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結界④

「ここだよ」


 ディクトとジーナに連れられたジュセルは扉の前で立ち止まるとディクトが目的地である事を告げた。ジュセルの目の前には、重厚な扉があり結界が張られている事に気付いた。


「ありがとう。時間はまだ随分と余裕があるけど良いのか?」


 ジュセルの心配はあまり早く来すぎた事で部屋の主が仕事をしていた時に邪魔になることである。さすがに学生の身分でありながら仕事の邪魔をするというのは気が引けたのだ。


「ああ、5分前になってから俺達は中に入るからな。しばらくここで待つことにしよう」

「なるほどな」

「そういうことよ。と言っても8時にここでボードワン様から目的地を聞いてから準備をして出発という事になってるのよ」

「ということは、ジーナさんも目的地を知らないという事ですか?」

「ええ、ボードワン様はあまり平民について良く思っていないようなので直前まで教えてくれません」


 ジーナの言葉にジュセルは呆れる。身分がどうあれジーナとディクトは同じ魔導院に所属する魔術師であり同僚のはずだ。しかも今回は同じ目的のために一緒に結界を張るという同じメンバーだ。にもかかわらず情報を渡さないというのはやり過ぎだと思わざるを得ない。


「なるほど……それで俺達が説明を受けて準備に大体どれぐらいの時間をいただけるんです?」


 ジュセルの言葉にジーナとディクトは考え込む。今までの流れから大体どれぐらいの時間をもらえるかを算出しているのだろう。


「おそらく2時間といったところでしょうね」

「うん、俺もそれぐらいだと思う」

「2時間……か」


 二人の告げた時間にジュセルは考える。これはかなり面倒くさい仕事になると考えざるを得ない。簡単な用意はしてきたが、用意したのは携帯食料と魔石ぐらいだ。

 ジーナとディクトは落ち着いているところを見ると魔導院の備品を持ち出すことが可能なのだろうが、ジュセルにまで貸し出してくれるとは限らない。本来であれば問題無く貸し出してくれるはずであるが、今までの話から考えてボードワンという男がそこまで配慮、いや場合によっては明確な悪意を持って禁止する可能性が高い。


(親父~~いくらなんでも面倒くさい連中と絡ませすぎだろ。ディクトとジーナさんと出会えたのは感謝するが、面倒な臭いがプンプンするぞ……)


 ジュセルは心の中で父に向かって毒づく。ジュセルはせいぜい冷たい対応を受けるぐらいと考えていたのだが、メンバーの中に悪意を持って足を引っ張る者がいる事を知っていたらもう少し綿密な準備をしてきたのにと悔やんでいた。しかも五人のメンバーのうち三人がそれであり、しかも一人はリーダーというのだから毒づくのも仕方の無い事だ。


「二人はその格好で行くの?」

「いいえ、屋外での活動用の装備一式があるからそれを身につけるわ」

「ジュセルこそ、その格好か?よければ俺の予備を貸そうか?」


 ディクトがその格好というのは、黒いズボンに白いシャツ、ベストという一見街を歩くような格好とほぼ変わりがない。だが、ベストの裏地にはジュセルが記しておいた防御の術式があり、並の胸当てよりも防御力が高いのだ。ジュセルが魔石を購入したのはその術式を展開するのが目的だったのだ。もし、外套などが必要と判断すれば空間魔術で家から持ち出せばそれで用足りるのだ。


「いや、大丈夫だよ。行く場所によっては家に帰ってマントかコートを持ってきたりするから」

「そうか、もし必要になったら言ってくれ」

「ああ、ありがとう」


 ジュセルとディクトがそんな話をしているとジーナが二人に声をかける。


「そろそろ時間ね。二人ともいくわよ」


 ジーナの言葉にジュセルとディクトは頷くとジーナが扉をノックする。中から“入れ”と一言が聞こえる。その声を聞いてジーナが扉を開けると“失礼します”と言い一礼して入っていく。次いでディクト、ジュセルと続く。


 部屋の中には三人の男達がいる。扉の正面の机に座っている男がボードワンだろう。年齢は四十前半といった所で黒髪の所々に白髪が見えている。体型は小太りと評して良いぐらいだろう。


(う~ん……嫌な眼で見るな……)


 ジュセルは心の中でボードワンがこちらを見る目について毒づく。敵意と言うよりも蔑みの視線をジュセルに向けている。いや、より正確に言えばボードワンの右側に立っている男達二人も同様の視線をジュセル達三人に向けている。


「これで揃ったな」


 ボードワンの声は不機嫌の一歩手前という感じでありジュセルとすれば、この段階でボードワンのリーダーとしての資質に見切りをつけた所である。どれだけ優秀かは知らないが外部の者にする態度では無い。


「今回はミルジオード騎子爵の息子が参加するという話だ。おい、自己紹介しろ」


 ボードワンの命令にジュセルは頷く。ボードワンの態度は不快ではあるが、魔導院の仕事に外部の者が入ってくることに対して不愉快な気持ちがある可能性を考えれば想定してしかるべし態度であった。


「初めまして、ジュセル=ミルジオードです。本日はよろしくお願いします」


 ジュセルの挨拶にボードワンと残りの二人は鼻で嗤うような仕草を見せる。


「私はカイル=ボードワン伯爵だ。本来であれば貴様如き相手にするのもバカバカしいのだがな」


 舌打ちを堪えるような言い方である。次いで他の二人が口を開く。


「私はロッド=ボグナムだ。私も貴族である以上、身分というものを意識した対応をとってもらおう」


 ロッドと名乗った男は三十代前半という感じだ。長身であるが痩せており、眼だけが異常に鋭い。狼のような印象をジュセルは受ける。


「私はヴァド=モールトだ。君のお父上同様に騎子爵だ」


 最後のヴァドと名乗った男はにこやかに笑いかける。気さくな人物を演出しているような感じであるが、眼には蔑みの感情があるのを隠しきれていない。ジュセルはそれに気付いたが何事もないように装い頭を下げる。


「さてそれでは今回の目的地はエジンベート王国との国境沿いの山地であるエルゲイン山だ」


 ボードワンの言葉にジュセルは心の中で驚く。エルゲイン山は標高は2500メートル程の山であるが問題は裾野に大森林地帯が広がり、その森林地帯には人の手はまったく入っておらず、凶悪な魔物が多く生息しているという地域である。言うなれば来たのエルゲナー森林地帯というべき存在だった。


(やれやれ……とんでもないところに行かされると思ってはいたが予想以上だったな)

「なお、今回は我々だけでは危険と判断したため冒険者チームを護衛に二つ雇っている」


 ジュセルがそう考えているとボードワンが予想外の情報をジュセル達に告げる。冒険者チームを雇っているというのは僥倖であった。これだけで仕事が一気にやりやすくなるのは間違いない。チラリとジュセルはロッドとヴァドを見て、次いでジーナとディクトの表情を観察すると、ロッドとヴァドはこの事を知っており、ジーナとディクトは知らないようだった。


「発言よろしいでしょうか?」


 ジーナが手を挙げるとボードワンは不快気に視線をジーナに移す。顎をしゃくり言ってみろというジェスチャーを行う。


「ありがとうございます。冒険者チームのランクはいかほどでしょうか?」

「両方とも“ミスリル”クラスだ」

「ありがとうございます」


 ジーナの問いかけにボードワンは面倒くさそうに言う。ジーナとディクトは“ミスリル”クラスの冒険者チームが同行すると聞いてかなり安堵しているようだった。


「話を続けるぞ。今回の任務はいくつもの結界を隙間無く張り巡らし、魔族が入り込まないようにするためのものだ。当然、一大プロジェクトとなるのは当然だ。困難な地域を我々が行う事で陛下の覚えも良くなる」


 ボードワンはここで一度言葉を切る。そして全員の自然が集まった所で続けた。


「魔導院の魔術師の実力を知らしめる絶好の機会だ。全員力を尽くせ」

「「「「「はい!!」」」」」


 ボードワンの檄に全員が声を揃えて答える。ジュセルは魔導院に所属していないが空気を読んだのだ。


(何かが引っかかるな……)


 表面上は何てこと無いという様子を見せていたが、ジュセルの中で何か違和感があった。その引っかかりの正体をジュセルはまだ掴んでいなかったのである。



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