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挑戦②

「決闘……ですか?」


 アレンの言葉にフィリシアが尋ねる。イリムとはいずれ雌雄を決することになるのは全員が感じていたことであるがさすがに決闘の申し込みが来るとは思っていなかったのである。イリム達との対決は向こうから襲撃があると思っていたのだ。


「ああ、イリムは俺達との決着をつけるために決闘を申し込んできた」

「なんでそんな事を……」


 アレンの言葉にレミアも首を傾げる。フィリシアの感じた疑問をレミアも感じてきたのだ。おそらくフィアーネ、レミアも同様の反応を示す事は容易に想像できる。


「イリムの美学というやつなのかもしれないし、こちらを油断させるための罠の可能性も否定できないな」


 アレンの頭の中では様々な可能性が考えられているようである。その思案を邪魔するのはあまりレミアもフィリシアも好きではないのだが、それでも確認しておかなければ意見を言うことも出来ないためにアレンに尋ねることにする。


「それじゃあアレンさんが“舐めている”と言った条件というのは何なんですか?」


 フィリシアがアレンに尋ねた事はやはり相手の出した条件の事である。アレンの先程の言葉からこちらに有利な条件を出された事は察していた。


「今からちょうど一ヶ月後に国営墓地で決闘……人数は自由だそうだ」


 アレンの言葉にレミアとフィリシアはアレンが“舐めてる”と考えた理由を察した。イリムの出した条件は、アレン達にとって都合が良すぎるのだ。何故かというと、国営墓地は言わばアレン達にとってホームタウンであり、どこに何があるかを完全に把握している。加えて一ヶ月という期間を設けた事で、その間に国営墓地に様々な罠を仕掛ける事が出来る。対してイリム達は国営墓地に罠を張るという事は出来ない。国営墓地に罠を仕掛けた所でそれをアレン達に解除されてしまえば意味が無いのだ。つまりこちらは罠を仕掛け放題、反対にイリム達は罠を仕掛ける事は困難を極める。そのような好条件を提示されればアレンとすれば“舐めている”のかと思わざるを得ない。

 アレン達は基本有利な条件を作り出すために様々な策を弄する。だが、今回は初めからお膳立てされているのだからアレンとすれば慎重にならざるを得ない。自分で状況を作り出すのと相手から提示されるのでは危険度が段違いに大きいのだ。


「イリムはよほど自信があるというわけね」


 レミアの言葉にアレンは頷く。


「ああ、俺はそうとるな。イグノール殿を斃した俺達の情報はある程度向こうも仕入れているだろうから、俺達が万全の用意をして戦いに臨みたがるというのはわかっているはずだ」

「確かにそうですね。でも、そこまで自信があるのならこちらはそれに乗じて万全の用意をするしかないのではないですか?」

「フィリシアの言う通りよ。相手の思惑がどうあれ私達は万全の状況を作り上げる事に全力を尽くすべきよ」


 レミアとフィリシアの言葉にアレンは頷く。そこにキャサリンが口を開く。


「相手がそこまで自分達に有利な状況を与えようとするのを心配する気持ちは理解できますが、レミア様とフィリシア様の意見に私は賛成です。相手の思惑がどうあれ必勝の気構えで臨み、準備を整え勝利を収めるというのがアインベルク家の家風です」


 キャサリンの言葉にアレンは苦笑する。だが、キャサリンの言葉は全くもって事実である。相手がどのような策を弄しようが、アレンとすれば準備に時間をかけて戦いに臨むという事しか出来ないのだ。


「そうだな……みんなの言うとおりだ。これから対イリム戦の準備の総仕上げに入ろう」


 アレンの言葉にレミアとフィリシアが大きく頷き、キャサリンは微笑むのだった。




 *  *  *


「ふぅ……」


 アインベルク邸を出たフォルグは、その足で王都から出ると転移魔術でイリム達との合流地点に辿り着くと安堵の息を漏らす。

 アレンから放たれた殺気は歴戦の雄である凶王フォルグであっても神経をすり減らしたのだった。


「フォルグ、お疲れ様」


 戻ったフォルグにイリムが声をかける。フォルグが視線を移すとそこにはイリム、アルティリーゼ、エルカネス、ディーゼがいた。


「ただ今戻りました」


 フォルグはイリム達に一礼する。


「それでアインベルクは何と?」


 イリムが待ちきれないという表情を浮かべフォルグに首尾を尋ねる。


「は、アインベルクはイリム様に“楽しみにしている”と……」

「そうか」


 フォルグの言葉を聞きイリムの表情が緩む。イリムのアレンへの感情はかなり複雑だ。父の敵であると同時に父を越えたという越えるべき相手であり、そして父を斃すほどの実力を持った憧れにも似た感情と好悪入り交じった複雑な感情であった。だが、最近はイリムの中でアレンに対し純粋な好敵手として捉え始めているような印象を周囲の者は感じていた。


「イリム、喜ぶのは後よ。あなたは“あの”アレンティス=アインベルクへ挑戦状を叩きつけたのよ。それは同時に隠者ハーミットにも挑戦した事になるのよ」


 アルティリーゼの言葉に緩んでいたイリムの表情が引き締まる。アルティリーゼの見立てでは隠者ハーミットはアレンの関係者であると結論づけられていた。というよりも隠者ハーミットの残した様々な言葉から導き出せない方がよほどおかしい。そこでアレンと戦う事で隠者ハーミットとコンタクトをとろうとしているのだ。


「わかっている。アインベルクと戦えば間違いなくあの男が出てくる」

「そういうこと……いよいよ一ヶ月後にアインベルクとの決戦よ。私達は負けるわけにはいかないわ」


 アルティリーゼの言葉にイリム達は頷く。相手がいかに強敵であっても負けるわけにはいかない戦いというものがあるものなのだ。


「いよいよか……」


 イリムの言葉は小さく仲間の耳には届かない。だがアルティリーゼはイリムを真っ直ぐに見つめると微笑みながら頷いた。どうやらイリムの心情を察したらしい。


 アレンとイリムの戦いがいよいよ秒読み段階に入ったのであった。

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