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激突②

 夜の国営墓地でアレン達一行はイリム達を待ち受けていた。約束の時間までもう少しである。

 アレン達はこれから魔族達と殺し合うというのにまったく緊張した雰囲気を発していない。それに対してアレン達に“駒”と荒れている者達の顔色はすべからく悪い。今まで強者として振る舞い弱者とみなした者達を蔑み、踏みにじってきたがそれが虚飾であった事を今更ながら自分達の体の震えから思い知らされていた。


「アレン様来たようです」


 アレンにアディラがそう声をかける。アディラの敵を発見する能力はアレン達の中でずば抜けているのだ。そのアディラの指差す方を見るとしばらくして、何人かの人影が視界に入る。


「イリム……か」

「うん、間違いないわ」


 先頭の魔族の少年を見てアレンが呟くとフィアーネが小さく頷く。この中でイリムと面識があるのはフィアーネだけであり、フィアーネが答えるのは当然であった。


「人数は五人か……」


 アレンが言うと全員が周囲を確認する。アレン達の陣営に対して立った五人で挑むというのは自殺行為であり、当然ながら伏兵の存在を気にかけたのだ。


(いない……少なくともこの国営墓地に現在いるのはこの五人だけだ)


「そこで止まっていただきたい」


 アレンは周辺を警戒しつつ言葉で五人を牽制する。五人は素直に従いアレンが声をかけた場所で立ち止まった。


「初めまして、俺はアレンティス=アインベルク。あんたがイリム=リオニクスだな?」

「その通り俺がイリム=リオニクスだ。会えて光栄だアレンティス=アインベルク」


 先頭の魔族が何の気負いもなく返答する。イリムは黒髪、黒眼、側頭部に羊のような角が生えている。身長はアレンとほぼ同程度で眉目はまず秀麗と称されるような容貌をしている。体には魔剣士の黒を基調とした全身鎧フルプレートに、一目で業物とわかる魔剣を腰に差している。


 アレンはイリムを観察しつつ自分の情報を隠す。相手の情報を探ることばかりに集中し、自分が情報を垂れ流しにしては意味がないのだ。


「イリム、この戦いはそちらから申し込まれて俺が受けた。それで間違いないな?」


 アレンの言葉にイリムは目を細める。アレンが何を言うかを想像して先手を打つ事にしたイリムは静かにアレンに返答する。


「ああ、勝負を引き受けていただいた事を心から感謝する。だが、このまま初めては不公平だな」


 イリムの言葉に今度はアレンが目を細める。イリムが自分が条件を提示することを読んだことを悟ったのだ。


(腹を読む力は相当なものというわけだな。やはり油断は出来ない相手だ)


 アレンはイリムの受け答えから交渉事に長けていることを察する。単純な剣術バカではないことをフィアーネからの情報から察していたが、短い会話でそれを確信する。アレンは感心したようにイリムに言う。無論演技である。この演技にどのような利益があるのか正直アレンは理解していない。だが少しでも有利に働く可能性がある以上、怠るつもりは一切無かった。


「ほう、そこまで言ってくれればこちらとしても提示しやすい」

「そうか、言ってくれ」

「何、簡単な事だ。戦いの決着は死以外も加えて欲しいということだ」

「どういうことだ?」

「負けを認めて降参した者には手を出さない。そして勝者に従う。これがこちらの条件だが、どうかな?」

「受けた」


 アレンの提示した条件をイリムはあっさりとのむ。その際にアレンは周囲の仲間達を観察するがまったく動揺しているようには見えない。どうやらイリムに全般の信頼を寄せていることをアレンは察した。


「そうか……話が早くて助かるよ。こっちはこの約束を破るような者はいないから安心して欲しい。もし破った場合は下種げすと思って蔑んでもらって構わない」

「ふ……俺の父に勝った男がそのような卑劣な男でないと信じているさ」


 アレンの言葉にイリムはニヤリと嗤って答える。少しずつ両陣営の緊張が高まっていくことをこの場にいる全員が察している。


「こちらの条件は以上だ。そちらからは何か話す事は無いか?」

「いや、俺はないな。言葉で話すというのも良いが早く戦闘によって会話したいというのもある。いやそちらの方が遥かに強い」


 イリムの言葉にアレンもまたニヤリと嗤う。その嗤いはアレンもまたイリムとの戦いを望んでいた証拠なのだ。


「そうだな、これ以上の会話は野暮というものだ。早速始めるとしよう」

「ああ」


 アレンとイリムの会話が終わると全員の緊張感が一気に高まっていく。みなが初手をどのようにくり出すかを牽制している状況だ。この戦いにおいて見届け人というものは存在しない。当事者達がそれぞれの呼吸の合ったときに戦いが始まるのを全員が理解していた。


(さて、イリム達は弱点を狙ってくるかも知れないな。そこを狙わせて返す刀で敵の戦力を削るとするか……)


 アレンのここで言う弱点というのは駒達の事である。アインベルク家に仕えている駒達は普通に考えれば戦闘の中核となるような戦力であるが、この場でははっきり言って弱者でしかない。


(あの後ろにいる連中は確実にアレンティス達よりも遥かに戦力として落ちる。普通に考えればあいつらを始末するのが良いのだろうが、その隙をつくつもりか?)


 イリムはアレン達が連れている駒についてどのような存在か考える。イリムはどうも誘いのように感じていたのだ。


「イリム……まずは様子見と行きましょう」


 アルティリーゼが死霊術でアンデッドを作成する。作成されたアンデッドは【黒翼天使(ザルムバジア)】だ。黒い翼を生やした天使のような姿をしており手には身長ほどの長さを持った戦槌があった。

 【黒翼天使(ザルムバジア)】は翼をはためかせ空に舞い上がろうとした瞬間、【黒翼天使(ザルムバジア)】は突如消滅する。


「な……」


 突然の出来事にアルティリーゼは驚愕する。これからまさにアレン達の実力を見るために嗾けようとした手駒がいきなり消滅すれば驚くのもおかしくないだろう。【黒翼天使(ザルムバジア)】が消滅したのは、アディラがただ一矢で【黒翼天使(ザルムバジア)】の核を射貫いたからである。

 アレン達とイリム達の距離は約20メートル程でありアディラであれば目を瞑っても当てられる距離だ。にも関わらずアディラがイリム達の誰かを射殺さなかったのは、全員が実力者であり、警戒している以上不意討ちが決まるわけではなかったからだ。


(よし……意識があのアンデッドの消滅に移った)


 アディラは【黒翼天使(ザルムバジア)】の消滅に一瞬であるがイリム達の意識が逸れた瞬間に矢を立て続けに射る。


 ビシュン!! パシュン!! ビシュン!!


 立て続けに放たれた矢はアルティリーゼに向け一直線に飛ぶ。アディラはアルティリーゼを狙うことでイリム達の思考を縛ろうと画策したのだ。実際にイリム、エルカネスがアルティリーゼの前に立ちふさがりアディラの矢を払いのける。


(よくやってくれたアディラ)


 アレンはその動きを見てイリム達に剣を抜いて斬りかかった。アレンにフィアーネ、レミア、フィリシアが続く。


 アレン一行とイリム一行の戦いが始まったのだ。


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