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聖剣

 ガラガラ……


 エスケメンでの仕事を全て終えたアレン達は王都への道を進んでいた。馬車の中にはアレンとアルフィスのみであり、ライオスは別の馬車に文官達と共に乗っている。ガルディス達は裁判をこれから受ける事になっており、その後でアインベルク邸に引き取られることになっているため同行はしていなかった。


「今回の公務は予想以上に上手くいったな。アレンがいてくれて本当に助かった」

「そう言ってくれると本当に嬉しいな」

「しかし、アレンの婚約者達には悪い事をしたな。まぁ、アレンがそれぞれ婚約者のみんなに、贈り物を買っていたから機嫌は直るだろうな」

「……何で知ってる?」


 アルフィスの言葉にアレンがぎくりとした表情をアルフィスに向ける。アルフィスはアレンの慌てる様子を見てほくそ笑んだ。


「いや~お前が昨日公務が終わってから突然、街に出ただろ? 俺もたまたま外に出る用事があった……それだけなんだよな」

「お前……つけてたのか?」

「いや、クリスティナへのお土産を買おうとした所にお前がたまたま来たからな。バレないように気配を消したんだ」

「……なんで気配を必要があるんだよ」

「いや~将来の義理の弟が浮気なんかしたらさ、アディラだけでなく他の皆さんにも悪いからな」

「俺はあいつらを裏切るような事はしないぞ」


 アレンはため息をつきながら答える。アルフィス自身もアレンが浮気をするなど露ほども思っていない。その事はアレンも理解していた。


「で、お前は何を買ったんだ?」


 アルフィスが尋ねるとアレンは口を開く。


「ああ、フィアーネにはブレスレット、アディラには指輪、レミアには髪飾り、フィリシアにはネックレスだな」

「ほう、かなり奮発したな」

「デザインはシンプルだったが、みんなに似合いそうなのを買った」

「なるほどな一時間近く悩んでいたんだから喜んでくれるだろうな」


 アルフィスはニヤニヤしながら返答する。その様子をアレンは憮然とした表情で聞いていた。婚約者達への贈り物を選んでいた時の自分の浮かべていた表情は大層しまりのない表情をしていた事をアルフィスの表情から自覚したのだ。


「しかし、お前があんなしまりの無い顔でアクセサリーを選んでいる姿はかなり不気味だったぞ」


 ペシッ!!


「いてぇな、何すんだよ~~」


 アレンがアルフィスの頭をペシとはたいた事に対してアルフィスが抗議を行う。アレンも本気で叩いたわけではないのでアルフィスの抗議は完全に棒読みであった。


「あのな……お前いい加減にしろよ」

「ははは、すまんすまん」


 まったく悪びれないアルフィスにアレンはため息をつく。アルフィスは結構アレンをからかうし、毒舌も吐くのだが、本当にアレンの嫌がる事もしないし傷つけるような事も決して言わない。


「さて、冗談はこの辺にして……アレン、お前俺に聞きたいことがあるんじゃないか?」


 アルフィスの言葉にアレンはすっと目を細める。アレンはアルフィスの意図するところをきちんと把握していた。アルフィスの意図は聖剣『アランベイル』の能力をアレンに伝える事だ。その事を知りたいという思いはアレンにはある。だが、それを口にして尋ねるのは少々憚られた。なぜなら戦闘において自分の情報をひけらかすのは悪手であるとアレンは思っていたからである。そしてそれは仲間であっても同様であり、礼儀であるとアレンは思っていたのだ。


「何の事だ?」

「俺の持つ聖剣『アランベイル』の能力の事だ」

「……」

「お前は礼儀として聞かないようにしているのだろうけど、この聖剣の能力については何も問題は無い」


 アルフィスの言葉にアレンは首を捻る。アルフィスの言葉から余程の自信がるというよりも元々考慮するに値しないと考えているような印象を受けたのだ。


「そこまで強力な能力なのか?」

「いや……強力と言うよりも厄介な能力だ」

「それは俺に知られても問題無い能力というわけか」

「ああ、後ろお前には伝えておいた方が俺にとっては都合が良い」

「?」


 アルフィスの言葉にアレンはまたも首を傾げる。ここまで言われればアレンとしても尋ねることに対して逡巡はない。


「そうか、それならその聖剣の能力を聞かせてもらおう」


 アレンの言葉にアルフィスは頷く。


「この聖剣の能力を発動すると使用者の能力が格段に上がるのはお前も察しているだろう?」

「ああ、ゴルヴェラ三体をあっさりと斬り捨てたのは聖剣の能力によって身体能力が上がったのがその理由だな」


 アレンの言葉にアルフィスは頷く。アルフィスは確かに強者でありゴルヴェラ三体と戦ったとしても最終的に勝利を収める事が出来るのは間違いない。だが、あそこまで圧倒する事は不可能だ。アルフィスの実力に聖剣の能力を付与した事による結果、あそこまでゴルヴェラ三体を圧倒したのだ。


「その通りだ。俺はこの聖剣の能力を使ってゴルヴェラを瞬殺したというわけだ」

「ここまで聞いてると特段厄介な能力でないと思えるが、何かしらの代償を払っているわけだな」


 アレンがアルフィスの言葉に聖剣の能力発動には何かしらの代償が伴うと考えるのは当然の事である。ゴルヴェラを圧倒するほどの身体能力を付与する能力が代襲無しに得られると考えるほどアレンはお目出度い性格をしているわけではなかった。


「俺の払う代償はほとんどない。厄介と言ったのは代償じゃないんだ」

「代償はないだと?」

「ああ、厄介なのは自分でどの能力を強化するのがまったくわからんという話だ」


 アルフィスの言葉にアレンは首を傾げる。アルフィスに説明を促すような目を向けるとそれを察したアルフィスが言葉を続ける。


「この聖剣は使用者の能力を強化する事が出来るのはわかってるな。今回は『身体能力』の向上だった。他に強化される項目があってな『魔力』『視覚』『聴覚』『味覚』『触覚』がそれだ」

「は?」

「意味がわかんないだろ。なんで聖剣の能力強化にそんなものがあるのかという項目があるだろ……安心しろ俺もお前と同じ反応をしたから」

「ああ、『視覚』は動体視力が向上するとするとしたら悪い能力じゃない。『聴覚』『触覚』は気配察知が格段に上がる事になればそんなに悪いものじゃない……でも『味覚』って何だよ」

「ツッコミをありがとう。だが、『視覚』は別に動体視力が劇的に上がるわけじゃない。気配察知の『聴覚』『触覚』もそれほど気配察知に上がるわけじゃない。最後の『味覚』なんんて一体何のためにあるのか分からないぐらいだ」

「なぁ……ひょっとしてその聖剣の能力によって強化されるのって、自分で項目を選べないのか?」


 アレンの言葉にアルフィスは苦々しく表情を浮かべて呟く。


(うわぁ~~なんて面倒くさい能力だ。自分で選択できないなんてこれじゃあ戦闘で当てにならないじゃないか)


 アレンはアルフィスの言葉にゲンナリとする。発動した際に『身体能力』『魔力』が強化される当たりを引けば一気にアルフィスの戦闘力と合わさって一気に戦いを決める事が出来る事になるだろうが、他の項目ではそうならないだろう。『視覚』『聴覚』『触覚』はまだマシかも知れないが、『味覚』などまったく役に立つとは思えない。


「つまりな、この聖剣の能力を当てに戦闘は行えないし、知られてもどの能力が強化されるかが分からない以上、他の者に知られても何の問題はない。むしろ、相手が知っていた方が迷うだろうから広まって欲しいぐらいさ」


 アルフィスの言葉にアレンは納得の表情を浮かべる。なぜアルフィスが悪手を行うのか理解したのだ。知らない者はアルフィスの力が上乗せされるという事ですむが、知っている者に対してはどれが強化されたかを考えさせることになり、いわば“ハッタリ”として使える事になるのだ。


「なるほどな……お前がどうして能力を俺に教えるのか不思議だったが、そこまで安定しない能力なら伝えても害にはならんな」

「そういうことだ。この剣はどうやらかなりひねくれ者らしい」

「お前にぴったりだな」

「そういう事だ」


 アレンの軽口にアルフィスはニヤリと嗤い答える。


(アルフィスと聖剣が組み合わされればどんな変化が生じるかが楽しみだな)


 アレンは心の中で呟くとアルフィスがどのようにこのひねくれ者の聖剣を使いこなすかに興味が移っていくのであった。

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