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激突⑭

 エルカネスは大剣を構え直すとフィアーネに向かって斬りかかった。上段から一気に振り下ろされる大剣の一閃をフィアーネは一切の無駄のない動きで左横に躱した。その躱す動きがそのまま攻撃となっており、フィアーネの左拳がエルカネスの顔面にカウンターとして放たれる。エルカネスはその拳を首を傾けて躱すと大剣を横に薙いだ。


「おっと……」


 フィアーネはエルカネスの横薙ぎの一閃を後ろに跳んで躱した。そこにアルティリーゼが【魔斬マジックセイバー】を放った。この魔術は簡単に言えば魔力で形成した刃を飛ばすというものである。魔矢マジックアローが対象者を貫くのを目的とするのなら、魔斬マジックセイバーは対象者を斬る事を目的としている。

 フィアーネの着地点に放たれた魔力の刃にフィアーネはさらに横に跳んで躱す。そのためにフィアーネとアルティリーゼ達の間合いは想定していたよりも遠くなってしまった。


(あまり間合いが開くのは避けたいのよね……)


 フィアーネは心の中でそう呟く。フィアーネは魔術の腕前も凄まじく高いがあくまで専門は無手での戦いだ。ところがアルティリーゼは魔術のスペシャリストであり、魔術戦になれば最終的に敗れる事をフィアーネは察していた。だが、アルティリーゼの間合いに入るにはエルカネスという障壁がある。


(この二人相手に素手で戦うのはきついわね。仕方ない使うとするか)


 フィアーネは決心すると空間に手を突っ込み二つのブレスレットを取り出すと両腕に装着する。装着したブレスレットは光を放った光ったブレスレットは形を変えてゆくのがアルティリーゼ達にはわかった。その光が収まった時にフィアーネの両腕には禍々しくも美しい形の手甲が装着されていた。

 芸術品と称されてもおかしくないような手甲であるが禍々しさを感じるのは手甲に瘴気が纏わり付いているからだ。纏わり付いた瘴気は人間の苦悶の表情を形作り、崩れるとまた苦悶の表情が現れるというものであり、見るものに禍々しさと不気味さを印象づけている。


「なんだあれは……禍々しすぎる」


 エルカネスがフィアーネが身につけた手甲を見て呟く。その声は小さいものであったがアルティリーゼには妙にはっきり聞こえた。


「エルカネス、あの真祖トゥルーヴァンパイアの実力に、あの手甲の禍々しさ。厄介さが跳ね上がったわね」

「はい、アルティリーゼ様……残念ですが一対一では分が悪すぎます。ですが二対一なら勝てます」

「もちろんそのつもりよ。問題はここであの真祖トゥルーヴァンパイアに勝ってもイリムの助太刀にはいけないわね」

「はい……残念ですが」

「ならせめて真祖トゥルーヴァンパイアがイリムの元に行けないようにするしかないわね」


 アルティリーゼの言葉にエルカネスは首肯する。フィアーネ相手に余力を残して戦えると思えるほどエルカネスは自惚れていない。二対一という有利な状況も戦いの趨勢を決定付けるもので無い事をエルカネスは感じていた。そしてそれはアルティリーゼも同様だ。


「さて……行くか」


 フィアーネはそう言うと両掌をアルティリーゼに向ける。すると手甲から立ち上る瘴気が掌に移動を開始する。両掌に移動した瘴気は直径40㎝程の大きさに成長する。エルカネスがアルティリーゼを守るために一歩踏み出した瞬間に瘴気の塊が凄まじい速度で放たれた。

 ゴゥ!!と言う音と共にアルティリーゼ達に跳ぶ瘴気の塊はエルカネスの大剣が一刀両断する。真っ二つになった瘴気の塊はそのまま背後に飛んでいった。


「な……」


 エルカネスの口から驚愕の声が発せられた。瘴気の塊を真っ二つに斬り裂いた場所からエルカネスの大剣が溶けていき、ボトリと地面に落ちたのだ。


「これは……瘴気はカムフラージュのためか」


 エルカネスは大剣の溶け口を見て事情を察した。先程のフィアーネの攻撃をエルカネスは単なる瘴気の塊と思っていたのだがそうではない。フィアーネは【強酸礫アシッドグラボル】という魔術を展開していた。強酸礫アシッドグラボルはその名の通り、強酸性の液体を作り出し対象者にぶつけるという魔術だ。

 フィアーネは強酸弾アシッドグラボルを瘴気の塊で覆うことで瘴気弾を装ったのだった。手甲から禍々しく立ち上る瘴気にアルティリーゼとエルカネスは目を奪われ、それに思い切り引っかかってしまったのだ。


 エルカネスは溶けて三分の一程の長さになった大剣を投げ捨てる。


武装解除アーマーパージ!!」


 エルカネスが力を込めて言うとエルカネスの纏っていた魔剣士の鎧が外れると地面に落ちる。剣を持っていない以上、素手で戦う事になるため鎧は逆に動きを狭めることになるため外したのだ。


「思い切りが良いわね」


 フィアーネはそう言うと走り出した。駆けながらフィアーネの両手に瘴気が集まる。フィアーネは走りながら両手に集めた瘴気を放った。まずは右手に集めた瘴気だ。放たれた瘴気は地面を走りエルカネスに向かう。

 エルカネスは地面を走る瘴気の塊に向けて溶けて落ちた大剣を蹴り飛ばした。大剣の先っぽはそのまま瘴気の塊にぶつかると爆発した。爆風により砂塵が舞い上がりエルカネスの視界からフィアーネが消えた瞬間に左手に集めていた瘴気の塊を放った。

 放たれた瘴気の塊をエルカネスは腕に魔力を集中させ薙ぎ払った。薙ぎ払われた瘴気の塊はそのまま消滅する。


「せい!!」


 そしてその瞬間にフィアーネが踏み込む速度を上げるとエルカネスの懐に飛び込み右拳をエルカネスの腹部に放つ。エルカネスは凄まじい速度で放たれた右拳を腕で逸らすとそのまま裏拳をフィアーネの顔面に放った。


 バシィィィ!!


 フィアーネはその裏拳を左手で受け止めるとそのまま掴みエルカネスの腕を捻り上げた。その瞬間、エルカネスは捻り上げられた動きに全く逆らわず自ら跳び空中で一回転すると着地する。

 フィアーネが着地した瞬間を狙おうとした時、アルティリーゼが【破穿はせん】を放った。この破穿はせんは魔力を線にして敵を穿つ。術と言うよりも技と称した方が近いかも知れない。


「ち……」


 フィアーネは放たれた破穿はせんを後ろに跳んで躱した。


「まだまだ!!」


 アルティリーゼは攻撃の手を緩めることなく次々と破穿はせんを連発していく。フィアーネは躱しながら手甲から発せられた瘴気を使って障壁を作った。同時にフィアーネは防御陣も形成する。破穿はせんの貫通力を確かめるためだ。


 パキィィィィィン!!


 アルティリーゼの破穿はせんはフィアーネの防御陣と瘴気の壁をあっさりと突き破るとフィアーネの顔面に迫る。フィアーネは顔面に迫る破穿はせんを首を傾けて躱した。


(私の防御陣をあっさりと貫通するなんて厄介な術ね)


 フィアーネはアルティリーゼの破穿はせんの貫通力に警戒心を強める。フィアーネの防御陣をあっさりと貫いた破穿はせんはフィアーネであっても避け損なえば命を落とすことを物語っていたからだ。

 そこにエルカネスがフィアーネに襲いかかる。エルカネスの右拳がフィアーネの顔面に放たれるがそれをフィアーネは避けながらエルカネスの右膝を蹴りつける。避けながらの攻撃でありエルカネスのダメージは僅かなものでしかない。事実エルカネスはそのままフィアーネへの攻撃を続けてきた。

 大剣を失い、鎧を脱ぎ軽装になったエルカネスの戦いをフィアーネは妙に馴染んでいると感じていた。この馴染み方を見てしまえば大剣を持って戦うこれまでの闘法の方に違和感が生まれたぐらいである。


(こっちの戦い方の方が馴染んでいるけど……勝てない相手じゃない!!)


 フィアーネはエルカネスを強敵と認めているが自分の方が強いことを察していた。それは紙一重の差ではあったがその紙一重の差こそがフィアーネ達のレベルになると大きな差となるのだ。


(さすがにさっきの術はこれほど密着していれば撃てない)


 フィアーネはエルカネスと激しい技の応酬を交わしながらアルティリーゼの破穿はせんを警戒している。フィアーネとアルティリーゼの間にエルカネスがいるため破穿はせんを撃つ事は出来ないと当たりをつけたのだ。

 エルカネスの右拳をフィアーネは下から弾き空いた懐にフィアーネは飛び込み双掌打をエルカネスの胸部に叩き込んだ。


(手応えあり!!)


 フィアーネがエルカネスの胸部に放った双掌打が胸骨を砕く感触をフィアーネは掌に感じた。そしてその瞬間にエルカネスの腹から一条の光が飛び出してきた。その光はそのままフィアーネの腹を貫いた。


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