散らしながら崩れ落ちる。魔族が地面に倒れ込む僅かの間にロムはすでの次の魔族を血祭りに上げている。

 それはもはや戦闘ではなく一方的な殺戮であった。ギルドマスターを殺され浮き足だった所に容赦なくロムとキャサリンが襲いかかった。動揺は収まるどころか仲間達の断末魔の声が響くと大きくなる一方であり、とても戦うような心理状態になかったのだ。


「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

「くそがぁぁぁ!! ぎゃあああああ!!」

「うわぁぁぁぁぁ!!」


 闇ギルド『むくろ』はそれから十数分後には全員地面に転がっていた。


「ふむ……思ったより手間取りましたね。やはり人間よりも頑強な魔族相手ではそう簡単にいきませんね」

「確かにそうですね。でも外壁は崩しましたから次はあちらをやりましょう」


 キャサリンの視線の先には三皇子達がいた。



「すごい!!流石はロム先生とキャサリン先生だ」


 ロバートが興奮しながら言う。それに他の弟子である三人もすっかり興奮したように先程のロムとキャサリンの戦いを話し合い始めていた。すっかり講義を受ける学生のような感じになっている。


「ロム先生とキャサリン先生の身体能力に目がいきがちだけどその前の過程がすごいわ」


 ヴィアンカの言葉に三人は頷く。その表情は誇らしげだった。


「ああ、まず敢えて残虐に敵を斃すことで相手に恐怖を植え付けたよな」

「キャサリン先生が容赦なく戦槌を振り下ろすことでさらに恐怖心を煽ったな」


 ヴォルグとウォルターが意見を交わすとヴィアンカが話を続ける。


「その後の先生達の会話よ。あの会話がなければギルドマスターが確定させることは出来なかったのね」


 ヴィアンカの言葉に三人が頷きながら口々に言葉を発する。


「ああ、心の折れかけたメンバー達を鼓舞するのは指揮官の役目だ。当然、声を上げるとふんでいただろうな」

「そこを一発でキャサリン先生が仕留めた……」

「まずは心を折り、指揮官を特定して始末して残敵掃討……言葉にすればこんな感じだがめちゃくちゃ難易度が高いな」


 ロムとキャサリンの弟子達である近衛騎士達は戦いの場と言う事も忘れ自分達の偉大な師匠の戦い学び取ろうと学生のような視線を向けていた。


 その一方でアレンはやや呆然と戦いを眺めていた。


(あの魔族達……不幸にも程があるよな……)


 アレンがちらりと視線を動かすと身内の戦いを呆然と眺めているフィアーネ、アルフィス、アディラ、フィアーネ、ジュセルの顔があった。


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