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結界③

「それじゃあ、ジュセル君案内するよ」


 お互いの挨拶が終わり、ディクトがジュセルを案内にかかる。


「あ、俺の事はジュセルで良いですよ。年齢もそんなに違わなさそうだし」

「そう? じゃあそうさせて貰うね。ちなみにジュセルはいくつ?」

「あ、15になります」

「15かそれじゃあ俺と同じだな。そっちもディクトって呼んでくれ。敬語もいらない」

「わかったよ。よろしくなディクト」

「ああ」


 ジュセルはディクトの言葉に安堵の息を漏らした。前回、魔導院に来た時にあった魔術師は露骨に見下して来たため、魔導院の魔術師全般に対して悪い印象を持っていたのだ。ところが、今日会った魔術師とディクトは少なくともジュセルに対してきちんと応対しており悪い印象は受けることがなかった。


(やはり、木を見て森を見ずというのは良くないな)


 ジュセルは自分の思い込みを心の中で反省する。最初出会った魔術師の印象が最悪だったために勝手に魔術師全員がそうであると思い込んでいたのは浅慮であった事に気付いたのだ。


「ところでジュセルは今回の任務についてどれぐらい知ってる?」


 ディクトの質問にジュセルは正直に答える事にした。この段階で知ったかぶりをしてもまったく意味が無いし、それどころか情報の共有が行われない可能性があったのだ。


「ローエンシア王国全土を覆うような結界を張りに行く事ぐらいだな。どこに行くのか、どんな結界を張るのかも知らない」

「なんだ。俺とあんまり変わんないな」

「え?」


 ディクトの言葉にジュセルは訝しむ。きょうこれから出発するというのにメンバーが詳細を知らないという事は明らかにおかしい。ディクトはジュセルの表情を見て微笑みながら誤解だとばかりに言う。


「誤解するなよ。俺がメンバーに入ったのは昨日の退庁時間前だ」

「え?なんで?」

「ああ、元々行く予定だった方が昨日、食中毒になってな。急遽、俺に決まったんだ」

「食中毒って……」


 予想外の事にジュセルは苦笑しながら言う。そこでジュセルは疑問に想った事をディクトに尋ねる。


「なぁ、治癒魔術で治らなかったのか?」

「まぁ普通に考えればそう思うよな。でも基本的に治癒魔術を多用するというのは魔導院に所属する魔術師は出来るだけ控えることにしてるんだ」

「どうして?」

「一つは病気は医者の領分という事だな。もう一つは出来るだけ自然治癒に任せる方が長期的に見れば体への負担が少ない事がわかってるんだ」

「なるほどな」

「魔術を扱っているからこそ、魔術が決して代償無しの力でない事がわかってるのさ。納得したか?」

「ああ、納得した」


 ディクトの言葉にジュセルも頷く。強い力を扱う場合に絶対に忘れてはいけないのは、反作用だ。力を振るうときに自らに返ってくる力に耐えられるようにしておかなければならないのは当然だった。魔術によって治癒を行うというのは表面上はリスク無しで行えるように見えるのだが、実際には体に負担をかけている事に他ならないのだ。魔術を扱うからこそ魔術の恐ろしさを知っているという事であり、それに頼り切らないという考えはジュセルにとって納得のいくものであった。


「あ、ジーナ姉ちゃん」


 ディクトが歩いている途中で一人の女性に声をかける。声をかけられた女性(年齢的に見て少女と言った方が良いのかもしれない)が振り返る。

 少女の年齢はアレン達と同年代に見える。栗色の髪に茶色い眼、白皙の肌に整った目鼻立ちというかなり可愛らしい少女である。身長はジュセルよりも少しばかり低いが、出るところが出て、引っ込むべきところは引っ込むという凹凸のはっきりした体型が紺色のローブを着ていても解る。


「おはよう、ディクト。今日は頑張りましょうね」


 ジーナと呼ばれた少女はディクトを見ると顔を綻ばせて優しく挨拶をする。ディクトへの言葉からジーナもまたメンバーの一人なのだろう。ディクトに挨拶をした後にジュセルに視線を移すと止まった。


「あ、こいつはジュセル。今日の仕事に外部からの応援に来てくれたって話だ」


 ディクトの言葉にジーナも納得の表情を浮かべる。どうやらこっちはきちんと話が通っていたらしい。


「そう、よろしくね。私はジーナ=ペルトよ」


 ニッコリと微笑むジーナにジュセルも挨拶を返す。


「初めましてジュセル=ミルジオードといいます。今日はよろしくお願いします」


 ジュセルの挨拶にジーナも微笑んだ。どうやらジュセルは悪い印象を与える事はなかったようだ。


「ところで、ディクトはさっきお姉ちゃんと呼んでいたけど名字が違うな」


 ジュセルの疑問にジーナは微笑みながら答える。


「私とディクトはいわゆる幼馴染みというやつよ。ディクトと私の家が近所でね。小さい頃からの仲よ」

「なるほど、そういうわけですか」


 幼馴染みであれば“お姉ちゃん”という表現するのもそれほどおかしいことではない。チラリとジュセルはディクトを見るとさりげなさを装っているがディクトの視線の先にはジーナがいる事にジュセルは気付く。


(ははぁ~これはひょっとして……)


 ジュセルは心の中でニンマリと笑う。美人の幼馴染みの年上の少女にディクトが憧れ、ほのかな恋心を抱いても不思議ではない。まぁジーナはディクトを弟のように見ているのは間違いなさそうだ。


「な、なんだよ?」


 ジュセルの放つ雰囲気にディクトが怪訝な表情を浮かべている。すぐに気付くのは出会う人が同じ事を言ってからかうからであろう。


「いや別に何でもないよ。ところでペルトさん。今回のメンバーって何人なんです?」


 ジュセルの言葉にジーナは優しく返答する。


「あなたを入れて全部で6人よ。それから私の事はジーナと呼んでね」

「でも年上の方を呼び捨てするのは抵抗あるんで、ジーナさんと呼ばせていただけますか?ちなみに俺の事はジュセルで構いません」


 ジュセルの返答にジーナはまたもニッコリと笑うと了承する。


「わかったわ。でもこちらもいきなり呼び捨てというのは抵抗あるからジュセル君と呼ぶわね」

「はい」


 ジュセルとジーナはそう言うとお互いに頷く。そこにディクトが二人に声をかけた。


「よし、自己紹介も終わったという事でさっさと集合場所へ行こうぜ」

「ああ」

「そうね」

「ところで他のメンバーは二人みたいに気さくな人達なのか?」


 ジュセルの言った何気ない一言に二人は言いにくそうにしている。


「どうした?」

「他の三人は貴族様なんだ。特に今回のリーダーであるカイル=ボードワン様は伯爵様だ」「結構、身分についてうるさい方なのか?」

「うん、他の二人も貴族様だからけっこうその辺りは厳しい人達だよ」


 ディクトは言葉を選んでいるようであったがやりづらいという印象を持っている事は事実だった。


「あ、ちょっと確認なんだけど二人は平民で貴族の方々の風当たりが強いと考えて大丈夫か?」


 身も蓋もないジュセルの言葉に二人は苦笑しつつも頷いた。


(厄介な事に巻き込まれそうだな……)


 二人の返答を受けてジュセルは心の中で呟いた。



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