危難④
魔法陣から現れた人物達を見てアレン達は呆気にとられながらそれぞれの感想を漏らした。
「えっと……なぜこのメンバーがここに?」
「父上……何してんの?」
「えっと、お父様……?」
「お父様、お兄様……お母様まで……」
「え、ジュスティスさんまでならわかるけど……なんで?」
「ねぇ……レミア。私おかしいのかしらアディラと王太子殿下から“父”を意味する言葉が聞こえたんだけど」
「親父……というよりもなんだろう……この漂う大物達のオーラは……」
「ロムさん、キャサリンさんまで……」
「へ、陛下? どうしてここに……」
そう、魔法陣から現れた七人は、そうそうたるメンバー達であった。エルヴィン、ロム、キャサリン、ジュスティスに加えてジャスベイン公爵夫妻であるジェラル=ローグ=ジャスベインとその妻フィオーナ=シェラ=ジャスベイン、そして最もこの場にいるはずのない人物であるローエンシア王国国王ジュラス=ローエンである。
アレンは現れた七人を見て正直、世界を相手に戦争でもするつもりかと反射的に思ってしまったぐらいである。
「えっと……みなさんどうしてここに?」
アレンが呆然としながらも代表して尋ねる。ひょっとしたらジェド達が来てくれたのかと思ったのだが現れたのは完全に理不尽を体現するメンバーだった。
「もちろんお前達を助けに来に決まっているだろう」
ジュラス王があっさりと言うとアルフィスとアディラが猛然と抗議を行う。
「何考えてんだよ。一国の王がなんで前線に出てくるんだよ」
「お、お兄様の言うとおりです!! お父様は立場というものを考えてください」
アルフィスとアディラの抗議は当然のものであるがジュラスはまったく意に介した様子はない。
「おいおい、お前達が魔族と決闘するとなれば漁夫の利をねらう連中が出てくると思って備えるのは当然だろ。あ、それから黙ってここに来ているから何も問題は無い」
ジュラスの言葉にアルフィスとアディラは口をパクパクさせていた。二の句が継げないとはまさにこの事であった。
「ちょっとお兄様!!どうしてお父様だけでなくお母様まで来てるの!?」
「あ~フィアーネ、お前が疑問に思うのはもっともだ。なぜなら俺もどうして二人がここに来たのかまったく理解できない」
フィアーネの疑問にどうやらジュスティスは確かな答えを持っていないようだった。そこに助け船を出したのがジェラルである。
「いや、最近ちょっと腕が鈍っててな。手頃な奴等が来るという話がそちらのエルヴィン殿からあったのでせっかくだから来てみたんだ」
「……要するに暇だった……と」
フィアーネのため息混じりの声にジェラルは堂々と言い放った。
「失敬な、こうみえても私はエジンベート王国の宰相だぞ。暇なわけないだろう」
「じゃあ、さっさと帰って仕事を片付けてよ。援軍はお兄様がいれば十分です」
「もう、フィアーネったらどうしてそんなにお父様を邪険にするの? この程度の者達に私達が後れを取るはず無いでしょう。心配は無用よ」
「お母様は特に戦っちゃだめよ。加減が本当に下手なんだから墓地の施設が壊れるわ」
フィオーナの言葉にフィアーネが抗議を行う。その抗議の内容を聞いてアレンは“お前が言うな”と思ったのだが、発言しても詮無きことであるため、沈黙することにした。
そこに敬意のこもった声が四人の近衛騎士達から発せられていた。その敬意を受けるのは当然ながらロムとキャサリンだ。
「先生方も来て下さったんですか!!」
「ありがとうございます!!」
「勉強させていただきます!!」
「御助勢ありがとうございます!!」
四人の近衛騎士の言葉にロムとキャサリンは微笑みながら返答する。
「はい、陛下のお言葉に従いやって参りました。ここは私たちにまかせてはいただけませんか?」
「皆様の手柄を横取りするような形になってしまいましたけどお許し下さいね」
ロムとキャサリンに頭を下げられると四人は一斉に首を横に振る。四人にしてみればロムとキャサリンの実戦を見ることが出来るというのは僥倖であったのだ。
「え~と……親父、いつから視てた?」
ジュセルがエルヴィンに疑いの目を向けながら尋ねる。あまりにも助けに来るタイミングが都合良すぎるので陰に隠れて見ていたのだろうと思ったのだ。
「いや、視てないよ。これは神に誓えるな」
エルヴィンの言葉にジュセルは反論する。
「嘘つけ!! こんなタイミングで救援にくるなんてそんな偶然があってたまるか!!」
「いや、本当だよ“視て”はいない“聴いて”いたんだ」
「どういうことだ?」
「この国営墓地に【伝声】の術をしかけておいたんだ。アレン坊やが今夜決闘を行うという話だったからね。色々と準備をするのは当然だろ」
エルヴィンの言葉にジュセルもまたため息をつく。
「さて、アレン……ここは我々に譲ってもらおうか」
ジュラスがアレンに言う。下手をすれば全滅しかけてた現状を考えれば断る理由はない。だが、国王を戦わせて自分達が戦わないというのはやはりまずいのでは無いかとアレンは思ってしまうのだ。
「あ、一応言っておくがお前が了承しなくても勝手にやるぞ」
ジュラスの言葉にはいっさいの戸惑いはない。アレンは他の救援者達の表情を見るが、ジュラス同様に覇気に満ちた表情をしている。
「あ……それじゃあお願いします」
アレンは小さく一礼すると仲間達を見る。全員が思い思いの表情をしているが、誰一人として心配している表情はない。エルヴィン以外の実力を知らないはずのイリム達ですらまったく心配していない。戦わずして救援者達の強さを察したのだ。
「さて、話は決まった……おい、能無し共」
ジュラスが三皇子達に告げる。その声は静かであったが途方も無い強者であると否応なく思い知らされるような圧迫感を三皇子は感じていた。
「お前達の相手はこれから俺達がする。アレン達と戦った魔族達は疲れ切ってるから当然だよな。お前達は死ぬ気で戦えよ……俺達はお前達を皆殺しにするつもりだ。降伏が許されるなんて甘い考えは今のうちに捨てておけ」
ジュラスの宣言に魔族達はいきり立った。放たれる圧迫感は凄まじいが所詮は人間であるという意識が戦闘以外の選択肢を与えなかったのだ。
「皆殺しにしてやる」
ジュラスはそう宣言すると凄まじい殺気を魔族達に叩きつけた。凄まじい殺気に魔族達は明らかに狼狽の様子を見せた。
「あらあら……やっぱり思った通り漁夫の利を狙う連中なんてこの程度よね。私の娘を慰み者にしようなんて良い度胸ね。楽に死ねるなんて思わないでね」
フィオーナの言葉に魔族達が狼狽える。慰み者云々の話はアレン達の前ではしていないという事は一体どこから自分達は見られていたのかと狼狽えたのだ。その様子を見てフィオーナは嘲るように嗤う。
「あらあら……あなた達のような品性下劣な者達ならそう言うと思って試してみたけど、本当に言ってたわけね」
「ほう……私の娘を……」
ジェラルとフィオーナの殺気が天井知らずで上がっていく。そしてもう一人この場に娘を持つジュラスの殺気も天井知らずに上がっていった。
「どう考えても……あいつら生き残れないよな」
アレンの言葉に全員が頷いた。




