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変化

 何かおかしい・・・


 アレンはそう独りごちる。


 おかしいと感じているのはレミアとフィリシアの態度だ。やけにアレンに対してアプローチをしてくる。


 アレンとて健全な青少年、レミアやフィリシアのような美少女に好意を向けられて嬉しくないはずがない。もし嬉しくないという奴がいれば、その男は間違いなく同性愛者だ。 アレンがおかしいと感じているのは、二人のアプローチの仕方に何か違和感があるのだ。


 何か二人のアプローチが、お互いに張り合ってという感じではなく、お互いに協力してアレンを落としにかかっているという感じなのだ。



「なぁ・・・二人とも今夜はどうしたんだ?」

「何が?」

「何がですか?」


 二人とも笑顔を浮かべアレンの質問に質問で返す。質問に質問で返答するのはあまり好ましくないと言われるが、有効な交渉技術であることは否定できないだろう。


「いや、二人ともやけに俺にふれてくるし、レミアは何か嬉しそうだし、フィリシアは照れてるし」

「気のせいよ」

「気のせいですよ」


 二人のニッコリした笑顔にアレンは何も言えなくなってしまう。この二人に直接聞いたところで、これ以上の返答は期待できない。このやりとりは今夜もう4回目である。

 

 昨夜、二人で見回りしたときに何かあったのかな・・・とアレンは推測しているが、それを確かめるすべがない。


(あらら、アレンたらさすがに戸惑ってるわね)

(ふふふ・・・アレンさんが戸惑ってる姿って珍しい)


 確かに二人の様子がおかしいが、いざアンデットが出現すればまったく危なげなく斃すし、アンデットの発見もまったく問題ない。仕事に支障がない以上、アレンも注意することは出来なかった。


 そんな、アレン達一向に声をかける人物が現れる。


「ア~~~レ~~ン!!レミア~~~!!フィリシア~~!!待って~~~!!」


 声の主は誰かは分かっている。この国営墓地でこんな脳天気な声を出すのは、世界広といえども二人しかいない。一人はフィアーネである。もう一人は世界は広いんだからそのうちで会うだろとアレンは思っていた。

 振り返ると非常識の権化であるフィアーネが駆けてきていた。やたらこのテンションの高い残念美少女のトゥルーヴァンパイアはご丁寧にアンデットを数十体つれてご登場している。


 別にフィアーネはアンデットに追われているから助けを求めているわけではない。あの程度のアンデットはフィアーネにとって何ら危険性のないものだ。デスナイト、デスバーサーカー、リッチ、スケルトンウォリアーなどがその内容だ。

 一般レベルでは一軍を動かすレベルの敵であるが、フィアーネにとっては蠅と大差がなかった。


 リッチが背後から火球を放つが、フィアーネはそれを見ないまま避ける。背中に目が付いてるのかと思うほどの余裕のある躱し方だ。


 すばらしいスピードでアレン達のもとにたどり着き、極上の笑顔をアレンに向ける。本当に見惚れる笑顔とはこの事だ。たとえフィアーネの性格が残念であっても、その容姿にケチがつけられることは決してない。


「もう!!もう少し待っててくれてもいいじゃない」


 フィアーネは『困った子ね』といった風にアレンに告げる。アレンにしてみればアンデットをここまで連れてくるフィアーネこそ困った奴なのだが、この気持ちは絶対に伝わらないだろう。


「フィアーネ・・・とりあえず、あのアンデット達を片付けてくれ・・・ああ、手加減を忘れないようにな。墓地の施設を壊すなよ」


 アレンの要請にフィアーネはニコリと微笑み、アンデットに向かう。一抹の不安は残るが、後は見守るしかない。


 フィアーネの戦いはそれはもう・・・圧倒的だった。


 スケルトンウォリアーがフィアーネの拳、肘、蹴りなどで次々と破壊されていく。破壊される中にデスナイト、デスバーサーカーも混ざっているところを見ると、フィアーネにとってアンデットの種類なんてものはさほど関係ないのかもしれない。蠅が蚊に変化した程度の認識なのだろう。

 規格外の強さに、フィアーネの実力を知っている(というよりも体験している)アレンであっても感嘆の声を上げずにはいられなかった。


 最後のスケルトンを破壊し、戦闘が終わるまで10分かからなかった。リッチもいつのまにか処理されていた。最後のアンデットを斃すとフィアーネはアレンの下に駆け寄る。


「さて、終了ね。もうアレンったら、置いていくなんて酷いじゃない」

「いや、別に置いていったつもりはないぞ。お前いつも来るときは、門前で待ってるじゃないか。いなかったから今日は来ないと思ったんだよ」

「今日はちょっと立て込んでいてね。出るのが遅くなったのよ」

「ちょっと、フィアーネいいかしら?」

「フィアーネ、お話があります」


 突如、レミアとフィリシアが二人の会話に割り込んできた。フィアーネも「?」という表情を浮かべている。レミアとフィリシアが会話に割り込んでくるような事は今まで皆無だったので、アレンもフィアーネも驚いた。


「ええ、話って何?」

「ちょっと女同士の話よ」

「あっちで話しませんか?」


 レミアとフィリシアの声も雰囲気もフィリシアに対して悪い感情は一切感じられない。そのため、フィアーネは快く応じる。何だかんだ言ってレミアとフィリシアのことは友人として捉えていたのだ。


「ええ、良いわよ」

「それじゃあ、アレンさん、すみませんが、少し時間をもらいますね」

「あ・・・ああ」

「それじゃあ行こう。フィアーネ、フィリシア」


 レミアがフィアーネとフィリシアを率いて、アレンから50メートル程の距離で話し始める。距離があることとひそひそ話のために話の内容はまったく分からない。しかもアレンの読唇術を警戒しているのか(別にアレンは読唇術は出来ないのだが・・・)頭を寄せ合い何か相談をしている。


 10分程経って話し合いが終わったのだろう。こちらに三人が向かってくる。三人とも妙に笑顔だ。レミアもフィリシアも上手くいったというような表情をしているし、フィアーネもそんな方法があったのかというような笑顔だ。


「三人とも一体何の話だったんだ?妙に三人とも機嫌が良さそうなんだけど・・・」

「ふっふふ~内緒よ♪」

「悪巧みよ♪」

「えへへ~フィアーネが仲間になりました♪」


 アレンはため息をつく。どうやらさっきのやりとりにフィアーネも絡むことになったらしい。

 その証拠に、アレンに対する接し方が微妙に変わったのだ。先ほどのレミア、フィリシアのアプローチにフィアーネが加わったのだ。




 好意を向けてくれるのは嬉しいが、事情が分からないアレンは混乱しっぱなしのまま今夜の見回りを終えた。

 

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