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家令②

今回の家令②も描写が残酷ですので、その点ご注意ください。

 アインベルク邸の夜の庭で行われた戦い(というより蹂躙)は終わった。


 ロムによって痛めつけられた侵入者を1つの所にまとめたあたりで、キャサリンが現れる。


「あなた、お疲れ様でした」


 所々骨折し、呻く男達にまったく慈悲を感じさせない瞳を向け、自らの夫であるロムを労う。


「いえ、予想以上に情けない侵入者達でした」


 ロムの声にもまったく慈悲というものが感じられない。口調が丁寧だからこそ、より一層容赦の無さが際立った。


「では、キャサリン、この方達へ拷も・・・いえ尋問をお願いします」


 さらっと恐ろしい言い間違いをロムが発し、侵入者の中で意識のある者は恐怖に顔をゆがめる。


「まぁ、あなたったらそんな事を言われたらこの方々が怯えてしまいますよ。すみませんね。みなさん」


 この初老の淑女の微笑みは、王侯貴族のような優雅さであったが、侵入者達には酷く恐ろしいものに思える。

 そんなキャサリンは優しく微笑みながら、かろうじて口をきける侵入者に語りかける。


「まずはあなた方は自分の意思でアインベルク家を狙ったのですか?それとも誰かに雇われたのですか?」

「・・・」


 侵入者の返答は無言であった。問われた侵入者はギロリと反抗的な目でキャサリンをにらみつける。

 だが、次の瞬間、侵入者は悲鳴を上げた。


 キャサリンが空間魔術によって戦槌を取り出し侵入者の足に振り下ろしたのだ。ぐしゃという嫌な音は数瞬後の絶叫により完全にかき消えた。


「あら?ちゃんとしゃべれるんですね?しゃべれないのなら生かしておく理由はありませんので、気を付けてくださいね」


「あががががが!!ぎぃぃ!!ぐぅ!!」


 足を潰された侵入者はあまりの痛みにのたうち回る。そんな事はお構いなしにキャサリンは侵入者に改めて問いかける。


「先ほどの質問に答えていただきますか?」

「痛ぇ・・・痛ぇよ」

「まったく・・・」


 キャサリンはもう片方の足に戦槌を振り下ろす。またも絶叫が響き渡る。


「その様子では答えられませんね、聞く人を変えましょう。ではあなた。答えなさい」


 名指しされた侵入者はロムに両足を砕かれている。自分が名指しされて恐怖に顔が凍っていた。


「あ・・・あ」


 キャサリンは戦槌をまた問われた侵入者の右腕に振り下ろす。ぐしゃという音がまた響き渡り絶叫が後に続く。


「あががっがががががが・・・」


 侵入者はあまりの痛みに堪えるのがやっとだ。


「まさか、この段階で私達があなた達を殺せないと思っているのではないでしょうね?」


 そこにキャサリンの冷徹な声が響く。何人もの人々を殺してきた暗殺者達が恐怖のあまりに失禁する者が出た。

 

「あなた方は今まで何人も殺してきたでしょうし、私達も殺すつもりだったのでしょう?そんなあなた達を殺すのに私達がためらうと思っているのですか?私の尋問にきちんと答えなさい」


 キャサリンは言語外に『役に立たないのなら殺す』と伝えていた。その事を侵入者達は理解していたが、自身の矜持として簡単に口を割るつもりなどなかった。


「それでは、あなた。答えなさい」


 新たに指名された侵入者は、口を開いたが、その言葉は尋問の内容とは大きくかけ離れていた。


「言うわけないだろが!!このくそババア!!」


 侵入者は声を振り絞って答える。


「そう」とキャサリンは静かにつぶやき、戦槌を遠慮なく右腕に振り下ろす。ぐしゃと続く絶叫、そしてもう一度振り下ろされる戦槌。今度は左腕を潰され、収まりかけた絶叫が再び響いた。


「あなた、この方々は私の尋問では素直に答えるつもりはないみたいね」

「そうだな。自分の置かれている状況が理解できていないのだろうな」


 ロムとキャサリンは会話を交わす。二人の口調には侵入者へ一切の情が感じられない。死んでいる虫を見るかのような目で見ていた。


「じゃあ、もうこの方々への尋問は終わりましょう」

「そうだな」


 ロムが振り返り、痛みに呻く侵入者達に静かに告げる。


「それでは、もうあなた方が当家の役に立つつもりがないことが分かりましたので、お引き取り願います」


 それを聞いた侵入者達にわずかに気色が戻る。


(バカが、甘い奴らだ。所詮、非常ぶっても殺すことは出来ないんだろう)

(必ず復讐してやる)


 自分たちを結局殺せないと思ってロム、キャサリンを侵入者達は見下しにかかった。だが、それが甘かった事を次の瞬間に思い知らされる。


 キャサリンが何かしらの詠唱を始めた。すると黒い靄の様なものが、キャサリンの手元に集まる最初は小石ほどそれから拳大、1メートル台の大きさに巨大化していく。そしてそれはさらに大きくなり5メートル台にまで大きくなる。その時にはすでに手元を離れ、キャサリンの頭上にゆったりと浮かんでいく。


「な・・・何を・・・」


 かろうして口のきける侵入者の一人が、もっともな問いを行う。


「いえ、あなた方は両足を砕かれた方々もいらっしゃいますよね?」


 ロムはまったく悪いと思っていない口調で返答する。


「当然、あなた方を私達の手で介抱するつもりもございませんし、運び出すのも面倒ですので、自分たちの足でこの屋敷から退去してもらおうと思っています」


 さらにロムは続ける。


「私の妻のキャサリンが作り出しているのは瘴気の塊でございます」


 瘴気と聞いて侵入者の顔は凍る。瘴気がアンデットの原因である事を侵入者達は知っていたのだ。


「これからあなた方はこの瘴気に操られる形で屋敷を退去していただきます。まぁ当然ですが、みなさま方は大変なケガをされておりますから無理に動かすとかなりの痛みが生じると思われます」


 侵入者の顔が恐怖に歪む。ロムの言わんとする事が理解できたからだ、自分の意思に関係なく歩いてこの屋敷から追い出すつもりなのだ。しかも痛覚はそのままなので、砕けた足であっても無理矢理歩行させるわけだ。その痛みを想像するだけで体が震えてくる。まさしく拷問である。だが、さらにロムから告げられた言葉に侵入者はさらなる絶望に襲われる。


「ああ、それから、みなさま方には当家を襲う命令を下した方にメッセンジャーの役割を果たしていただきます。伝える内容は言葉を使いませんので顎が砕かれた方も問題はございません」


(何をさせるつもりだ?)

(一体何を伝えさせるつもりだ?)

(言葉を使わない?)


「私達にするつもりだったことを、命令を下した方に行ってください。当然戦闘になるでしょうし、殺されることになるかもしれませんが、それは当方にはまったく関わりない事です。何とか生き残れると良いですね」


 ロムは命令を下した人物を殺せと報復を行おうとしている。今回、自分たちに命令を下したのは自分たちが所属する闇ギルドのギルドマスターだ。たとえ成功してもその後、確実に殺されるし、殺されなくても酷い拷問を受けることだろう。それこそ死んだ方がましという拷問を受けるのだ。

 なんとかそれだけは止めてくれと口を開く前にロムの冷徹な声が発せられる。


「それでは、みなさま方ご機嫌よう」


 ロムのその声を合図にキャサリンの頭上に貯められた瘴気の塊から6つの黒い触手のようなものが6人の侵入者に向かって放たれる。

 その瘴気の流れは侵入者の体を覆い始めた。


「止めてくれぇぇぇ!!」

「助けて!!」

「あがぁ・・・」


 かろうじて口のきけた侵入者もいたが、瘴気の流れが完全に侵入者を覆うと声が聞こえなくなる。完全に自由を奪われ声を出せないようにされたからだ。

 6人の侵入者達はそれぞれ重傷のはずなのに、何事もないように立ち上がり、屋敷の外に向かって歩き出す。

 瘴気に操られているのだ。

 痛覚があるために表面には現れていないが6人の侵入者は気絶とあまりの痛みによる覚醒を交互に繰り返す。



(あがががががががが!!)

(ぎゃああああ!!痛い!!痛い)

(助けて!!)

(許して!!)




 今まで、殺してきた者達の命乞いを無視して笑いながら殺してきた侵入者であったが、いざ自分がその立場になってみると到底受け入れることは出来なかった。いや、たとえ受け入れるつもりがなくとも無理矢理強いられているこの常識外の力にあらがうことは出来なかった。

 すさまじい痛みを感じながら6人の侵入者はギルドマスターに襲いかかり、返り討ちに遭うか、成功しても他のメンバーに殺されるという未来しかないのだ。6人の侵入者には絶望しかない。




 6人の侵入者がアインベルク邸から出ていくのを見届け夫婦は会話を行う。


「さて、まったく愚かな方々でしたね」

「そうですね。私達がアインベルク家に害をなすものに容赦するわけないのにね」

「そうですね。せめて協力的であればもう少し紳士的に対応しましたのにね」

「まぁ、あなたったらウソばっかり。アレン様に危害を加えようとする以上、許すつもりはなかったでしょう?」

「勿論です。でもそれはキャサリンもそうでしょう?」

「当然です」


 ロムとキャサリンは穏やかに話す。

 ロムとキャサリンは、アレンに正々堂々と挑むのなら、たとえアレンが危険にさらされようとも手を出すつもりはない。だが、暗殺という卑しい手段を使う者にはまったく容赦をするつもりはない。どんな非道な事も躊躇なくやる。それがアインベルク家に三代に渡り仕えているロムとキャサリンの矜持であった。


「さて、そろそろアレン様がご帰宅される時間だな」

「確かに・・・」

「お出迎えするとしよう」



 ロムとキャサリンはアインベルク家の玄関先で主を待つ。アレンはいつも通りの時間に見回りから戻った。


 玄関から入ってきたアレンに対し、ロムとキャサリンはこれ以上ない美しい礼で主人の帰宅を出迎える。


「「お帰りなさいませ。アレン様」」


 ロムとキャサリンの出迎えに年少の主人であるアレンはにっこりと笑い、『ただいま』と返す。


「ロム、キャサリン、留守中何か変わったことはなかった?」


 アレンの問いにロムは暖かな笑みを浮かべて答えた。



「いつも通りでございます。アレン様」

 


 

 なんかロムさんとキャサリンが想像以上に恐ろしい人物になってしまいました。


 当初の予定では、もっと人情味あふれる人柄になるはずだったんですが・・・


 うまくいかないものです。

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