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激突③

 アレンが動きフィアーネ、レミア、フィリシアが続く。お互いの出方を見ていた両陣営はアディラの攻撃により先手を奪われたのだ。

 アルティリーゼが【黒翼天使(ザルムバジア)】を死霊術で作成したのは、【黒翼天使(ザルムバジア)】を使ってアレン達をかき乱し流れを掴むためだったのだ。だが、その企みはアディラによって完全に逆手にとられてしまったのだ。


 アレンは真っ先にイリムに向かって突き進んでいく。ディーゼ、フォルグがアレンに斬りかかろうとするが、二人の剣を止めたのはレミアとフィリシアである。


 レミアとフィリシアはアレンに斬りかかる二人を確認するやいなや狙いをディーゼとフォルグに絞ったのだ。そうすることでアレンへの攻撃を防ぐことも出来るし、ディーゼ達の隙も突けると良いことずくめだったのだ。


 キィィィィン!!


 フィリシアの斬撃をフォルグは受け止める。剣通しがぶつかる澄んだ音が周囲に響いた。


「凶王……あなたの相手は私がするわ。役者不足と思わないでね」

「お主ほどの剣士相手にそのような事を言うほど耄碌していないさ」

「そうね……もう少し私を甘く見てもらった方が私としてはやりやすいんだけどね」


 フィリシアは鍔迫り合いの最中に前蹴りを放つ。狙った箇所はフォルグの膝頭だ。高速で放たれた蹴りであったがフォルグはそれをさっと身を引いて躱すとフィリシアの首に斬撃を放った。

 フィリシアはフォルグの斬撃を屈んで躱すとそのまま圧縮した魔力を打ち放った。放たれた魔力の塊はフォルグの腹に直撃するはずであったがフォルグが咄嗟に腕で防ぐ。魔力により強化されたフォルグの腕により魔力の塊を弾いたのだ。


「やる……」


 フィリシアの口から賞賛の声が上がる。フィリシアは後ろに跳び、フォルグから間合いをとった。


 キ、キキキ……


 一方でレミアの双剣もディーゼの双剣により受け止められていた。


「この間と同じと思わないでね。こうみえても強くなったんだから」


 ディーゼは邪気のない笑顔を浮かべるとレミアに言う。前回は圧倒されてしまったが、今回はそうはいかないという意思表示である。その意思を受けてレミアも笑う。そこに蔑みの感情は一切含まれおらず純粋に好敵手の登場に胸を躍らせているようでもあった。


「そう……それは楽しみね」


 レミアは剣を引くと同時にディーゼの双剣の内側に滑り込ませるとディーゼの腕を斬り落とそうとした。だがディーゼはすぐさまそれに反応すると後ろに跳びレミアの間合いから抜け出した。


 アレンとフィアーネはレミアとフィリシアが戦闘に入ったのを感じたが、そのままイリムに向かっていく。イリムは剣を構え、その隣にはエルカネスが背負っていた大剣を抜いている。


 フィアーネは走りながら瘴気の塊を打ち放った。飛来する瘴気弾にイリムとエルカネスが剣を構え切り払うために振りかぶった。だが間合いに入る直前に瘴気弾は膨張し、人型へを変貌した。

 フィアーネの動く彫刻である神の戦士(エインヘリアル)だ。突如誕生した神の戦士(エインヘリアル)にイリムとエルカネスは一瞬虚を突かれるが、神の戦士(エインヘリアル)がイリムとエルカネスに斬撃を繰り出すとすぐにそちらに意識を戻すとエルカネスが一合も斬り結ぶことなく、一体の神の戦士(エインヘリアル)を斬り伏せ、いりむに向かったもう一体と斬り結んだ。


神の戦士(エインヘリアル)を苦も無く斬り伏せる……強敵ね)


 フィアーネは心の中でそう呟くと自分の中でスイッチが入るのを感じる。強敵と認めた相手にはフィアーネは自然と戦闘モードに入るのだ。斬り結んでいた神の戦士(エインヘリアル)が斬り伏せられた瞬間に走り込む速度を上げたフィアーネはエルカネスの間合いに潜り込むと魔力を込めた正拳突きを放った。


「く……」


 エルカネスは凶悪なフィアーネの拳を何と躱すことに成功するが、受けなくともその威力を十分に察しており、エルカネスはぞっとした感覚を感じる事になった。

 フィアーネは初撃が躱された事にまったく構うことなく次の攻撃に移る。正拳突きを放った腕を戻すことなくそのまま肘打ちに転じたのだ。


 ドガァァァァァ!!


「ぐはぁ!!」


 その肘打ちをエルカネスは躱す事が出来ず腹部にまともに受ける。エルカネスの纏う全身鎧フルプレートは魔剣士に与えられる鎧であり、当然ながらその防御力は凄まじく高い。それを身に纏っている以上安全なはずだったのだが、衝撃が鎧を通り抜けエルカネスに衝撃が叩き込まれたのだ。エルカネスの口から苦痛の声が漏れたのを責めるのはこくというものだ。

 エルカネスは大剣を横に薙ぐとフィアーネはさっと後ろに跳び間合いをとった。フィアーネは勝負には流れというものがあり、この段階では流れがまだ定まっていないことを察しておりここで行くべきではないと判断したのだ。


「せい!!」


 そしてアレンはイリムの間合いに遠慮無く入り込むと上段斬りを放つ。ぞの斬撃はイリムが経験したものでも五指に入るほどのものだ。これほどの斬撃を放つ事の出来るアレンティス=アインベルクに対し、イリムは感動すらしていた。

 イリムはアレンの凄まじい斬撃を避けるのではなく一歩踏み込むと手にした魔剣ダイナストで受ける。


 キィィィィィィン!!


 アレンとイリムが鍔迫り合いに入る。このまま押し切ろうとしたときに、アレンは何やら嫌な予感を突如感じた。それは理屈から導き出した予感ではない。本能が突如警告を発したのだ。

 アレンは鍔迫り合いを急遽取りやめるとそのまま後ろに跳び間合いをとった。


(なんだ? あのまま鍔迫り合いをしていれば間違いなくやられていた……イリムは何かを隠し持っている。それはあの魔剣の能力と見た方がいいな)


 アレンはイリムの魔剣ダイナストを見て、その能力を警戒する。


(ち……読まれたか。一瞬の“タメ”がどうしても必要なのがダイナストの使い所が難しいな)


 イリムはアレンが鍔迫り合いを取りやめて間合いをとった事に感歎していた。アレンが間合いをとった瞬間にイリムはダイナストに込めた【轟雷トーラグルム】をアレンの剣を通して一気に送り込むつもりだったのだ。

 魔剣ダイナストは込められた魔術の威力を爆発的に高めることが出来る。だが、そんな能力の発動には“タメ”が必要なのだ。

 もちろんイリムはその“タメ”を見抜かれないように様々な偽装を施しているの大抵の実力者であってもそのタメを見抜くことは難しい。

 だがアレンはその偽装を看破し“タメ”を見抜いたのだ。正確に言えば見抜いたと言うよりも感じたと言う方が的確なのだが、イリムの攻撃を躱した事には違いないのだった。


 始まった戦いにアルフィス、カタリナ、ジュセルは動かない。自分達が戦いの中に入り込んだ場合に伏兵がいた場合に対処するのが難しいからである。その事をアレン達は理解しており、それで責める事は一切無い。

 

「よし……」


 アディラは小さく呟くとアルティリーゼを狙う。ろくに狙いを定めることなくアディラは立て続けにアルティリーゼに矢を放つ。

 だが、放たれた矢はアルティリーゼの展開していた防御陣に突き刺さり、アルティリーゼには届かない。


 アルティリーゼは自身の防御陣を貫きかけたアディラの矢を見てもまったく動揺しない。今までの魔族であれば自身の防御陣を人間如きが敗れるものかという蔑みを持って臨んでいたのだが、アルティリーゼはアレン達の実力を高く評価しているために、貫きかけた状況であってもまったく動揺しなかったのだ。


「序盤なのにもうこの手札カードを切らないといけないのね」


 アルティリーゼはそう言うと足元に魔法陣が展開された。数は四つでありそれが召喚術の術式である事にアルフィス達は気付いた。アレン達は魔法陣の展開まではわかっていたがそれぞれの戦闘の相手がいるためにそこまで見ることが出来なかったのだ。


「一体何が出てくる?」


 アルフィスの言葉に全員の視線が集まる。この状況で召喚するという事は雑魚でないことは確実である。


 四つの魔法陣から出てきたのは四体とも身長2メートル50㎝以上の巨大な悪魔達である。そしてその放つ魔力、禍々しさは凄まじいの一言である。


「上位悪魔だと? いや……この禍々しさはそれ以上か」


 アルフィスの言葉に全員の緊張が一気に高まる。緊張で済んだのはアレンの仲間達が心身共に強者だからである。駒の連中はガタガタと震えておりとても立ち向かおうという雰囲気ではない。


「ジュセル、カタリナ、あの悪魔達を押さえるから手を貸せ!!アディラはここで全員を支援!!他はアディラを守れ!!」


 アルフィスの言葉に全員が一斉に動く。アディラの両隣にはメリッサ、エレナ、エシュレム、ラウラが前面にヴォルグ達四人の近衛騎士が立つ。全員が緊張はしているが心がまったく折れていない。

 アルフィスがそれを確認すると悪魔達に斬りかかろうとした時、制止の言葉がアレンからかかる。


「アルフィス!! プランBだ!!」


 アレンの言葉に全員が動く。動いた先はアディラの近くである。剣戟を行っていたアレン、フィアーネ、レミア、フィリシアも剣戟を注視してアディラの元に下がる。イリム達は追撃を行おうとしたがアディラが矢を番えるのを見て追撃を思いとどまった。


 全員が一纏めになった所でそれぞれ転移魔術を展開しイリム達の前から消え去った。


「逃げた……」


 エルカネスの言葉にイリムは静かに首を振る。


「体勢を立て直すつもりだ。アルティの召喚したジヴォード達はあいつらにとっても不測の事態、だから引いたんだ」

「やっかいね」


 イリムの言葉にディーゼがため息を漏らす。


「あれほどの強さでありながら勝つために容易に撤収する。流れを掴んだら一気に来るわね」


 ディーゼの言葉にイリム達は頷く。


「とりあえず……初戦はこちらが取ったと見て良いのかしら?」


 アルティリーゼの言葉にイリムは考える。それからイリムは口を開く。ため息が微妙に含まれているように感じた。


「いや、五分に持ち込んだというべきかな」


 イリムはそう言うとアレン達が転移したと思われる方向に目を向けた。


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