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勧誘③

「やっかい?」


 ファラメスの言葉にアレンは鸚鵡返しで答える。実の所、エスケメンの治安部隊の実力は決して低いものでない事をアレンはアルフィスから事前に聞いていたのだ。その治安部隊が厄介というのは色々と考えさせられる事だった。


「はい、実は盗賊団のメンバーの中に元『オリハルコン』クラスの冒険者であるガルディス=ヘニングスがいるのです」


 ファラメスの言葉にアレンが“ほぅ”という表情を浮かべる。『オリハルコン』クラスの冒険者と聞けば戦力として申し分ないと思ったのだ。


「元『オリハルコン』ですか……そんな超一流の冒険者が盗賊になるなんて……」


 アレンの呟きにファラメスも頷く。『オリハルコン』クラスの冒険者は実力はもちろん、財力も相当なものだ。何しろ一回の任務で一年は遊んで暮らせる額の報酬を受け取る者もいるのだ。


「ガルディスは冒険者の時から犯罪行為に手を染めていまして、それが原人で冒険者ギルドから除籍されたのです」

「あ~それでですか」


 ファラメスからもたらされた情報にアレンは納得する。ガルディスは冒険者ギルドを数々の犯罪行為により除籍された事で冒険者として活動することは勿論出来ない。そのような背景があれば、どれほど実力があってもまともな人間がガルディスを雇おうと思うはずがない。必然的にガルディスに近付くのは犯罪に関わる者ばかりとなる。そうなれば加速度的に堕ちていくことだろう。まぁガルディスについては犯罪行為を行っていたのだから堕ちるべくして堕ちたと言える。


「元とはいえ『オリハルコン』クラスの冒険者相手では我々では荷が勝ちすぎる。そこで王都に救援を求めた次第です」

「なるほど……そこで王太子殿下が視察の名目でやって来たわけですね」

「はい。王太子殿下の警護に治安部隊の人員が割かれれば、それだけ活動しやすくなるという王太子殿下の作戦です」


 アレンは納得の表情を浮かべて大きく頷く。ガルディス達の盗賊団相手に治安部隊も必勝を期す必要があり王都に救援を求めたのだ。アルフィスは治安部隊の救援に答えると同時にアレンに駒の提供をもたらすという一石二鳥の方法を思いついたのだろう。


(となると……盗賊団の殲滅は今回の仕事の最低ラインか……)


 ゴルヴェラの出没の方は現時点では不明確なために、襲撃がなくても大した問題にならないが、盗賊団の方は確実に潰しておかなくてはならない。


「それではガルディス達がどこを襲うか情報を掴まれてますか?」


 アレンの質問にファラメスは頷く。


「正確に言えば襲う事を情報として掴んでいるんです」

「?」

「すでに偽情報を流してあります。とある貴族が大変高価な贈り物を王太子殿下に献上するという類の事を……」

「ガルディスを罠に嵌めて召し捕るというわけですね」

「はい、ガルディス以外なら我々でも十分捉える事ができますので、ガルディスがアジトを出ればそこのアジトを治安部隊で強襲するというわけです」

「わかりました。俺がその罠というわけですね」

「その通りです。王太子殿下はアインベルク侯を囮にすると知らせが来ました」

「はぁ……」


 ファラメスの言葉にアレンはため息をつく。アルフィスにしてみればアレンの実力を信頼しきっているために囮というよりも引き合わせたという感じなのだろう。


「あの……もしかしてアインベルク侯はこの事を……」


 アレンの様子にファラメスは不安気な表情を浮かべる。話が通っていないのなら侯爵という雲上人が拒否する可能性があったのだ。


「ええ今知りました。王太子殿下のなさることですからきちんと手はずは整えているのですよね?」


 アレンの苦笑混じりの言葉にファラメスはまたも頷く。


「はい、このエスケメンの近くの村に囮の一行が今夜到着する予定となっております」

「ひょっとして……王太子殿下が近くの貴族様から出したという設定とかあります?」

「はい、アインベルク侯には今夜のうちにその村に転移装置で行ってもらいそこで合流して欲しいのです」


 ファラメスの言葉にアレンは頷く。ここまで状況が整備されていればアレンとすればそれに乗っかった方が遥かに時間の短縮だ。アレンがガルディスをとらえる間にアルフィスは視察を行い、それからライオス=ジゴバスを勧誘しにいくのだろう。


「わかりました。それでは冒険者ギルド、傭兵ギルドに行くつもりでしたが見送る事にします」

「助かります。アインベルク侯がガルディスを探っていることを知られると計画が漏れる可能性がございますので」

「はい。それでは今夜、転移装置でその村に送ってもらいます」


 アレンは立ち上がると一礼する。それを受けてファルメスも立ち上がると一礼する。アレンはアルフィスのお膳立てした状況にのっかり駒を仕入れることにしたのだった。




 *  *  *


「それにしてもアルフィスの奴め……まさかあんな理由だったとは」


 アレンのぼやいた声は馬車の中にはアレン一人という状況のため誰の耳にも届かなかっ

た。現在アレンは馬車の中だ。すでに取り決め通り転移装置で転移し囮の一行と合流し出発していたのだ。

 アレンが昨日、アルフィスになぜ自分に段取りを教えなかったのかと確認したとき、“ビックリさせようと思って”という頭の痛くなる理由を告げられたのだ。

 アレンは流石に文句を言おうとし口を開きかけた時に、アルフィスがすでに偽情報にガルディス達は引っかかって襲撃を行うつもりである事を告げられて上手く話を逸らされてしまったのだ。


「本当にあいつは根回しをきちんとしているな」


 アレンはアルフィスがすでに盗賊団に密偵を潜り込ませているという話を聞くことでアレンの文句を封じたのだ。そしてそのまま話を続けていき、アレンが文句を言うタイミングを完全に奪ったのだ。


「まぁいいか……それにしても仰々しいな」


 アレンの視界には馬車を護衛する十人の騎士が続いている。ちなみにこの十人の騎士達はアルフィスの直属の部下という話であり、事が起こった時には戦闘はアレンに任せる事になっている。

 騎士達にはアレンの戦いをきちんと見ておくようにというアルフィスが命令を下しているらしい。どうやらアルフィスはこの作戦をこの騎士達の研修としても利用するつもりらしかった。


 村を出発して3時間ほどすると森の入った。森は人の手が入りづらい場所のために盗賊などの犯罪者が襲撃を行う格好の場所だ。地図によればこの危険な地域は2時間程で抜けることになるようだ。


(いつ襲撃が来るか分からない場所で周囲に気を配りながら進むというのはきついだろうな)


 アレンは騎士達に少しばかり同情する。いくら仕事とは言え精神を削る仕事というのはやはりきついのだ。


 そんな事を考えながら森の中を進む事30分程経ったときに馬車がガクンを揺れ止まった。


(来たか……)


 アレンはガルディス達が現れた事を察知すると手元に瘴気を集め始めた。



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