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勧誘⑧

 アルフィスの視線の先に座っている男は三十代になるかならないかという年齢の男だった。この男がライオスというのならアレンは正直意外な気持ちであった。なぜならその男は魔術師と言うよりも歴戦の傭兵のような印象を受けたからだ。


(引退したという話だが見た感じまだまだ第一線でいけそうな年齢だな)


 アレンの印象は誰しも思う事だろう。ライオスと思われる男の容貌は若々しく引退をするような年齢ではないように思える。


「アレン、見かけに欺されるなよ。見かけは三十になるかならんかに見えるが、実年齢は五十を超えてるという話だ」

「は?」

「引退して十五年という話だ」


 アルフィスの言葉にアレンは驚く。実年齢と容貌が釣り合っていないこと甚だしかったのだ。


「……魔術か?」

「それは知らん」

「まぁそれもそうだな」


 アルフィスの言葉にアレンも苦笑を浮かべる。確かにアルフィスの言うとおりライオスの容貌などどうでも良い事だったのだ。


「さて、早速だが行こうか」


 アルフィスがライオスに話しかけるとライオスは嫌味な表情を浮かべて返答する。


「ふむ……言っておくがそちらの護衛が斃しても意味が無い事は予め言っておくぞ。あくまでも君の実力を見せてもらう」


 ライオスの言葉にアルフィスは頷くとアレンを紹介する。


「彼はアレンティス=アインベルクだ。国営墓地の管理者である事を伝えておくよ」


 アルフィスがアレンを紹介するとライオスは驚きの表情を浮かべる。そして周囲の冒険者達から驚きの声があがる。


「ほう……なるほどな。君が噂のアインベルク侯か、いやはや噂以上だったな」


 ライオスはアレンにニヤリと笑いながら声をかける。


「初めましてアレンティス=アインベルクです」

「ああ、よろしくライオス=ジゴバスだ」


 ちなみにライオスの身分は平民である。その平民の方が身分は上のアレンに対し尊大な口を利くことに周囲の冒険者は一種の羨望にも似た視線を向けている。ましてはアレンの実力は先程絡んできた冒険者四人を軽くあしらった事からも凄まじく高い事は確実であるに関わらずにだ。

 だが、これはただ単にアレンが年齢が上のライオスに対して気を使ったに過ぎない。


「さて、面通しも終わったと言う事で早速行くとしよう」


 ライオスが立ち上がる。アルフィスとアレンは頷くと冒険者ギルドの外に向かって歩き出した。三人が歩くとそれに従い冒険者達が道を開ける。今の段階でアレン達三人の前に立つのは状況判断能力の欠如を晒す行為でしかないのは確実だ。こうしてアレン達は何事も無く冒険者ギルドを後にしたのであった。




 *  *  *


 アレン達三人は連れだって街道を歩いている。三人は冒険者ギルドを出てすぐに転移魔術でエスケメンの郊外に転移するとゴルヴェラがいるという潜伏しているという場所に向かって歩き出していたのだ。


「それにしても王太子殿下は役に立つ手駒をお持ちだな」


 歩きながらライオスはアルフィスに話しかける。アレンを手駒扱いにした事にアルフィスは瞬間的に怒気を発しかけるがアレンが視線を送るとぐっと堪える。その様子はライオスには気付かれない程度のことであったが、付き合いの長いアレンには十分に分かっていたのだ。


(アルフィスのやつ、今のは相当“きた”みたいだな)


 アレンはライオスという男について考える。


(自分の実力に絶対の自信を持つタイプだな。それにより身分というものを敢えて無視する事が自身の力の顕示になると思っている)


 チラリとアレンはアルフィスに視線を移すとアルフィスも小さく頷く。どうやらアレン同様の結論に至っているようである。


(なるほど……アルフィスは先にライオスと交渉した際にこいつの自分の能力について絶対の自信と力の顕示欲を利用して自分の配下に置くことにしたわけだな)


 アレンはアルフィスがそれを利用してライオスの逃げ道を一つずつ潰している事を確信した。

 

(もうこいつは逃げられないな……自分よりも遥かに優秀な人物という者をこいつは見た事が無かったんだろうな)

「後はあんたが実力を示してくれればいいわけだ」


 そこにライオスがアルフィスに上から目線で語る。それを見ながらアレンはライオスの道化っぷりを嗤わないようにするのに苦労したほどだ。


「ああ、もちろんさ」


 アルフィスは何でもないように返答するが、実際は腸が煮えくりかえっているのを感じていた。


(こいつ……本当にいるのかな? 少なくとも大した役に立つとは思えんがな。まぁアルフィスなら使い途を考えてるんだろうな)


 アレンは二人の会話を聞きながらそんな風に考えていると、こちらに向かってきている気配を感じた。


「アレン、来たぞ。ライオスの護衛を頼む」

「わかった」

「俺に護衛などいらんぞ」

「まぁそう言うな。相手はゴルヴェラだ。どんな不測の事態が起こるかわからんからな。巻き込まれて死んだりでもされれば叶わん」

「な……」


 アルフィスの言葉にライオスは気分を害したようだ。ある意味アルフィスの意趣返しであった。


 ライオスが抗議の声を上げようとした時にアレン達につぶてが放たれた。凄まじい速度で放たれたつぶてであるが、アルフィスは剣を抜剣しつぶてを一振りで両断する。


「相変わらず見事なもんだな」

「お前に褒められるとは光栄だな」


 アレンの賛辞にアルフィスは自身の振るった剣を見ながら言う。アルフィスの剣は片刃で反りの入っているもので、材質は『ガヴォルム』である。ガヴォルムは持ち手の魔力に応じてその硬さを変えるという魔法金属である。

 アルフィスの持っている剣はローエンシア王国の至宝とも言われる聖剣『アランベイル』である。二ヶ月程前にジュラス王から譲られたものだ。


(こいつ……これを使いたくてゴルヴェラ討伐とか考えたんじゃないだろうな?)


 アレンが妙に嬉しそうにしているアルフィスを見ながら思う。


「さ、やるか」


 アルフィスはニヤリと嗤うとこちらに向かってくる三体の人影に視線を移す。いや、三体とも人では無い事は明らかである。ゴルヴェラの身体的特徴である側頭部の角と尻尾が見える。


 エスケメンの周囲に出没しているというゴルヴェラ達であった。

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