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激突⑥

 アディラに向かってきたレズゴルをアディラの護衛チームは迎え撃つ。護衛チームはアディラが信頼する者達でありその実力もずば抜けている。


「いくぞ!!」

「「「おお!!」」」


 ヴォルグの言葉にウォルター、ロバート、ヴィアンカは剣と盾を構えるとレズゴルに向かっていく。その動きは流麗であり、アレンとロムの指導を受け始めた時とは次元が違うと言って良い。またこの四人は連携し常に最善の行動をとっていく。もはや集団戦で言えばアレンであっても完勝するのは不可能と言って良かった。


 四人は武器防具にそれぞれ魔力を通して強化して事に臨んでいる。レズゴルの六本の腕に握られたそれぞれの武器に注意を払いつつ四人は斬りかかった。


「あなた達も行きなさい。近衛騎士の方々ばかりに戦わせて高みの見物など許しません」


 メリッサの鋭い言葉と冷たい視線に駒達は身を震わせる。このまま戦闘に参加しないという選択をすれば戦いの後にどのような報いを受けるかわかったものではない。


「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「わぁぁぁぁぁぁっぁあぁ!!」


 口々に駒達の口から咆哮が発せられレズゴルに向かって斬りかかった。その咆哮は自らの恐怖を忘れるためのものあるのは明らかであるが、それを笑う者はこの場にはいない。絶大な力を持つ悪魔と戦えと言われれば恐怖に身をすくませるというのは至極当然の事であった。

 もっともアディラ達は駒に対して一切の情を持っていない。今まで彼らがやって来た事を考えれば当然の事である。慈悲、敬意を受ける事にも資格が必要であり無制限に与えられるものではないのだ。

 今までの彼らの人生が慈悲、敬意を受ける資格を放棄している以上アレン達にしてみれば当然の扱いであった。


『ん? こいつらは随分とこの四人に比べれば劣るな』


 レズゴルは新手の登場に内心首を傾げる。始めに自分に斬りかかってきた近衛騎士達は手練れであると認めていたが、新手の者達は明らかに劣っていたのだ。


 ビシュン!!


 そこに矢鶴の音が響く。レズゴルの顔面に向かって一本の矢が飛来するがそれをレズゴルは首を傾けて躱した。見た目には余裕で躱したように思われるが決してそうではない。突然の必殺の攻撃を仕掛けられれば悪魔であっても恐怖を感じずにはいられない。


(まったく厄介な奴等だ。いつあのガキが射てくるかわからんからそっちに気を配らないといかん。そして……)


 ヴィアンカの斬撃が六本の腕をくぐり抜けレズゴルに迫るのを身をよじって躱す。先程から四人の近衛騎士達はレズゴルの腕、脛などに斬りつけており、レズゴルとすれば少しも気が抜けないのだ。アディラに気を配れば四人の近衛騎士達からの攻撃に対処しづらいし、かといってそちらに気を配ればアディラの矢から注意が逸れてしまう。どちらにも同じぐらい気を配るというのはレズゴルの精神力を思った以上に削っているのだ。


「うぉぉぉぉぉぉ!!」


 そこに一人の駒がレズゴルに斬りかかる。速度、膂力、技術の全てが拙い。レズゴルは手にしていた戦槌を容赦なく振り下ろすと駒の一人は躱すことは出来ずにまともに受けると頭部が砕かれた無惨な死体が一つ出来上がった。

 

「かかれぇぇぇぇ!!」

「うぉぉぉぉ!!」

「うわぁぁぁぁぁぁっぁあぁ!!」


 ガルディスが声の限り叫んで仲間の元盗賊達を鼓舞すると駒達が一斉に斬りかかる。それを見て近衛騎士の四人は一端後ろに下がりアディラの護衛に回る。短い時間の戦闘であったが激しさは桁違いだ。そのため四人の息は上がっていた。それを見て近衛騎士の四人をアディラは労う。


「お疲れ様、すぐ出番が来るから少しでも呼吸を整えてね」

「わかりました。ご配慮感謝いたします」


 四人を代表してウォルターが答えるとアディラは微笑みで返した。視線をレズゴルに向けると駒達が次々とレズゴルに殺されているのが目に入る。剣で受けようとしても、盾で受けようとしてもレズゴルは意に介することなく次々と駒達を葬っていった。

 さすがにガルディス、鬼尖きせん九凪くなぎ、『リンゼル』の元メンバー達は盗賊達のように一太刀でやられるような事はないが、討ち取られないようにするのが精一杯と言った感じだった。

 元盗賊達はレズゴルによって全て討ち取られすでに肉片となっていた。レズゴルの周囲にはすでに死が充満している。


「エレナ、ちょっとこれ持ってて」

「はい」


 アディラが手にしていた弓を隣に立つエレナに渡すとアディラはすぐさま瘴気を集めると弓を形成する。同時に瘴気で矢も形成するとレズゴルに向かってアディラは矢を連射する。


 ビシュン!! パシュン!! ビシュビシュビシ、ビビビビビビビビビビ!!


 アディラの矢は次々と放たれるだけでなく射る速度が加速度的に上がっていった。まるで矢の奔流のようにレズゴルに向かって放たれる瘴気の矢にレズゴルは武器を矢を弾くのに振り分けざるを得ない。

 レズゴルの弾いた矢は瘴気で構成されていたために弾かれ地面に落ちると塵となって消えていく。


(な、なんだ。この連射はあのガキは化け者か!!)


 アディラの止まらない連射にレズゴルは防戦一方に追い込まれていく。だが防御に徹したレズゴルの防御をアディラの矢の奔流であっても貫く事は出来なかった。


(く……あわよくばこれで討ち取るつもりだったけど……アレン様達に任せるしかないわね)


 アディラがわざわざ目立つ連射をしたのは確かにレズゴルへの攻撃という面もあったが、アレン達への合図でもあったのだ。




 *  *  *


「合図だ……」


 アレンがアディラが矢を連射始めた時に呟くとフィアーネ、レミア、フィリシアが頷く。


「それにしても……あれって反則よね」


 フィアーネの言葉に全員が頷く。アディラの連射を見た正直すぎる感想であった。いくら一射事に矢筒に手を伸ばさなくて済むからと言ってもあの連射ははっきり言って反則と言われても仕方が無い。


「……まぁ、それはとりあえず置いとこう。せっかくみんなが作ってくれた状況だ。あとは俺達がそれに応えるだけだ」

「うん」

「了解」

「行きましょう!!」


 アレンの言葉に三人はそれぞれの言葉で返答する。レミアが転移魔術を展開すると四人の姿が消え、イリム達の背後に現れる。

 イリム達は自分達の背後に現れたアレン達四人をすぐさま把握するとそれぞれアレン達を迎え撃つ。

 アレン達はイリム達に向かって駆け出した。


「現れたなアレンティス=アインベルク!!」


 イリムが叫ぶ、この時イリム達はアレン達の作戦の“半分”を看破した。いや最初からそれを察していたと言って良い。ジヴォード達が現れた時に即座に撤退を選択した以上、次に取るのは自分達の分断であると考えていた。そしてそれを読んだ上でジヴォード達をあの一団に向かわせ、敢えてアレン達の誘いに乗ったのだ。

 それというのもあの一団にいないのはアレンを含む四人であるという事がわかっており、アレン達四人とイリム達五人の戦いとなり有利な状況で戦う事が出来ると考えたのだ。


「アレンがんばってね」

「アレンさん、負けないでくださいね」


 レミアとフィリシアが走りながらアレンに伝えるとアレンとフィアーネから離れる。それに応えるようにディーゼとフォルグがレミアとフィリシアに向かって駆け出す。


「さて……少しきついけど……がんばるわ。アレンも負けないでね」


 フィアーネがアレンにウインクをするとアレンの返事を待たずに一気に駆け出す。フィアーネに相対するためにエルカネスが大剣を抜き身構える。


(私の目的はあなただけじゃないのよ。アルティリーゼ、あなたもよ)


 フィアーネはそのままエルカネスではなくアルティリーゼに殺気を放つ。その殺気を感じたイリムがアルティリーゼの前に立ちはだかる。


(流石はフィアーネだな……)


 アレンはそのままの勢いでイリムに斬りかかる。


 イリムもまた魔剣ダイナストを構えるとアレンと斬り結んだ。


 キィィィッィィィン!!


 アレンとイリムの斬撃同士のぶつかりは空気を振るわせる。音が響いたのだがそれ以上に両者から放たれる気迫、エネルギーの放出が空気を振るわせたのだ。


「はぁ!!」

「でぃやぁぁぁぁ!!」


 アレンとイリムの激しい剣戟の応酬が始まる。イリムの斬撃を紙一重で躱すのではなく、紙一枚内側に身を晒した。当然アレンの体をイリムの剣が薄皮一枚であるが斬り裂く。たかが皮一枚であるが剣の刃先に身を晒すというのは常人のとれる戦法ではない。


(あえて皮一枚を受けるか!! そうだ、それでこそ父を斃した男だ!!)


 イリムは斬り結びながら、アルティリーゼとエルカネスがイリムに助太刀しようとしているのを察する。だが、それをイリムは卑怯とは思わない。これは個人戦ではなく集団戦なのだ。そのためアレン達が自分達が想定していたよりも人数を集めた事に対して不満の声をあげなかったのだ。


 アレンは鍔迫り合いに持ち込むと体を入れ替え、すぐさま後ろに跳ぶ。間合いを取ろうとしたアレンをイリムは追撃する。

 そして、アレンとイリムの姿が突然かき消える。


「な」

「イリム!!」


 アルティリーゼとエルカネスが突如消えたイリムに驚愕する。そこにフィアーネが跳躍しエルカネスにそのまま蹴りを放つ。エルカネスはフィアーネの蹴りを躱すと同時にイリムとアレンを探すとディーゼ、フォルグもいつの間にかいない事に気付く。


「みんな。どこに行ったの!?」


 アルティリーゼの言葉にフィアーネはニヤリと嗤い口を開く。


「場所を変えただけよ。ここは騒がしいから私達も移動しましょう」


 フィアーネはそう言った瞬間にアルティリーゼ、エルカネスの視界がぐりゃりと歪み、視界が戻った時には景色が変わっていた。


「ここは……」


 アルティリーゼの言葉にフィアーネは即座に答える。


「もちろんここは国営墓地よ……さて始めましょうか。勝った方が愛しい男の元に駆けつけることが出来るという寸法よ」

「なるほどね……そういうの嫌いじゃないわ」


 フィアーネの言葉にアルティリーゼが微笑んだ。



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