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激突⑬

 フィリシアがフォルグと戦いを開始した時を同じくしてレミアもディーゼと戦いを開始していた。


 レミアとディーゼの戦いは二度目の戦いである。一度目の戦いはレミアがディーゼを圧倒したのだが、あれからディーゼは過酷な修練を自らに課し実力を蓄えてこの戦いに臨んでいた。

 レミアはディーゼが前回よりも実力をつけた事を察しており、油断ならない相手である事を、いや強敵であるとみなしている。


 レミアの双剣がありとあらゆる角度から放たれるのをディーゼもまた双剣を使って受け止める。


 キンキンキンキキキキン!! キンキンキン!!


 両者の間に双剣がの煌めきが走り、ぶつかることで無数の火花が散る。夜の国営墓地で発せられる火花は見る者に、両者の技量の高さを示すと共にここまでの実力を得るまでに投じた膨大な時間と努力に敬意を払わずにはいられない気分にさせられただろう。


(このまま……剣戟に興じるのも楽しいけど……何かしらこの膠着状態を変えるような一手を打たないといけないわね)


 レミアは心の中で作戦を練り始める。しかし、ディーゼには剣戟を展開しながらも隙らしい隙は一切ない。ディーゼに勝利するためにはディーゼの想定を越える必要があることをレミアは察した。


(上手くいくか五分五分だけど……これなら相手も想定していないはず……)


 レミアはそう判断すると後ろに跳び、ディーゼから一端間合いを取る。


(誘ってる? なら……これで)


 ディーゼはレミアの後退を誘いと判断すると自ら追撃を行う事はしなかった。代わりに死霊術を展開しアンデッドを作成する。ディーゼがここで作成したアンデッドはリッチだ。強大な魔術を行使できる凶悪なアンデッドであるが、それは一般的な評価でありここ国営墓地においてはすっかり雑魚の位置づけとなっているアンデッドだ。

 リッチはレミアに指先を向けるとそのまま【雷撃ライトニング】の魔術を展開する。指先から放たれた電撃をレミアは双剣に魔力を込める電撃を切り払った。しかもそのまま反対の剣を振るって剣に込めた魔力を放出し斬撃を飛ばしたのだ。放たれた斬撃はそのままリッチを両断する。核を斬り裂かれたリッチはガラガラと消滅した。

 斬撃を放った硬直の瞬間を狙ってディーゼがレミアとの間合いを詰める。このまま攻撃を繰り出すことが出来ればディーゼはこの戦いの流れを掴む事が出来たのかもしれない。


 だが……。


「え?」


 ディーゼが驚きの声を上げる。その理由はレミアが突然自分の前に現れたからだ。レミアが間合いを取る際に転移魔術の拠点を設けていたのだ。もちろんディーゼはレミアが転移魔術を戦闘に上手く使用することを知っている。だが転移魔術を使用した結果現れる場所はディーゼの死角だと思っていたのだが、今回レミアが現れた場所は自分の目の前だった事に驚いたのだ。

 レミアは確かに死角を狙って転移をするのだが、それは物理的なものだけを意味するものではない。むしろレミアが狙うのは意識の死角である。この時もディーゼは背後に現れると思っていたために眼前に現れたレミアに驚愕したのだ。


「せい!!」


 レミアは突進するディーゼの腹部に膝を突き込む。カウンターのようにレミアの膝が突き刺さりディーゼの口から血が吐き出される。


「く……」


 血を吐き出したディーゼが痛みを堪えながらレミアに斬撃を繰り出すとレミアはそのまま転移魔術を起動しディーゼとの間合いを取った。

 正直、ディーゼが今の膝蹴りで弱っていればそのままレミアは一気に押し切るつもりだったが、ディーゼの斬撃が想定していたよりも鈍っていなかったために深追いを避けたのだ。

 一方でディーゼは自分の演技が上手くいった事に心の中で安堵の息を漏らしていた。実際の所、先程の斬撃は力を振り絞って偽装したものだったのだ。レミアの膝蹴りはディーゼに相当なダメージを与えていたのだ。


(奥の手を……使うしかない。でもかかるかしら……)


 ディーゼは奥の手を使うことを選択せざるを得ない状況にあるのを察するがレミアに通じるか不安がよぎる。


「フィリシア……」


 そこにレミアの口からフィリシアの名がポツリと漏れた事に気付く。ディーゼはそれを見て自分の奥の手がかかりやすくなったのを察する。今のレミアの声には仲間を心配する声が含まれており、心が乱れているのを感じたのだ。


(いける!!)


 ディーゼは成功確率が五割を越えたと思った瞬間に動いた。この機会を逃せば成功確率は下がる一方だ。


 ディーゼは逆手に持った右手の剣をレミアの首筋に向け斬撃を放つ。レミアはすかさず自分の双剣の一本を使いディーゼの斬撃を受け止める。受け止められた瞬間にディーゼがもう一本の剣を振るう。それをレミアはもう一本の剣でまたも受け止める。

 並の相手であればこの二回の斬撃で勝負は決していただろう。だが、相手はレミアである例えフィリシアの劣勢に意識を削がれたからといえ、それで勝負を決する程甘い相手ではない。

 レミアが二本目の斬撃を受けた瞬間にディーゼの双剣から電撃が放たれた。


 バチィィィィィィ!!


(しまった……三手目があったのね……)


 レミアは瞬時にディーゼの三手目にまんまとかかった事に気付く。二回の斬撃は決まらなくても問題無い。むしろレミアに受け止めさせることが目的だったのだ。ディーゼは雷撃ライトニングを放つのではなく剣を通してレミアに直接送り込むという三手目を隠し持っていた。普段のレミアであればディーゼの三手目を看破し躱していただろう。だが、フィリシアの劣勢に対する焦りがそれを見逃させてしまったのだ。

 レミアの革鎧の内側に魔術に対する【抵抗レジスト】の術式を組み込んでいたためにかなりダメージが軽減されたのは幸運であったが、軽減されたがまったく無傷というわけにはいかなかったのである。

 そこにディーゼが追撃を行う。レミアの腹部と肩口に斬撃を放ったのだ。レミアはすかさず回避を選択するが、電撃のダメージと驚きのためにいつもの動きを発揮する事は出来なかった。

 ディーゼの斬撃がレミアの脇腹と肩口を斬り裂いた。レミアの左肩と左脇腹から鮮血が舞う。回避をしていたために致命傷を避けることは出来たがその傷は決して浅くない。


「はっ!!」


 レミアはあしの裏に魔力を集中して爆発させるとその推進力を使ってディーゼに飛び膝蹴りを放つ。レミアの膝がディーゼの右脇腹に深々と突き刺さった。


 ビキィィィ!!


 ディーゼの肋骨が砕ける音が響き渡り、ディーゼは五メートルほどの距離を飛んで地面を転がった。ディーゼはヨロヨロと立ち上がるがレミアは追撃を行わない。余裕からではなく肩口と脇腹の傷が深手であり電撃のダメージから体が言う事を利かなかったのだ。


(動け……動け……あと一回斬り結ぶだけで良いのよ。あっちも限界のはず……)


 レミアはディーゼの様子を見て決してディーゼのダメージも軽くなく、現在のレミアと同様にディーゼも余力はないのだ。


(よかった……フィリシアは勝ったのね)


 レミアの視界にフィリシアが倒れたフォルグに治癒魔術を施しているのが見えた。それだけでレミアの心にその深手にも関わらず安堵の感情が広がっていく。


 ディーゼはレミアの雰囲気が変わった事を察した。先程までの張り詰めた気配が緩んでいくのを感じていた。だが、それはディーゼにとって勝利を確信させるものでは無い。確かにレミアから放たれる雰囲気は柔らかいものになった。だがその奥に巨大な岩のような重厚さを感じる。


(いくしかない……)


 ディーゼは肋骨の痛みを堪え駆け出す。不思議な事に砕かれた肋骨の痛みは動き出すと遙か彼方に飛んでいった。ディーゼが出ると同時にレミアも動く。レミアとディーゼは実際に斬り結ぶまでの僅かな間に数十のフェイントを入れる。だがお互いにその数多く行われたフェイントにかかる事無く斬り結んだ。


 レミアの斬撃をディーゼがいなし、即座に反撃する。それをレミアは受け流すとまた反撃する。瞬きですら隙となる神業の応酬であった。

 レミアの右手に握られた剣がディーゼの左手の剣によって絡め取られレミアの右手から飛んだ。


(よし!!)


 ディーゼはそのまま右手の剣でレミアの腹に突きを放つ。ここでレミアはまたも想定外の行動にでた。ディーゼの突きを躱すのではなくそのまま突っ込んできたのだ。レミアの腹部にディーゼの剣がさし込まれていくがレミアは構わず突き進む。


「な……」


 ディーゼの驚愕の声とレミアがもう片方の剣を手放しそのまま双掌打を放つのはほぼ同時であった。


 ドゴォォォォォォ!!


 レミアの双掌打がありえない音を発するとディーゼの体を吹き飛ばした。ディーゼは地面を転がる。起き上がろうとするがもはや立ち上がる事は出来ないようだ。

 レミアは腹に刺さったディーゼの剣を注意深く抜き取る。完全に抜くとそのまま剣を地面に落とした。


「ふぅ……危なかった」


 レミアはそう一声漏らすと倒れ込むディーゼの元に重い足取りのまま近付いていく。


「ディーゼ……私は勝負は着いたと思うんだけど。まだやる?」


 レミアの言葉にディーゼは静かに答える。


「まさか……この状況で負けてないなんてそんな恥知らずな事言えるはず無いわ」

「そう……それじゃあこの勝負は私の勝ちね」

「うん……あなたの勝ちよ」


 レミアの言葉にディーゼは素直に応じる。その声には悔しさが含まれているが、納得しているという感情が含まれている事をレミアは察した。


「レミア」


 そこにフィリシアがレミアに声をかける。レミアがそちらを向くとフィリシアがフォルグに肩を貸しながら歩いてくるのが見えた。


「フィリシアも手酷くやられたわね」

「うん、我ながらよく勝てたと思うわ」

「私もよ」


 フィリシアの言葉にレミアも苦笑する。二人ともこれほどの傷を負わされたのは国営墓地の見回りを始めて初めてであった。


「今の私達じゃあ、アレン達の加勢は出来ないわね」

「うん」


 レミアの言葉にフィリシアは頷く。現時点での二人がアレン達の助太刀に向かってもあっさりとやられるだけだ。


「それじゃあ、私達に出来る事はここで傷を癒やすぐらいしか出来ないわね」


 フィリシアがそういうとレミアを手招きする。その意図を察したレミアはフィリシアの傍らに座り込んだ。フィリシアはフォルグを下ろすと座り込んだレミアのとなりに座り、治癒魔術を施す。


「ありがと……助かるわ」


 レミアはフィリシアに礼を言うとフィリシアは微笑む。


「とりあえず……今は休むとしましょう」


 フィリシアは治癒魔術を施しながら優しく言うとレミアは頷いた。


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