表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/602

密約

 今夜の墓地の見回りは、レミアとフィリシアだった。


 フィリシアが墓地管理について、すでに一週間である。フィリシアの実力は、アレン、レミアには劣るもののそんじょそこらの冒険者ではまったく相手にならない事が証明されたので、アレンはフィリシアを本格的に墓地管理のローテーションに入れる事にした。


 アレン達はフィリシアの実力を高く評価していたが、墓地管理はやはり危険があるのも事実なので、研修期間として、アレンが常にそばについていたのだ。


 その中で、もう大丈夫と思い、フィリシアの研修期間は終わった訳だった。



 ローテーションといっても基本、アレンは墓地管理に参加する。アレンが墓地管理に参加しないのは七日に一日の割合だ。

 今日はアレンの初の休暇と言って良い。アインベルク家を継いで約半年で初めての休暇だった。別の言い方をすればレミアとフィリシアのみで墓地管理を行う初めての日だった。


「それでね~八百屋のおじさんって、おばさんにまったく頭が上がらないのよ」

「ふふふ、それが夫婦仲が良い秘訣なのかもしれませんね」


 夜の墓場に女の子のおしゃべりは、あまり似つかわしくないというよりも異質であった。だが、二人にとってはさほど異質に感じていないのだろう。街角で女の子同士が、キャッキャと楽しそうにおしゃべりしているのと変わりなかった。


 そんなおしゃべりが中断する。アンデットの気配を感じたからだ。お互いに『どうしたの?』などという言葉はかけない。そんな危険察知能力が低い者が、この墓地管理を任せられるはずはなかった。



 レミアとフィリシアは頷き合うと、剣を抜き放つ。レミアは双刀をフィリシアは長剣だ。


 フィリシアは魔剣セティスを手放してから、アレンから贈られた剣だ。アレン曰く、なじみの鍛冶屋に打ってもらった予備の剣との事だった。少々、重いが問題なく使える。いや、むしろ丈夫で切れ味も良いためすっかり気に入っていた。


 レミアとフィリシアはアンデットの方向に駆ける。駆けた先にはデスナイトとスケルトンソードマン三体の計四体がいる。


 レミアはスケルトンソードマンに斬りかかる。一合も切り結ぶことなくレミアの剣はスケルトンソードマンの核を切り裂く。核を切り裂かれたスケルトンソードマンは音もなく崩れ去る。

 レミアがもう一体のスケルトンソードマンを切り伏せようとしたときに、デスナイトに斬りかかるフィリシアが視界に入る。


(デスナイトにはフィリシアが相手するようね、じゃあ私はスケルトンソードマンね)


 レミアは双剣を縦横無尽に繰り出し、スケルトンソードマンをあっさりと切り捨てる。二体のスケルトンソードマンの消滅を確認するとフィリシアの戦いに目をやる。


 フィリシアは、デスナイトに斬りかかったが、デスナイトの左手の盾で受けられた。動きを止めたフィリシアに向かってデスナイトの振りかぶった剣が閃く。フィリシアは振りかぶった右腕を狙い澄ましたかのように切り落とす。デスナイトの剣が腕ごと飛んだ。

 次の瞬間、フィリシアはデスナイトの右足を両断する。バランスを崩したデスナイトは倒れ込んだ。フィリシアはその隙を見逃すようなことはせず剣を逆手に持ち、デスナイトの胸部に剣を突き立てた。

 苦悶の表情を浮かべ、核を貫かれたデスナイトは黒い塵をまき散らしながら消え去る。



 戦闘にかかった時間は三分もないだろう。まさに完全勝利と言ったところだ。ちなみに今、二人が斃したアンデットは決して弱い相手ではない。特にデスナイトは並の騎士や冒険者では100人単位で戦うような相手である。

 レミアとフィリシアの戦闘力が異常なのだ。


「とりあえず、他にアンデットはいないわね」

「そうですね、数が少なくて何よりです」

「そして、ゾンビ系がでなくて良かったわ」

「そうですね、あれ肉片とか腐った体液が付いちゃったりしたらすごく臭うんですよね」

「そうそう、三日ぐらいにおいが取れないような気がするわ」


 身だしなみに気を配るのは女の子らしいといえるが、ゾンビの肉片とか体液とか普通の女の子が使わないフレーズを使うのは、やっぱり異質だった。

 

 それから、しばらく二人は他愛ないおしゃべりをしながら見回りを続ける。どういう話の流れか二人の話題は『好みのタイプ』となっていたが、年頃の女の子の会話ならさほど不思議はない。あくまで場所と時間を無視すればであるが。


「それで、フィリシアのどんな男の子がタイプなの?」

「そうですね・・・まず、身長ですがアレンさんぐらいあれば十分ですね。あと、頼りがいがあって、落ち着きがあって、面倒事にもなんてことないという顔で取り組める人で、そのくせ動揺するとあたふたと慌てるようなカワイイ所があるような人が理想ですね」

「・・・」


 軽い気持ちで聞いてみればガッツリな返答が帰ってきたことにちょっとレミアは引いてしまった。

 てっきり、一言で表現されるかと思っていたが、ここまで具体的な好みの返答があったのだから、当然フィリシアには意中の人物がいるのだろう。そしてその人物の候補はものすごく身近にいる人物なのだろう。


「ふ~ん、フィリシアの好みのタイプってアレンそのものね」

「ふぇ」


 カマをかけたつもりだったが、いきなり核心を突いてしまったらしい。フィリシアは一瞬で真っ赤になりあたふたとしている。

 まぁ、今までのフィリシアの境遇を考えれば、その境遇から救い出してくれたアレンに対して好意を持つのは至極当然の事だろう。加えてアレンは能力的にも人格的にも肩書きにおいても女性から好意を寄せられる要素が盛りだくさんだ。


「私の事は置いといて、レミアはどうなの?」

「私の好みのタイプはもちろんアレンね」


 フィリシアは気恥ずかしさから、レミアに話をふってみたのだが、レミアの返答はあっさりとしておりそこに気恥ずかしさなどは一切見られない。


「だって、アレンは私よりも強いのよ。フィリシアは知らなかったけ、私とアレンが先祖からの因縁から果たし合いをしてアレンに負けたの」

「え?因縁?果たし合い?」

「ああ、といっても血なまぐさい者じゃなくてね、純粋な腕試しよ。アレンと私の曾祖父が戦い、子孫の私達が再戦をしたのよ」

「そうなんだ」

「決着がついて両親に報告したのだけど、家族は『そうかそうか、また修行を重ねないとな』と言って笑ってたわ」


 実際に、レミアの家族はアレンとの勝負の結果を伝えると、次の世代にかけようと笑った。レミアの家のワールタイン家は姉のイリーネが婿養子をとり後を継いだ。子どもも女の子が生まれており、現在は二人目を妊娠中だ。

 アレンとレミアの代で、アインベルク家とワールタイン家の勝負は終わったわけでなくワールタイン家では次の世代がまた勝負をいどむつもりだった。アレンにこの事を伝えると快く了承してくれた。

 レミアはその旨を家族に伝えると、家族は大層喜んだらしい。


「ねぇ・・・レミアってアレンの事好きなの?」


 フィリシアはレミアにおずおずと聞いた。


「ええ、もちろんよ。アレンほどの男はそうはいないわ。私は友人としてでなく恋愛対象として見てるわよ」


 レミアのまったく躊躇しない返答にフィリシアは黙り込む。


「それはフィリシアもじゃないの?」

「はい、私もそうですね」


 フィリシアもレミアの単刀直入な問いかけに、つい正直に答えてしまった。


「やっぱりね」

「というかばれてました?」

「うん、多分アレンも気付いているんじゃないかな。それとフィアーネもロムさんもキャサリンさんも気付いていると思うよ」

「う~~~」


 顔を真っ赤にして照れているフィリシアを見て、レミアは「カワイイな」と思ってしまう。この可愛さは自分にはないものだ。


 一方でフィリシアはレミアを「格好いいな」と思っていた。守られる立場でなくアレンを助けるパートナーといった感じであり、自らの実力に裏付けられた確かな自信がレミアの魅力をさらに高めている。


「ところで・・・」


 レミアは話題を変えるようにフィリシアに問いかける。


「私達はアレンを巡っての恋敵というわけだけど・・・」

「そ・・・そうですね」


 フィリシアは不安になる。確かにアレンに恋心を持っているが、フィリシアはレミアも好きなのだ。恋敵と言うことでこの友人関係も終わってしまうのだろうかとフィリシアは不安になった。


「いざとなったらさ、アレンの側室という形でも、いいんじゃない?」

「え?」

「いやね、アレンは男爵位を持つ貴族でしょ?貴族が複数の妻を持つのはそんなに不思議じゃないわ。そりゃ勿論、アレンを独占したいわよ。でも誰かがアレンの側にいることになってアレンの側にいられないというのはもっと嫌なの」

「そ・・・それは確かに・・・」


 アレンは男爵位を持つ貴族だ。貴族の結婚は政略結婚が普通である事を考えれば、アレンの隣には、やがて正妻となる女性が座るのだろう。それならせめてアレンの側室としてアレンの家族の一員となる道を探しても良いのではないだろうか。


「もし私がアレンの妻になれたら、フィリシアも妻にするようにアレンに頼む。逆にフィリシアが妻となったら私も妻にするようにアレンに頼むとしたら、どう?」

(確かに、それだと私もレミアもアレンさんの家族になれる)


 フィリシアとてアレンを独占したい気持ちは当然ある。だが、フィリシアに選ばれればレミアは苦しむ、その反対ならフィリシアが苦しむ。どっちみちだれかが苦しむのならレミアの意見は十分に魅力的にうつる。


 私『だけ』を見てもらえるという幸せを掴むことは出来ないが、私『も』見てもらえるという幸せを掴むことは出来るのだ。

 そう思った時、フィリシアはレミアの提案を受け入れることを決めた。


「やりましょう!!レミア!!二人でアレンさんの家族になりましょう!!」

「うん!!フィリシア頑張りましょう!!」


 この時、アレンに対する一つの密約が成立する。




 この密約にフィアーネとアディラも参加するのはもう少し後の話である。



 最初はこんな流れになるつもりはなかったんですが、いつのまにか二人の会話がこうなっていきました。ご都合主義って素晴らしいです。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ